AKIBA'S TRIP ~キミを探してこの街へ~ 作:桐生 乱桐(アジフライ)
「ふーん、そんなことがあったのか」
私用で少し伽藍の堂へ帰って、戻ってきたら真一からそんな話を聞かされる
末端に妖主、と来たか
戦いたくないカゲヤシもいるというのはいい情報かもしれない
最も、瀬島がそれを聞き入れるとは思えないが
「そんで。面会をセッティングしてくれるんだろう? サラさんは」
「あぁ。準備ができたら俺にメールを送ってくれるって…っと、言ってるそばから」
アラタに顔を向けながら真一が話しているとピリリとメールの送信を知らせる着信音が鳴り響く
携帯を取り出し画面に視線を向けるとそこにはサラからのメールが届いていた
◇
面会場所のお知らせ
サラです
面会の場となる場所が決まりましたので、ご連絡させていただきます
まず屋上へ向かってください
そこにそれらしい人を見かけたら〝合言葉〟の方をその人に仰ってください
まどろっこしいかもしれませんが、念のためという措置ですのでどうかお願いいたします
合言葉は、私が勤めているメイド喫茶の店名です
◇
「…メイド喫茶? …あぁ、そういえばサラさんってメイド喫茶で働いてんだっけ。自警団のアジト行くと大体いるから実感なかった」
アラタが頭を掻く
そうなのだ
自警団のアジトに行くと大体サラがほかの皆と談笑したり紅茶を入れていたりするので正直真一自身も忘れていたくらいだ
「とりあえず、屋上だろ? 善は急げだ、早く行こうぜ」
「あぁ、わかってるよ」
◇◇◇
そんな訳で、屋上に到着したはいいのだが
「いーじゃんよぉ、俺たちにちょっと街を案内してくれるだけでいいんだってばぁ」
「だ、だけど私を待ち合わせをしてて…」
「さっきから一人でいんじゃん? きっとその相手には別の用事が入ったんだよォ」
「で、でもぉ…」
「いいからいいから。俺たちと遊びに行こうよー」
スゴイ典型的なナンパの場面に目撃してしまった
真一とアラタははぁ、とため息をつく
というかめっちゃ知ってる人だった
「―――あ! アラタさんっ!」
三人からナンパされている女の子―――鈴がアラタの顔を見て笑みを浮かべる
知り合いなの? と怪訝な顔をする真一に「ちょっとね」と短い返事を返しつつアラタは一歩前に出て
「悪いな、その子と待ち合わせしていてね」
「あぁ? なんだお前?」
カーディガンを着込んだ三人のうち一人がこちらに向かってガンを飛ばしてくる
こちとら目の前のチンピラ程度に怯むようなやわなモノでもないので、素知らぬ顔で受け流しつつ
「友達さ。それに、秋葉原を案内してほしいならしてあげるよ、彼が」
「え? 俺?」
しれっと促された真一がびくりと肩を震わせながらアラタに向かって返答する
「ったくよぉ…わかんねぇかなぁ、お前らみたいなやつらに案内しても意味がねぇんだよ」
「意味がないとは変だなぁ。観光目的なら一緒じゃないの」
「男に案内してもらっても嬉しかねぇんだよ!」
「だから別に案内役が野郎でも問題ないじゃん、誰に案内されたって―――」
「だーかーらー! 不良にも〝萌え〟はあるんだよ!」
…お、おう
「あぁもうイラつくわこいつら! 服引っぺがして川にでもぶちこんでやろうぜ!」
リーダー格のカーディガンがえらいこと言いだした
それに乗っかってカーディガンBとカーディガンCが同意して
「こっからだと神田川か」
「都市部を流れる川だ、裸じゃあ出るも地獄出ないも地獄!」
「覚悟しやがれ!!」
そんな訳でカーディガン三人衆が襲ってきた
◇
「お、覚えてやがれ!!」
勝ちました
日頃から争いには多少心得があり、かつカゲヤシとなったことで身体能力が向上した真一にそもそも戦闘に慣れているアラタ
二人を前にすればその辺のチンピラなど何人来ようが敵ではなかった
「あ、ありがとうございます。助かりました…」
はうはう、と言った様子で女の子―――鈴がぺこりと頭を下げる
「アラタさんは別として…そっちの方とは二回目…でしたよね。私は森泉鈴と申します」
「あ、どうもご丁寧に。俺は須藤真一って言います」
「真一さん、ですね。改めてありがとうございました―――あ、そうだっ、合言葉っ」
そう言うとうーんと、と考えながらやがて思いついたようにハッとした表情を浮かべると
「〝あなたのオススメのメイド喫茶はどこですか〟?」
合言葉の問いかけが来た
