とにかく!第三話、どうぞ。
人間ってのは休まなければ生きていけない。何故ならば疲労と言う概念が存在するからだ。
疲労と言うのは自然と蓄積し、人間の身体を蝕むものだ。溜め込んだらそりゃあ身体に悪いだろう。
ところで。土山家では週休二日制を採用している。
ならば、だ。俺は本来ここではなくて自宅の自室のベッドの上で惰眠を貪っている筈だ。
しかし、今は何故かハリー達の家に居る。
はぁ、一体俺はどこで間違ったのだろう。きっとこの世界に生まれたところから間違っているんだろうな。生きるのしんどい。マジで。
「『赤ちゃんは、新しい環境に慣れなくて不安でグズることがある』って」
家の前の階段に座り込んでノートパソコンで調べ物をしている少女、薬師寺さあやはそう言った。
「なるほど!じゃあはぐたんの不安が吹き飛んじゃうくらい楽しい事をしてあげたら?」
野乃はなは薬師寺の言葉に反応し、そう言いながらはぐたんの前へと身体をやる。
「いないいない…ばぁ!!」
残念ながら不発。はぐたんはムクれてそっぽ向いてしまった。
いや、お前それ何回目だよ…最初に笑わなかったんだからいい加減諦めたらどうなんだ…
「もうそれええって。全然ウケてへんし」
ここでハリーから野乃のメンタルに強烈な右ストレートだ!!!
野乃がメンタルブレイクしちゃわないか心配していると、薬師寺が問題提起してくる。
「『赤ちゃんの機嫌が良くなるもの』っと…何だろう?」
機嫌か。大人なら金渡せば機嫌良くなるっていうのに…赤ん坊って難しいなぁ。
おもちゃとか?いや、さっきやってダメだったか。
「そやなぁ~?何かあった気がするんやけど…うーん…zzz」
ハリーはそのまま寝てしまった。
いや、寝たいのはこっちなんだけど…いつもはまだベッドの中に居る時間帯だからね?俺は。いやさ、まだ九時過ぎだけども。俺は十二時間睡眠推進派なの!!
「寝るな!!!」
野乃がハリーの目の前で叫ぶ。
こらこら。あんまり大声だすとご近所さんから苦情が…って、ここ結構住宅街から離れているし大丈夫か。
「せや!あれがあるやんか!!」
野乃に起こされたハリーは飛び上がると、そう言った。
アレ?なんじゃそりゃ。
すると、ハリーは自分のキャリーバッグの中を漁る。
「うーん…おっ!あったあった!」
中から取り出したのは、タブレットの様な携帯端末だった。
「わぁ~!何?それ!タブレット?」
薬師寺が興奮気味にハリーに聞く。
お前タブレットでそんな興奮するってどんだけ電子機器好きなんだよ…
「プリキュアだけが使えるパッドや。色んな事が出来てなぁ。はぐたんが困った時にでも調べられる、超イケてるしろもんや」
それが超イケてるかはさておき…なんでそんな便利なもんを今まで使わなかったんだよ。
「すごーい!!…って、そんな便利な物があるなら早く出してよ!!」
野乃にしては物凄く珍しく、ド正論だった。
明日は竜巻でも来るのかな?
「しゃあないやろ。寝不足で頭がボーッとしてて、すっかり忘れとった…」
「おいおいしっかりしろよ保護者(仮)…」
俺は呆れたような声音で呟く。いや、実際呆れてるんだけどね?
「うるさいがな!仕方ないもんは仕方ないんや!!」
「はぁ…で、どうだ薬師寺。使えそうか?」
俺がそう聞くと、薬師寺は優しく返事をしてくれる。
「ちょっと待ってね。はぐたんの機嫌を直すには…これ?」
何かのアプリを見つけたようだ。ナイス、薬師寺。
すると、ハリーは画面をのぞき込み、
「はぐたんをご機嫌にするもんが、そこにあるんや」
と、言った。
と言う訳でれっつらゴー。
住宅街を歩いて行く。するとハリーが、
「ちょう~待って~」
と根を上げた。えぇ…お前ちょっとよわすぎじゃない?寝不足どんだけお前の身体にダメージ与えてんだよ…
「もう!遅い!!」
野乃は怒って地団太を踏んだ。
「寝不足にはこたえんねんって」
ハリーが良い訳をしていると、
「此処だ!!」
薬師寺が言った。
着いた場所は日本庭園。いやいやいや、こんなとこにはぐたんのご機嫌をとる物があるって言うの?冗談はよしてくれよ。
「渋い…日本庭園…鹿威し…」
野乃がそうつぶやいた。
「は~ぎゅ~!!!!」
それに反応したのかは定かではないが、いきなりはぐたんが泣き始めた。
やっぱり野乃ってはぐたんにあまり好かれてない気が…おっと、いけない。世の中には思ってすらいけない事ってあるからな。気を付けよう。
「ダメなの!?確かに此処なのに…」
薬師寺はそう言いながらタブレットを確認する。
すると、やっぱりここでは無かったようで、野乃が
「違う所が光った!?」
と、驚愕の声を上げた。
どういう事だ…?場所が変わった…。本当にそれ、はぐたんのご機嫌を治す物を探すアプリなのか?
