AKIBA'S TRIP ~キミを探してこの街へ~ 作:桐生 乱桐(アジフライ)
ふざけたゲームかと思いきやすごい真面目なのでやってみて損はないですよ?
まさか2が出るとは流石に思ってませんでしたが…
ではどうぞ
ふと、目が覚めた
ぼう、とする視界の中頭は状況を理解しようと辺りを見回す
ここはどこだろうか?
首だけを回して内装を確かめてみる
左右に一つずつ、背面の壁に二つ鉄格子に阻まれた窓があるシンプルすぎる作りだ
今度は立ち上がってみようとするが上手く動かない
いや、それ以前に自分の身体はパイプ椅子に縛り付けられており、何故だか下着姿の薄着状態だ
通りで肌寒いわけだ
何とか外してみようともぞもぞと動かしてみる
しかし人間一人の力ではしっかし縛られた縄をちぎる事かなわず、あえなく断念した
今度はこの壁の向こうに意識するように耳を澄ましてみることにした
すると出入り口に近い位置から話し声が聞こえてくる
…どうだ。彼は気がついたか?
…はい。たった今、目が覚めました
…検査の結果は?
…時間の都合上簡単なものですが、間違いありません。カゲヤシ化しています。しかもかなり劇的な変化を遂げており、傷ももう完全に塞がっています
…流石は眷族の血…、凄まじいものだな。どれ、直に見てみるとしよう
そんな会話がなされた後、扉が開き中に二人の男女が入ってきた
一人は帽子を被りスーツを着込んだ男性…年齢は四十代半ばといったところか
もう一人はポニーテールが特徴的な眼鏡をかけた女性…こちらは二十代前半、といった感じだ
男性は品定めをするようにじろりと自分の身体を見やる
一しきり見ると男性は「フ…」と小さく呟き
「確かに。これは並ではないな…」
どこまでもモノとしかいい加減イラついた
真一は敵意を込めた眼差しで男性を睨みつけ
「…なんだ。アンタたち」
「そう身構えるな。楽にしろ」
男性は言う
しかし状況が状況であり楽になんてできる筈はない
だが自分も椅子に縛られている状態では何にもできない
仕方なく相手のいう事に従うことにした
「話をしよう」
「…話?」
あぁ、と男は頷いて
「私は瀬嶋隆二。我々は〝国内情報調査機構〟という組織に属する者だ。…確か、通称は―――」
「
隣の女性から補足を聞いた瀬嶋はあぁ、と思い出したような顔をして
「そうだそうだ。…そんな名前だったな」
「瀬嶋さん」
そんな瀬嶋を女性が論すように声を上げる
それに特に反応することなく
「構わんだろう? …彼女は御堂聡子。まぁ雰囲気で分かるが、私の部下だ」
そう言われた御堂はその場で一つ礼をする
「一般には公開されていない組織だ。…まぁ、日本を守るための特殊のようなものだと思ってくれ」
先ほどからいろいろと話してはいるが内容の半分も真一は理解できていない
とりあえず、瀬嶋と御堂、ナイロについては大まかに理解したつもりではいるのだが
「…さて。まず君は今特殊な状況にいることを理解してもらいたい」
むしろ特殊すぎてわけわかんないですけど
「まぁ確かに状況も特殊だが、一番特殊なのは、君の身体に起こっている変化の事だ」
そして瀬嶋はこれまでに起こった出来事を順を追って話し始めた
「昨夜、私の部下がある男を追跡しているとき、君は現れた。覚えているだろう? あの路地裏を」
そう言われ真一は頷く
あの変な白髪ロッカーに襲撃された場所だ
「君は部下によるとほとんど瀕死といえる状態だったそうだ。最初のうちはな」
最初のうち…?
