ホント悩んでばっかだなコイツ。
追々、追々ちゃんと主人公しますんで……はい。
【ハルトナツ】に初めて評価が付きました。やったぜ。
風呂敷マウント様、本当にありがとうございます。
「おはようハル。ご飯できてるよ」
「ん~……? うん、今起き――――」
とある休日の朝。いつものどおりにナツの声を耳にした俺は、半ば条件反射のごとく布団を退けて上半身を起こした。
寝ぼけた頭でナツの満足そうな反応を見ていると、そのことがまずおかしいことに気が付く。ナツは今朝ここに居てはならないはず。
俺からすればとんでもない疑問なわけだが、生憎まだ脳が通常活動の状態にすら入ってくれない。問いただす前にナツはリビングへ降りてしまった。
ならばせめて急がなくてはと、いつもならゆっくり着替えるところを超速で済ませてからリビングへ。実際に降りてみると、確かに朝食が用意されていた。
カリカリに焼かれたトースト&ベーコンエッグ。付け合わせにトマトとアスパラメインのサラダ。そしてコーンスープと安定のハイクオリティである。
「おっ、今日は調子いいね。いつも朝はのろ~って動くのに」
「う、うん、質問したいことがあって。ナツさ、朝からISのことがある日は朝食は作れないって言ってなかったっけ?」
俺があまりにも手早くリビングへ降りたせいか、ナツは皮肉ると言うよりも冗談めかすように、日ごろの俺のスローモーションな動きをモノマネしてみせた。
その様子が可愛らしくてドキッとしてしまうが、やはりそれどころではない。俺はすぐさま混乱するレベルの疑問を解消しにかかった。
ナツが習い事を始めてから――――もとい代表候補生を目指し始めた頃のことだ。習い事を始めることになったから、いろいろできない家事が増えてしまうと謝り倒された。
その代表格となるのが朝食の用意である。そりゃ朝早くから習い事があるのに朝食なんて作ってる場合でもないだろう。
俺も気にしないでという旨で済ませたし、できれば用意してほしいなんていう我儘も言った覚えはない。だからこれまでずっとその体制でやってきた。
なのに今日はこれだ。まったくもって意味がわからない。それすなわちナツは今日も朝から忙しいということなんだけど、いったいどういう心境の変化で?
「そうだけど、まぁなんとなく」
「な、なんとなく?」
「なんとなく、なるべく多く、手料理を食べてほしいなって思うようになったから」
「…………」
「そんなに気にしなくて大丈夫だよ。ハルには悪いけどいつもより時間早いし」
理由を聞いたらなんとなくで返された俺はどうすればいい? それでもって、いったいなんなんだ。なんでそんなちょっと照れているんですか。
顔赤いしで目をそらされてるわで、そんなナツはいじらしいというやつがピッタリ当てはまる気がした。それは俺だってなるべくナツの手料理は食べたいけどさ……。
ハムエッグとかサラダとか、焼いただけとか切っただけとか思うでしょ。この子ソースも手作りしちゃうんですよ。またそれが美味しくて箸が止まらない。
っていうかホントだ。混乱のし過ぎで気にもならなかったのか、起こされる時間がいつもより早い。……でもそうまでして食べてほしいって思うって、本当にどういう心境の変化でいらっしゃるの。
「ハル、温かいうちに食べてくれたら嬉しいんだけどな」
「あ、えっと、ご、ごめん。それじゃあ、その、いただきます」
「フフっ、どうぞ」
本当にナツがどういうつもりなのか全く意図が読めず立ち尽くしていると、既にテーブルへついているナツが着席を促した。
確かにせっかく作ってもらったのなら温かいうちに食べるのが礼儀だ。考えるのは食べながらとか食べた後でもできる。
慌てて席へついて両手を合わせると、ナツは見惚れるような柔らかい笑みを浮かべてからどうぞ食べて下さいと返した。
それを合図にするかのように食事を始めるが、悶々としているうちにペロリと平らげてしまった。……また一段と美味しくなっている気がする。
というか、なぜかナツが食事をする俺を楽しそうに眺めてくるのも悪いと思う。なんというか、慈愛の混ざったような視線は俺から思考力を簡単に奪い去ってしまった。
(いやいや。いやいやいやいや。何これ、なんだこれ? なんかナツが――――)
いつもより数倍は可愛く感じて困るんですけど。
いやホントなんだこれは勘弁してくださいよナツさんあまりにも突拍子がなさ過ぎてどうにも対応しきれないと言いますかそういう態度をとられるとどうにも男は馬鹿だから勘違いってものを起こして――――
ということを延々考えながら、俺にのみ任されている仕事である食器洗いへと身を投じる。……が、やはり集中なんてできたものではない。