しかしアラタはその店を知らない
だからちらりと真一へと視線を移すと彼は頷いて
「〝カフェ・エディンバラ〟」
そう言葉を言うと鈴はぱぁっと笑みを浮かべて
「正解ですっ。…よかったぁ…これで違うお店の名前出されたらどうしようかと…あ、でもアラタさんいるから大丈夫、なの、かな?」
それは流石にダメだと思う、と真一とアラタは思ったが口には出さないでおく
んん、と空気を変えて真一は鈴に問いかけた
「その、君がサラさんの言ってた?」
「あ、いえ。私は代理のモノです。普段は、瑠衣ちゃんに認められて、彼女の従者のようなことをしています」
従者とかそういうのあるんだ
「先ほど自己紹介はしたと思いますけど、改めて。私は森泉鈴。瑠衣ちゃんの補佐役…という建前ですが、先ほど言った通り、従者みたいな感じです。一応これでも、他のカゲヤシを指揮する側ではあるんですよ」
そこから鈴は簡単にカゲヤシの内情を説明してくれた
カゲヤシには大きく分けて三グループあり、頂点が妖主、そしてその下に幹部、さらに下に末端、といった感じらしい
どうやら上下関係はどこに行ってもついて回るみたいだ
「私はもともと末端だったんですが、瑠衣に抜擢されて補佐役みたいなことをさせていただいてます。…あ、すいません私ばかり話してしまって。今話さないといけないのはそんなのじゃありませんよね」
「いや、そんなことないよ。ね、アラタ」
「そうだな。必要なことでもあるし…。俺からも聞いておきたいのは一つ」
「?」
「とどのつまり、君らは俺たちに何をしてほしいか、だ。…まぁなんとなく察しはつくけれど」
「えっと、ですね。あなたたちだけでも、私たちと敵対しないでほしいなって、いう、そういうお願いなんですけど…」
「いいよ?」
「おっけー」
「や、やっぱり難しいですよね…―――え?」
まさかの二つ返事に鈴は一瞬固まった
「い、いいんですか!? そんなあっさり!?」
「全然。普通に俺たちと話してるその感じも人間のそれだし」
「俺たちとこうして一緒にいられるのなら、共存も遠い話じゃないと思うから」
真一とアラタの言葉に鈴はぱぁ、と笑顔になった
それこそ本当にうれしそうに彼女は言葉を続けていく
「そ、そうですよね! こうして私たちと友達になれたんですし! 人間との共存だって夢物語じゃありませんよね! 今襲ってる末端のカゲヤシは妖主の意志に従ってるだけなんです! 共存の道を模索している瑠衣ちゃんがトップになれば、必然的に人を襲うカゲヤシはいなくなるんです! なんてったって、瑠衣ちゃんは〝次の妖主〟なんですからっ!」
ヒートアップしてどんどん言葉が出てくる鈴
っていうか言葉の中に結構大事な単語が出てきたような気がする
「…あ? あぁぁぁぁ!?」
本人もそれに気づいたのか慌てて自分の言葉を手で押さえキョドり始める
「す、すいませんすいません今のナシっ! 聞かなかったことにしてください!?」
「え。えっと?」
「お、落ち着いて。別に誰にも言うつもりなんてないし」
「す、すいませんすいませんっ!! 忘れてくださいっ! なんでもするから忘れてくださいぃぃ!」
ん? 今なんでもするって言ったよね?(ゲス顔
そんな感じでうっかり真一の顔が条件反射で変わってしまったのでアラタが軽くドついて戻しておく
「もういい」
そんな鈴の言葉を切り裂くように一人の女性の言葉が耳に入ってくる
そっちに視線を向けるとそこには黒く美しい長髪を棚引かせた一人の女性が歩いてきていた
文月瑠衣その人だ
「ど、どうしてここに!? 危険だからまずは私が…!」
「鈴の様子が心配だから見に来たの」
「え? …じゃあ、今来たの?」
「うん。そう」
「そ、そうなんだ…よかっ―――」
「鈴が私の秘密をばらしたところは見てたけど」
「うあぁぁぁぁぁ」
頭を抱える鈴
瑠衣はこう見えて割とSなのかもしれない
「ごめんごめん、ちょっといたずらしただけ。怒ってないから安心して。それに私が出向かず、詳細を隠したままで君に協力を乞うのも失礼だからね」
真一は別に気にはしないと思うけど、とアラタは内心で呟いておく
あうあうとしている鈴の肩を軽くたたきながら瑠衣は真一へと視線を向けて
「真一、だったよね。そしてそっちの人は―――」
「アラタ。鏡祢アラタだ。よろしく、文月さん」
「ひとまず場所を変えよう。さっきので騒ぎになるかもしれないし」
