AKIBA'S TRIP  ~キミを探してこの街へ~   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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前回コッソリ投稿したと思っていたのですが、なんと公式に捕捉されるという珍事(?)が発生しました

なんでや…


#8 リベンジマッチ

しばらくは何もない、だから自由にしててくれ、という簡潔な内容のメールが来た

実際にはそのメールにも瀬島は君の腕を見込んで、だの何やら書かれていたがそこら辺までは詳しく読む気になれず、早々にメールの画面を消した

 

まぁ早い話、しばらくは自由時間ということになる

既にアラタは秋葉原を歩き回っているようで、そこそこに自由時間を満喫しているようだ

何をしようか、と真一も歩きながら腕を組んで考える

 

そんな時、ピリリと真一の携帯が鳴り響く

携帯を取り画面を覗き来むと、情報屋という文字列

 

この情報屋、とはこの秋葉原にてさまざまな情報を取り扱っている男性だ

ひょんなことから彼と知り合いになった真一は時たま彼から何でも屋の仕事を紹介してもらったりしているのだ

 

それはそれとして、何の用事だろうか

新しい依頼でも来たのかな

 

「もしもし?」

<お前か。新しい依頼だ>

「わかった、そっちに向かう―――」

<いや、そう複雑じゃない、このまま話す。…話すんだが>

「? どうしたの? 珍しく歯切れが悪いね」

<…この依頼、どうも妙だ。用心しろ真一>

 

何時になく真面目な声色でそう忠告する情報屋

その声色に、電話越しで真一は頷くのだった

 

 

依頼主は、文月瑠衣

件名はデートの所望

報酬は―――愛

 

待ち合わせはジャンク通りにあるカフェ、とのことだ

くれぐれも用心しろよ、わかったな

 

 

怪しすぎる

なんだろう、あの子ってこういう風に誘ってきたりするのだろうか

完全に偏見だが、あの子はなんかそういうことしなさそうな気がする

 

しかし一体全体どういうことなんだろうと思いながら歩いていくとやがてジャンク通りに到着する

ここの通りにはオープンカフェがあり、ヤタベさんがたまに通っているのをよく聞く

真一はあまりここのジャンク通りに行く機会がないので来るのは実は初めてとなる

と、そんなことをしてる間に件のカフェにたどり着いた

ベンチに座っている姿は確かにあの文月瑠衣だった

ただ彼女にしては珍しくフードを被っておりその表情が伺えない

 

「…来たな」

「え?」

 

不意に瑠衣はそう言って趣に立ち上がる

フードに隠れたその顔は言葉を続ける

 

「おい、言った通りだろ。こいつは瑠衣の事を捕まえる気だぜ」

 

何を言ってるんだ?

真一個人としては瑠衣を捕まえる気なんてサラサラないのに

一人困惑していると今度は背後の方から声が聞こえてくる

 

「なるほど」

 

それは右目に眼帯をしている男性だった

確か何度か見かけたことはある、このカフェテラスのマスターではないか?

もしかすると、この人もカゲヤシ…?

 

「最初は個人的な恨みから共闘を持ちかけられたかと思ったが、まさか本当に狙われているとは…どこから漏れたのか…」

「どこでもいいじゃねぇか。さあ、アイツの為にもここでぶちのめそうぜ」

 

そう言って衣擦れの音が聞こえてきた

なんだろうと思いマスターから視線を外し瑠衣へと視線を戻してみると

 

 

 

阿倍野優がそこにいた

 

 

 

「―――えぇぇぇぇ!?」

 

流石に声が出た

え、何なのコイツ、声も変わってたよ!?

っていうか背格好も変わってたぞ!? カゲヤシってそんなことも可能なの!?

 

「うははっ、いいリアクションじゃん、女装までした甲斐があったぜ」

 

混乱している真一を他所にどんどん二人の会話は進んでいく

 

「君は瑠衣に命を助けられたのに、その瑠衣を狙うとは…恥を知れ」

「い、いやちょっとまって―――」

「瑠衣の為に消えてもらう。彼女の存在に感づかれた以上生かしてはおけない。あの子の日常を守るために」

「行くぜエージェント! この前の雪辱戦だ!」

 

マスターが拳を構え、阿倍野優が持っているギターを振りかぶり真一に襲いかかってくる

戦いに慣れてきたとはいえ、戦況は二対一、はっきり言って不利なことに変わりはない

 

「おらぁ!」

 

