更新遅れて申し訳ございません…
では早速、どうぞ。
休み時間。
それは次の授業の準備をする時間だ。
なのにこのクラスの連中はやれ友達とお喋りやらお喋りやら…。お前らは口から生まれてきたのかってレベルでお喋りしかしていない。
しかし、今の俺に彼ら、彼女らを糾弾する権利は無い。
無論、野乃はなの所為である。
「スカウト…?プリキュアを?」
俺の左後ろの席に座っている薬師寺さあやはキョトンとしながらそう言った。
そして俺の後ろの席に座っている野乃はなはいつもの様なハイテンションで、薬師寺の問いに答えた。
「うん!この前のあの人!!」
…恐らくは輝木の事を言っているのだろうか。
あいつがプリキュアか……。おっと、一瞬おぞましいものを想像してしまった。
危ない、危ない。
すると、薬師寺も俺と同じ結論にたどり着いたのか、輝木の名前を挙げる。
「輝木ほまれさん?」
「そう!メッチャ美人だし!すごいおしゃれだし!お友達になりたい~!何処に行けば会えるかなぁ?」
秒で返す野乃。
そんな話をしていると、タイミング良く教室の扉が開かれる。
輝木ほまれの登場だ。
彼女の登場に、クラス全体がざわつく。
いや、無理もなかろう。時計を見ればとっくに登校時間を過ぎているのだから。
まぁ、それ以上に学校にあまり来てないってのがあるだろうけどね。
「えっ!?何で!?同じクラスなの!?」
キョドりまくる野乃。
いやいやいや、むしろお前知らなかったのかよ。結構学内じゃあ有名な話だろうが。
「うん」
薬師寺は野乃がキョドっているのなどお構いなしに、声のトーンを変えずそう言った。
相変わらず冷静だなぁ…。羨ましい事この上ない。
「えっ…どうしよ…どうしよ…」
野乃は同じ単語を何度も繰り返している。えぇ…そこまでなのか?
「だからお前焦り過ぎだろ…」
ようやく俺の登場だ。
いや、会話自体には最初から参加していたんだよ?
俺達が下らない話をしていると、輝木は席に着く。
するとやっぱり、野乃は輝木が自分の席の後ろに座った事に驚愕していた。
「あっ…かかか…輝木ほまれさん!!」
えっ!?お前いきなり話し掛けんの!?
さすがナチュラルコミュ力お化け…。俺には出来ない事をやってのける。別に痺れも憧れもしないが。
「うん?」
輝木はそう答えた。
お前もお前だな…。普通こんな風に話しかけたら「何だこいつ」ってなるだろうに…
変人しかいねぇのかよ……
「あの…おはようございます」
なんで挨拶……いや、大事な事だとは思うけどね?でも普通そんな風に話しかけたらさぁ……ねぇ?
「おはよ」
俺が言うのもアレなのだが、マジで蚊が鳴くような声だったぞ…
可哀想に、絶対変人認定されたぞ。
「変なヤツ」
ほれ見た事か。
やっぱり変人認定されてんじゃねぇか。むしろこれで変人認定しない奴が居ないまである。
まぁ、そんなこんなあってこれまた特に何もなく昼休みに。
今俺達は何故か輝木をつけている。
「同じクラスだなんて…これはもう運命!」
運命ってそんな簡単に言っていい事なのかよ…
ほら、某マンガの三木さんが言ってたぞ。「運命なんてクソ喰らえ」って。
「なんてお願いしよっかな」
「何て言っても無駄な気がするんだよなぁ…」
俺はポツリと感想を言う。
だってさ?輝木だよ?「うん!分かった!」って言うタイプじゃねぇだろ絶対。
寧ろ言ってたら引くわ。
そんなこんな下らない事を考えていると、梅橋教諭の声が廊下に響く。
「輝木!!お前だけだぞ、プリント出してないの」
そう言ったが、輝木はまるでそんなもの最初っから耳に入ってこない様にスルーした。
うおっ、教師にあの態度……やっぱり肝が座ってるなぁ…
「なっ、おい!輝木!!」
梅橋教諭は声を荒げるが、それも意味をなしていない。
そのまま輝木は歩いてどこかへと行ってしまったのだった。
そこで俺達は背後の影二つに気がつく。
「うわっ!!」
野乃がまたオーバーに驚いた。
「ちょっと話があるの…」
俺達の後ろに居た内の一人の…えーと、何さんだっけ?取り敢えずメガネさんと仮定しておこう…。まぁ、メガネさんはそう言った。
そして場所は変わり、今はランチスペースに居る。
「輝木ほまれに気をつけろ?…ってなんで?」
疑問を口にしたのは野乃であった。しかし、本当に何故だろうか。特別嫌な噂も聞いた事がないし、何より俺と言う陰キャが被害に遭ってない。もしかしてあっち系?お金もらっておじさんとホテルへ…みたいなやつなのか?そうなのか!?
