AKIBA'S TRIP ~キミを探してこの街へ~ 作:桐生 乱桐(アジフライ)
ぐだぐだだぜ
…ごめんなさい
ではどうぞ
駅前に行くと雑多な人影が目に入ってきた
献血の協力を要請している献血ボーイとか、カレーパンを配っている売り子の女の子など、様々だ
一瞬、ゲームセンターの中に入りたい衝動に駆られるが、自分の仕事を思い出す
いかんいかん、ここには阿倍野優の側近を探し出し、退治するためにきたのだ
周囲を見渡してそれっぽい人影を探す
適当に見渡していると、一人の女性に声をかけられる
「個展やってまーす」
そう言ってその女性はなんかのチラシをアラタに向かって手渡した
別に断る理由もないアラタは特に気にせずそれを受け取って、すぐに後悔した
「無料ですから、ぜひお立ちよりくださーい」
「え? でも俺は―――」
「さぁ! さぁ! こちらですっ!」
・・・
どうしてこうなった
今現在、ビラ配りのお姉さんに拘束され、近くの画廊店へと連行された
「画廊へようこそ」
なんて声をかけられたがそっちから引っ張っておきながらそれはねぇよ、と心の中で突っ込む
完璧なビジネススマイルというのが丸わかりだ
「お時間はありますか?」
「いえ、無いんで早く帰りたいんですけど」
「大丈夫です。それほどお時間は頂きません」
もうここに連れてこられた時点でお時間取られてるんですけど
「とりあえず、ホント帰っていいですか?」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
先ほどからホントこれの繰り返しだ
この人も無駄に粘る
「その、ご趣味とかなにかあるんですか?」
絵と趣味って関係なくね?
「そうですね。…特には」
「それならばぜひどうでしょう? 絵の収集を趣味にしては」
お金かかるので結構です
「そんな訳で帰りますよ」
「ちょっと、もう少し私の話を聞いてくださいっ!」
…秋葉原って別の意味で怖い
はっきり言えばしつこい
「高貴な絵を買って眺めると毎日を頑張ろうって気になりませんか?」
「友達の笑顔見るだけで頑張ろうって思えるんで大丈夫です」
これは偽らざる本心だ
「そ、そうですか。でも逆に高貴な絵を買ったことで買った金額分頑張ろうって気になりませんか?」
「買う気ないんで思いません」
先ほどから本当に話が平行線たどっている気がする
「そ、そんなこと言わずに! どうですか絵を買ってみては」
…イライラしてきた
もはや言葉を言わずアラタは無言で画廊を出ようとする
しかしさせまいとアラタの肩を掴んできた
「うちの絵は、将来必ず価値は上がります!」
「だったら他の人に売ってくださいよ」
「いえいえ、そうしたい所なんですけど本日はせっかくお会いできたお客様だからこそおすすめしたいんですよ」
ああ言えばこう言う、とはこの事かとアラタは思う
今度こそ、帰ろうと出口へ歩こうとすると、掴んだ力が強くなる
「そんなこと言わずに。最近若い人の間では絵を飾るのが流行ってるんですよ?」
「聞いたことないですよそんな流行」
「それはお客様の周りだけですって! もっと広い視野で世間を見てくださいっ!」
なんでこんな事言われなきゃならないのだろうか
いい加減本気で鬱陶しくなってきたアラタはやや強引に画廊から出ようと全力ダッシュした
後ろでなんか言ってる気がしたが、振り向くことはしなかった
◇
「はぁ…はぁ…」
しばらく全速力で走ってアラタは息を整える
そして同時に思う
秋葉原こわっ、と
恐らく今後ああいう絵を売る人には話しかけないと誓う、ついでに画廊付近にも近寄らない
ふぅ、と一息をついて改めてアラタは駅前の人垣を見渡した
…そこでなんとなく、バンドマンの恰好をした変な三人組が気になった
アラタは聡子から受け取った判別機〝ミラースナップ〟でその三人を撮ってみる
なんでも、カゲヤシは写真に写らないんだとか
「―――ビンゴ」
バンドマンの恰好をしたその三人組はスナップには映らなかった
ターゲットを特定すると、アラタはその三人組に向かって歩き出した―――
◇◇◇
中央通り南西にて
須藤真一もアラタと同様に怪しいバンドマンの姿を発見した
念のためにミラースナップで確認したがやはりあのバンドマンの三人がカゲヤシで間違いはなさそうだ
意を決して真一はその三人に向かって話をかける
「…うん? なんだお前」
「アンタたち、人間じゃないな」
空気が変わる
明らかにその三人の空気が、殺気を帯びた
「…お前は何を言ってるんだ。なぁ」
「あぁ、まったくだ…」
「ちょっと、俺たちが教育してやろう」
バッと、真一は構え、そのバンドマンの出方を伺った
しかし思いのほか、戦いはあっけなく終わった