ナツが見ていなかったからいいものの、手を滑らして食器を割ってしまいそうになることがしばしば。いや、しばしば起きるのはいかんでしょ。
……いかんでしょ。あの表情はいかんでしょ……。そりゃナツはとっくの昔に女の子としてみるようにしているが、どちらかと言うならあれは――――
(お、お、お、女の顔っていうか……)
「ハル」
「ふぁああああっ!?」
「ど、どうしたの!? 考え事でもしてた? ごめんね、驚かしちゃって」
「い、いや大丈夫! こ、こっちこそ大声出して申し訳ない……」
ナツの様子について考えている最中に声をかけられたせいか、驚いて食器を落とすどころか投げ捨ててしまうところだった。
しかも出したことのないような奇声もおまけで発してしまったせいか、声をかけてきたナツのほうも驚かせてしまったらしい。
口元を隠しながら謝罪しつつ振り返ると、俺の奇声がよほどおかしかったのか、ナツがこらえるような笑顔を浮かべている。それくらいなら笑ってくれた方がいっそ助かるけどな。
「で、その、どうかしたかな」
「あ、そうそう。私、そろそろ出るから。ひとこと言っておこうかと思って」
「そっか、わかった。無理のない程度に頑張ってね」
「うん、ありがと! それじゃ、行ってきます!」
声をかけたということは大なり小なり用事があるということだろう。今回の場合は小なりに該当するくらいかな。
俺が食器洗いを始めたと同時に姿を消したと思ったら、どうやら出発の準備をしていたようだ。大き目のバックを肩から掛け、家を出る前にあいさつをとのこと。
確かに何も言わずに居なくなられたら普通に心配する。今日に限っては集中できていないし、ひとこと言っておいてくれて本当に助かった。
なんとか落ち着いた心神でナツを送り出す言葉を贈ると、元気な様子でガッツポーズを見せてから、ドタドタと床を鳴らして玄関の方へ消えていった。
ふと時計に目をやると、今くらいが以前まで俺が起床する時間だ。ISのことがある朝は、俺を起こすとせっせと出発していたんだけど。
……ダメでしょ。やっぱこれよくないと思う。結果的に俺も早起きになったわけだが、忙しいはずのナツはもっと早起きしているということじゃないか。
逆に夜遅くまで勉強とかしているだろうに、今朝のナツは何時に起きたんだ? どうにもいたたまれなくなった俺は、急いでナツを追いかけた。
「ナツ!」
「あの、えっと……ハル? ど、どうしたの? そんな真剣な顔して……」
タオルでキチンと手を拭いてから追いかけてみると、ナツは靴を履き終えたくらいのところだった。そして扉を押そうとするその手を制し、痛く感じないであろう力を込めてナツを引き留める。
するとナツの顔は見る見るうちに赤くなっていくではないか。だからいったいキミになにがあったというんだ。見ているこっちも心臓が早くなる。
って違う違う。何もそんな特別な意味があってナツを引き留めたわけではない。流石に申し訳がなさ過ぎることを伝えなくては。
「その、よくわからないけどこの感じはナツに負担がかかり過ぎだと思うんだ」
「え……?」
「うん、俺のことなんかで無理しちゃダメだよ。ナツのほうがよっぽど大変なんだからさ、別に朝食くらい今までどおりだって――――」
「…………」
「…………ナ、ナツ……?」
俺としては全身全霊でナツのことを気遣っての言葉だった。いずれ国を背負うであろう逸材の邪魔はしたくない。
それにやはり俺とナツはいずれ離れる運命にある。いつまでもナツに頼りきりで依存したままではなにも始まらない。
そう、少しでもナツの力になろうとしての言葉だったというのに、どういうわけかナツの表情は一変。なんの前触れもなく陰ってしまった。
「……そうだね。今までの感じで上手くいってたんだから、そっちの方がいいよね! ……うん」
「え、いやあの、ナツ? なにか傷つけるようなこと言ったなら――――」
「ハル、心配してくれてありがと! それじゃ私、今度こそ行くから!」
「ちょっとナツ!? 話を――――行っちゃった……」
いつしか、ナツの無理しているないし嘘の笑顔くらいなら見抜けると言った。ああ、見抜けるとも。だって、たった今ナツが浮かべた笑顔がそれなのだから。
俺は瞬時に何かまずいことを口走ったのだと悟ったが、謝ろうにも取り付く島もない。ナツは俺の言葉を無視するくらいの勢いで飛び出て行ってしまった。
……その場に居られなくなるくらいに悲しませてしまったと? ……無理はしないでって、ナツのためを思って伝えたのに? それがナツのためにならない言葉だった? なら俺は、いったい……どうすればいいんだ?
