AKIBA'S TRIP ~キミを探してこの街へ~ 作:桐生 乱桐(アジフライ)
メールアドレスも情報共有のために交換もしてもらえて、内心ちょっぴり真一は浮かれていた
妹とは違う、初めての異性のメールアドレス
これがどれだけ貴重なものか
「嬉しそうだねぇ真一」
「うぉ! あ、アラタ…」
瑠衣との話が終わったころを見計らって、アラタが彼に話しかける
ふいに話しかけられたこともあって、完全に真一はびっくりしてしまっていた
「ご、ごめん、舞い上がって…」
「構わないよ、綺麗だしねあの人。共有は後でもメールでもできるから、ひとまず今日は帰ろう」
そんなわけで本日はそのまま解散となった
アラタと別れ帰り道をのんびり歩いてるとふと広告が目に入った
ダーティブラッディプリンセス
通称〝ダブプリ〟と呼ばれる今売り出し中のアイドルだ
彗星のごとく現れ、今秋葉原で彼女たちを知らないものはないというレベルのアイドル
(…そういえばなんかライブの後に骨抜きになるって変な噂を聞いたっけ)
…骨抜き…?
(───待って…、もしダブプリがカゲヤシだと仮定すれば…?)
そういえば来週ゴンちゃんがなんらかのライブに当選してたと言っていた
そしてライブの後には握手会もあるという
もし───もしダブプリがカゲヤシなら、その時を狙うはずだ
今のところこれは完全な推測でしかない
だが念には念をという言葉もある
…無理だと思うが一応明日基地に行ったらゴンちゃんに危険だから行ってはダメって言ってみようか
◇
そんなわけで翌日
「ライブに行っちゃダメ? 二人がカゲヤシ? そ、そんなわけないじゃないかっ。ダメだよ、いくらチケットが欲しいからそんなウソをついちゃ」
まぁ当然ながら聞き入ってはくれなかった
当たり前だ、推してるアイドルが人外だなんて言われても信じることなんてできるはずがない
今もなおゴンちゃんは来週のライブに熱を高めている
「無理、だと思いますよ」
「そう、みたいですね…」
苦笑いをしつつサラさんがそう言ってくる
まあ無理なのは分かっていたことだから是非もないのだが
「真一さん、ライブに行きたいのですか? でも確かチケットはダブプリファンクラブのプラチナ会員しか購入できないはずでは」
「そうなんですよねぇ、どうしたもんか…」
「…ファンクラブまであるのか、まぁ当然か」
アラタの呟きに真一は頷く
ダブプリの会員にはいくつかのランクがある
シルバー、ゴールド、プラチナと三つのランクがあり、その中でプラチナランクが最高クラス
月一万円となかなか強気な値段だがその分限定グッズやライブでのチケット優先権、シークレット撮影会、ファンイベントの際には前の方に席が用意されたりなどがして、とにかく価格に見合った特典が満載なのだ
「どうすんだ、真一。今となっては転売屋を当たるしかチケットの購入手段はないぜ?」
「そうなんだよねぇノブくん…どうしたもんかなぁ…」
「───転売屋だぁ?」
ノブくんの言葉にアラタが反応する
「そんな輩までいやがるのか、そいつはちょっと許せねぇな」
「あ、アラタ?」
「転売ヤーはこの世で唯一私刑が許されてる連中だからな。ちょっと〆てくる。ついでにチケットも手に入れてくらぁ」
「すごい物騒なこと言ってるんだけど!?」
◇
とは言うもののさすがにいくら必要とはいえ転売ヤーの手にかかっているチケットを手に入れる気にはなれない
と、なると頼れるのは一人しかいないわけだ
「───いきなり連絡してくるとは。驚いたぜぇい? かがみん」
「悪いね。こんなの頼めるのたぶん元春しかいないかなって思って…」
チケットの転売ヤーをしれっと叩きのめし警察に通報したのち、アラタは土御門に連絡をしていた
「それで。今度はどんな要件だ? 可能な限りなら手を貸すぜぇい?」
「あぁ。いきなりで不躾なんだけど…元春ってダーティブラッディプリンセスのシクレライブのチケットとか、持ってない?」
