AKIBA'S TRIP ~キミを探してこの街へ~ 作:桐生 乱桐(アジフライ)
クオリティは相変わらず
―――秋葉原
戦後の高度経済成長時代から現代に至るまで、常に時代の最先端に位置する街にして、人々の欲望を満たし、生み出してきた特異な地域
そんな秋葉原を舞台に様々な噂があった
美男美女によるオタク狩りが行われている
街のどこかで、非公式なバイトを凱旋する男がいる
どんな情報も手に入れるスゴ腕ハッカー集団がいて、依頼するには金とは違うまた別の何かが必要になる
夜になると人を襲い、血を吸う奴らがいる
…どれも総じて嘘っぽく、だけど、嘘だと言い切れない、そんなありきたりな噂の数々
秋葉原に住む少年―――須藤真一は秋葉原に在する無難な進学校へと通い、平凡な日々を送っていた
ある日
その進学校の友達から珍しく電話がかかってきた
友人はとにかくアニメが好きで、休みの日は連日秋葉原へと繰り出している、いわゆるオタクだ
真一もアニメは見るがフィギュアなどを集める気はない
が、たまにその友人から一緒に秋葉原へと身を乗り出す事はあった
秋葉原の人たちは暖かく、案外過ごしやすいと感じたのはつい最近の事だ
…話が逸れた
で、そんな友人から電話がかかってきたのだ
<聞こえるか!? 今俺はアキバで、あの噂は…!!、あ、いやそれよりさ、俺の…俺のPCの、PCの中のDドライブを消し―――>
そんな謎な言葉を言い残し、電話は切れた
最初は何かのイタズラかと思ったが、翌日学校へ登校して、その疑心は確信へと変わった
その友人が行方不明になったのだ
恐らくは、秋葉原の噂を調べてくうちに何らかの真実を掴んでしまったのだろう
そう考えた真一は学校が終わると同時、その友人の自宅に訪問した
友人は学生寮に一人暮らしだ
寮長にそのことを話したらすんなりとその部屋へ案内してくれた
「…アイツのPCは…、これか」
目的のPCを見つけるとマウスを操作し、クリックする
すると画面には一枚の写真が映し出された
人間とは思えないほど美しく、透き通った白い肌の女の子の写真
「…、」
写真だが、見とれてしまっていた
その見目麗しい姿に、一瞬だが確実に心が奪われてしまっていた
「…て、違う違う…!」
慌てて頭を振り払いなにか情報を得ようとその写真の様々なところを見る
その写真をよく見てみると背景には見覚えがあった
秋葉原だ
「…秋葉原、か…」
最近妙な噂が立ち込む秋葉原
しかし多少ながらの興味はあった
「行ってみる価値はあるな、秋葉原に…」
マウスから手を離すと誰にともなく呟いた
…どうやら、全て秋葉原にあるみたいだ
◆◆◆
ある夜、真一は友人を捜すべく秋葉原へと足を運んだ
また、友人を捜す前に、一応秋葉原の知人には連絡を入れようと思ってある場所を訪れた
「ヤタベさん」
「あ、真一くん」
真一が声をかけるとジャンクパーツの整理を止めて、帽子を被り、眼鏡をかけた人当たりの良さそうなおじさんがこちらを向く
「友達を捜しにいくんだね?」
「はい。もしかしたらなんてないかもしれないですけど…」
「いやいや、甘く見ちゃダメだよ真一くん。何があるのかわからないのがここ秋葉原なのだから」
「ヤタベさんの言う通りです、真一様」
真一にそう言ったのはサラというメイドだ
…ここで語る事ができないくらい、謎なカリスマメイドである
そう、カリスマメイド
…大事な事なので二回言いました
「もしよろしければ、ご主人様御用達の護身術を簡単にレクチャーできますが」
「間に合ってますよ。お気持ちだけ受け取っておきます」
真一がそう言うと「そうですか…」と少し寂しげにうつむいた
…ちょっと良心が痛んだ
「ゴンちゃんとノブさんは?」
とりあえずヤタベさんにまた聞いてみる