それは一体どういう事だろうか
真一の表情からそれを読み取ったのか瀬嶋は続ける
「怪我を負った君はある少女から血を飲まされた。それは一時的とはいえ人間を別の生き物へと変貌させるかなり特殊な血液だ」
そう言えばわずかばかり記憶が残っている
消え入る意識の中、微かに触れた唇の感触、喉を嚥下していく粘っこい鉄の味…
まさかその少女はキスで血を飲ませたのか、と今更ながら理解した
「その生物は大きな問題を抱えてこそいるが、高い身体能力を備え、極めて高い生命力を有している。…君は彼女から血を分け与えられ、それに伴いそれらの特性すべてを得て傷を回復させたんだ」
「…どういうことだ」
「君とて聞いたことがあるだろう。人を襲い、血を吸う人ならざる者…」
「まさか…その噂は真実だっていうのかよ?」
瀬嶋はゆっくりと首を縦に振り
「そうだ。君が出会ったのはその噂のものたちだ。彼女らは言うなればいわば妖精の類…正解に言えばはるか昔から存在する日本の固有種で実在する生物だ。とても人間に似ているがね」
瀬嶋は一度言葉を区切って
「
大したことはない、と言ったかこの男は
人を襲い、あまつさえ吸血すつというその惨事を斬り捨てたのか?
「蚊が円滑に血を吸うにはまず特殊な体液を注入するが、同じように彼女たちも似た事をする。蚊はかゆくなるだけだが、カゲヤシに血を吸われたものたちは、みんな一様に極めて強い倦怠感を抱き、日光にさえ敏感に反応する特殊体質になる…この意味が、わかるかね」
日光に反応してしまうという事は外に出ることが出来なくなる、という事
それでいて倦怠感が身体を襲うという事は…
「…引きこもりになるってことか」
「そうだ、察しがいいな。何もせず無気力に時間が過ぎるのをただひたすらに待つだけの状態だ。…たとえ長い時間の先に回復したとしても今の日本の社会制度では社会復帰は難しいだろうな。職歴のない若者では尚更だ。カゲヤシはこの作用を利用して、秋葉原で次々と襲っている。〝引きこもり化計画〟などという、ふざけた名前を付けてな」
場に重い空気が漂う
そんな事を気にするでもなく瀬嶋は続けていく
「これが社会にとって有害であることは疑いようのない事実だろう。…そこでキミに頼みだ」
瀬嶋の視線が真一を捉える
「どのような理由からはわからんが、君はカゲヤシに娘の血を摂取させられた。一時的ではあるが、君の身体はカゲヤシ化し、大きな力を得ているわけだ。…消耗が激しい我々にとってはとても魅力的なんだよ。わかるだろう? どうか、我々ナイロに協力しカゲヤシから秋葉原を守ってくれないだろうか。無論、報酬は払おう。…どうかね」
どうかね、と瀬嶋は聞いてくるがこんなモノ一択しかないではないか
そんな詳細を聞かされた上で断ったりなどしたら消されかねない
どう考えても首を縦に振る以外なかった
「…わかった。協力する」
「…いいだろう、御堂、彼の拘束を解いてやれ」
瀬嶋は御堂へ指示すると縄が解かれてようやく自由になる
縄が解かれた後真一は瀬嶋へと視線を向けた
「いやなに。承諾してくれてよかったよ。ここはよく日が差し込むからね、断ろうものなら、ここでキミを塵にしてやるつもりだったんだ。いろいろ知ってしまったからね」
そう言って僅かばかりに瀬嶋は笑んだ
裏に何か考えてそうな、外道の笑み
真一は内心舌を打つ
「さて。とにかく一旦帰りたまえ。詳細は明日、御堂くんから聞くといい。あの秋葉原自警団とかいう連中も協力してくれるそうだし、明日から忙しくなるぞ。今はゆっくり休みたまえ」
ヤタベさん達も協力してくれるのか
これは少し安心した気分だ
このまま知人がいない状況で仕事などできそうになかったからだ
「言い忘れるところだったが、明日以降決して露出の高い服を着てはいけない。…まぁ手や顔と蚊なら問題ないが、間違っても全裸はマズイ。…今の君なら、塵と化すだろう」
