AKIBA'S TRIP  ~キミを探してこの街へ~   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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こっそりとね


#9 コードネーム「エックス」

先日のマスターたちとのアレコレから数日

本日も情報屋からのお仕事やナイロのおつかいを少しづつこなしている間に真一の携帯にメールが届く

それは少し前に連絡先を交換したマスターからの連絡だった

 

―――君に対し、私はどのような言葉に接するべきかわからない

だが、先日のことについては感謝を述べるべきだろう、見逃してくれてありがとう

君の事はヤタベさんから色々と聞いた

友達の事や秋葉原自警団の事とかね

 

…私は君の優しさを信じて、一つ賭けをしようと思う

 

君に会ってもらいたい人がいるんだ

 

その人物のコードネームは「エックス」

 

メールでは危険が孕んでいるので詳しくは話せない

君自身が「エックス」に接触してもらいたい

 

このコードネームを知っているのは君だけだ、裏通りにいるメイドに向かってあのコードネームを呟いてくれ

「エックス」に取り次いでくれるはずだ―――

 

そんなことが書かれていた

 

「…〝エックス〟…?」

 

誰だろう、その人

その単語だけでは女性なのか男性なのかもわからない

少なくとも人物を表すコードネームではありそうなのだが、正直に言ってそれしかわからない

 

とりあえず裏通りにいるというメイドにこれを聞きに行ってみよう

っていうか件の裏通りにはメイド喫茶があるし何かわかるかもしれない

今回はアラタは少し戻らないといけない用事ができたみたいだし、自分が頑張らねばないといけないのだ

 

◇

 

メイド喫茶前

その場には宣伝なのか、単純にバイトなのかわからないがチラシを配っているメイドの人がいる

今も通っていく客に向かって笑顔と一緒にチラシを配っており、非常に手慣れている様子だ

 

「あの、すみません」

「あ、はいっ、なんでしょうかご主人様! もしかして、お店をご利用でしょうか?」

「いえ、そうではなくって…その、〝ミスターエックス〟ついてお聞きしたくって…」

 

刹那、メイドの纏う雰囲気が若干変わる

笑顔のままではあるが、じっとこちらを見定めるように真一の目を見て

 

「…それでは、質問をしても宜しいでしょうか?」

「え。質問?」

「はい、三つほど私から質問を投げかけさせてもらいます。その三つを答えることが出来れば、エックス様にお取次ぎいたします」

 

全く知らなかった

というのも名前しか知らないからある意味当然ではあるか

自分でも答えられる質問ならいいのだけども…

 

「では、行かせていただきます」

「よ、よし、来いっ」

 

「問一、ITウィッチまりあの強さは、何に依存するでしょう」

 

ITウィッチまりあ関連の質問か…!

ITウィッチまりあ…それは現在第二期が好評放送中のアニメ作品だ

原作はマンガではあるのだが、色々語ると長いので今回は割愛させてもらう

 

「そいつは簡単だ、〝使用したパソコン〟に依存するッ!」

「正解です! では問二、まりあが母親と離れて暮らす原因となったのはなんでしょう」

「〝お金の問題〟っ!」

「また正解です! では最後、まりあを務める声優の名前は誰か!」

 

ラッキー問題だ、こんなの知ってて当然の問題だ、ライトオタクではあるが、それでも一応オタクなのだ

 

「新谷光子!」

「―――パーフェクトですご主人様っ」

 

よし、と内心でガッツポーズをかます

ノブくんの教えが功を奏したみたいだ

…あの人の話マジで長かったからな…一応頑張って真面目に聞いたけど

 

「では少々お待ちください、今からミスターエックス様にお取次ぎしますので」

 

メイドさんの言葉に真一はわかりましたと返事をしてふぅ、とその場で息を吐いて気分を落ち着かせる

ミスターエックス…ここに来るまでは正直皆目見当もつかなかったが、何となくここに来てうっすらとその正体を察することができたかもしれない

 