ぶん、と振るわれるギターを両腕で何とかガードする

だがその隙にマスターが懐に飛び込んできて腹部目掛けて拳が叩き込まれた

ぐふ、と肺から息を吐き出しながらグルグルと地面を転がっていく

阿倍野優もさることながら、このマスターもかなりの手練れだ

 

「はは! おらトドメだぁぁぁ!!」

 

そう言って阿倍野優が真一にトドメを刺さんと持っているナイトスティンガーを振りかぶる

思わず両腕を使ってガードの構えを作って目を閉ざし衝撃を待つ

…だがいつまで待っても衝撃は来なかった

ゆっくりと目を開けてみると見知った人物が一人間に入ってそのギターを受け止めていた

 

「…アラタ!」

「ぐ、テメェ!!」

「よう。面白そうなことしてるじゃないか。俺も混ぜてくれよ!」

 

言ってアラタはそのギターを弾き飛ばすと阿倍野優の腹に肘での一撃を叩き込む

 

「ぐぉ!?」

 

大きく嗚咽を上げながら阿倍野優は何とかギターを手放さなかった

空いているもう片方の手で腹を押さえながらぎろりとアラタの方を睨みながら

 

「テメェ…!」

 

そんなことを言ってくる阿倍野優を視界に収めつつ、警戒しているマスターへと視線を移す

彼は身構えたままじっとこちらを見ており、体制が整うまで待ってくれているみたいだ

武人気質だな、とアラタは内心で笑みながら真一へと手を伸ばす

 

「大丈夫か」

「あ、ああ。アラタこそ、どうしてここに」

「情報屋のオッサンからもしもの為にってことで連絡貰ったんだ。んで、来たら危なそうだったからね。間に合ってよかった」

 

アラタに手を引っ張られ真一は再度立ち上がる

 

「さて、こっからはフェアに行こうじゃないか、真一はあのロッカー、俺はあの男を抑える」

「わかった」

 

互いに頷き合うと真一は阿倍野優へ向かって駆け出した

 

「は! 上等だぜ、タイマンでも俺は負けねぇ!」

 

へっと笑いながら阿倍野優がもう一度ギターを構えて駆け出してくる

さっきはマスターの存在もあって一人の集中できなかったが今はもうマスターはアラタが相手してくれている

阿倍野優一人だけなら―――もう問題はない

 

振りかぶってくるギターの一撃を片手で受け止めながらまず腹に拳を叩き込み、もう一発今度は顔に叩き込む

仰け反って後ずさりしている阿倍野優に対して、今度はキックで追撃を仕掛けてた

ふらつきながらも阿倍野優は何とかギターでその一撃を受け止めてるが衝撃までは受けきることが出来ずズザザザ、と大きく後ろへと下げられた

 

「貰った―――!」

 

相手はカゲヤシ

アラタほどの体術は真一にはない

ならばとっとと脱がした方が手っ取り早く片が付く

半ば強引に彼の懐に接近し、相手の服をひっつかむと力任せに勢いよく引っぺがす

女性ならまだしも、コイツは男

慈悲などない

 

ビリィ! と布が裂ける音と共に阿倍野優の上半身が日光の元に晒される

しかし相手は上級クラスのカゲヤシ、それでもまだ大したダメージにはなり得ないが

 

「ぐ、っは…!! こ、こいつぁもうアイツの血を得たってだけじゃあねぇな…腕を上げたってことか。ち、次は負けねぇ!」

 

そう短く捨て台詞を残すと阿倍野優はそのまま跳躍してどこかへと飛び去ってしまった

 

「ぐぅ!」

 

同じタイミングで、アラタの掌底がマスターの身体にヒットして、膝をつく

こっちも勝負あったようだ

 

「…おい、仲間は行っちまったぞ」

「ふ。初めから助けてくれるなどとは、思っていないさ」

 

形勢は逆転、相手の援軍の望みも今のところ薄い

ここで始末するべきか

 

「殺すがいい。瑠衣を守ることだけが私の生き甲斐であり使命でもあった。それが為せなかった以上、私に生きる価値はない…」

 

何やら彼の中でトントン拍子に話が進んでいる気がする

っていうかアラタは途中から駆け付けた身であるためになんで戦闘になったのかという状況がわからない

なにがどうなってあんな戦闘が始まったのか

 