「不良だからよ」
……は?あれが不良?たかが学校にあんま来てねぇ位だろうが。それで不良認定って…
あんたらは本物の不良を見た事ないのかよ。
「不良?そういえば確かに教室で見たのも今日が初めてだなぁ」
野乃は疑念を自分で解決した。
すると今度は薬師寺が口を開いた。
「ほまれさん今年、スポーツ特進クラスから移ってきたの」
ほう…そうだったのか。別に知った所でどうでもいい話だし興味もないが。
「フィギュアスケートをやってたの」
へぇ…。ん?そういやなんか記憶に覚えがあるような無いような…?ヤフーニュースかなんかで見た気がしたな。
「かっこいい!!」
野乃はまた感激している。もうお前輝木の事だったら何でも感激するんじゃね?
「でも突然やめちゃって、学校にも全然来なくなって、派手な人達とツルんでるって噂だし、さっきみたいに先生を無視するし!こわ~い」
ギャルさんとメガネさんが交互にそう言った。
派手な連中…ねぇ?要するにDQNってことか?
ふえぇ…おっかないよぉ…
そんな茶番はさて置き、俺達が接した輝木ほまれはそんな連中とツルんでるようには見えなかった。恰好も別に特攻服を着ていたり、メリケンはめてたり、謎のマスクを顔につけていたりもしていなかった。俺の中のヤンキーのイメージ古過ぎだろ…
「そんな人には…見えないけど」
野乃がポツリと前髪をイジリながら言った。
そして俺も肯定の意見を言う。
「同感だ。少なくとも、派手な連中とはツルんでねぇと思うが」
だが、ここでそんな事を語り合っていても何も分からない。
結局俺達はチャイムが鳴って解散したのだった。
分かった事は、輝木ほまれってのはあまり良い噂が流れていない人物だって事位だった。
放課後になり、俺らはいつも通りハリーたちと合流して買い出しをしていた。
はぁ、とうとういつも通りになってしまった……。前までは直帰が当たり前だったのに。
「ほまれさんプリキュアに似合うと思うんだけど」
少し自信のある声音で賛同の声を求めた野乃の言葉だったが、残念ながら理想の返事は返ってこなかった。
「うん……」
言いにくそうにする薬師寺。まぁ無理もなかろう。正直、俺も薬師寺に賛成だ。輝木ほまれ…もうちょっと調べる必要がありそうだしな。
「あれ?さあやちゃん反対なの?」
「そうじゃないけど…プリキュアって誘われてなるようなものなのかなって…」
ド正論だ。こいつらが初めてプリキュアになっていた時を思い出してみろ。
二人とも結局は誘われてなったのではなく、自らの意思でなったのだ。
「確かに…では一体どうすれば…」
俺らが悩んでいると、物凄く聞き覚えのある、今話題になっている人物の声が俺達の鼓膜を震わせた。
「行こう、もぐもぐ」
優しい声音で動物に語りかける声の主は……
輝木ほまれだった。
「にょほほ~!?輝木ほまれさん!!??」
「お前いい加減そのテンション疲れないのか…?」
しかし、どうやら俺達は輝木からはあまり歓迎されない者達の様だ。
「なんでこんなとこに…」
少し呆れたように言う輝木。
そしてそこに間髪いれずに返事をする者が居た。
「買い出しの途中や」
ハリーだ。そしてはぐたんも「はぎゅ~」と言う。
そうすると、輝木は物凄い締まりの無い顔で、
「きゃ…きゃわたん…」
と言った。
やっぱこれ驚くわ。どうやったらそこまでキャラ崩壊するんですかね…?
そしてそのままはぐたんを抱っこした。
なんか髪の毛とか掴まれてますけど大丈夫ですかね…
「犬、飼ってたんだ」
突然、薬師寺がそう輝木に言った。
しかし、どうやらその発言は間違っていたようで、
「拾っただけ。迷い犬なんだ。だから、飼い主を探している間だけあの病院で預かってもらってるの」
と輝木はそっけなく返した。もうちょっと優しくしてあげてもいいんじゃねぇのか?