「お待たせしましたご主人様。こちらが、ミスターエックス様でございます」

 

そう言って彼女が連れてきたのが、真一も見知った人だった

 

「…やっぱり貴方だったんですね、真一さん」

 

カリスマメイドと名をはせる、メイドのプロフェッショナル

サラがそこにいたのだ

変わらない笑顔を真一に振りまくと、隣のメイドに離れるよう命じると改めて真一に向き直る

 

「やっぱりサラさんだったんですね」

「あら。真一さんは気づいていらしたんですか?」

「いえ、けどメイド喫茶に来て、もしかしたらって思った程度ですからはっきりとは」

「ふふ、聡明なお方です。マスターから会わせたいエージェントがいると聞いてピンときましたよ。安全に配慮して、このような会わせ方にしたのでしょうね」

 

ふふふ、とサラが笑顔を作る

確かに頭が固いナイロのエージェント連中ではこういった問答は得意ではなさそうだ

オタク系統の問題にして正解と言えるだろう

 

「けど、どうしてサラさんが…。あ、もしかしてサラさんも…?」

「いいえ、私は普通の人間です。彼らのように年若い姿で居られるのは大変魅力的ですが、歳を経て、博識な初老のメイドとなり、一つのメイド道を極めるのも、私の遠い未来の〝夢〟ですから」

 

そういうサラの顔は真剣そのものだった

なんにせよ、はっきりとした自分の夢を持っていることは素晴らしいことだろう

 

「けど、具体的な支援って一体…」

「主に住居などの秋葉原での暮らしのサポート、メイドとしての立ち居振る舞い、美味しいコーヒーの淹れ方…」

「コーヒーなんかも淹れてるんだ…」

 

勝手に紅茶のイメージが焼き付いてた

 

「メイドはイギリス発祥ということもあり、普段は紅茶ばかりですけど、コーヒーも自信あるんですよ。今度宜しかったら、真一さんの好みに合わせたコーヒーをお淹れしますね」

「ははっ、はい。その時はぜひ」

 

美味しいんだろうなぁ、などと味の想像を一度断ち切り、再度サラの話に耳を傾ける

 

「…切っ掛けは些細なことでした。ご存知かもしれませんが、私は自分の店以外に、希望する方がいれば無償で指導をしているんです」

 

話には聞いたことはある

おかげで裏通りには結構なメイドがいるのだが

 

「〝彼女ら〟のグループに所属する一人の女性が、私の元でメイドとしての嗜みを学んでいました。彼女には、ご主人様に対する礼儀や、知識として吸収しようとする勤勉さ、そして何より、主の方へ、奉仕しようという強い思いがありました」

 

カゲヤシの中にそんな人がいたのか

…やっぱりカゲヤシにも暴れたい人とそうでない人がいるのは間違いないのだろうか

 

「それは才能と呼ぶに相応しく、私も特に目をかけて育てていましたけど…家庭に問題がある、とのことで、なかなかお店に出てこれない現状でした…それを私は秋葉原界のメイド業界における損失と考え、公私ともに支えていこうと決めたのです」

 

あのサラにここまで言わせる、ということはその女の子は本当にすごい逸材だったのだろう

 

「…あと、別にいやらしい意味とかはございませんので、ご安心ください」

「いえ聞いてませんから!」

 

何を言っとるんだこの人は

 

「こほん。…それで、親しくなっていくうちに、自分の事情を話してくれました。最初は思春期にありがちな〝邪気眼〟系か何かだと思っていたのですが…実情は大きく違いました。しかし、一度彼女を支えると心に誓った私には関係ありませんでした。ですが、彼女はある時正体がエージェントに露見し、命を狙われるようになってしまいました。…自らの命が幾ばくも無いと察した彼女は、最後に私にメッセージを送り、その消息を絶ちました」

「…メッセージ?」

「はい。…〝自分が仕えている大切な人を助けてあげてほしい〟…ただそれだけでした」

 