「あかん…もう動かれへん…!!」
ハリーのそんな気の抜けた声と共に、ドサッ!と言う音が聞こえた。
あーあ。選手交代。
今度は野乃が抱っこひもを着ける。
「初抱っこひも…!!感動~!!」
と、喜びの声を上げる。
しかし、はぐたんは余計大きく泣いてしまった。マジで頭を抱えるなコレ…
「おぉ、よーしよーし。で、何処行けばいいの?」
「あっち!」
薬師寺が走り出す。俺達も後に続いて走り出すが、なんと俺がハリーを抱っこする羽目になったのだ。
「すまんな…希無…」
「気にすんなよ。ちょっと高くつくけどな」
俺が冗談交じりにそう言うと、
「何で金取んねん!!」
元気にツッコンでくる。お前本当は元気だろ…
そんなこんなで走り続ける事、数分。俺達は移動動物園へとたどり着いたのだった。
で、何でここ?動物と触れあわさせるとかすればいいのか?
「何?これ」
そうか。野乃は引っ越してきたばかりだからこの動物園の存在を知らないのか。
「のびのび町の名物、車で移動する動物園だよ!」
態々丁寧に説明する薬師寺。
ま、そんなことは置いておいて、早速ご機嫌治しを探す。すると、ハリーが子供たちに絡まれているのを目撃した。
「かっわいい~ネズミさん!!」
子供の内の一人がそう言った。
するとやはり、
「だからネズミちゃうで、ハリハム・ハリーや!」
とハリーは言った。お前どんだけそれ気にしてんの…「勇しぶ。」のラムちゃんかよ。
そして最悪な事にハリーと目が合ってしまった。
…あの目はこう言っている。
「おい!!今すぐ助けてくれや!!」
だからこっちも視線で、
「助ける訳ねーだろバーカ」
と、送り返してやる。イケメンは皆死ね。以上。
すると、ハリーは背中から棘の様なものをはやした。
「ハリネズミさんになった!!」
子供は驚愕して手を離す。しかし一瞬だけだ。今度は腹を擽られていた。ざまぁないぜ、全く。
アホなハリーは放っておいて、野乃と薬師寺と合流する。
「どうだ、見つかったか?」
「地図によれば…此処のはずだけど…」
なのになんではぐたんの機嫌は治まらないんだよ。むしろ悪化してるぞこれ。
「よしよーし…」
野乃が宥める。しかし一向に泣きやまず、声が大きくなっていく。
「ビービーうるせぇなぁ。だからガキは嫌いなんだよ」
いきなり変な中年オヤジが絡んできた。面倒くせぇ…
「ほっとけ。関わらないのが一番だ」
俺は二人に言う。しかし、俺達の間に割って入る人物が居た。
その人物とは……輝木ほまれだった。いや、こんなところでなにしてんの?