「もぐもぐって?」
今度は野乃が言った。もぐもぐ?旭山動物園かな?
「と、取り敢えず今だけの名前」
ほうほう…ってことは輝木が名付け親か。なんだ、意外と乙女してるとこあんじゃねぇーか。
「不思議な出会いっていうか…」
そこから輝木とこいつの出会いが語られた。要約すると、輝木が街を放浪していた時に、偶然こいつを見つけた。
だが、こいつにはトラックが迫っていて咄嗟にこいつを助けた、と。
そこまでならいい。しかし、その途中に不可思議な出来事が起こったのだった。
赤ん坊の泣き声と共に、時間が止まったのだそうだ。
…これは間違えないな。
「なんだったんだろう…」
不思議そうに思い返す輝木。だが、俺達は一瞬で理解できた。
俺は違うが、こいつらは同じ目に遭ってるからな…十中八九間違えないだろう。
「同じだ…」
野乃がそう声をあげた。
…皆が黙り込んで考える。
「出てけ!出てけ!ここは俺達が使うんだ!あっち行け!!」
いきなり、聞きなれない誰かの怒号が聞こえた。
はぁ、誰だよこんな時に面倒臭ぇ…
「コラァ~!」
すると、今度はものすご~く聞き覚えのある人物の声が聞こえた。
まさか。
俺はすぐに野乃の立っていた場所を見る。
…居ない。あのバカ…また余計な事に首突っ込みやがって……
「意地悪ダメ!!」
と、制するが、
「何だ?生意気な小学生だな」
アホどもに軽くあしらわれてしまった。
確かにお前身長低いもんね…
「小学生じゃな~い!うぬぬ…」
唸る野乃。仕方ないので俺達も現場へと向かう。
「どうしたの?」
薬師寺が優しい声音でそう小学生たちに聞いた。
すると、小学生の内の一人がこう言った。
「バスケしたいのにこの人たちが出てけって…」
アホくせぇ…。たかが小学生になに熱くなっちゃってんの?
「公園の一人占めは良くないよ」
薬師寺が注意した。
やだなに、カッコいい…おっと!思わず惚れちまう所だった。
しかし。アホどもはこう言った。
「じゃ、俺達に勝てたら代わってやるよ」
アホくさ…昭和のスポーツマンガじゃねぇんだからよ…
「バスケで?さあやちゃん得意?」
「球技はそこまで…」
ちょ、なんでこいつら本気になってんすか…?
止めようと思ったのだが、輝木はやる気満々の様で、早速小学生からボールをもらっていた。
そしてそれを吠えているアホ一号に投げつける。
アホ一号は「ぐわっ!」と言いながらもボールを受け止める。経験者か?
どっちにしろ台詞が一々かませ臭いぞ…
「スリー・オン・スリーで良いの?」
「勿論」
商談成立。どうやらバスケットボールで決着をつける事になったようだ。
はぁ、仕方ねぇ。
「薬師寺、お前見てろ」
「え?」
「球技、あんま得意じゃねぇんだろ?」
「うん…」
「なら適材適所っつーか…まぁ、なんかアレだろ。俺やるわ」
俺がそういうと、薬師寺は礼を言い後ろに下がる。
「誰だかしらねぇけど、俺達の敵じゃねぇよ」
「そういうのは勝ってから言うもんだろ…」
俺が小さく呟く。どうやら相手には聞こえていなかったようで、何も反論されなかった。
さぁ、試合開始だ。
全く何でこんな面倒くさい事に…。いや、全部野乃だな。俺の面倒事は殆どあいつが持ってくる。何?厄病サンタかなんかなの?まだクリスマスじゃないんですが……
「ディーフェンス!ディーフェンス!」
野乃は飛び跳ねながらアホな事を言っている。
初心者丸出しじゃねぇか……
しかし、アホ一号はそんな野乃など放って、俺の近くに居たアホ二号へとパスを投げる。
パシッ。
そう音が響くが、ボールをキャッチしたのはアホ二号では無い。無論、俺だ。
そしてゴールへとドリブルをかますが、厄介な事にアホ一号が突っかかってきた。
奴は俺の腹へとタックルをかますと、激痛で思わずボールを握る手を緩めた俺を突き飛ばし、ボールを自分のものにする。
クソ…汚ぇぞ……。痛ぇなぁ!畜生!!
