AKIBA'S TRIP  ~キミを探してこの街へ~   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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まさか久方ぶりとはいえこっちを投稿するとは誰が予想できたものか


#6 〝シンディ〟を求めて

#6 〝シンディ〟を求めて

 

 

 

 

鏡祢アラタの携帯が突然鳴った

彼がその携帯を取り出して画面を見てみるとメールが来たという報せが画面には表示されていた

画面を開いてみてみると、どうやら聡子から送られてきたメールのようだ

内容は要約するとこうだ

 

―――次のターゲットは〝JKV〟と呼ばれるカゲヤシです。奴らは女子高生の格好をしながら男をたぶらかすといわれています。化け物の分際で異性を誘惑するなどと言語道断です。カゲヤシは幼少の成長は早いものの、十代半ばで老化がかなり遅くなり若い期間の姿で長い年月を生きることが確認されています。つまり見た目の年齢そのままではない、ということです。奴の制服という偽装を引きはがしてその真実を白日の下にさらしてやりましょう

 

…サイヤ人みたいなものなのだろうか

メールにはまだ続きがある

 

―――今回もアラタさんには真一さんのサポートに回ってもらいます。最も、もう真一さん一人でも大丈夫だと思ってはいるのですが、念のためという瀬島さんの指示です。念には念を、という言葉がありますので、どうか真一さんのお手伝いをお願いします。また、アラタさんに経験があるかわかりませんが女子高生の服というのは極めて特殊な装備のため脱がすのには特殊な技術が必要です。師匠にはすでにご連絡しておきましたので、彼女の元へ向かってください、きっといいアドバイスを貰えるはずです

 

煽られているのだろうか

中々女子高生を脱がす経験なんてそうそうないと思うのだが

しかしあの師匠に会いに行くのか

…個人的に苦手なのだけどあの師匠

そもそもアラタに脱衣の技など必要ないし…いや基礎は学んだけども

 

ともかく行くしかなさそうだ、既に真一も行っているかもしれないし

 

…たまにあの人獲物でも見るような目つきするんだよな…カーテン越しで見えないはずなのに

 

◆◆◆

 

似たような指令を受けて、須藤真一もまた、例の建物の屋上へと足を運んでいた

いつもの能面をつけてる下僕どのに話を通すと、またあのカーテンの向こうからくねくねと師匠が姿を現す

また、真一よりも少し遅れて、アラタも屋上へと姿を現した

視線を交わし軽く挨拶をすると、改めて師匠のいる方向へと視線を向ける

師匠もそれを察したのかこほん、と短くせき込んで

 

「あの子から話は聞いているわ二人とも。女子高生の服を脱がすんですって?」

「は、はい。今度の相手が、女子高生の服を着ているみたいなので…それで、特殊な技術が必要だと聡子さんから…」

「えぇ。女子高生の服…あれは思いのほか難易度が高いのよ。一見簡単そうに見えて、かなり複雑な構造をしている装備なのよ」

 

装備って認識でいいのだろうか

 

「乙女の柔肌を包み込む神秘のヴェール…それが普通の薄い生地な訳ないじゃない」

 

じゃあ自分たちが普段来ている衣服はいったいなんなんだ…

 

「実は様々な最先端技術を惜しみなく注がれた極めて特殊、かつ超高性能な衣服なの。普通のテクでは、おそらく無理ね」

 

女子高生とはなんなんだ

 

「…ところであなた達、女子高生は好きなの? 本心から脱がしたい?」

 

物凄く答えづらい質問が投げられてきた

何だろう、どう答えれば正解なんだこれ

まぁ少なくとも嫌いではないし、むしろ好きな部類には入るのか? 視線で軽くアラタと会話をしてみると彼もうーん、と考えるような素振りをしてうんうん、と頷きだす

どうやら彼も好きなようだ

 

「―――ダメね」

 

しかし師匠から返ってきた言葉は思いのほかに痛烈な一言だった

 

「いい? 単純な性欲のみで脱がしたいだなんて単なる変態…いえ、犯罪行為よ。…何よその目は」

 

カーテン越しでこっちを見ているくせにこっちの視線の反応には敏感だなあの師匠

思いっきりこっちの男二人はジト目して師匠に視線を送っていたのに速攻で気づくとは

 

「私はいいのよ。いい? 私は相手を尊重し、相手を愛し、その者が秘めている何かを解き明かすことに命を懸けている。まぁ場合によっては? その後にめくるめく肉の饗宴があったりなかったりするけど、それはどちらかといえばただの趣味よ」

 

同じじゃねぇか!

