AKIBA'S TRIP ~キミを探してこの街へ~ 作:桐生 乱桐(アジフライ)
誰も待ってないと思うけどね!
いつか2も書きたいな(願望)
その時は1の要素もミックスしたジンバー状態で書きたいな(淡い夢)
その人に連れられて、秋葉原をいろいろと回った
また彼も秋葉原に来たのは日は浅いようなのだが、それでも仲の良い人たちに聞きながらも私を案内してくれた
ただ一言で言うなれば、楽しかった
服のお店をガラス越しに眺めたり、買ってもらった飲み物を一緒に飲んだり…
人間がやっていそうな、そんな当たり前の出来事を体験して、心からそう思った
やがて入った一つの服のお店にて、彼はある服を持ってきて私にいった
「…こんな学生服なんていいんじゃないですか?」
私に持ってきてくれたのはどこにでも売っていそうな学生服だった
紺色のセーターにありふれたそのスカートを、私は一目で気に入った
「は、はい。その…なんだか、私でも馴染めそうな服です…」
「そう? よかった、じゃあさっそく清算を―――」
「あ、ま、待ってください」
レジに行こうとする彼を私は呼びかけて止める
やっぱり彼一人に支払いをさせるのはなんか気が引けたから
「? どうしたんです」
「わ、私もお金…出します…」
◇
大丈夫、という彼を何とか説得して割り勘という形で落ち着いてもらった
着るのはまた今度でいいかな…なんて思っていると彼の携帯が鳴る
メールが届いたようだった
「ちょっと、ごめん」
彼はそう断ると携帯を開き届いた文面を見た
少しして彼は携帯を閉じて私を見ると
「ごめんなさい、急用が出来ちゃいました」
そう言って申し訳なさそうな顔をする
「そんな、用事なら仕方ないですよ。誰にだって都合っていうのありますし…」
「本当に申し訳ない。…っと、じゃあ俺はこれで―――」
「す、すいませんっ。さ、最後に―――」
走り去ろうとする彼の背中を呼び止めて、少女は勇気を振り絞る
「? なんでしょう?」
「けっ…! 携帯の…番号…交換しませんか?」
◇
須藤真一は人がごった返すその道を早歩きで歩いていた
その理由は先ほどサラから送られてきたメールによるものだ
なんでも中央通りのとあるショップの前で暴動が発生したらしいのだ
自警団としてもこれは見過ごせないとして招集命令がかかったのだ
そして集合場所である中央通りの南西に到着する
すでにそこにはあらかたのメンバーが集まっていた
そして同様に…暴動の騒ぎもよく見える
「…まずいよ、どんどん騒ぎが大きくなってる、警察やマスコミが来るのも時間の問題かもしれないよ」
「そ、そうなると、また世間から叩かれちゃうね…この街や、僕らも」
暴動を見て不安げな声を上げるヤタベさんとゴンちゃん
「もうネットのニュースでは騒ぎになっているようですよ」
隣では携帯端末を弄りながらサラさんがそう報告する
真一とアラタはサラの隣に行き、その端末を覗き見て、うわぁ、と若干引いた
完全なるありもしない言葉の羅列や心無い言葉に少し引く
少し落ち着いて真一はヤタベさんに聞いてみた
「なんでも、あるアニメのグッズの限定版がこのお店の倉庫にあるって噂がどこからか広まったみたいでね? プレミア価格になったら販売する魂胆なんだろうって、皆は言っているんだけど…」
アニメグッズ、という事はノブくんが詳しいはずなのだが
そう思い立ったアラタはそうヤタベさんに聞いてみる、しかし…
「そのはずなんだけど、さっきから連絡がつかなくって…。ちなみにそのグッズなんだけど、お店が発注数を間違えて、予約した人全員に届かなかったみたいなんだ」
「えっと…それはつまり、ここにいる人たちはみんな、予約した人たちって事ですか」
「た、確かにそれは怒るよね…」
アラタとゴンちゃんは口々に呟く
真一は暴動に目をやって顎に手を当てながら口にした
「…あれ、でもこの問題ってもう二週間くらい前の話じゃないですか。なんだって今更」
そう、そんな問題をほんの二週間も前に聞いた気がする
別段、真一は特にグッズには興味ない人種なので特に気にも留めなかったのだが(ノブくんは騒いでかな、と思い出す)
「そうなんだよ。そんな根も葉もない噂が広まったんだか…」
ヤタベさんは頭を掻きながらその暴動をまた見た
そんなヤタベさんに向かってサラは聞く
「在庫は本当にないんですか?」
「それは間違いないよ。店長は知り合いだから聞いてみたけど、本当にないんだって。…けど、それを言っても誰も信じてもらえないだろうし…非はお店側にあるからあんまり強くも言えないし…本当に困ったよ」
元来、人間というものは人から聞かされた情報よりも、自分自身で得た情報を信じやすい傾向にある
やはり自分で調べ、決定づけるものの方が信じやすいのだ
そんな思案を余所に暴動の声の大きくなってくる
―――良いから出せよ! 〝ITウィッチまりあ〟の抱き枕&おっぱいマウスパッド限定セットをよぉ!