それ以前に全裸で街など歩くものか
例えが酷いぞこの組織
◇◇◇
鏡祢アラタは秋葉原という町並みに驚愕していた
行き交う人々、そびえ立つ建物…
どれをとっても予想のはるか斜め上を行っていた
耳にはやけにカレーパンを押す歌が聞こえてくる
カレー好きな自分としては食べざるを得ない
「ていうか雑踏がすごいな…。舐めてたぜ秋葉原」
あとで学園都市にいる友人たちにお土産でも買って帰ろう
しかし今はカレーパンだ
アラタは売り子の女の子に近寄ると
「すいません、カレーパン一個ください」
「はーい、一つ百二十円でーす」
売り子から値段を聞くとその手に百二十円を置いてカレーパンを受け取る
出来立てなのかそのカレーパンはまだほんのりと温かく、衣もまだサクサクしてそうだ
街の中を歩きながらその包みを開けて、カレーパンにかじりつく
「…うん、美味しい」
衣はサクサク、中はふわふわでカレーがトロリとしている
辛さはもうちょっと欲しいところだが今はさほど気にはならない
カレーの具はシンプルにジャガイモと人参と定番の品
しかし逆にそれがこのカレーパンの味を引き立てていると言ってもいいだろう
サクサクとそのカレーパンに没頭していると携帯がピリリとなった
せっかくのカレーパンタイムを邪魔されちょっとイラッと来たがディスプレイに移された名前を見て落ち着いた
名前は御堂聡子
そう言えば昨日こっちに来たときに連絡先を交換していたことを忘れていた
アラタは通話ボタンを押して耳に当てる
<アラタさん? よかった、つながって>
「あ、いえ。それで何か御用ですか」
<いえ、用と言う用ではないんですが…アラタさんにも一応報告しておこうと思って>
だったら電話してくんなと言いたい気持ちを抑え、ゆっくりと御堂に質問する
「報告?」
<えぇ。本日裏通りにある秋葉原自警団のアジトに集まる予定となっています。十時ごろを目安に、貴方もアジトに来てください。その時に以前言っていたエージェントの方もご紹介します>
エージェント…
そう言えばそんな話を聞いた気がする
なんでも敵の一族であるカゲヤシと同等の力を得たエージェントだとか
「了解です。他に用件は」
<いえ、後はありません。ではそれまでゆっくりしていてください>
そう短く言って御堂からの電話は切れた
アラタも電源ボタンを押し通話を切ると再びポケットに入れる
「…さて、それじゃ時間まで暇を潰そうかな」
適当に見回すとコンビニに目が行った
店内に入って商品棚を見て
「おでん缶…! そういうのもあるのか」
やる気になれば学園都市でも再現できそうな商品に一人びっくりしていた
◇
じりじりと太陽の光が露出した顔や手を焼いていく
しかしそれらは別に耐えれない事でもなく、慣れていけば特に問題はなかった
まさかそんなところを守るために炎天下の中手袋なんてしたくない、つけたらつけたで蒸れるに決まってる
「…どうしようか」
真一は大きく背を伸ばし、何気なく携帯を覗いてみる
ぽつり。は昨日のまま、まだ更新されていない
それを仕舞おうとしたとき、携帯が鳴った
真一がディスプレイを見てみるとそこには御堂聡子の名前があった
携帯の操作し耳に当てる
<真一さん。お身体の方は大丈夫ですか?>
「えぇ。おかげ様で…」
<現在私は秋葉原自警団と名乗る人たちのアジトにお邪魔させてもらっております。いろいろお話することがありますから真一さんも来て下さい>
「あぁ、わかりました」
<場所は知ってると思いますが、念のため私は裏通りの入り口でお待ちしています。それでは>
「はい。またその時に」
そんな会話の後、携帯を切ってポケットへと戻した
軽く息を吐きながら真一は歩を進める
そこで真一は、一人の男と出会うことになる