「ゴンちゃんは…、そうだ、カメラのフィルム買いに行ってて、ノブくんは確か…、あ、[ITウィッチまりあ]のグッズを買いに行ってるんじゃないかな」
「あー。なんか出ますよね、確かフィギュアでしたっけ」
ITウィッチまりあとは現在放送中の人気アニメだ
まぁ詳しくは知らないが、真一もよく見てるアニメの一つだ
だが二人とも出かけてるとなるとけっこうかかる
「じゃあ俺、そろそろ行きますね」
とりあえず伝えるべき人には伝えたので真一はヤタベにそう言った
「わかった。けど、気をつけるんだよ」
心配するヤタベに頷きながら真一はその場を後にした
◇◇◇
夜の秋葉原は、未だに人通りが多い
流石最大の電気街
とりあえずなにか情報はないか、と思って真一は携帯の〝ぽつり。〟を覗いてみる
ぽつり。とは早い話ツイッターのようなアプリであり、割と使用している人もいるのではなかろうか
「…この辺りの路地裏…、かな」
割とひっそりとした路地裏
ゴミ袋などが散乱してる中、その細い路地裏を突き進む
「―――へぇ、そっちから来てくれるなんて、有り難いじゃねぇか」
聞き慣れない声が聞こえたと思ったとき、真一は壁に叩きつけられた
「がはっ!?」
自慢ではないが、割と真一は喧嘩に慣れている
副業として便利屋なるものをしているが、ときたま暴力沙汰になってしまう事もたまにある
…本当にたまにだが
そんな時に力で無力化し、話を進める、というのが何回かあった
それだけでなく、カツアゲ等が頻繁に起こるゆえ、体は割と鍛えてはいたのだが
(気配が、全く…!?)
襲撃してきた相手は気配はおろか音もなく現れて真一に一撃を与えたのだ
「おっと…、やりすぎちまったか! 悪ぃなぁ、人間相手に手加減なんて器用な真似できなくてなぁ」
朦朧とする意識の中、顔だけでも見ようと上を向く
相手は銀髪で目の下に若干の隈…、そういうメイクだろうか
服装はどこぞのロッカーみたいな服装で、ギターなんかが似合いそうだ
「おおかた、仲間を捜しに来たらしいが、残念だったなぁ。あ、最近ここで吸血したといえば…、アイツくらいなもんか」
銀髪ロッカーがある一点に顔を向けた
そこにはぐったりと倒れている人物
―――友人だ
「誰にも見つけられなかったんで、飲まず食わずでへばってるみてえだが…ま、お前よりは元気そうだぜ。くははっ」
笑い方が癪に触る
だが、うまく体が動かない
「よぉく見ておけ、俺が血を吸えば、すぐにお前も同じようになる。…俺たちと同類になるんだ」
そう言って歩み寄り、ぐい、と真一の体を持ち上げようとしたところで
「…兄さん。待って」
また別の声
かろうじて顔を声の方へ向ける
そこには友人のパソコンの画像で見た、あの少女がいた
見間違うものか
あんな美少女、このご時世そうはいない
「…あ? 何だ瑠衣。何しに来た」
「…その人を、逃がしてあげて」
「はぁ? おま、何言ってんだよ」
ロッカーは少女の言い分にイライラしているようだ
あまり仲は良くないのだろうか
「今週はすでに十分な人数を吸血しているはず。彼の血まで吸う必要は―――」
「ったく。お前は相変わらず意味わかんねえヤツだな。ここまでやって何もしないで放り出すわけねぇだろうが」
「それでも、その人は…」
会話の内容ははっきり言って意味がわからないものだった
だがしばらく放置されていたおかげでだいぶ体力も回復した
なんとか力を絞り出してゆっくりと立ち上がる
…せめて、友人だけでも路地裏から引っ張りださないと
「ほら、無駄話してるうちに起き上がっちまったぞ。もたもたしてると逃げられ―――おっと、こりゃ立派だ。まだ仲間を助けるつもりでいるぜ」
「…、」
銀髪ロッカーに何かを言われるが、あんまり聞こえていなかった
ただ、あの少女の視線だけはなんとなく感じていた