―――――そうだそうだっ!!
―――オークションに俺たちの分を出して儲けようなんて絶対させねぇぞ!
―――――そうだそうだっ!!
―――地下倉庫にあるんだろ! ないってんなら見せてみろぉ!
―――――そうだそうだっ!!
騒ぎ立てている理由としては大変くだらないものではあるが、彼らの熱意は本物だ
それだけ彼らは、その作品に命を懸けている
しかし時にその熱意は、人を傷つける暴力にもなってしまうのだ
そう、今まさに目の前で起きている暴動のように
「―――これはマズイね、このままじゃ店を荒らされちゃうよ」
「そ、そうなったらお店は駄目になって、逮捕者もいっぱい出て…」
「そうなったら…大事件だよ」
たかがアニメグッズと言えど、警察沙汰になってしまったらそれこそ笑い事ではなくなってしまう
そんな深刻な心配をしているゴンちゃんとヤタベさんを余所に、アラタはその暴動を静かに見ていた
正確には、ある一人―――煽っている人物だ
「―――なぁ、あの暴動を煽っている人…なんか浮いてないか」
「アラタさんもお気づきになられましたか?」
サラの言葉にアラタは頷きながら
「えぇ、その…それに便乗している人たちはこの街でもよく見る服装なんだけど…その周りを煽ってる人は佐、その…なんだ、オタクって雰囲気じゃないんだよ」
そのアラタの言葉に真一はもう一度目を凝らしてその集団を見た
その中に確かに一人…明らかに恰好がバンドマンテイストで周りから浮いている人が一人いる
「…ヤタベさん、あのエージェントの肩から貰った機械は?」
「え? でもこれは―――」
「もしかしたら、です」
「―――うん、そうだね。それじゃ―――」
サラさんに促されるままにヤタベさんはミラースナップを起動させ、その集団を撮影する
そして結果を見て、ヤタベさんの顔色が変わった
「…あれ、あれれ!?」
「え? じゃ、じゃあ…」
「―――カゲヤシだ!」
ヤタベさんのその一言で空気が変わる
これはもしかして、解決できるのではないか、と
「…こいつは、俺たちの出番だな」
「そうみたいだな、アラタ」
真一はアラタの顔を見てお互いに頷き合う
その二人を見てゴンちゃんはグッと拳を作り
「そうこなくっちゃ! 念のため、あのお姉さんにも連絡を入れておくよ」
「よし、じゃあ我々は出来るだけ混乱を抑えてみよう!」
かくして、暴徒鎮圧が始まった
◇
その煽っている人物に近づいてみると、頭に痛いバンダナを巻いているだけで、後の服装はバンドマンと明らかにオタクではない
アラタは暴走しているオタクらを何とかし鎮めようとし、真一はその男に声をかける
「おいアンタ、煽るのはやめてくれ。これ以上騒ぎが大きくなったらどうするんだ」
「なんだ貴様は。邪魔をするのか。…なら、排除しても問題ないな」
なんでそうなる
「二度と限定セットに並べられないようにしてやろう!」
その男は忍ばせてある木刀に手をかけて襲い掛かってきた
…どこに木刀なんか携えていたのか、と疑問に思ってはいけない
・・・
しかし戦闘スタイルはただ力任せに木刀振うだけなので勝つのにはあまり苦ではなかった
もっとはっきり言ってしまえば楽勝だった
その男を倒したことにより徐々に周りも静かになっていく
「ありがとう、真一くん、アラタくん。煽っているものがいなくなったおかげでみんな冷静になってくれたよ。しばらくすればあとは自然に散ってくれるだろう」
ヤタベさんはホッとしたように息を吐く
それにゴンちゃんも続くように言葉を発した
「や、やっぱりこういう祭は、先導者がいないとね」
「お疲れ様です。よかったらこの後、基地に戻ってお茶でもいかがですか?」
「そうですね、頂こうか、アラタ」
「だね」
そんな和やかなムードの中に空気を壊すかのように一人の男の声が入る
「―――あ、やっぱみんなじゃん。皆もあのグッズを?」