「輝木ほまれさん!?」
野乃が驚いた声で言う。
「なんだぁ?姉ちゃん」
オッサンは輝木にも絡んでいく。ひえー、社畜こえー。日本が世界トップクラスのストレス社会だからって他人に絡んでストレス発散しようとするなよ…
「カッコ悪い」
輝木ほまれはそう冷たく言い放った。
「はぁ?」
オッサンもいきなりの事で理解が追いついていないようで、思わず聞き返す。
「ガキは嫌いって…あなたも昔は子供だったんじゃないの?」
うおおおお!!!!!輝木さんカッケェ!!勇気あるなぁ…ストレス溜まりまくってバースト寸前の社畜にそんな事言えるなんて。
「んだと!?」
オッサンは今にも殴りかかりそうだ。
「はいはい、そこまで。落ち着いて頭冷やしましょうねー」
俺が横槍を入れた。いや、そうでもしなきゃ今にも殴り合いしそうだったし。
「なんだテメェ?」
うげぇ…オッサン怒ってきちゃったよ…出来るだけ怒らせないように言ったのに…
いやいや、しかしこれは逆切れだろ
「相手は子供なんですよ…?」
俺は少し怒気をはらんだ声音でそう言った。そうでもしなきゃ向こうも引きさがってくれないだろうしさ。
オッサンははぐたんを見つめる。そしてすぐに目を離した。周りがざわつき始めたからだ。
「子供相手にムキになることねぇか…」
オッサンはそう言い残すとまたベンチに座り込んだ。
ふえぇ…おっかなっかったよぉぉぉぉ………
いや、マジでなんで今俺立ててるんだ?てっきりヤムチャされると思ったのに。命拾いしたぜ…。それにしてもマジですげぇしカッコイイなぁ、この人。本当何で女なんだよ。
「カッコイイ!!ありがとうございます!」
野乃が目をキラキラさせながらそう言った。いや、これは惚れるよなぁ…野乃は堕ちたか。
人生イージーモードで羨ましいなぁ…
「かわいい~」
!?
なっ、何が起こったんだ!?
あ…ありのまま今、起こった事を話すぜ!俺は奴に嫉妬していた。なんでそこまでカッコイイのかと…だがな、いつの間にか輝木は「かわいい~」とか言う女子丸出しの可愛いボイスでそう言ったんだ!な…何を言ってるかわからねーと思うが、俺も何が起こったのかわからなかった。頭がどうにかなりそうだった…ツンデレやクーデレだとかそんなチャチなもんじゃあ、断じてねぇ。もっと萌えるものの片鱗を味わったぜ…
そんな長すぎる茶番は置いておいて。
その後俺達は輝木と一緒に動物を見ていた。おい、最初の目的は何処に行ったんだよ。
「こうしてハグする感じでだっこすると、落ち着くの」
輝木は微笑みながらそう言った。えぇ…俺の中の輝木のイメージがどんどん変わってくよぉ…
「詳しい!」
野乃は関心するようにいった。
いや、実際詳しいし凄い。
「よく来るから、移動動物園」
へぇ…輝木って動物好きなのか。
「へぇ~そうなんだ」
薬師寺も驚きのようだ。いや、うん。マジで驚き。普段の雰囲気からはちょっと想像出来ない。
俺達が話していると(無論、俺は会話に入れていない)、遠くから
「お姉ちゃん~?」
と言う声が聞こえた。しかも、その声の主の姉はこの中に居たようだった。
野乃が後ろを振り向く。こいつ妹居たのか。
「赤ちゃん!?」
と、野乃妹は驚きを隠せない様子で言った。うん。そうだろうね。いきなり姉ちゃんが赤ん坊背負ってたら吃驚するだろうね。俺兄弟居ないから分かんないけど。
「えっ、何してんの?」
野乃妹(仮)は少し呆れながら言った。
「だっこさせて」
野乃母がそう言う。
「えっ?うん」
野乃は素直にはぐたんを渡す。すると驚いた事に、はぐたんの機嫌は一瞬で治った。
くっ!!眩しい!!お母さんオーラハンパ無い…ッ!!
「この子、どこの子?」
野乃母が聞くが、誰も答えない、否。答えられない。
すると、野乃母の後ろから助け舟が来たのだった。
「娘さんに、えらいお世話になってます」
ハリーの登場だ。
「あなたがこの子の!?若いお父さんね!」
野乃母は目を見開いた後、少し声のボリュームを上げてそう言った。
「えっ…お父さんて言うか…」
ハリーが返答に困っていると、今度は野乃が助け舟を出す。
「ママも動物園に来たの!?」
声を荒げて意識をハリーから逸らさせる。ナイス。
そして俺らの思惑通り、野乃母は振り返って野乃の方へと身体を向ける。
「ちょっと取材。タワーにね」
今の発言からするに、記者かリポーターかなんかなのだろう。
「良かったら一緒に来る?」
野乃母のその一言が原因で、今俺たちはタワーの展望室に居る。
「うわ~!!」
野乃ははしゃいでいる。
俺達はその隅っこで、野乃母と話していた。
「あなたがさあやさんで、あなたがほまれさん、そして希無君でしょ?」
「はい」
「えっ?ええ」
「…はい」
俺達はバラバラに答える。うわー、なんか誰がどの返しをしたかって一発でわかっちまうなぁ。
「はなに聞いてるわ。とっても素敵な方たちだって」
「そんな…」
照れながら答える薬師寺と輝木。この二人なら分かるけど俺の事も素敵な人っていったの?なに、頭の中が素敵だって?ただの陰語じゃねぇか!