「……女の子って、全っ然わからない……」
女の心と秋の天気は変わりやすいなんて格言? みたいなのを聞いた記憶があるが、本当に一瞬にしてナツを曇らせてしまった。
仮にナツを傷つけたのなら謝りたい。が、何を謝ったらいいのかわからない。原因になったのは無理をしないでって伝えたことなんだろう。
でもそれの何が悪かったのか本当に見えない。……早急に誰かに相談した方がよさそうだ。女心なんて恋もしたことない若造一人でどうこうしようとするのが間違っている。
え~っと、それなら消去法で……。弾と数馬はまず却下、まともに取り合ってくれない。蘭ちゃんも俺に思うところがあるみたいだし止めておいたほうがいい。
じゃあ母さん……もダメだ。女の子を傷つけたことに間違いはないとすれば、相談というより俺が延々説教される形になってしまう。
ということは、初めから選択肢なんてひとつだったということだ。
「もしもし父さん? 今大丈夫かな。……うん、時間が作れそうなら相談したいことがあって――――」
父さんとは問題なく電話が繋がり、相談があるとだけ口にした。向こうも快く了承してくれて、昼時に指定の場所へ行くよう指示を受ける。
時間を見てこの間ナツと父さんで寿司屋へ行った駅へと向かう。ならこのあたりが父さんの勤めている職場があるのだろう。十五年生きての新事実である。
さて、指定の場所といってもかなりアバウトな表現をされたからどうしたものか。確か、高層ビル付近の喫茶店とか言ってたな。
とりあえずここらで最も高いビルの元へ足を運ぶと、その目と鼻の先に小洒落た感じの喫茶店らしき店構えが見えた。ここだとするならビルは目印になるだろうが、どうなることやら。
「いらっしゃいませ! 一名様ですか?」
「あの、ダンディズムの塊みたいな中年男性が入ってませんか?」
「ダンディズム……? ああ、お得意様のことかも知れませんね。 それでしたら、こちらのお席にどうぞ」
父さんの特徴を簡潔に伝えてみると、店員さんは心当たりがあったようだ。というか、自分で言っておいて今のでわかるとは思いもしなかった。
店員さんの案内に従って奥へと進むと、慣れた様子で席にたたずむ父さんの姿が。お得意様とか言われてたし、きっと常連なんだろう。
父さんに倣って席へ着くと、すぐさまメニューを選ぶよう促された。父さんとしては奢る気が満々らしい。相談にも乗ってもらうのに申し訳がないな。
でも相変わらず子供が遠慮するものじゃないと返されるのがオチなので、甘えさせてもらうことにしよう。
俺はパッと目に入ったメニュー票のトップに書かれていたハンバーグステーキセットを注文する。きっとイチオシのメニューに違いない。
かしこまりましたと店員さんが下がったと同時に無言タイムが始まってしまうかと思いきや、父さんはこちらの近況を訪ねてきた。
先ほど起きたことは除き、ナツにサプライズパーティーをしたことなどを話してみる。それと、俺が爺ちゃんの課題を終わらせたことも。
「そうか、親父も喜ぶだろう」
「うん、きっとそうだって信じてる。家の仏間に飾ってあるから、帰る機会があったら見てほしいな」
「そうしよう。……晴人」
「うん?」
「よくやった」
「……うん」
父さんにとって爺ちゃんがどういう人だったかは詳しく知らない。少なくとも仲が悪いということはなさそうだが、二人揃ったところをなかなか見たことがないからな。
ただ、親父も喜ぶと言った父さんの顔は、見たこともないくらいに穏やかなものだった……と思う。身内だけが気づける些細な変化といったところか。
それで、手放しに褒められてなんだか照れ臭くなってしまう。父さんがいくら寡黙だってそれなりに褒められて育ったけど、やはり慣れていないのも確かだし。
そんなとりとめのない話を続けていると、俺たちの頼んだ料理が運ばれてきた。相談は食べ終わってからという暗黙の了解のもと、俺は父さん行きつけの味に舌鼓を打つ。
食事はほとんど無言で進めることしばらく、俺はハンバーグステーキを、父さんはチーズたっぷりな焼きカレーを平らげた。
ここだけ見れば滅多に会えない父子の団欒なのだろうが、俺としてはここからが本番である。先ほどまでが和やかだっただけに、なおさら胸中で臆しながら口を開いた。
「相談なんだけど、なんていうかこう、要するに女の子ってよくわからないって話?」
「ほぅ? 詳しく聞こう」
あ、切り出し方不正解だこれ。これだとなんだかナツが悪いみたいな言いかたに聞こえなくもない。とりあえず、悪いのは俺なんだけどと補足を入れてから話を続ける。
ナツのことを気遣い、ナツのためを思って朝食は大丈夫だと断った。それがなぜかナツを傷つけたらしい。と、要所をまとめればこんなところだろうか。