「───ほう? あのシークレットライブのチケットをご所望とは。なかなか目の付け所がいいなかがみん」
キラリ、とサングラスの輝かせその下の瞳がアラタを見抜く
「しかし、かがみんがこういうアイドルに興味を持ってるとは思わなんだにゃー?」
「いや、まぁね…。その、ちょっと必要になったんだ、二枚くらい」
「二枚も? かがみん、そいつは大きく出たにゃー…。流石にこいつはレアものだ、適正価格とはいえ一円もまけてやらないぜぇい?」
当然である
ちくしょう、この事件でどんだけ土御門に金払うんだ俺は、と内心で自分に殴りながら財布を取る
「…覚悟は固いんだな? かがみん」
「あぁ。詳しい事情は話しにくい、だけど、しっかり現金一括払いをするぜ」
「───いいぜ、その決意気に入ったぜかがみんっ、プラチナ会員の月額は知っているな? 一枚一万…トータルで二万円だ!」
「持ってけぇ!!」
さらば諭吉
君のことは忘れない、当分の間は
◇
「そんなわけで手に入れてきたよ」
「すごい、ホントに手に入れたんだ…」
シークレットライブ当日
自警団基地にて手に入れたチケットを真一に手渡す
出費はまぁまぁ痛かったが問題はあるまいとアラタは言ってくれた
そんなわけで二人はチケットを握りしめてまさにライブが行われている会場へと足を踏み入れた
警備員の人にチケットを見せ、入場の許可を貰うと恐る恐るといった感じで会場内へと進んでいく
まず最初に感じたのは〝熱さ〟
否、密閉空間だったので無論暑くはあるのだが、そういう類ではなく、純粋に盛り上がりが凄くてかなり熱狂しているのだ
このライブハウスもそこまで大きいものじゃない、それでもかなりの人数がダブプリの二人のために集まったのだろう
「どうしたみんな! 声が小さいぞ!」
───ウォォォォォ!
「ほらそこも! もうヘバったとか言わないわよね!?」
───ウォォォォォ!
ステージで声を張り上げる二人の姉妹
生で見るのは初めてだ
「もっと声を!」「もっと気合を!」───『絞り出せ』!!
ダブプリの二人の言葉にさらに会場は熱狂の渦に取り込まれていく
正直これも作戦の一環なのかもしれない
だがファンの熱狂具合や歌やパフォーマンスを見ているととても一朝一夕でできるとは思えないくらいのクオリティだ
「…あれ。二人とも?」
不意にこっちに聞こえてくる声に真一とアラタは顔を向ける
そちらにいたのは文月瑠衣だ
彼女は驚いた拍子で彼らに近づくと
「どうしてここに?」
「シークレットライブの噂のいろいろを聞いたんだ。そしてあの二人がカゲヤシかもしれないって推測に辿り着いたんだ。…瑠衣がいるってことは、推測は正しかったみたいだね」
「手伝うよ、文月さん」
「! ありがとう、二人とも…」
二人の言葉に瑠衣は無意識に笑顔になる
にやけた顔を首を振りながら慌てて戻すと表情を切り替えて
「とりあえず考えてた作戦なんだけど、ライブが終わった後はファン交流会として会場を移動するみたいなの。チャンスはそこだと思うんだ、その時係員っていうか、姉さんたちの部下が誘導するから、それらを排除できれば、邪魔者はいなくなる。あとは私たちがその係員に扮して、適当にファンの子たちを連れ出して、交流会は中止とか言えば…」
なるほど、理にはかなっているかもしれない
火災報知器とか鳴らしてもここの連中はそんなんじゃ動じないし、ここで暴れるにしても無関係のファンの子らを傷つけてしまう可能性もある
「…、」
ちらりと今もステージで歌を歌ったりパフォーマンスしているダブプリの二人の二人を見やる
たしか名前は北田舞那と北田瀬那って言ってた気がする
ツインテールの短い方が舞那で、ツインテールの長い方が瀬那だ
何となく二人のパフォーマンスを見ていると、本当に楽しそうにやっているように見える
本当に作戦の一環としてしているだけなら、あんなに本気になっていない
