ハルトナツ   作:マスクドライダー

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最終話 ハルトナツ

「んっ、んん……」

 

 なんだか変な時間に目を醒ましてしまった。

 時刻は深夜一時を回ろうとしている頃。本当になんとも中途半端な。

 もちろんこのまま二度寝を決め込むつもりだけど、疲れてはいるし定刻通りに起床することができるだろうか。

 なんて思いながら、私の横でグースカと眠るハルへと目をやる。

 意外と寝起きは悪い方ではあるけど、超絶真面目人間だから遅刻しないための対策は重ねに重ねているらしい。

 枕元に置いてあるハルの携帯を開いてアラームを起動させてみると、定刻から五分おきに時間設定がビッチリ。

 ここまでしなくてもいいのにと、なんだか可笑しくて一人クスクスと笑みを零した。まぁ、そういうところが可愛いんだけどね。

 グッスリなハルの額にキスを落とすと、起こさないよう慎重に体勢を元に戻しながら、優しく腕へと抱き着いた。

 たくましいとハッキリ言いきれはしないけど、かつてと比べると確実に男らしくなっているのがわかる。

 あぁ、なんて素敵なことなんだろう。

 何事にも一生懸命なところも好き。だから頑張って強くなろうとしているハルは、本当にかっこよくて……。

 ……いけない。これ以上は止めておこう。

 さっきも激しくまぐわったばかりだというのに、今からでも続きを欲してしまいそうになる。

 名残惜しいけど、視点を少し逸らしてハルのことを考えることにしよう。

 

『ナツ、僕はね、本当に自分がキミの隣に居ていいものかって、何度も本気で悩んだことがあった』

(…………)

 

 ふと、ハルのそんな言葉が頭を過った。

 過去形だからまだ救いはあるけど、私はハルにそんなことを思わせたことや、そう思っていたことに気づけなかったことが悔しくてならない。

 本当にそんなことはないんだよ。ハルが居てくれたからこそ、今の私があるんだから。

 今思えば、ハルと会う前の私は闇が深い子供だったなぁ。

 そうやってかつての記憶を探っていると、だんだんとうつらうつらしてきて、まぶたが重くなっていくのがわかる。

 

(ハルと初めて会った時……。そう、あれは確か……。確か……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういうわけですので、ご迷惑おかけすることもあるかと思いますが……」

「いえ、仕方のないことですから」

「ご理解とご協力、ありがとうございます。それでは、失礼しますね」

「ちふゆねえ、いまのだれ?」

「ん? 今のはな、大工さんだ。なんでも、向かいに越して来る人がいるらしい」

 

 リビングで千冬姉に遊んでもらっていると、インターホンが鳴って来客があることを報せた。

 玄関を開いて立っていた男は、明らかに年下な千冬姉――――というか、当時はまだ小娘程度の千冬姉に、何度もペコペコと頭を下げていた。

 その光景がどうしてか理解できず、男が出て行き次第千冬姉に何者だったのかと問いかける。

 膝を折ってこちらと目線を合わせた千冬姉は、端的に先ほどの男は大工だとわかりやすく説明を施してくれた。

 向かいに越して来る人が居る。すなわち、家が建つということくらい小さな頃でも流石に理解できる。

 思わずへ~なんて声を上げると、千冬姉は少し笑みを浮かべて立ち上がった。

 

「よし、少し聞き込みに出るとしよう」

「ききこみって?」

「どんな家族が来るか、近所の人に聞きに行く。ということだ」

 

 そのまま散歩がてらに聞き込みへと向かうことになった。

 千冬姉は小さな手を引くと、噂の向かい周辺を重点的にプラプラとほっつき歩き、道すがら出会ったおばさんに声をかけていく。

 おばさんという生き物は噂話に事欠かず、いったいどこで仕入れたのかというような情報を手に入れることができた。

 曰く、それなりに裕福な家庭だとか。

 曰く、旦那さんの昇進に合わせての引っ越しだとか。

 曰く、父、母、子、祖父の家族構成だとか。

 曰く、お爺さんはかなり有名な画家だとか。

 曰く、子供は俺と同い年だとか。

 

「一夏、よかったな。こんな近所に同い年のお友達が増えるぞ」

「おれ、うれしい!」

「はは、そうか。どうやら男の子のようだし、仲良くできるといいな」

「うん!」

 