俺の話を聞く父さんの姿は、いつもと特に変わらなかった。難しい顔をするわけでもなく、俺に憤りなどを感じているようにも見えない。
父さんの回答を待っていると、アッパーカットの如く鋭く、それでいて一撃必殺の威力が込められているかのような意見が発せられた。
「以前にも言ったが、晴人、お前は私の誇りだ」
「う、うん。ありがとう……」
「だが、晴人の善意は時折他人の善意を踏みにじる」
「っ……!」
以前のように誇りだと前置きをしたのは、頭ごなしに責める気はないと確認させるためだろう。しかし、次いで出てきた言葉は俺にとって予想外だった。
つまり、それは俺に自覚症状がないということを示している。ふ、踏みにじる……? そこまでないがしろにしてしまったことがあるというのか。
いや、冷静に考えて確かにさっきのナツはそうなんだろう。なんとなくと明確なものではなかったが、朝食を用意してくれたのは間違いなく善意だ。
だが待ってほしい。言い訳と取られてしまえばそれまでだ。全面的に俺が悪いことも自覚している。けど、俺がナツに言ったことは間違っていたのだろうか。
「俺は、ナツに頼り切りだと思ってる。そんなナツがもうすぐ遠くへ行ってしまうから。だから俺は、余計辛くなると思うから、今のうちにと思って――――」
「逆なんじゃないか」
「え?」
「もうすぐ離れしまうから、一夏くんは晴人との時間を多く重ねたい。という可能性もある」
俺はナツの気がかりでしかないと思っていた。だから早いとこ離れてしまって、ナツの重荷にならないようにと、そうとしか考えたことしかない。
仮に父さんの言ったナツの願いが正解に近いとして、だとしたら俺はどれだけ残酷なことをナツに言ってしまったということになる?
もうすぐ離れてしまうからこそとナツが思っていたのに、俺は無理しなくていいという言葉を盾にして、早急に離れることに慣れた方がいいと告げた。
……俺はいったいなんてことをしてしまったというんだ。
「それとだ。晴人、己を下げてまで本心を隠そうとするな。それも一夏くんに失礼なことだぞ」
「本心って、無理しないでってのがそうなつもりだけど」
「その前が問題だと言っている」
俺は確かあの時、俺のためなんかに無理しないでとそう言ったはず。今父さんに言われたのはそのあたりのことのはずだ。俺のことなんか。それがナツに失礼と……。
……俺のために頑張って早起きして、その上で朝食まで作ってくれて、なのに俺自身が俺のことをなんかで済ませては……確かにそうか、すごく失礼かも知れない。
父さんの言うとおりだ。俺は多分、ただいいことをしたつもりのだけだったらしい。俺のエゴが知らぬ間にナツを傷つけた。
これまでもそうだったケースがあるかもと思えば目も当てられない。なんということだ。他ならまだしもナツにだなんて。
……いや待て、またしても悪い方に思考が傾いているぞ。今するべきなのは、父さんの言った俺の本心とやらを見つけることだ。そうすれば、キチンとナツにも謝れる気がする。
(いや、待てよ……?)
俺の本心なんてたかが知れているではないか。だって俺は確かに自分でこう考えたぞ、そりゃ俺だってなるべくナツの手料理は食べたいって。
……そうか、そんなに簡単なことだったんだ。ナツが無理を推してでもそうしてくれるようになった理由はまだ見えないけど、ただ俺は感謝をすればそれでよかったんだ。
それをナツのためだとか言い訳して、結果的にナツを傷つけて……。いったい俺は何がしたかったのだろう。もはやこうしては居られない。
考えのまとまった俺は、思わず勢いよく椅子から立ち上がった。
「答えは見えたか?」
「ありがとう父さん。俺は――――」
「この程度は造作もない。それより、成すべきことをするといい」
「うん、本当にありがとう。それと、ご馳走様!」
やはり父さんに相談したのは大正解だったらしい。こんなにも早く答えにどりつけるなんて思ってもみなかった。
俺としては感謝してもしきれないのだが、父さんはいつもと変わらず大人の余裕で満たされていた。しかも俺の背中を押してくれるというおまけつき。
この人が俺の父親で本当に良かった。そう思わずにいられなかった俺は、深々と頭を下げつつ重ねて感謝の言葉を述べる。
最後に食事のことにもお礼を伝えると、勢いそのまま店から飛び出た。そして落ち着ける場所につくと同時に携帯を取り出し、息を整えながらナツへと電話を繋げる。
「もしもしナツ? その、今大丈夫かな」
中途半端ですが長くなるので続きは次回に。
ひとしきり悩んだら、やるべきことはこなすのでご心配なく。
というか次回が序章で一番の山場になるのでしっかりしてもらわないと困る。