あの楽しそうな表情はまやかしなのだろうか
「よーし、最後までよくついてきた! この後はファン交流会があるから、その時スタッフの誘導に従うように! それじゃあサービスでラスト一曲───」
「! 瑠衣、そのスタッフがどこにいるかわかる?」
「うん、こっちだよ二人とも」
もう少しでライブが終わる
瑠衣の案内で人垣を抜けて件のスタッフらの所へ向かうとまず先に真一が駆けた
今回ばかりは脱がした方が早い
「! ナイロのエージェント!? きゃあ!?」
眼にも止まらぬ早業でスタッフの女性たちの服を引っぺがし、無防備となった彼女らを瑠衣とアラタが無力化して気を奪う
冷静に考えるとおもっくそ犯罪だが非常時なので気にしない
「よし、俺と文月さんで誘導するから、真一は周囲の警戒を頼んだ!」
「わかった!」
◇◇◇
「一体全体どうなってるの!? 会場に来てみれば誰もいないし、スタッフもあのバカたちもみんないなくなるだなんて!」
芳林公園にて
北田舞那は激情を隠すこともなく姉である瀬那に対して感情をぶちまけていた
「…妙ね。ライブハウスにも、交流会会場にも誰もいない。連絡もつかない…」
「きっと係りの部下が間違えたに違いないわ、せっかくあのバカたちの体力を限界まで切らした苦労が無駄になっちゃう」
「…舞那、貴方に二つ忠告する。一つはこの状況はおかしい、場所を間違えたにせよ、連絡もつかない理由にはならない。…エージェントが介入した可能性を留意すべきね」
瀬那の言葉に舞那はふん、と鼻で笑うようなしぐさをしながら
「まさか。連中はまだあたしらには気づいていないはず。それに、奴らが人間を助けるわけ、ないじゃん」
射殺すような視線を向け、舞那は言い切った
姉妹である瀬那は慣れている、もとい大切な妹だからその視線にはとく動じないが、一部の人間は間違いなく寒気を感じてしまうだろう
「あたしたち以上に同朋意識が弱い種族なんだし。奴らはこれまで通りこっちを殺そうとするだけ。これまでもそうだったじゃん」
「なんにでも例外はある。瑠衣みたいな異端児がいる可能性も否定はできない。…それと、二つ目の忠告、言っていい?」
これ以上は話が逸れてしまいそうになっていたので瀬那は一度言葉を区切って改めて舞那へと視線を向けた
「例え人間どもであっても、私たちの歌を聞いて楽しんでくれた相手をバカと呼んではいけない。彼らのおかげで、秋葉原限定とはいえ、私たちは無類の人気を手に入れた。…それに、少なくとも私は、彼らの前で歌うのがとても楽しい。…舞那、貴方は違う?」
投げかけると答えてくれて、そのたびに気分が高揚し、心地よくなる自分がいる
そんな言葉を舞那に問うと彼女は「う、えー…と」と言葉を探すように頭をぐるぐるさせながら
「あ、あれはその…言葉の綾っていうか、愛情表現ってことで」
「ん。それならいい」
「っていうかあれよ! あいつ等はカゲヤシに生まれ損なったに違いないわ! じゃなきゃ納得できないもの!」
「うん。それは間違いない。カゲヤシだったら、全員眷属にしているところね。…とはいえここでこまねいても仕方がない ! ───事情を聞いてみようか、あの子に」
そう言って瀬那が視線を向けたのは、偶然ここを通りかかった真一であった
◇
(───やっべ。合流地点指定とかしてなかったから何となく公園に来てみたけどまさか鉢合わせるだなんて!)
誘導した後念のためバラバラになってその場から離れて後から合流しよう、となり現地解散したあとのことだった
落ち着いたら場所で連絡を取ろうとして公園に赴いたのだがまさかいるとは思わなかった
「ふふ、かわいー。あたしたち見て驚いてるよ」
「ライブに来てた子だよね? 交流会会場に誰も来ていないんだ。私たちがはけたあと案内があったと思うんだけど…何か知らない?」
北田瀬那の視線が真一を射抜く
───なんて答える?