「タワーに遊びに来たんですか?」
薬師寺が問う。あれ?確か取材なんじゃ…
「う~ん…半分仕事って言うか…」
詰まった言葉を紡いだのは、野乃妹だった。
「ママはね、記者さんなんだよ。さっきも日本庭園見てきたんだよね」
やはりか。まぁ一般人でも取材とかやってる人いるけどね。いやぁ…今の時代居るのかなぁ…?いやいや、今の時代だからこそ居るのか。あれ、待てよ?日本庭園?もしかしてあのアプリは野乃母を指していたのか?いや、まだ確証がないから決めつけるのは早いか。
「ママたちも行ったんだ!!」
野乃がいきなり会話に入ってくる。
そんなに有名なとこなのか。全く知らなかった。
「街を取材するならやっぱり、名物ののびのびタワーよね」
俺達が話していると、はぐたんは先程までのグズりようが嘘のように、眠りに入ったのだった。
「寝よった!まるで魔法や」
ハリーが目を丸くして驚いている。
すげぇ…野乃母のお母さんパワーやべぇ……
「ちょっとコツがいるのよ。心臓の音を聴かせると落ち着くの。お母さんのおなかの中に居た頃を思い出すらしいわ。だから胸にこうして赤ちゃんの耳をつけるようにして、だくといいのよ」
なるほど。胎内に居た頃の方が睡眠する時間が圧倒的に多いし、何より生まれてまだ間もないから胎内と似た環境の方が落ち着くのだろう。
「変わります」
ハリーが両手を前に出しながらそう言ったが、
「待って、まだ眠りが浅いから。しばらくはこうやって落ち着かせないと」
そう言うと、野乃母ははぐたんを抱きかかえながら歩き始める。
歩くという行為さえも眠りを誘う事につなげる…世の中のお母さんと言うものは一体何者なのだろうか。
「寝顔も、かわいい~」
もう輝木のキャラがぶれまくってる。
おーい、大丈夫かー?目がのび太君みてぇになってるぞ…
「移動動物園じゃなかったかも。はぐたんをご機嫌にするものって」
「えっ?」
「ほらっ、光…」
薬師寺がそう言い、俺と野乃はタブレットの画面を覗き込む。
すると、光は俺達のまっすぐ目の前、野乃母、野乃妹、輝木の場所を指していた。
「これって…ママ?」
そしてハリーにタブレットを渡す。
「お母さん凄い…やっぱり経験には敵わないね」
薬師寺は納得したように言った。
そして野乃も続き、
「うん。悔しいけど私まだまだ子供だな…」
と、頷きながら言った。
「そりゃあそうだろ。まだ十三~四年程度しか生きていない俺らが、倍以上生きている親に敵う方が異常だろ」
うんうんと、薬師寺と野乃は頷いて俺の意見を肯定してくれた。
「ねぇ、ハリー」
「うん?」
「はぐたんのママは?」
うわ、今その質問ブッ込んでくるか。
野乃にそう聞かれると、ハリーは顔色を曇らせて窓辺へと向かった。
「オレがおった世界もこうやった」
「えっ?」
恐らく野乃は軽い気持ちで聞いたのだろう。
「明るくて、笑顔と希望にあふれる世界やった」
と、言う事はこいつらは異世界人という認識でやはり間違っていないのだろう。いや、別時空という可能性もありうるが。
「あいつら…クライアス社の連中に時間をとめられるまではな!!アスパワワが奪われて、未来がなくなってもうた。オレ以外は…」
「そんな…はぐたんのママも…?」
恐ろしい話だ。一体クライアス社とやらの目的はなんだ?この世界まで時間を止めてしまったなら、自分たちの住む所すら危うくなってしまうのではないか?