「わかった。場所は?」
「公園にしよう。先に行ってるね」
「わかった」
瑠衣の言葉に同意して、一度その場は解散となる
公園、か
そこは確か真一と瑠衣が二度目に邂逅した場所だった気がする
「一応エージェントに警戒されても面倒だから、真一、そこにはお前一人でいって来たらどうだ?」
「え?」
「気になってるんだろ? あの文月って子」
「あ…わかっちゃう…?」
ポリポリと頬を掻く真一
彼女が来た刹那からちらちらと様子を伺っていたのはバレバレである
「周囲にエージェントが来たら俺が連絡するから。な」
「あ、ありがとう…それじゃあ、お言葉に甘えて」
妙な気遣いをしてくれる
無論とてもありがたい申し出ではあるので、ここは素直に彼の厚意に甘えるとしよう
◇◇◇
「あ、来たみたいだね。…あれ? もう一人の彼は?」
「エージェントが来ないか見張ってるって。いざとなれば合流できる位置にいるから、大丈夫だよ」
件の公園へと足を踏み入れた時、ベンチに座って待っていた瑠衣から手招きを受けて、真一は隣に座った
自動販売機で購入していたのか、彼女はミネラルウォーターのペットボトルを持っており、半分くらい減っているようだ
待たせてしまったかな
「…なんだか不思議だね」
「え?」
「ちょっと前までは命のやり取りしてたのに、今はこうして隣同士で座ってる。…こんな状況が不思議だなって思っちゃった」
「―――。そう、だね。けど、こんな風に俺たちは言葉を交わせるんだ。きっと共存だってできるよ」
「真一…そう言ってくれるととっても嬉しい。こうして普通に話を続けたいけど、まずは本題に入らないとね」
かきょ、と蓋を開けたミネラルウォーターを一口流し込むと瑠衣は表情を真剣な顔つきへと変化させる
「だいたいのことはサラさんから聞いたと思う。私たちからのお願いは私を支持してくれる人たちに攻撃しないこと、万が一その人たちに何かあったら、できればいいんだけど、助けてほしい。…一般人相手になんて加減がわからないから、最悪殺しちゃうかもしれないから。都合のいいことなのは理解してる。…だけど、それが今の素直な気持ち。…ここまでで何かあるかな?」
「うーん…協力するのには全然問題ないとして…一応聞いておくけど、君が次期妖主、ってやつなの?」
「うん。そう」
意外とあっさり肯定の言葉が出た
もっとトップシークレットなのかと思ったゆえに、これは少し意外だった
「これは君を除いた、エージェントにも知られていないこと。おそらく連中は私の姉を次期妖主だと思っているはず。そう見えるように母さんが仕組んだの。…えっと、鈴からはどんなふうに?」
先ほど鈴から受けた話を簡潔にまとめて、真一は瑠衣にそのことを話した
「…妖主、眷属、末端…うん、だいたい合ってるね。あの子、結構うっかりしてるから、どんな説明になってるか、ちょっと不安だったんだ」
あれをうっかりで済ましていいレベルではないと思うけど
と、内心真一は苦笑いと共に思ったが口には出さないことにする
「私のほかに秋葉にいるのは、母の兄、つまり叔父にあたる姉小路瞬、そして兄であり、君と因縁のある阿倍野優、そして二人の姉…合計五人。その二人の姉が秋葉のカゲヤシを実質的に管理して、狙われている母さんの代理者となり、〝引きこもり化計画〟の実行者として、眷属、末端を統べている…」
「なるほど。エージェントたちがその姉二人を次期妖主だと思い込むわけだ」
「もしかしたら、秋葉のカゲヤシを管理してる人が二人いる、っていうことにも感づいていないかもだけど。真一は何か聞いてない?」
「いいや。何にも」
「そうなんだ。ともかく、その二人が指揮することで、エージェントの目を引き付ける役目と同時に、末妹である私の指導役、ということになっているの。…だけど、次の妖主は私。いずれ、私がカゲヤシを率いる立場になると思う。そうすれば、私たち穏健派のグループが…―――」
不意に何かを考えだす瑠衣
真一は頭に疑問符を浮かべながら次の言葉を待つ
「…穏健派。穏健派か…ちょっといいなぁ、これ。優しそうな響きで、それでいてちょっと格好いい。うん、これからは穏健派と呼ぼうっ」
ただ可愛いだけだった
「…あ。それだと母さんたちは武闘派か。…くそう、ちょっとカッコイイな」
可愛さが果てしない
「そ、それはそうと! どうして秋葉で」