とりあえずまだ向こうには自分の正体が気づかれてはなさそうだから、のらりくらりと躱すか…否か
「さ、さぁ。俺もちょっとトイレから戻ってきたばっかで、何が何やら…」
───相手が気づいていないのならば、不意打ちできる可能性がある
先制できれば…あるいは
じりじりと両足を動かしながら隙を伺う
「───!」
だが、その動きは瀬那に不信感を与えるのには十分だったようで、彼女は無言で手刀を繰り出してきた
反射的に右手でそれを防ぐが、なかなかに鋭い一撃だったようで、衣服ごと斬り裂かれ腕に軽い擦り傷ができる
「姉さん! どうしたのよ!」
「今妙な動きをしてた。まるでこっちの隙を伺うかのような動きだった。…舞那、見て!」
「え? ───え…うそ…!?」
相手がこっちの傷口が再生されていく様を見て驚いているみたいだ
どうやらこっちがカゲヤシだってこともバレてしまった、完全にしくじった
「…同胞のはずがない、末端に至るまで私は全員の顔を覚えてる。…エージェントか? どちらにせよ、こっちの事情は知っているみたいね」
「───うそ」
瀬那の言葉に舞那が驚愕の言葉と共にこちらを見てくる
舞那は信じられないといった様子で首を振りながら
「うそよ、そんなのうそ!」
「…アイドル業も、これでおしまいね」
「そんな! もうライブとか、できないの…?」
「舞那、心を乱さないで」
「だって! もうみんなの前で歌えないんだよ!? みんなと一緒に…騒げないんだよ!?」
「いずれそうなるってわかってたはず。…違う?」
「ま、まだわかんないわよ! 色々偶然が重なっただけかもしれない!」
「かもしれない。どっちにせよ、こいつは倒しておく必要がある。あの肌の感じ…たぶん奴らお得意の簡易カゲヤシ化を施した、強化エージェント」
…ん? と真一は訝しんだ
聞き捨てならない単語が聞こえた気がする
簡易カゲヤシ化、だと?
「あれなら殺すより、脱がした方が早い。…そういう強化エージェントの類は、ママがほとんど引き付けてくれてると思ってたけど」
「同胞の血を…許さない! あのバカたちと同じ種族とは思えないッ!」
「舞那、さっきの忠告」
「愛情表現!!」
『行くぞ!!』
その言葉を皮切りに、瀬那と舞那がそれぞれの得物をもって襲い掛かってくる
瀬那の方がラジカセで、舞那の方がスタンドマイクを得物とし、連携を取ってくる
正直その辺の凶器より凶器らしい気もするが、そんなことを考えている余裕はない
言葉の節々から見るに、やっぱりこの二人はアイドル業に至っては本気だったみたいだ
あんな表情もされては罪悪感が募るが…とりあえずどうにかして現状を切り抜けないと
「ぐっ!!」
「ほらほら! 戦闘中に考え事!? 私と姉さんを相手にそんなことするとは余裕じゃない!」
「命取りにならないといいけどね!」
瑠衣の姉とか言っていたから実力は上の方だと察してはいたが、あまりにも一糸乱れぬ連携で流石に劣勢になってくる
片方が引いたと思ったらもう片方が前に出て、逆に片方の隙を埋めるようにもう片方が起用に動く
正直反撃もあまりできていない、このままではジリ貧である
そう思っていた時だ
公園に誰かが入ってくるのが視界の端に見えた
入ってきた誰かはそのまま舞那の方に向かうと
「おうりゃ!」
「うあっ!?」
横っ腹に蹴りを叩き込んだ
蹴ったのはアラタだ
「アラタ! なんでここに!?」
「偶然だよ、合流地点決めてなかったし、捜してたらダブプリの二人と戦ってるお前が見えたから」
彼は真一の隣に立つと拳を握りゆっくりと構える
ダブプリの方も体制を崩した舞那を瀬那が支えて、こっちを睨んできた
「援軍か!」
「でも、私たちは諦めない…! 行こう、姉さん!」
「うん…! さあ、続行だ!」
そして瀬那はアラタに、舞那は真一に向かっていく