―――ノブくんである
ていうか、やってきた方向は暴動が起きていた方から歩いてきたのだ
『…』
訪れる沈黙
やがてゴンちゃんが口を開いた
「も、もしかしてノブくんも今の群衆に?」
「もちろん。だって〝ITウィッチまりあ〟だよ? あの神作品の限定グッズとありゃ当然ファンとしては行かざるを得ないでしょ? しかも俺だって当時この店で予約して死ぬほど悔しい思いをしたんだし。…てか誤発注で商品が入らないとかあっちゃならないミスだよ、マジで」
ノブくんのトークは加速していく
「俺みたいに保存用、観賞用、使用用…みたいに複数店で予約してればまだいいけど、そうじゃない人だって大勢いたのにクオカード配っただけどか信じられないクソ対応だったし。こういったことになるのは当然の事だったと、店が悪いよホントに。それにさ―――!」
「はいはいストップ。もう十分伝わったから」
これ以上語らせると本当に長くなりそうなのでアラタがストップさせる
ていうか、通りで連絡がつかなかった訳である
…ていうか保存用と観賞用はまだいいとして、使用用ってなんだよ、という言葉を飲み込む
「あ、ところでみんなはなんでここに?」
「あ、それはね―――」
ヤタベさんは今までの経緯を軽く説明する
―説明中―
「そんな…!? じゃあ俺らは奴らに操られていたってのか!? 馬鹿な!この胸の奥から突き動かされた衝動は、決して誰かに操られたものではなく―――あ」
唐突にノブくんは言葉を濁らした
「そう言われてみれば、前見かけた子が付近をうろついてたような…」
「? 見かけた子?」
「うん。ほら、路地裏で真一が襲われていた時にいた子だよ。俺たちが駆け付けてきた時真一を抱えてたあの子」
真一の目の色が変わる
「彼女とその友達みたいなのが、何か指示というか…そんなのを出してた気がする。確か、そっちの方にいったかな」
そう言ってノブくんは真一たちが来た方向を指差した―――
◇
「―――あれ? 静かになった」
先ほどの暴動を影から見守っていた女の子が二人いる
一人は文月瑠衣、そしてもう一人は森泉鈴という
「…という事は…」
「どうやら、うまくやってくれたみたいね。混乱に乗じて吸血する担当だった連中も、今頃撤退しているハズ」
「よ…よかったぁ…」
彼女たちの目的
それははっきり言ってカゲヤシ側の作戦を邪魔することだ
今回の暴動にはその騒ぎに乗じて一般市民を吸血することが目的だったわけなのだが、妨害は上手くいったようだ
「思った以上の混乱になって、少し焦っちゃった…けど、何とかなってよかったぁ…」
安堵する鈴に瑠衣は頷く
「そうだね、当初の予定通りに何とか事は運んでくれた」
「だけど、これでよかったんですか?」
不意に問われた鈴の疑問に瑠衣は「なにが?」とハテナを浮かべて聞き返す
「確かに、今回の計画で被害者は出ませんでしたけど…瑠衣ちゃんの立場が―――」
「いいの。私たちは言われたことをちゃんとやったんだから。責任を負うのは、むしろ失敗するような作戦を計画したあの〝二人〟の方」
瑠衣が言うあの二人とは今の所二人の上司の立場にある姉妹の事だ
今回の作戦の立案者は彼女たちなのだが
「だと、いいんですけど…」
不安がる鈴の肩に瑠衣は手を置き笑顔を浮かべる
「大丈夫、もし責められても貴女には火の粉がかからないようにするから」
「…瑠衣ちゃん」
「それに、あの姉妹は私たちを管轄する立場にあるんだから、私たちのミスは彼女たちのミスでもある。つまり、どうあろうと大丈夫ってこと」
そう笑顔で瑠衣は言う
鈴はその笑顔に連れられて自分自身も笑顔になり
「…うん」
と頷いた
「さ、帰ろう」
「はいっ」
瑠衣の言葉に鈴は元気よく頷いた
そしてふと、頭の中で思い浮かべる
(…そう言えばアラタさんみたいな人がいたような気がしたけど…気のせいだよね?)