何故ならば、件のバンドマンの実力がそれほどなかったからだ
最も、カゲヤシの血を得た自分の身体能力が上がったからなのか、それともその血を得たことによるものなのかは分からない
それと同時に駅前に向かったアラタの事が気にかかった
不安に思った真一は携帯を取り出して彼のアドレスに電話をかける
スリーコールの後、繋がった
「アラタか、そっちはどうだ?」
<問題ない、皆倒した。そっちは?>
声の調子から鑑みるにアラタの方も特に問題なく片付けたようだ
しかし彼の声色はなんだか疲れてるように聞こえる
「いや、俺も問題なかったけど…どうした?」
<…いや、アキバの恐怖を知っただけさ>
? と首を傾げる真一だった
◇
先ほど、御堂聡子から連絡としてメールが来た
内用は分かり易く、件の阿倍野優を見つけた、とのこと
しかし阿倍野優は自分が狙われていると悟られたのか接触を図る前に逃げられたようだ
最近、阿倍野はとあるビル〝UD+〟近辺に出没しているらしく、今回の逃走経路も同じなようだ
それで時間があったらそちらに向かってほしい、とのこと
聡子らも間に合えば駆け付けるらしい
幸いにも時間に余裕はあるにはあったので、真っ直ぐにそのUD+に向かっている
UD+に到着するとスーツを着込んだNIROのエージェントが見えた
「真一か」
エージェントに名を言われ、思わずどうもと会釈する
「阿倍野優は見つかったか?」
「いいえ、全く。そちらはどうです?」
「こちらも駄目だ。もしかして奴は我らの存在に気づいているのかもな」
そう言ってエージェントはふぅむ、と腕を組んだ
そこでふと思い出したように真一に尋ねてきた
「そう言えば、アラタはどうした?」
「一応連絡したので、もう少しで―――」
「真一」
噂をすれば影
声の方を向けばそこには先ほど話題に出た鏡祢アラタの姿が見えた
彼はこちらが振り向いたのを確認すると駆け足になり、駆け寄ってきた
「無事だったみたいだな」
「お前も。ところで、阿倍野優を見てないか?」
「いんや全然。お手上げだ」
アラタの情報も頼りにしていたのか、エージェントはうぅむ、と肩を落としながら息を吐いた
そんな時、エージェントが思い出したように口を開いた
「そう言えば、アイツの部下はバンドマンの恰好をしてたな」
「…待てよ、となると…もしくは」
「…真一、お前、変装は得意か?」
「…は?」
◇
エージェントたちの考えた案
それは奴の部下であるバンドマンに変装することだったのだ
もしかしたら奴の部下の恰好であるバンドマンの恰好へすることで、阿倍野優の警戒心を和らげることが出来るかもしれない、言うのだ
…そして現在
「へぇ、似合ってんぜ真一」
「変にからかわないでくれ、結構恥ずかしいんだ」
鏡祢アラタの眼前にはバンドマンの服を着こなしている須藤真一に姿があった
首にヘッドホンをぶら下げ半袖に黒いベストを通しているその姿は中々様になっている
ちなみにアラタも勧められ、現在着込んでいるが実質動くのは真一だ
アラタはそれで歩き回りまだ部下がいると錯覚させる役割を貰った
「…このヘッドホンいるか?」
「さぁ、だがアイツの部下であったカゲヤシはみんなつけてたし、あった方が怪しまれないだろ」
それもそうなのだが
いろいろ言いたいことはあるがそれをアラタに言っても仕方がないと判断した真一は再びUD+へと足を運んだ
◇
「おお、見違えたぞ」
UD+に来てエージェントが発した言葉はそれだった
「馬子にも衣装、オタクにもカジュアル服、だな」
あれ、完全に馬鹿にされてね? と一瞬イラッと来たがどうにかそれを抑える
…アニメが好きなのは否定できないし
「これならば現れるかもしれん。我らはここを離れるが、頼んだぞ」
マジですか
実質ここにいるの新入りしかいないんですけど
おまけに戦闘経験ありそうなアラタもここを離れるわけではないが、少なくとも戦闘には参加できそうにないし、実質一人じゃないか
「…まぁ、本気でヤバくなったら手伝うぜ」
「あぁ、頼んだ」
短いやり取りのあと、真一は阿倍野優を誘い出すべく、付近を歩きはじめる
◇
しばらくして
(…本当に現れた)
周囲を警戒しながら歩いてると目の前に見知った銀髪の男が歩いてきた
それはかつて自分を再起不能に指せたロッカー風の男
阿倍野優だ
「―――ち、人間め。オレが狙いか? 確かに最近派手に暴れすぎたからなぁ。…クソ、姉貴どもは俺にばっか命令しやがるし、瑠依も動かねぇし。…あぁ、イラつくなぁ」
どうやら彼は不機嫌なようだ
にじみ出ている空気からも、それは分かる
やがて阿倍野優の視線は真一を捉えた
ばっちりと目が合う
「よう、お前か。どんな感じだ? 味方がやられたんだろ?」
騙されてる!?