…恐らく、狂犯罪者集団なのだろう。サイコパスやシリアルキラーは常識という概念を認知しながら、それに当てはまろうとしない。人間としての重要な一部分が欠落しているのだろう。だからそう言う行動に至る。
「なんとかオレははぐたんと一緒にミライクリスタルホワイトの力で逃げてきたけど、ミライクリスタルホワイトはそん時力を使てしもた。はぐたんに八個のミライクリスタルの力を与えたら、また時間が動き出すんや」
つまり、はぐたんはやっぱりただの赤ん坊じゃなかった…と言う事だな。
下手すればプリキュアよりも強い力を持っているかもしれない。
「ミライクリスタルって?」
野乃が問う。
「はな達のクリスタルのことや」
「って事は…残り六個…」
「ああ、見つけんと」
えぇ、それめっちゃ面倒くさいやつじゃん。しかしまぁ、今の話を聞いていると他人事ではないようだ。
「クライアス社のヤツらを放っといたら、ここもオレの世界みたいに…」
ハリーのタブレットを握りしめる力がより一層強くなる。
…どうやら本当の事の様だな。
しかし、どうするか。このまま相手が来るのを待ってばっかりじゃあいつまでたっても埒が明かない。こちらから攻めるか?いや、ダメだ。あんな化け物を容易に作り出せるような連中だぞ。何を隠し持っているか分からない。
ダメだ、どうしようもない。ただ指を咥えて見ている事しか俺には出来ない…ッ!
俺が考えていると、いきなりタワーが傾く。
なっ!?ちょっ、はぁ!?
おいおい、洒落になんねぇぞ!!倒れたら皆間違えなくお釈迦だ!!
一瞬の事だったので転びそうになるが、なんとかバランスを保つ。
俺達は急いで非常口を駆けあがり、展望室屋上へと出る。
「ほいこれ」
俺は二人にイヤホンを渡す。
「動きは基本的にこっちで見てるから、危なくなったりとかしたら教える」
「分かった!」
「ありがとう!」
二人はそう言い残し、オシマイダーに向かって殴りかかる。すると、空中で何回転かして、バランスを立て直す。
今の挙動…あいつの身体は風船か何かか?
「でたなぁ!プリキュア!!」
またまたあのチャラ男が居た。お前どんだけ暇なんだよ。就職先探してやろうか?
「なんで…!こんな事を!!」
野乃が興奮気味に言う。確かにだ。こいつがここまで俺らに粘着するのは何かしらの理由があるからだ。少なくともそれはデメリットではなくメリットだろう。でなければこの余裕のある振る舞いは出来ないだろうし、何よりいくら負けてもまた現れるのが揺るぎない証拠だ。
「組織で成り上がるにじゃ仲間を出し抜かなきゃ!オレちゃん一人でお手柄ひとりじめってやつぅ!」
そう言うと、オシマイダーが二人めがけて襲いかかってくる。
「マズイ!!避けろ!!」
と、言うが、二人は攻撃に巻き込まれてしまう。そしてビルの側面に叩き込まれた。
おい…大丈夫かアレ!?
「オッサンのトゲパワワ…イケるじゃん!!」
オッサン…?俺は先程まで居た公園へと視線をやる。するとそこには、例の変な症状を患っているさっきのオッサンが居た。どうやら二人もそれに気がついたらしい。
「あいつをやっつけへんとおっさんは元に戻らへん!!!」
俺のイヤホンを借りて言うハリー。
「まっ、おっさんだけじゃなくてお前らみーんな明日は来ないから」
男は挑発しながら言う。なんと腹立たしい事か。
「人の時間を……未来を奪って…!!」
薬師寺は静かに怒りを込めながら言った。
オシマイダーは雄叫びを上げると、二人の方へと突撃してくる。
「薬師寺!!こないだの防御砲撃だ!!」
「分かったッッ!!」
薬師寺はこの間出したハート型防御砲撃を放つ。
そしてオシマイダーにぶつかる。力は五分五分といった所だろうか。
そこまでなら良かった。
なんと、オシマイダーは防御砲撃の力を吸いこみ始めたのだった。
「なっ…!嘘だろ…!いや待て、野乃!!」
「何?」
「奴の弱点を見つけた!!」
「本当?」
「ああ」
そう言う事か。昔なんかの映画でいってたよなぁ、『男はデカけりゃいいってもんじゃない』って!!