そう自分に言い聞かせ前を歩く瑠衣の後ろをついていく
「でもやっぱりあの人たちの情熱はすごいよね。あそこまで大事になるなんて思わなかったです。暴動を起こしてその最中に吸血対象を確保するのはいいとしても、その暴動の起こし方がただ噂を流すだけだなんて」
正直に言えばその計画を聞かされた当初は上手くいくはずがないとさえ思っていたのだ
瑠衣も彼女に同意する
「…そうだね。私もこんなに上手くいくなんて思ってなかった。…
瑠衣は軽く腕を組みながら思考を巡らせる
この秋葉原という街は想像以上にすごいのだ
「姉さんたちは私たちが考える以上にこの街に精通してる…」
「…」
二人がそうやって考えているとき、ふと鈴が視線に気づいた
「―――瑠衣ちゃん」
「え―――?」
鈴に言われて瑠衣は振り向いた
そこにいたのは、いつかの路地裏で助けた人だった
「…キミは…!?」
そう言いかけてマズイと判断したのか瑠衣は鈴の手を引いて一目散に逃走する
思わず真一はあっ、と言いかけるが、そのまま見送ってしまった
あっちの方面は確か…公園があったはずだ、たまにのんびりする場所、芳林公園が
◇◇◇
芳林公園
正直に言えばどこにでもある普通の公園なのだが、結構みんな立ち寄っているスポットだ
また、この公園を通る際に、先ほどと同じような騒ぎを別グループが実行していた…していたのだが
「…いくら末端とはいえ、あんな簡単に退けるなんて…時間稼ぎにもならない…」
その暴動をあえて通って時間を稼ごうと思ったのだが、結果はコレだ
「…あれが…私の血の力…」
良かれと思って分け与えたのだが、かえって逆効果になってしまったのだろうか
瑠衣は俯きながら拳を握る
「あっ、もう…!」
ふと鈴が指差した場所を見る
公園の入り口には件の男が歩いてきたのだ
意を決したように鈴は持っているバッグを持ち、身構えた
「瑠衣ちゃん、ここは私が食い止めるから逃げて!」
「け、けど鈴じゃ―――」
「早く!」
その剣幕に瑠衣は少したじろいだ
しばらく逡巡して
「…わかった、無理はしないで」
そう呟いて瑠衣はその場を後にする
瑠衣の背中を確認せず、鈴はその男に向かってバッグ〝プシロフィトン〟を振りかぶった
◇
どうしてこうなった
それが須藤真一の心に思った言葉だ
ただ話をしたいだけなのに、なんで自分はこの女の子と戦っているのだろう
幸いにもその女の子の攻撃が読みやすいからか、こちらも攻撃は貰ってないし相手にも与えていない
やはり女性に手を上げるのは男として恥ずべきことだと思うのだ
「やぁぁぁぁぁっ!」
ヘッドスライディングみたいに地面をすれすれにその少女はバッグを突き出し下段を狙ってくる
その攻撃を思い切りジャンプして背後に回る
(とはいっても…このままじゃ平行線だ…!)