真っ先に頭の中に浮かんできた感情が疑念だ
正直に言って速攻でバレるものかと思っていたのだが
「は、はい…」
若干目を逸らしながら肯定する
「聞いている。…たく、クソな話だ。…まさか仕留め損ねたガキにここまでやられるとはよ」
イライラを隠すことなく阿倍野優は舌を打つ
「やはりあの時に消しておけばよかったんだ。くそっ…! 瑠衣の血を得た人間が敵に回るとは…皮肉なもんだ」
その後で、場を支配したのは沈黙
沈黙を打ち破るように、口を開いたのは真一だった
「―――なぁ、それは俺の事か」
「あ? 何を言って―――」
そして阿倍野優は見た
ヘッドホンを外した、目の前の部下だと思っていた男の素顔を
「!? 貴様は!? しまった、待ち伏せか!!」
そう判断するや否や、優は己の背に背負っていたギター〝ナイトスティンガー〟を構え、一直線に駆け抜けてきた
叩き潰そうと振りかぶるそのギターの一撃をギリギリの所で回避する
―――読める!
あの時とは違う、一方的に殺されかけたあの時の路地裏のようにはいかない
今度は野球選手のように振りかぶり、優は顔面を砕くように振り抜いてきた
しかし今度は余裕をもってしゃがんで回避し、そのまま優の腹部めがけて蹴りを撃ちこんだ
「ぐえっ!?」
そんな言葉を漏らしながら大きく仰け反った
軽く咳をしつつ、優は息を整えて再び真一を睨みつける
そして今度は一気に接近し、真一の足を目掛けてギターを振りかぶった
その攻撃を軽くジャンプすることで回避し、真一は距離を取る
僅かな隙間を縫うように右下からギターを切り上げる
その攻撃を両手で受け止め、一瞬ではあるが優の顔面が無防備となる
真一はその顔面を狙って、自分の頭を突き出した
早い話が、頭突きだ
「あぶっ!!」
今度は大きく仰け反った
鼻のあたりを押さえながら睨んでくる眼光は未だ衰えない
「―――流石にアイツの血を得ただけはあるな。道理でオレの部下じゃ勝てねぇわけだ」
鼻を擦りながら優はニタリ、と笑みを浮かべる
「けど、オレはそう簡単にぁやられねぇぜ。さぁ、ラウンド2と行こうじゃねぇか!」
改めて優はナイトスティンガーを真一に突きつけ、構えなおす
望むところだ―――心の中で思いながら真一も同様に構え直し―――
「十分だ。ケリをつけるぞ」
どこからともなく、瀬島の声を聞いた
すると阿倍野優の背後―――そこに瀬島と御堂聡子の両名が立っている
間に合えば来る、とは言っていたが
「―――ち、こいつは捨て駒か!」
捨て駒
はっきり言えば、使い捨てだ
―――いや、薄々そんな予感はしていたのだが
確かに昨日今日で戦い方を覚えたど素人にこんな大役を任せるのはおかしいと思ったが
「―――なぁ、昔はいろいろあったが、今は同族。捨て駒同然の扱いを受けて、お前それでいいのか」
不意に語りかける阿倍野優の言葉
僅かではあるが、生まれるのは動揺だ
「後生だ、頼む。…今回だけ見逃してくれ」
何も答えない
違う、答えられないのだ
予想できていたとはいえ、こうもはっきり突きつけられた現実に
その僅かな動揺が、隙を生む
「へへっ…バーカッ!!」
その隙をついて、優は真一にタックルをぶちかました
僅かではあるが視界を奪うとそのまま阿倍野優はどこかへと走り去っていった
「しまった!」
「…貴様、化け物に情けなど。…正気か」
聡子、瀬島の言葉
特に瀬島の言葉には自分を非難するようなニュアンスが含まれていた
「―――俺は囮だったのか?」
なんとなく分かってはいたが、とりあえずそう聞いてみる
「そうだ。技術を身に着けたとて、所詮お前は素人だ。想定以上には戦えたが…やはりダメだな。なれば、こういう使い方をするほうが最も効率が良くて、かつ、適切だ。…違うか」
―――本当にはっきり言ってくれる
言いたいことをはっきり言って歩き去る瀬島の背中を睨みつけながらこちらを伺うように聡子が口を開いた