「いいか!あいつは今、中身の密度が低いにも関わらずに身体を大きくし過ぎた!つまりだな…奴の頭…眉間辺りを思いっきり殴れ!!すると奴は足元がフラフラになって転びかける筈だ!!!!」
「分かった!やってみる!!!」
俺の仮説が正しければ、殴った瞬間に奴はバランスを崩して転びかける!
どうだ…
「はぐたんのためにも!!」
野乃が眉間のど真ん中にキレイな右ストレートをかます。
すると奴は重心が後ろにいき、転びかけた。
やった!!!やはりか。身体のデカさと重さが比例していなくて物凄くバランスが悪い!!
しかし、オシマイダーはその反動を生かし、物凄いスピードでこちらにやってくる。
「私は…もっともっと大きくならないといけないから!!イケてる大人に!!カッコいい大人に!!」
「行け!!さっきよりも速いスピードでっ!ぶちかましてやれえええええ!!!!」
刹那、オシマイダーと野乃がぶつかる。すると、オシマイダーが力負けした。
「今だ!あのハート型砲撃を喰らわしてやれ!!!」
「うん!」
そう答えると、野乃はいつもの巨大なピンクのハート型砲撃を放った。
するとまた、「ヤメサセテモライマスゥ」と、やっぱり気持ち悪くてまとわりつくような声を上げて、昇天していった。
ふぅ…終わったか。
そして数分後、俺達は野乃母や輝木達の元へと戻る。
「ママ~!」
「はな!」
感動の再会だ。野乃は一直線に母親の元へと走り、互いに抱き合う。
「ハグ…」
野乃母が涙声で言った。
そして野乃も、
「うん、ハグ!」
と言った。すると野乃妹が、
「子供…甘えちゃって」
と言った。まぁ確かに中二でこう言う事している親子ってあんまり見ないな…
まぁ、今はそんな事どうでもいい。無事に親の元に帰って来られた。この事実が重要なのだろう。
「うぅ…」
はぐたんがまたグズりそうになっていた。
「今度は何や?」
ハリーは眉をハの字にして言った。すると、野乃母が
「ああ、これはミルクね。家…近いからミルクあげるわよ」
と言った。そして途中でミルクの元を買い、野乃宅へとお邪魔する。
て言うか吃驚だわ。野乃の家俺の家の隣じゃねぇか。
「はい、どうぞ」
野乃母がハリーに哺乳瓶を手渡す。
「おおきに」
ハリーはやわらかな声音でそう返した。
「いい飲みっぷりだ」
野乃父が微笑みながら言った。
うん。確かに凄い勢いで飲んでるな…
「パパさんまで…何から何まで、ほんますんません」
ハリーも微笑みながら返した。
こう言うのを団欒…と言うのだろう。なんと微笑ましい事か。
「一人で大変でしょう?困った事があったら、いつでも来て」
野乃母はまるで親戚に言うかの様に言った。
どんだけいい人達なんだよ野乃の家族…
「ほんまでっか!?なら、お言葉に甘えて!」
よかったなハリー。もう寝不足にはならないんじゃないか?
「ほまれさん…一緒に来ればよかったのになぁ」
野乃は少し残念そうに、そして明るく言った。
「うん…」
薬師寺も答える。
俺は何も答えなかった。何故ならば、俺は薬師寺の持っているタブレットの異変に気付いたからだった。
「おい…なんか光増えてるし…一個動いてるぞ?」
「えっ?」
「あっ、本当だ!」
どうやらこれは野乃母を指していたのではなかったようだ。
しかし、もうそんなことはどうだっていい。今は兎に角帰って湯船に浸かりたい。
疲れた。お疲れ様、俺。
お疲れ様、プリキュア。
輝木ほまれは考え事をしながら家路についていた。
「…プリキュア……」
自然と口からその単語が漏れてしまう。
今日、しっかりと見た。自分の目の前で、敵に向かって飛び立つ姿を。
「あんな風に…また……飛びたい……!!」
日も沈み始め、逢魔時に差し掛かろうとしていた黄昏色で、そして少し暗い空に向かって、輝木ほまれはそう呟いたのだった。
やっぱり小説書くのって物凄く難しい…という事を思い知らされました。
分からないところ等御座いましたらお気軽にお聴きください!答えられる範囲でお答えします!
誤字脱字ありましたら、ご報告お願い致します。