 散歩からの帰り道に、千冬姉はまるで自分の事のように喜びながらそう声をかけてきた。

 俺はそれに対して元気な返事をしてみせた――――が、実はこれは嘘だったと知ったら、千冬姉はどんな顔をするだろう。

 同い年の子が近所に来るとか、正直に言えば割とどうでもよかった。

 どうでもよかったが、千冬姉に余計な心配をかけまいと、俺は喜んだフリをしていたんだ。

 このあたりが、自分でも思う闇が深い子供ってところ。

 普通この年代の子供が友達が増えると聞いて喜ばないはずはないし、ましてや喜んだフリなんてこともしないだろう。

 どうして俺がそんな子に育ったのかと聞かれると、多分だけど親が居ないからだと思う。

 なんか、違うんだ。普通に親が居て、親に育てられてた周囲の子たちと比べ、俺は自分自身に違和感というものを覚えずにいられなかった。

 端的に言うならコンプレックスのようなものなんだろう。

 親の愛情というものを知らずに育った俺は、当たり前のようにソレを知っている周りに劣等感を抱いていた。

 だから、これから来る同い年の子も親の愛情を知ってるやつだ。だから、きっと心の底から仲良くなることはできないんだろう。

 当時の俺は本気でそう思っていたし、もしもハルと出会わなければ闇を抱えていたまま育ったかもしれない。

 だからこそ、ハルが居てくれたから今の俺があるんだ。

 

「ごめんくださ~い!」

「むっ、聞き慣れない声だな。となると、例のお向かいさんだろう。一夏、挨拶にいくぞ」

「うん!」

 

 それから月日は流れ、日向家の引っ越しも完了し、後に俺たちの親代わりとなるおばさんが挨拶へとやってきた。

 今と変わらないどこか呑気な声色耳にした俺たちは、挨拶に向かうべく玄関へと足を運ぶ。

 ドアのカギを開けておばさんを玄関へ導くと、ニコニコと気の抜けるような笑顔のおばさんと、その陰に隠れて様子を伺う男の子――――ハルを迎え入れるのだった。

 ああ、こいつがそうか。そう思うと同時に、言葉すら交わしていないのにオドオドとしているのが気になって仕方がなかった。

 ムッとしたわけでもイラッとしたわけでもないが、純粋になんでこんなに怯えているのだろうか。という疑問をもったように思う。

 だからこそ、俺はいつもより輪をかけて装った。

 人当たりのよく明るく元気な、誰にでも好かれそうな俺をだ。

 

「おれのなまえは、おりむら いちか! よろしくな。おまえはなんてなまえなんだ?」

 

 初対面にしては間違いなく100点の挨拶だったはずだ。

 しかし、差し伸べられた手を握り返されることはなく、むしろオロオロと困った様子でおばさんと俺に何度も視線を行き来させるばかり。

 絶対に通じるはずのものが効かなかったせいか、これには思わず怪訝な表情をせずにはいられない。

 しまいには名前がないのかなんて聞いてしまうあたり、幼稚な俺にはそうするくらいしか聞き出す方法を思いつかなかったのだろう。

 流石にこの質問には首を横に振って否定の意思を示したのをみて、俺は強引に手を掴んでから再度名乗りをあげた。

 

「おりむら いちかだ! よろしくな!」

「――――ると……。ひむかい はると……です。よろしく……」

「よろしくな、はると!」

 

 二度目の挨拶で、ハルはようやく自分の名を教えてくれた。顔は思い切り俯かせながらだったけど。

 でもやっぱり嬉しいことには違いなくて、感情に任せて乱暴に繋がれた手を何度も上下に振った。

 その際に印象的だったのが、とても珍しいものを見たかのように目を輝かせるおばさんだ。

 まるで目の前で奇跡が起こっているかのような素振りだったから、ここまではっきりと記憶として残っているのだろう。

 

「ねぇ一夏くん。よかったら、晴人くんと遊んであげてくれないかしら? おばさん、少しキミのお姉さんと話したいことがあるの」

「おれはへいきだよ。ちふゆねえ、いいよね!」

「ああ、近くを案内してやるといい」

 