今度はタイマンだ、一対一なら、やりようはある
舞那のスタンドマイクによる攻撃はリーチが長い
オマケにこちらは素手なので、必然的に接近する必要性がある
落ち着いて、動きをよく見て、精神を研ぎ澄ませ
振るわれる上の横ふり、それを何とかかがんで回避
そして反対からの中段の横薙ぎ、今度はそれを両手で受けて防御
そして最後には足元を狙う払い…当たる寸前で真一は飛び込んで接近する
「何ッ!?」
そのまま右手を伸ばし、衣服を強引に掴むと、力任せに舞那の上半身の服を引き裂く
この際だ、脱がせるかとかはどうでもいい、確実にダメージを与えることを優先だ
一方隣の瀬那と戦うアラタ
戦い慣れてるアラタは瀬那のラジカセの攻撃を器用に捌きながら、反撃を叩き込むことで体力を削っていく
「ぐっ、こいつっ!」
力任せに振るわれるラジカセの一撃を回避して、その手を蹴りラジカセを叩き落す
そのまま蹴った足を動かして下、中、二度蹴りを撃ちこんで最後にもう一回喧嘩キックを放って大きく瀬那を吹っ飛ばす
瀬那と舞那はそれぞれ背中合わせになりながら肩で息をしていた
「こいつら…強い」
「片方は…まさか優が言ってたやつか? 瑠衣の血を得た、あのエージェント」
「じゃあもう一人は何なのよっ…。肌の感じはどう見ても人間なのに…! 〝何か違う〟!」
ぎり、と瀬那は唇をかみしめた
「あきらめないで舞那、私たちはここで諦めるわけにはいかない。いまやれれば、ママの計画に支障が出る」
「…うん。それだけは絶対にさせない、ママの足は引っ張らない!」
「そうだ…私たちは、ママのために死ぬ。その瞬間まで!!」
「戦い抜く!」「最後まで!!」
瀬那と舞那の気迫が伝わる
本気で主のためならその身を捧げんと言わんばかりの剣幕に、真一は思わずたじろいだ
アラタは複雑な顔で二人を見ている…しかし相手に退く気がないとわかると、改めて構えなおした
第二ラウンドが始まる…そう思っていた時だった
「あれー? ここからダブプリの声が聞こえてきたと思ったんだけどな…」
そこにはたまたま偶然通りかかったであろうゴンちゃんの姿があったのだ
当然ながら、視界にはダブプリも入り…
「あ、あれはっ!?」
そこからのゴンちゃんの動きが俊敏で迅速だった
まるで質量を持った残像かの如く、カメラのシャッターを押し、フィルムに納めていく
「え、ちょ、何をしているんだキミはっ!?」
「や、止めて撮らないでっ!」
「これがホントの交流会!? 中止になったって聞いたけど、ここまでシークレットだったなんて! シャッターを押す手が止まらないッ!!」
カシャリカシャリとシャッターを押しまくりフィルムへあられもない二人を記録するゴンちゃん
急な出来事に頭を混乱させているダブプリを他所に、思わず真一は叫んだ
「ゴンちゃん、離れて!!」
「───え?」
真一が叫んだのと、ゴンちゃんが地面に倒れたのはほぼ同時だった
いつの間にか地面に倒されてたゴンちゃんを、瀬那が踏みつけて身動きを封じている
完全に人質を取られた状態だ
「どうやら、知り合いらしいな」
「え、なに!? なんなの…!? も、もしかして、本当にダブプリってカゲヤシなの…!?」
「その辺りは知ってるみたいだな」
「そいつは一般人だ、手ぇ出すな」
アラタがずい、と一歩前に出て二人に言った
舞那もアラタらの方へちらりと見やると
「あたしたちもこの子にひどいことはしたくない」
「悪いけど、彼らと知り合いみたいだから、人質になってもらうから」
踏みつけたゴンちゃんに向かって、瀬那がそんなことを言う
ゴンちゃんは戸惑いながらも
「わ、わかりました。…て、っていうか、その───なんか嬉しいです」
『…はぁ?』
まさかの返答にダブプリの二人が同時にそんなことを返した
真一は苦笑いをし、アラタも困ったような表情である