内心二人してそう思ったが決して心で叫ぶだけで声にしない

色々と面倒そうだから

 

「ともかく。今のままのあなたたちではどんなテクを使っても女子高生の制服を脱がすなんてできないわ」

「…どうにかならないですか師匠。オレたちにはどうしても、その技術が必要なんです!」

「…いや別に俺は…(小声)」

「(しーっ!」)」

 

思わず漏れたアラタの本音を真一は制する

ここで変にこじれると面倒くさいことになってしまいそうだったのだ

 

「…仕方ないわねぇ。あなた達にも女子高生の魅力を理解できる方法を伝授してあげるわ」

「魅力を理解できる…?」

「えぇ。この秋葉原のとある場所には某有名進学校制服を販売しているお店がある。もちろん正規品よ…もちろん、公には公表できないルートで売ってるみたいだけど」

 

大丈夫なのだろうか

 

「まぁともかく、これはマニアの間でも高い評価を得ている服で、とっても素敵なの。その制服なら疎いあなた達でも女子高生というものの魅力を完璧に理解できるはず。それを手に入れて、誰かに着てもらって鑑賞し、その魅力を理解しなさい」

 

難易度高い

っていうか脱がす以前にそっちも十分な変態行為なのですがっ!?

 

「自分が来ても意味はないわ。やはり十代の若い女の子に着てもらう方が一番よ。その制服を取引する際のコードネームは―――〝シンディ〟」

「し、シンディ…?」

「そう、〝シンディ〟よ。なんとしてでもシンディを手に入れ、誰かに着てもらって、鑑賞なさい。そしてその魅力を理解し、その柔肌を白日の下にさらけ出したい、という衝動に駆られたら…またここに来なさい」

 

 

「…なぁ真一、〝シンディ〟が何か知ってるか?」

「全く。…アラタは?」

「俺も知らん。…ともかく、二人してシンディとやらを探してみるとするか」

 

そんな短い会話をして、一度そのまま屋上でアラタと真一は別れた

某有名進学校…ともかく、一度ヤタベさんに相談してみるとしよう

もしかしたら何か情報を知ってるかもしれない

 

 

「シンディ?」

 

自警団のアジトにて

ヤタベさんにそのことを問いかけてみるが当然ながら困り顔をされてしまった

掻い摘んで説明するとあーと納得したように首を上下に動かしながら

 

「制服だったのかぁ。うーん…そういう商品を専門に扱っていた人なら知ってるんだけど、秋葉原電気街の開発と進化に飲まれてお店閉めちゃったんだよね」

 

まさかの事実に真一はどうしたもんかと腕を組む

確かにここ秋葉原では日々進化や開発が行われており、一節によれば五年も持てば老舗だ、とか言われてるくらいだ

しかしお店がないのならどうしようもない、ないものを嘆いても仕方ないのである

 

「…あ、そういえば」

「? 何かあるんです?」

「そういえばこの前公園で見かけたよ。もしかしたらまだ細々と商売してるかもしれない」

「本当ですか!?」

「うん。もし見つからなかったらまた相談においで」

 

闇の中に舞い降りた一筋の光

もしかしたら行けるかもしれない

アラタは今どうしているだろうか…とりあえずこの情報を共有しなければ

 

「…あれ」

 

と思って携帯をかけてみたらどういうわけか電話中で繋がらない

まぁそれならまた後で電話をかければいいか、と真一は一度スマホをしまい公園へと足を運んだ

 

 

少しだけ時間は遡り、アラタの方

当然彼もシンディとかいう制服の知識はゼロであり、正直言って開幕から手詰まりだった

っていうかなんだよシンディって

ゲームのキャラクターくらいしか聞き覚えないぞ

 

そして冷静に考えてみるとアラタは別段脱がしには拘ってないから最悪力圧しでどうにかなってしまうんじゃないだろうか―――と、冷静に考えてみると女子高生をひっぺがすという絵面自体ヤバい

八方ふさがりだ

 

「…元春に電話でもしてみるか。なんでかわかんないけどアイツなら知ってそうだし」

 

知らないのならそれでいいし

正直あまり期待はせずにアラタは携帯を取り出すと土御門のアドレスを探して彼の番号に発信する

そのままスリーコール待つとがちゃりと通話が繫がった

 