 今を思えば、おばさんはこの間に千冬姉を説得しにかかっていたんだろう。

 周囲の力を借りはしていたが、親代わりのようなことだけは断固として拒否していたし。

 そんなことを考えもしなかった俺は、夢中でハルの手を引きそこらを駆けずりまわった。

 とりあえず近場の公園まで連れて行き、鬼ごっこやら砂遊びやらして交流を深め、時間も忘れて二人で遊び頬けたっけ。

 そしてもうすぐ陽が沈みかけようとする頃、ふとハルがこう切り出したんだ。

 

「いちかくんは……」

「うん?」

「いちかくんは、ぼくのこと、じゃまっていわないんだね」

 

 この言葉に込められた意味を、当時の俺はいったい何割ほど理解していたのかな。

 多分だけど、ハルは人とまともな会話ができないくらいの対人恐怖症で、それがまた人を寄せ付けなくする悪循環を生んでいたんだろう。

 それでもお構いなしに友達になろうとかかったのは俺が初めてで、そんな暗い言葉が出てきたんだと思う。

 だけどハル。俺が自分にとって未知の存在だったなら、お前も俺にとって未知の存在だったんだぞ?

 同い年の子供で、初めて俺を必要としてくれる存在だったからな。

 親が居る子供たちと遊んでいても、時間が遅くなれば迎えに現れて帰っていってしまう。

 それは千冬姉だって迎えに来てはくれたけど、その時間まで付き合ってくれるようなやつは流石にいなかった。

 だけどハルは違うって、このひとことで理解をしたんだ。

 こいつは今まで友達なんかできたことなくて、友達になろうとした俺を必要としてくれているんだって。

 そう、この段階でハルは単に都合のいい存在のようなものだ。

 それでも、歪んでいるのはわかっているけど、必要としてくれるハルが必要な存在だった。

 だから俺はハルを守ろうと思った。

 弱気なハルを追いやろうとする悪意や、物理的に危害を加えようとする輩から、俺たちの仲を引き裂こうとするやつから。

 今とは違う意味で、ハルさえいればそれでいいという考えだったんだろう。自己完結と言い換えてもいいかもしれない。

 あのままじゃ、頭や心の片隅で、ハルのことを下僕のようなものと扱っていた日々が続いたはず。

 いつだったかな。そんな俺をハルが変えてくれたのは……。

 ――――そうそう、思い出してきた。確かアレも、ことの発端はハルをイジメてるやつを撃退しようとした時のことだっけ。

 あの時期の俺は加減も何もあったもんじゃなかったからなぁ。

 そのいじめっ子も俺に負かされ泣いて許しを乞いていたが、無慈悲なことに追撃を仕掛けるべく腕を振り上げた時。あろうことか、ハルが俺の前に立ちふさがったのだった。

 

「だめ」

 

 両手を広げてただひとこと、だめだ、これ以上はしてはいけないと俺を引き留めた。

 俺にはどうして自分をイジメてきたやつを庇うのかまったく理解できなかったし、何よりハルが俺に歯向かったという事実がどうにも許せなかった。

 やっぱり、都合のいいやつとしか見てなかったってことだよな。

 だから俺は、感情に任せて口汚くハルを罵ったと思う。自分勝手な言葉ばかり並べてさ。

 いつも助けてやってるのに、とか。いつも俺の後ろで怯えてたくせに、とか。そうすれば、臆病なハルなんて一発だろうから。

 しかし、それでもハルは退かなかった。

 目に涙をためて、足を盛大に振るわせてもなおダメの一点張り。これだけ言っても無駄ということは、とても固い意志があることを察した。

 なによりダメだと主張するハルのその目。その目に今までにないような、燃えるような何かを感じずにはいられない。

 

「いちかくんは、まもるひとだよ」

「ああ、だからそいつを――――」

「まもるひとだから! きずつけちゃ、だめだよ……!」

 

 何かを守るということは、何かを傷つけるということだ。

 そう信じて疑わなかった俺にとって、まるで理解できない言葉だった。

 いったいどうやって何も傷つけずに何かを守ればいいというのだ。だけど、不思議とばかばかしいと吐き捨てることだけはできなかった。

 それはなぜか、強いと感じたからだ。弱々しくて頼りないというイメージしかなかったハルが、なぜかこの瞬間だけはとても強い奴だと思えた。

 すなわちハルの言葉を認めているも同然なんだが、理解できないことと直面した俺は、その場から逃げ出してしまった。

 当然ながら俺が泣きついたのは千冬姉で、猛ダッシュで帰宅したのちすぐさまことのあらましを説明し、敬愛すべく姉の回答を待つ。

 