「だが一つ聞かせてくれ。なぜ君があの子を狙うんだ…」

「…いや、別に狙ってるって訳じゃない。…あの子が狙われてるなんて話知らないし…正直今の状況だってよくわかってないんだよ」

「…なに? それじゃあ君は何も知らずに…?」

 

それだけ聞くとマスターは一つ安堵のため息を漏らす

そんな時だった

自分の背後から、一人の見知った男性が歩いてきていたことに気が付く

 

「おや、真一くんにアラタくん…おっと! 戦闘中だったかい…って、あれ…!?」

 

やってきたのはヤタベさんだった

彼はアラタと真一、そしてマスターの立ち位置で状況を理解し、マスターの顔を認識した刹那驚きの声を上げた

ヤタベさんはマスターの近くへと近づいて

 

「マスター…! まさかアンタ…!」

「ふ、流石はヤタベさんだ…エージェントとも関係し、我々についても知っているとは」

 

何やら状況がどんどん混乱してきた

一体何がどうなっているのだ

とりあえず頭に疑問符を抱いたアラタがマスターに向かって問いかける

 

「えっと…ヤタベさんとその人は、一体…?」

「私の行きつけの喫茶店のマスターだよ…。彼の淹れてくれるコーヒーは絶品なんだ…同じ将棋指しでね。互いに下手だが、だからこそいい勝負というかね…マスター、アンタはカゲヤシだったのか」

 

ヤタベさんの言葉にマスターは息を整えながら、ゆっくりと頷いた

 

「しかし、アンタは他人に危害を与えるような人間じゃないだろう…?」

「…カゲヤシ皆が好戦的、かつ妖主の意向に従っているというわけじゃあないのさ」

 

今、マスターは気になる単語を呟いた

 

「…妖主?…」

「どうやら、色々あるみたいだね」

 

真一の呟きにヤタベがそう短く返した

そしてヤタベはマスターの前に立って真一とアラタに向かって

 

「二人とも、頼みがあるんだ」

「…わかってますよ、ヤタベさん。な、アラタ」

「あぁ。この人を倒す意味があるとは思えないからね」

「! …君たち…! ヤタベさんまで…」

 

マスターを倒す理由はない

確かに最初は誤解から攻撃を受けたが、マスターは阿倍野優ほどじゃあなさそうだ

それに、話が通じないって訳でもない

ならきっと大丈夫だ

 

「君たちだって聞いただろう、多分カゲヤシにもいろんな人がいるんだよ。私は彼と付き合いが長いからわかる。彼はむやみに人を襲ったりなんかしない。この秋葉原でひっそりと喫茶店を営んでいるだけなんだ。危険人物なんかじゃない」

「はい、わかっています。ここでのヤタベさんの反応で、十分理解できました」

「ヤタベさん…どうしてそこまで…」

「いいんだ。アンタとの将棋は今私が負け越しなんだ。このままじゃあアンタの勝ち逃げになっちまうじゃないか。それに、アンタがいなくなったら誰があの美味いコーヒーを淹れてくれるんだい?」

「マスター…」

 

ヤタベさんの笑みを見たマスターは立ち上がり、改めて真一へと視線を向けた

 

「すまない、君の連絡先を教えてくれ」

「あぁ。ついでに、俺の名前は須藤真一、よろしく」

「私は姉小路駿…だが、マスターで構わない。落ち着いたら君に連絡を送るよ」

 

マスターの言葉に真一は頷く

ともかく、これでひとまずは一件落着といったところだ

 

「ありがとう、真一くん、アラタくん。マスターを助けてくれて」

「気にしないでくださいよ。旅は道連れなんとやら、っていうじゃないですか」

「ははは。そうだね。それじゃあ私は一旦離れるよ、マスターの手当とかもしないといけないからね」

 

そう言ってマスターと一緒にヤタベさんはこの場を離れていった

二人の背中を見守りながら真一はアラタに向かって口を開く

 

「…カゲヤシにも、色々な人がいるって、言ってたな」

「あぁ。少なくともあのマスターさんは、話が通じそうな人だ。…全員が全員、あの阿倍野優とかいうロッカーばっかじゃないんだな」

「…もしかしたら、人間とだって共存出来たりするのかな」

「…―――それはわからねぇ。…だけど、可能性は少ないけど…希望はあるのかもしれないな」

 

 

 

言葉が通じるのなら―――瑠衣とも手を取り合えるのかもしれない

可能性は確かに低いけど、そんな僅かな希望に、真一は夢を見る―――

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