<はいはーい、そっちから電話してくるなんて珍しいにゃー。一体全体どうしたんだぜぇい?>

 

電話の向こうでグラサンをかけた金髪の男がニコニコしているのが想像できる

アラタはあー、と少しバツが悪そうに声を漏らしながら

 

「なぁ、いきなり変なこと聞くんだけどさ」

<? 変なこと?>

「あぁ。元春、お前〝シンディ〟って知んないか?>

<―――!!!>

「あぁ、いきなりこんなこと聞いて悪いな、知らんよなシンディが何なのかなんて―――」

<…かがみん、お前どこでそれを聞いた?>

「…元春?」

 

なんだろう、土御門の口調が真面目な時の口調になっているような

 

<悪い、質問を変える…〝シンディ〟が何か知っているのか?>

「あ、あぁ。なんかどこぞの有名進学校の制服らしくてな。…その、ちょっとした諸事情でそれが必要なんだ。お前なら何か知ってそうだから聞いてみたんだが…」

<―――ふっふっふ。さっすがかがみんだぜぇい。俺に相談するとは英断だ>

 

顔が見えていないはずなのにグラサンがキラーンと輝いていそうなのが想像できた

なんだろう、この口ぶりからしてみるともしかして土御門は知っているのか、〝シンディ〟を

 

<「しかしかがみん、そいつは一部のマニアが喉から手が出るレベルで欲しがる逸品だぜぇい?」>

「そ、そうなのか? …て、あれ?」

 

おかしい、電話しているはずなのに何か二重に声が聞こえる

携帯に何かあったんだろうか、と思って画面を見てみると特に変化はないが

あ、っていうか真一から着信があった

後で掛けなおさなくて

 

「だぁがしかし? かがみんならお友達価格でシンディを販売してやるよ」

 

今度ははっきりと後ろの方から聞こえてきた

驚いて振り向くとそこにはぱちん、と携帯を閉じた土御門の姿があった

 

「も、元春!? お前なんでここにいんの!?」

「いやー、たまたま買い物に来てただけですたい。そしたらかがみんから電話が来たからびっくりしたんだよ。まぁそれはそうと…〝シンディ〟なんだろ?」

 

そう言って彼はぐい、と手に持っていた紙袋を上に上げる

その中に〝シンディ〟とやらが入っているようだ

土御門はグラサンをキラーンと光らせて

 

「しかしだかがみん、こいつはさっきも言った通りマニアが本気で欲しがるプレミア物でな。一応お友達価格として多少まけるが、それ以上はまけらんないぜ?」

「…い、いくらなんだ」

「正規品は三万なんだが…かがみんになら二万七千円でご提供だ、これ以上は下げらんないぜ」

 

制服上下一式で二万七千円

普通に制服と考えるとむしろ良心的な値段である

っていうかここを逃すともう手に入らない気がするし、乗る以外選択肢はない

 

「―――買ったっ!」

 

アラタはそのまま財布を開くと三枚の諭吉を取り出して、土御門に手渡す

まいどありー、といつもの軽い口調でそれを受け取って彼はポケットにねじ込むと土御門はアラタに〝シンディ〟が入った紙袋を手渡しながら

 

「いやー、しかしかがみんもそういったことに興味あるとはにゃー。仲間が増えて俺も嬉しいぜよ」

「…仲間? っていうかお前なんで秋葉原になんていんだよ」

「にゃー、ここはさ、いろんなコスプレ衣装があるじゃんか。…な?」

「な、て。…あーそうか、舞夏用だなお前」

 

そういえば彼はシスコンだった

土御門舞夏…義理の妹ではあるが、彼が非常に大切にしている妹である

そんでもって既に手を出している模様

義妹だからギリギリセーフなのかもしれないが

 

「っていうか仲間って」

「え? てっきり仲良しのあの常盤台の女の子に着せるもんかと思ったんだがにゃー?」

「誰が着せるか! ともかく、ありがとう! 後でお釣り寄越せよな!」

 

そう言ってアラタは袋を持ち直しながら踵を返して歩いていく

土御門はそんな彼の背中を見送りながら、グラサンを軽くかけなおし

 

「…頼んだぜぇい、かがみん。アキバの未来は、お前とその仲間にかかってるんだにゃー」

 

小さい声で激励を飛ばすと、土御門もまた反対方向へと歩いていくのだった


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