「母さんが言うには、秋葉原に集う若者が将来日本を支える人材に育つ確率が高いから、なんだって。情熱的で行動力もあり、それでいて高い学力がある若者が集う場所…他にある?」
探せば割とあるかもしれない
だが着眼点は意外と悪くないかもしれない
基本的にオタクのイメージが強い街ではあるがその実、学力の高い連中もいるかもしれない
経済を支えるかどうかは―――わからないけど
「加えて複雑な街の作り、多種多様な人々が集まることで生まれる潜伏のしやすさ…それは必ず追ってくるエージェントとの戦いのために、すべてが理想的だった。想定外なのは夜の八時を超えるとお店がどんどん閉まっちゃうから、街から人が一気に少なくなるってことかな、それで危険な日中にも活動せざるを得なくなって…」
そんなこんなで色々な話を瑠衣から真一は聞いた
どうやらカゲヤシも色々と大変そうなことには違いなさそう、というのが個人の見解である
当然この話はナイロに報告する気はないし、共有するにしてもアラタとしかしないだろう
エージェントにも聞かれてはいないだろうし、多少はこれで安心したか
「―――ふー。サラさん以外とこんなにお話したことなかったから、ちょっと疲れちゃったかも」
「そうなんだ?」
「うん。母さんから人間なんかと接触してはいけないって言われてたんだ。だから、この街に来るまで、私は人間と話したことなかったんだ」
「そうだったのか…」
少し意外だ
「母さんはいっつも、姿形は似ていても、人間は恐ろしい生き物だって言って、聞かなかったから。近づけば、手痛く傷つけられるって、よく言ってた。正直、私も何回もエージェントたちに仲間が狩られていくのを見てたから、信じてたんだけど…母さんと離れて、この街で過ごしてみて、触れてみたら、全然違ってた」
「…どんな風に?」
彼女の言葉に相づちを打つ
そして時たまこんな言葉を投げかける
当たり障りのない子の言葉の応酬が、なんか楽しかったから
「うん、みんな個性的で、いろんな人がいて、見てるだけでも面白い。でもこれは姉さんたちが言うには、私たちという種を知らないからだって。バレたら絶対にひどいに目に遭うのは間違いないって、そう言われるんだけど、ね」
でも、と彼女は言葉を区切って
「逆に人間のフリを続ければ、ずっとこの街で人間として暮らしていけるんじゃないかって。そう、思えてさ。…そう考えたら、なんで戦わないといけないのか、わからなくなって…ねえ、真一。…真一は私の考え、間違ってる?」
「間違ってないよ。…少なくとも、もう君と俺は普通に話してるじゃないか」
「―――! ふふっ、そうだね。なんだか勇気もらったかも。…っと、メールだ…ごめんね…ってあれ?」
断りを入れて携帯を確認したとき、瑠衣の顔が驚きの表情に変わる
「おじさんと鈴からメールがこんなに…? すごい、真一と話してたから全然気付かなかった! あはは…すごい心配してる」
確かに言われてみれば結構な時間が経っている気がする
携帯を自分も出して時間を確認してみると…一時間は話していたみたいだ
「もっとお話したいけど、今日はここまで、かな。…ねぇ真一。また、会ってくれる、かな」
少し遠慮がちに言ってくる彼女に、少し真一は心打たれた
ちょっと上目遣いな感じで問いかけてくる彼女に、真一は迷うことなく
「うん、いいよ」
「! ありがとう。…ということは、もう真一と私は仲間…じゃなくって、友達、だね」
「そうだね、友達だ、俺たちは」
「ふふっ。それじゃあ、困ったことがあったら助けてもらうからね。元々友達のために危険を顧みないで夜の秋葉原に来てたぐらい仲間想いなんだし。…それに、そういうところがすっごくいいなって。人間っぽくてすごくいいなって、そう思ったから。君のこと助けたい、助けなきゃって、なったんだし」
「瑠衣…」
そういう彼女の顔はどこか儚げで、憧れのようなものも垣間見えて…それでいてどことなく、美しくて
元々見惚れていたが、更に一瞬見惚れてしまった
「―――うん。君と友達になれてよかった。それじゃあ、またねっ」
そう言って彼女は手を振ってこの場を離れていく
真一はその後ろ姿を見送って、彼女も時折こっちを振り向いて何度か手を振っていた
結構大変なことに巻き込まれたとは思う
だが、瑠衣のためならと思うと、全然苦ではない
自分だって、一人ではないのだから