「ふむ、それは晴人が正しいな」

「なんで!? じゃあ、だまってなぐられればいいのかよ!」

「そういうことではない。一夏、晴人がお前をなんと言ったのか、もう一度思い出してみろ」

「あいつは……おれを、まもるひとだって」

「だろう? 晴人はただ、お前に自分自身の価値を貶めてほしくないだけ――――いや、言葉が難しいか」

 

 ハルは単にいじめっ子を庇ったのでなく、どちらかと言うなら俺のためにしてくれたことだった。

 俺の拳――――というか、力全般に分類されるものは、単に相手を傷つけるためにあるのではなく、守るためにあるものだ。

 という意味合いだったのだと、千冬姉は子供の俺でもよくわかるようにかなり嚙み砕いてから説いた。言葉選びには苦労してたみたいだけど。

 でもごめんな千冬姉。多分だけど、この段階じゃあんまり理解しきっていなかったと思う。

 この時の俺の胸中にあったのは、晴人が俺をそんなふうに見ていたのかという照れのような感情。それと同時に、酷い後悔だった。

 俺はハルのことを体のいいやつとしか思っていなかったのに、それでも晴人は俺のことをそこまで    

 きっと、この瞬間だ。俺の中にそういう意志が、想いが、そうありたいって願うようになったのは。

 

「ちふゆねえ、いってきます!」

「ああ、行ってこい。車には気を付けるんだぞ」

 

 俺は気づけば、千冬姉に用も言わずに家を飛び出していた。まぁ、言葉にせずとも何をしに出掛けたかは察してたみたいだけど。

 とにかく来た道を逆走することしばらく、トボトボと歩くような人影がこちらに向かってくるのがみえた。

 そうだよなぁ、帰る方向は同じだから、もしあのままだったらきっと気まずい関係が続いていたろう。

 だけど、この段階でもうその心配はない。なぜかって、俺の中でハルは都合のいいやつから、すごいやつに変わっていたのだから。

 

「おーい、はると!」

「いちかくん……」

 

 遠くからそう呼び掛けてやると、ハルはビクりと身体を振るわせるような反応を示した。

 その表情からは俺の前に立ちはだかったことに対する後悔のようなものが見て取れたが、俺と違ってハルが逃げ出すようなことはない。

 俺は足へとより一層の力を籠め、晴人との距離を一気に詰めた。

 そしてハルの目の前に辿り着いた俺は、息を切らしながらおもむろに頭を下げる。

 謝っても謝り切れないこれまでのことへの贖罪と、これから変わっていくための決意のような意味を込めてだ。

 そう、ハルが思わせてくれたからこそ。

 守ろうとしようとすることの強さと、その想いの大切さと、そしてなにより――――俺自身がハルの描いたような、守る人になりたいって。

 

「ごめんなさい!」

「えっ、なっ、なんでいちかくんがあやまるの? だってぼくは……」

「はると、おれはなるぞ! おまえがおもってくれたおれに! まもるやつに!」

「う、うん? えっと、その、が、がんばって?」

 

 悪いことをしたならごめんなさいだ。

 千冬姉から教わった筋を通すということだが、今思えばいいよって返してもらってなかったなこれ。

 反応からしてそもそも謝られることが不可解だったようだけど、俺はそんなのお構いなしに自らの決意をハルに述べるばかり。

 それでは俺に芽生えたモノの伝わりようなんてなく、ハルはただただクエスチョンマークを浮かべるかのようなリアクションを取るばかり。

 でもそれからというもの、決意を新たにした俺は、実際に行動で示すことはできていたと思う。

 ハルは相変わらずいじめられることも多かったが、追い払うのに過剰な暴力を振るうことはなくなったし。周囲からも、なんとなく丸くなったと言われた覚えがある。

 このころから、どこか遠慮がちだったハルも心を開いてくれたっけ。

 俺の身勝手な考えが消えただろうけど、なんか、本当の友達になれたって気がするよ。

 より絆を深めた俺たちは、まるで本当の兄弟のような、唯一無二の相棒のような仲へとなっていった。

 俺が考えなしに無茶して、それをハルがフォローして。といった感じで、互いに足りないところを補い合うかのように。

 きっとどっちかに恋人ができたりなんかしても、結婚なんかしても、ずっとずっとこんな関係が続いていくんだろうなって思っていた。

 けれど、あるひとつの変化が訪れることとなる。

 言わずもがな、俺は私になってしまったから。

 