「騙すようなことをしてごめんなさい。しかし私たちは、遊びでやっているわけじゃない。貴方が一人で現れなければ、奴は一人で逃げていたはず。残っているヤツの部下をアラタさんが攪乱してくれているとえど、合理的に倒すのならこれが一番…」
いくら言葉を並べられても正直それを真に受けることはない
ただ予想以上にはっきり言われると結構心をえぐられるという事実に今更ながらに知っただけで
「そ、それに貴方は予想以上に立派に戦えていたから…! 様子を見よう、という事になって…援護が遅れてしまいました…」
申し訳なさそうにしている聡子を見て、何となく真一は察する
恐らく、この御堂聡子という人物はそこまで悪い人ではなさそうだ
「普通、カゲヤシの血を得ただけじゃここまで急激な力の向上などなくって…きっと、それに瀬島さんも興味を持って…! いえ、もっと深い理由があったはずで…!」
それにしても、ここまでの女性を羨望させるとは、あの瀬島という男は何者だろうか
もっとも、瀬島に共感することはないと思うが
やがて彼女も言葉に詰まり、場には何とも言えない空気が流れていく
「…ごめんなさい」
聡子は一言、そう謝罪した
別段気にはしてなかったが、こう真っ正面から謝れると逆に困るというか
「と、ともかく、次の連絡があるまで、ゆっくり体を休めてください…」
そう言うと聡子は踵を返す
―――聡子はちらりと首だけで真一を見て
「…私が言うのもなんですけど、あの人を恨まないでください。…・ただ一生懸命なだけなんです、あの人は」
…一生懸命、なのだろうか
そこの所は分からないが、とりあえず恨むことはないだろう
逆に、信頼することもないんだが
アラタに言われたこともある
そう簡単には信じることはできない
◇
あるビルの屋上
そこにいたのは鏡祢アラタだ
手すりに身体全体を預け、雲を眺めている
あの後真一から聞いたのだが、結局阿倍野優を倒すことには失敗してしまったらしい
そしてあまつさえ、真一を囮にし、弱った所を狙う作戦だったと知ったのはほんの最近の事
おまけに在ろうことかあのおっさんははっきりと捨て駒だと言い切ったらしいのだ
もとから疑念しか抱いていないがどんどん疑念が膨らんでいく
それでもまだ判断するのは早計だ、そう決めたアラタはもう一回青空を眺めた
「…はあ」
ふと、そんなため息を聞いた
アラタは視線を声の方に向ける
そこに座っていたのは青いカーディガンに白いスカートを着たクリームっぽい髪色をした女の子だった
パッと見はなんかこう、ゆるふわ…だろうか
「…どうしたんです?」
不謹慎だとは思ったが、アラタは彼女に声をかけた
一方で声をかけられた彼女はビクンと身体を震わせたが彼に敵意がないと知ると、ポツリと呟きはじめる
「その…悩みがありまして」
「悩み?」
「はい。…その、流行の服装が分からなくって」
意外にも可愛らしい悩みだった
「…けど、人もいる所も苦手で…」
これは困った
出会ったばかりなので深いところは分からないが、恐らく彼女は人付き合いが苦手なのだろう
「…よかったら、一緒に買いに行きません?」
「え? で、ですけど…」
おずおずと言った様子で彼女はカバンを抱きしめる
「大丈夫ですよ。この街の人たちはそんなに悪い人はいませんし。万が一絡まれたら、俺がキミを守りますから」
言ってアラタは笑顔を浮かべる
その女の子はしばし、彼の笑顔を眺めていたが、やがて釣られて笑っていた
どうしてだろうか
出会ってばっかりなのに、妙に暖かい
「あ、名前言ってませんでしたね。俺は鏡祢アラタって言います。以後お見知りおきを」
「私は―――鈴。森泉鈴って言います」
一人の人間と、一人のカゲヤシ
誰も知らない所で、二人は出会った―――
キャラ紹介その三
阿倍野優
CV柿原徹也
このゲーム一のツンデレ
一応、主人公のライバルポジション
森泉鈴
CV浅倉杏美
この作品におけるアラタのヒロイン
そんでもって後の本編の準ヒロイン予定
ゆるふわ系モンスター
何故モンスターかはそのうち
待ちけれない場合はぜひ購入を!