意を決して真一は女の子の出方を見る
女の子は横からそのバッグを振るい、凪ごうとしてくる
真一はそのバッグを強引に掴みあげ、そのままの遠心力を利用してバッグを分捕った
「きゃあっ!?」
地面を転がりながら女の子は倒れた
それでも女の子はこちらを見据える―――が
「…やっぱり、妖主の血族じゃない私には…エージェントの相手には…! うぅ、うう…」
目尻に涙を溜めている
…え? これって
「うぅえぇぇぇぇっん…!」
とても大きな声で泣き出してしまった
「…え? っと…」
なんだろう、これ
自分が悪いのか、いやだけど…
完全にテンパってしまう真一
どうしよう、元から倒す気なんてなかったのだが
あれこれうんうん唸っていると泣いてる女の子の後ろから人影が飛び出してきた
それは、いつぞやの黒い髪の少女だった
女の子は突然の来訪に驚いて
「…瑠衣ちゃん!? なんで―――」
「私だけ逃げるなんて、出来ない。…貴女を見捨てたら、私も〝奴ら〟と変わらない」
「そんな…! 私に構わず逃げて! 瑠衣ちゃんっ!」
「いいえ! 私は、貴女を助ける…!」
そう言って少女は白い傘〝白薔薇〟を構え、真一に突きつける
「―――行くよ!」
少女はその言葉と共に白薔薇を突き出した
いくら傘といえど先端なんか当たったら本気で危ない
しかし相手を傷つけるわけにもいかず、思わず身体を後ろへとステップする
だが少女は攻撃の手を緩めない、これから繰り出されるであろう攻撃をするとなるとはっきり言って身軽にならねば避けれる自信がない
先ほど少女から分捕ったこのバッグ…想像以上に重いのだ
中になに入ってんだと突っ込みたいくらい重い
真一はそのバッグを出来るだけ女の子近辺に放り投げると少女の攻撃を避け続けた
しばらくその防戦一行が続き、お互いに息が切れてきたころに、少女が口を開いた
「はぁ…はぁ…。なんで君は。あの時せっかく助けたのに。しばらく安静にしていれば私の血は消えて、キミの身体からなくなる、元に戻るはず。…なのに、なんでよりにもよってエージェントになって私たちを」
…いざそう言われるとなんて返せばいいのか、返答に困る
少し考えて出した言葉は―――
「…その、キミが…忘れられなくて」
何言ってんだ俺は、とすぐに後悔する
そして案の定少女の視線がキツイものへと変わる
まるで養豚場の豚を見るような目だ
「…馬鹿な奴。あの時、私は君を助けたのに」
まぁ案の定そんな言葉が返ってきた
しかし真一に言葉攻めで快感を得るなんて変態な趣味はない
「確かに私の眷族が君に怪我を負わせたのは事実だし、否定もする気もない。…いや、キミが私を恨むのも、最もなのかもしれない。助けるためとはいっても、キミに私の血を飲ませてしまったのだから…、いずれ効果は消えるとしても、キミのカゲヤシ化は普通より長いと思う。得た力も協力だろうし…」
そこまで言って少女は白薔薇を仕舞い、俯いた
その一挙動もまた、綺麗だった
「…ごめん」
静かに、それでいてはっきりとそう呟く
静寂が場を支配して、なんだか妙な沈黙が流れる
…これは何かを言って空気を変えなくてはいけない、そんな訳のわからない使命感に真一は襲われた
「え。えっと!」
「…?」
「ファ、ファーストキスだったんだ…あれ」
何を言ってるんだろう、と傍から見れば思うだろう
しかし全力で考えてこれなのだから救いようがない
「…へ!? な、何をいきなり…!?」
ものすごく驚いた顔をした少女
しばらく呆然と立って真一の顔を見ていたのだが、やがて口を開く
「ま、待って。それじゃ、何、忘れられないって…恨んでるんじゃなく…その…そっちの事で…」
みるみる少女の顔は赤くなってくる
意外にも少女の方もこういったことには疎かった
「ちょ、ちょっと待って、あれはほとんど意識のなかった君に血を飲ませるためにやったことで…キスとかでなく…、て、ていうかあれをキスというなら、私だって、ファーストキスだったんだから!その、だから…お相子で…」
二人して何を言っているんだろうか
女の子もすごくおろおろしている
恐らく最も訳が分からないのは女の子だろう