「重い荷物くらい俺が持つって。今のナツは女の子なんだし」

「別にこのくらいなんともないですー。それとも、どうしても言うなら半分ずつ持つ?」

「えぇ……? それは、まぁ、う~ん、わ、わかった。少しでも手伝えるならそうするよ」

 

 最初のうちは女の子扱いになんだかムズムズしちゃってたっけ。イライラとは少し違うけど、こう、ムズムズなんだよ。

 多分だけど、今になってみると嬉しいって思ってた部分もあるんじゃないかな。だからムズムズ。

 間違ってもハルをダメなやつなんて思っていたわけじゃない。けど、もう少し男らしくなってくれればなーくらいは考えたことがある。

 でもこうやって力仕事を率先してやろうとしてくれたり、私を女の子として扱うハルは、私が考えてた以上に頼りになる男だった。

 女の子になって視点が変わって、見方が変わって、考え方とかも徐々に変わっていって……。

 いつからかなんてはっきりとは覚えてないけど、ハルに男を感じ始めた私が、ハルに惹かれていったのは自然の摂理なのかも知れない。

 ずっと一緒に居て、ハルの良さなんてのは知り尽くしていたし。逆もまた然りっていうか、私のことを一番理解してくれるのはハルだろうし。

 そもそも元を辿れば私に守ろうとする意志と、その意志の強さを教えてくれた人だし。

 とても素敵な人を好きになったものだ。やっぱり私は世界で一番幸せな女の子だって、心からそう思える。

 ねぇハル、好き。大好きだよ。なんていう台詞は本当は安くて、私のハルに対する想いは筆舌に尽くし難いんだけどね。

 ハルも私をそう想って――――ううん、くれているに決まっている。疑問形なのは、きっとハルにとっては侮辱になっちゃう。

 だって、私の事実を知っても愛してるって偽りなく言ってくれる人だ。我ながらちょっとおかしいんじゃないかって。

 ……こんなことを聞いたらハルはすごく怒るんだろうけど、検査の結果次第では、私は……ハルの隣から消えようって思っていた。

 けど、もう無理。それは絶対にできない。ハルの隣から離れなきゃならないなら死んだほうがいい。

 私を繋ぎとめたのは、あの絵。

 ハルが私に描いてくれたという、私とハルのためにある絵だ。

 晴があるから夏が輝く。まったくもってその通り。晴がないなら夏なんてないも同然。

 っていうことを、よく表現できていると思う。まぁ、ハルはそこまで歪んだ価値観と意図で描いてはないんだろうけど。

 それでも、だ。かつて私を変えてくれた瞬間と同じだよ。

 私はそうあろうと思う。そうありたいと願いたいし、思いたい。

 つまるところ、これからも切っては切り離せない関係でいたいって、ハルは私にそう思わせてくれた。

 だからハル、私はもう本当の意味でハルの隣から離れないよ。

 例えこれから先にまだまだ残酷な運命が待ち受けていたって、それを理由にハルの隣から消えてしまおうなんてこと、絶対に言ったりしないし思いもしない。

 その分ハルは、私を愛して。愛し尽くして。これ以上やりようがないってくらいに、私を愛して愛して愛して。

 そう、それこそが、ハルに愛してもらうことこそが――――きっと、私の生まれてきた意味だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハル、おはよう。そろそろ準備しないと遅刻しちゃうよ」

「う……? ナツ、早いね……。僕なんて昨晩の疲れが……。怠い……」

「そうも言ってられないからね。しゃんとしないと、私だけ元気だったらバレる人にはバレちゃうと思うけど」

「うわっ、ホントだツヤツヤしてるじゃないか……。はぁ、流石にそれはまずいかぁ。うん、シャワー浴びてくるね」

「あ、その前にひとつだけ。昨日聞き忘れたんだけど、この絵のタイトルってなんていうの?」

「ん、その絵のタイトル? あー……あまりにも安直っていうか、多分だけど僕らにしか意味がわからないと思うんだけど。その絵のタイトルは    」

 

 

 

 

 




活動報告のほうでいろいろ語ってるので、よければどうぞ。
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