「…情けねぇなぁ、人間は。…覚悟しろ」
「! 兄さんっ!」
「…え?」
気づいた時はもう遅かった
「―――かはっ!?」
ドゴォ! と肉を抉るような一撃が真一に直撃した
防ぐ事も、避ける事も出来ずにただ、もらう事しかできなかった
再び壁に叩きつけられ、そのまま倒れ伏す
「おっと。殺っちまったか? 仲間なんて置いてさっさと逃げれば良いものを」
倒れ伏す真一を見下し面白おかしく笑いながらそんな事を言う
「こりゃ血を吸ってももう意味ねぇな。…人間はな、俺たちと違ってこれっくれぇで死ぬんだよ」
「…そんな…!」
倒れる真一を見ながら少女は呟いた
「ったく…。これだからガキは。俺はもう行くぜ、そこの二人は重ねて適当に放置しておけば、喧嘩して互いにぶっ倒れたように見えんだろ」
そう言うと口角を吊り上げて
「…なんせ、最近の秋葉原はやたらと物騒だからな。…[俺たちのおかげ]で。うははははははっ!」
最後に高らかに笑いながら銀髪はその場から立ち去っていった
「…、」
残された少女は倒れた真一を見る
そして悲しそうに目を伏せて
「…ごめん、私たちのせいで、せっかく君は…」
「…、う…」
「! まだ、生きてる」
少女はかすかに聞こえた彼の声を聞き取った
「人間なら、死ぬ。…だけど、私たちなら…」
少女は何かを思案するように考える仕草をしたあと
「よし。…なにか、刃物は…、あるわけ、ないか。歯で唇を切るしか…」
少女は口の中を少しもごもごと動かす
「…っ! …ん」
軽い痛みに耐えながら少女は倒れている真一へと歩み寄る
そして彼女は、自分の唇を彼の唇に押し付けた
学園都市
夕暮れ時の伽藍の堂
蒼崎燈子は対面に座る鏡祢アラタに話をしていた
「…ないろ? …なにそれ」
「正式名称〝National Intelligence and Research Organization〟…それを略して
「いや、それ通称をローマ字読みしただけじゃん。…まぁいいけど。本題はなんなんだ?」
問われた燈子はふむ、と首を頷かせ徐に立ち上がった
そしてコーヒーポットへと足を運び、コーヒーを淹れながら彼女は呟いた
「お前には秋葉原に行ってもらう」
「は?」
脳内がフリーズする
今この橙色の魔術師は何をいったのだろう
「つうか秋葉原って。そこでなんかやる事でもあんのかよ」
「あるからお前を呼んだんだ。…あちらも最初は単純な建築業を依頼してきたんだが…何やら、あちら側の状況が変わってな。可能なら助っ人的な人材を一人寄越してくれないか、と要求してきたんだ」
自分のコーヒーを置いて再び燈子は椅子に座る
カップに口をつけて一息つくと
「最初は私も断ろうかと思っていたんだ。…けど、このナイロという組織、どうにも胡散臭い」
「胡散臭いって…」
そう思ってるならなんでこんな依頼引き受けたのか
「このナイロを統率している男…瀬嶋といったか。一度会った時があってね。…その時感じた胡散臭さがどうにも拭えん。だからお前にこれを任せたい」
…簡単に言うならナイロという組織が怪しいからちょっと潜入捜査してこい、と
そんな感じなのだろうか
「…別にいいけど、今四月だろ。流石に学校休んでまでは…」
「そこは問題ない。私が月詠さんに掛け合って夏休みに何日か補習に来ればいいとさ」
「あぁ、それなら安心…いや、マテや」
今なんといったこの魔法使い
「てか、え!? 小萌先生と知り合いなの!?」
「飲み友達だよ。たまに屋台で一杯ひっかけるんだ」
衝撃の事実
てゆうか能力査定ではダメダメだからせめて勉学くらいは真面目にやっていたのにもう補習が確定してしまうとは
軽く鬱である
その時はあんまり重く考えてはいなかった
だが、それが秋葉原を巻き込んでの大騒動になるとは誰も思っていなかった