「…何言ってるんだろう、私」
心の中で同意する
それは真一も同じだった
「あ、瑠衣ちゃん、向こうから人が! あれは―――エージェント!」
「! 逃げるよ」
女の子にそう指示し踵を返し走って行く
しかし、少女の方は一度立ち止まりちらりと真一の方を見た
「…彼女は、森泉鈴、私は、文月瑠衣。…貴方は?」
そう、自分に名を聞いてきた
それに真一は答える
「真一。…須藤真一」
「…真一、か。うん、覚えておく」
そう言って今度こそ鈴を追って走って行った
それと入れ替わるように聡子とアラタ、そして秋葉原自警団の面々が公園に入ってくる
「真一さん、お怪我は!?」
「いいえ、問題ないです」
「よかった…。遠くから見た限りでは、あの二人は文月瑠衣と、森泉鈴と思われます」
うん、知ってる
「あの二人は、阿倍野優ほどではないですが、厄介なカゲヤシの部類です。…けど、真一さんが無事でよかった…」
その言葉には本当に自分を心配してくれてるニュアンスがあった
しかしカゲヤシに対する敵意だけは全く持って変わっていない
話をしてみた限りでは、そこまで危険な部類とは思えないのだが
むしろ話だって通じるのだし…とも思ったが言っても無駄なので心にしまっておく
「て、いけない、追跡しないと!」
思い出したよう聡子は瑠衣たちが走って行った方を見ながら足を動かす
そして不意に真一を見て
「言い忘れる所でしたが、カゲヤシ化してるとはいえ、貴方は人間です。生まれながらの化け物である彼らと対等な身体能力はありません。深追いは厳禁です、これからはすぐに連絡をしてください。では」
そう言って再び聡子は小走りで追跡を始めた
タイミングを計り、ヤタベさんが口を開く
「無事だったんだね。血相を変えて走って行ったからビックリしたよ」
「あぁ、まるで夏コミを思わせるダッシュをしてくれたからなぁ」
ノブくんのたとえは分かり易いのか分かりにくいのか
「…その、気のせいかもしれませんが、お二人は何か、喋っていましたよね?」
サラさんの鋭い指摘に思わず冷や汗が流れる
言い淀んでいると、助け船が入った
「まぁいいじゃないですか。とりあえず真一は無事みたいなんだし」
アラタだ
「それに、結構綺麗な方だったからな、あの人」
「う、うん。アキバ系アイドルって感じじゃなかったけど少しコスプレとかしたらすぐにファンが付くよ。あ、でも今のアキバはダブプリの天下だから、難しいかなぁ…」
どうでもいいが最近はRINと呼ばれるアイドルも活躍中であり、ダブプリに勝ってこそないが、劣らない人気なんだとか
「はは、真一くんだって男の子なんだし、気になっちゃうのかな。はは」
「え、えぇ。まぁ」
そんな言葉を濁しつつ、目線を逸らす
「うん、そう言えばキスしてたもんなぁ、路地裏で。分かる、分かるぞ。初体験ってそういうもんだよな。オレだって初めてのエロゲで攻略したキャラがいまだに忘れらなくてなぁ。オレの中学時代の一番の思い出さ」
そんなノブくんに小首を傾げながらサラさんは
「…中学時代? そのときってノブさん、未成年では」
「!! い、いや…その、相手は齢三百を超える合法ロリというか? オレはその時すでに成人してた的な感じであって? その…」
…ならアンタは一体何歳なのだというのか
ハハハ、とゴンちゃんが笑いそれに釣られてヤタベさんも微笑む
「…ま、とにかくだ。真一、いったん戻ろうぜ。サラさんのお茶でも飲みながら休憩しよう」
「そう…だな。…サラさん、お願いできますか?」
アラタの言葉に同意しながら真一はサラに言う
サラは華麗な一礼をしつつ答える
「お任せください」
そう笑顔で答えた
最後に見せたサラさんの何かを思案するような表情を、真一が気づくことはなかった
キャラ紹介その四
ノブくん
CV間島淳司
ザンネンなイケメン
とあるイベントでは本当に長いお話が聞ける(当然だがこの作品ではカットします)
中の人はぷちますのP
ゴンちゃん
CV丹沢晃之
アイドル好きのカメラマン
本気出すと三人に分身する
わかんねぇと思った貴方はF91を想像すると分かり易いかも