自分の命に危機が迫った状況だというのに、その子は尚も己の主を優先した

それがどれだけ勇気のある行動なのかは真一には推し量れない

 

「そこにあったのは、ただ主人への奉仕の心だけ。感銘を受けた私は、〝彼女ら〟に接触し、今の関係が始まったのです」

「それが…サラさんの原典、というわけですね」

「はい。言い換えれば、私は彼女の意思を引き継いだ形になるわけです。誤解しないでほしいのですが、私が援助しているのは全てのカゲヤシというわけではありません」

「…? それは、どういう…」

「簡単にカゲヤシについてご説明しますね。まず働きアリのような末端、彼らを束ねる妖主の子供たち…そして、組織を統括し、全体の意思決定を行う女王蜂のような妖主、カゲヤシというのは、この三種類で成り立っている種族なのです」

「…つまり、トップと幹部、それと末端がいる、みたいな感じですかね」

「えぇ、そのような認識で構いません。本来妖主の意思は全カゲヤシの意思、ということなのですが、子供たちの中に一人だけ、妖主の意思から離れて、独自の思想を持つものが現れました。私が支援しているのが、その人なのです」

「…独自の思想…ですか?」

「えぇ、その人が掲げる思想―――それは、〝人間との共存〟」

 

言葉を聞いて、真一はぴくりと身体を震わせる

 

「その人は秋葉原を訪れて、この街の自由さに可能性を見出しました。…この街は、全てを赦し、受け入れる。…それなら自分たちも…きっと…と」

「…だけど、それは今の妖主って人からしたら…」

「えぇ、正反対の思想です。ゆえに、小規模かつひそかに行動し、この街で生きる術を模索しているのです。今回、マスターを通して真一さんに接触を図ったのも、これに協力してほしいからです」

「! …俺に、協力を…?」

「エージェントを裏切れ、というのではありません。先日貴方は、マスターの命を助けていただきました。同じように私が支援している方と戦う時になった際に、見逃してあげてほしいのです。〝彼女ら〟は妖主の命を受けても、むやみに人を襲うことなどいたしません。水面下で動いてる故、やむを得ずということはあるかもしれませんが…」

「そうか。俺が協力できれば、そう言うケースも減らせる…と」

「はい.先日起こった暴動みたいに、未然に防ぐことも可能なはずです。実はあれは、〝彼女ら〟に助けを求められ、私が自警団、そして真一さんと鏡祢さんを誘導させていただきました」

 

まさか裏でそんなことをしていたのか、と真一は驚いた

 

「だますような真似をして申し訳ありません。ですが、助けていただいてありがとうございます。協力していただければ、互いの望まない戦いは避けられるはずです。そして今はまだ少数ですが、いずれ彼女たちが力を持つことができたときは…真一さんに、協力していただきたいのです」

 

サラはそうして自分を見つめてくる

ここまで話を聞いて、真一の心は決まっていた

 

「…あぁ。俺でよかったら喜んで」

「良かった。…貴方ならそう言ってくれると思ってました。…そして、よろしかったら今の話を、アラタさんにも共有していただいてもよろしいでしょうか?」

「? アラタに?」

「はい。彼はなんとなく、真一さんに近い感性をお持ちだと直感で感じたので」

 

それは真一もなんとなく思っていた

そっくり、というわけじゃないが、雰囲気が似てるというか

 

「分かりました。俺からアラタに伝えておきます」

「ありがとうございます。…それと、自警団の皆様には、ご内密にお願いします。…いずれ話すときは来ると思いますけど、今はまだ…」

 

彼らはちょっと素直すぎる印象があるからなぁ、と真一は心の中で思う

 

「それでは真一さん、何か決まったらまたご連絡いたします。本日はお時間いただきありがとうございました」

 

そう言ってメイドらしい美しい所作で礼をするとその場を去っていった

真一はそれを見送るとふぅ、とひとつ息を吐く

 

もしかしたら…カゲヤシと戦わない未来が、来るのかもしれない…

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