ただ真一とアラタは、何となくだろうな、とも思っていたかもしれない
「あ、い、いいいえ、そそ、その…ずっと好きだったから…。ファンでいっつも追っかけてたから…真一やアラタには悪いけど、なんだか、お役に立てるみたいで…へへ。」
偽りのない本心だった
ずっと推していたからこそ、状況が状況とはいえ、その推しの力になれるのならば
「…舞那」
「うん」
そう言って、二人は人質としていたゴンちゃんを解放し真一たちの方へと軽く突き飛ばす
いきなり立たされさらに突き飛ばされ混乱していたゴンちゃんは何とか体制を戻して、ダブプリの方を見ながら
「ど、どうして…?」
「…バカを人質に取ってまで、生き延びたいとは思わないってこと」
「舞那」
「愛情表現!」
「あ、あいじょう…?」
ツンデレを発揮した舞那はそのまま、もう一度視線をアラタや真一に向け、スタンドマイクを構えなおす
「時間を取らせた、エージェントども」
「今度は負けない」
もう一度己の得物を構える
一触即発の空気が流れるかと思った時、二人を守るようにゴンちゃんが立った
「だ、ダダダメだ!!」
大声をあげて、彼は声を絞り上げる
身体も僅かに震えていた、それでも彼は動かなかった
「ごめんっ! ごめんよ! で、でもっ!!」
ゴンちゃんの気持ちは理解できる
誰にだって、大切なものはある
ましてやそれが、〝推し〟ならば
真一はアラタに目配せする、彼は笑顔で頷いてくれた
「…行ってくれ、二人とも」
「! 情けをかけるっていうの」
「人間の分際で!」
舞那と瀬那が睨みつけてくる
それに返答したのはアラタだ
「人間だからだ。俺たちをその辺のエージェントと一緒にすんな」
北田姉妹はアラタの言葉に黙ったままだった
やがて瀬那がゴンちゃんからカメラを不意に分捕った
「えぇ! な、なにを!?」
「データを消して明日またここに置いておく」
「ええぇ!? そんなっ!」
「当たり前でしょ許可出してないんだからこのバカ! これはノー愛情表現!」
そう言って二人はこの場から走り去っていく
まぁダブプリとはいえ見た目は年端も行かない少女、そのあられもない姿を勝手に撮影するのは流石にダメなことだ
残されたのはカメラを盗られたゴンちゃんと真一、そしてアラタの三人だ
やがてゴンちゃんは二人の方へ向き直りながら、申し訳なさそうに
「ごめん、よくわからなかったけど…そうしなきゃって…思って。たとえカゲヤシでも…。とにかく、ごめん」
「怒ってないよゴンちゃん。むしろ、ゴンちゃんの選択は正しいよ。ね、アラタ」
「あぁ。ファンの鏡だよ、ゴンちゃん」
「…そう言ってくれると、ありがたいよ、二人とも」
彼の選択が間違っているとは到底思えない
寧ろあのライブを見て、カゲヤシであろうとも全力で日々を生きているということがさらに実感できた
「それじゃあ、ぼくは先に戻るよ」
「うん、気を付けて」
先にアジトに戻るゴンちゃんを見送って、ようやく一息
さて、自分たちも戻ろうか、となったとき真一の携帯にメールが届いた
送り主は瑠衣と聡子の二人だ
瑠衣はともかく、聡子からのメールはまた依頼絡みだろうか
とりあえずまずは瑠衣のメールを確認する
要約するとダブプリの作戦阻止に協力してくれたことによる感謝と、現状の報告だった
瑠衣は今はマスターの家に戻ってきているようであり、どうやら彼女も無事みたいだ
そして次は聡子のメールだが…こちらも要約するとカゲヤシの親玉が関東…秋葉原に向かっている可能性があるらしく、準備を整えるべくいったんアジトで落ち合おう、とのことだ
「アラタ…」
「俺のとこにも来た。とりあえず俺たちもいったん戻ろう」
各々の陣営の思惑は、秋葉原へ集まろうとしている
どうもそんな気がしてならない
それでも…瑠衣は守らないと
アジトへの道中、真一は確かに拳を握りしめた