俺の悲痛の叫び等知らず、アホ一号はどんどんゴールへと近づく。
「話にならねぇなぁ!!」
だが、出る杭は打たれる。調子に乗って目立ち過ぎた者に罰を下す者が居た。
ゴールを決めようとするアホ一号の前に、巨壁が。
輝木ほまれだ。
奴はアホ一号が油断している隙に、アホ一号の後ろ側へとボールを突いて飛ばした。
そしてヘナっている内に後ろへと戻る。
確かあのままシュートしたらダメなんだっけ?
「マグレだ!!」
アホ一号が言った。しかし、
「どうかなぁ?」
輝木はそう挑発した。
焼け石に水どころではない。ガソリンをぶちまけやがった。
アホ一号も激昂し、輝木からボールを奪い取ろうとする。だが、綺麗に左右にフェイントをかましてアホ一号を抜く。
すると、今度は今まで空気だったアホ三号が輝木へと突進して行った。しかし、輝木には無駄だったようだ。
右手を後ろに回し、左手へとボールを回して突破した。
えぇ…何コレ黒子のバスケ?
「話にならねぇな」
輝木はまた焼け石にガソリン、いや、亜酸化窒素を吹きかけた。
「グギーーーー!!!!」
アホ一号はマジで頭大丈夫か?と思わず問いそうになるような声をあげた。
そして華麗にゴール!!…と思ったのだが、直前でジャンプを止め、野乃へとパスを回した。
「なんだ?」
思わずアホ一号も呆気ながら疑問を口にする。
「あっ!」
だが、気付いた時にはもう時すでに遅し。
「ふぇーい!!」
適当に野乃が投げた球が、ゴールへと入ったのだった。
ゴール。我々の勝利だ。ねぇ、弱いと思っていた連中に負けるってどんな気持ち?ねぇねぇ今どんな気持ち?
「やったーーーーーー!!!!!!!」
そんな事などお構いなしに、野乃は輝木の元へと駆ける。だが、またすっ転んでしまった。
お前何も無い所で転ぶとかどこのリトさんだよ……。まぁ偶然パンツに顔を突っ込んだりはしていないが。
「じゃなかった、めちょっく…」
またその単語かよ。いい加減意味を教えてくれ…
すると、輝木も心配して転んだ野乃の顔を覗き込む。
「大丈夫?って…めちょっく?」
だが心配ご無用。我らが暴走機関車、Chase The Expressこと野乃はなは、輝木の問いに元気よく返答した。
「めちょっくは!めっちゃショックの略なの!イケてるでしょ?」
なんだそりゃあ…。イケてるかイケてないかはさて置き、なんでそんな頭の悪そうな造語を造った…
「フッ…何それ」
しかし輝木はご満悦のようだ。クスッと笑うとそう言った。
野乃は笑顔で返す。
すると、輝木の顔色が曇った。悲哀の表情を浮かべ、黙り込む。
「思い出した!お前天才スケート選手の輝木ほまれだろ!!」
「何!?有名人か!」
「天才で有名人か!?」
「逃げろ!!有名人には敵わねぇ!!」
「チクショー!覚えてろ!!」
アホトリオコント終了。
俺らがあいつらの方を見る頃には、とっくにトンズラこいていた。
なんだかんだで人生楽しそうだなぁ…
「行っちゃったわ…」
「一体、何だったのじゃ…」
「お前はいつから老人になったんだよ」
俺らもコントをする。いや、コントにしたの野乃だけどね。
「お兄ちゃん!お姉ちゃん達!ありがとう!!」
小学生達からの感謝の言葉だ。
そして俺達はかいさーん。道路に出るために階段を登っていた。
「ほまれさん!超カッコ良かった!!運動神経抜群!めっちゃイケてた!!」
野乃は輝木をベタ褒めする。
しかし、褒められている当人の輝木は、
「あんたの方がイケてるよ」
と言った。だがぁ!!ここで更に攻めるのが野乃はなだ。
「ほまれちゃん!!」
「ちゃん…?」
いきなりのちゃん付けで驚きを隠せない輝木。
きっとそのまま帰るつもりだったのだろうが、思わず歩みを止めて振り返る。
「私、ほまれちゃんと仲良くなりたい!!またね!!」
そう言って手を振る野乃。
そしてそのまま帰る輝木。だが、その背中には「またね」と確かに書いてあったのだった。
「宙飛ぶ期待の星、天才、輝木ほまれ」
野乃はパッドで見ている新聞の記事を淡々と読み上げた。
どうやら俺の記憶は間違っていなかったようだ。天才スケート少女、輝木ほまれ。
これがあいつの過去の真実だ。
「どうしてやめちゃったんだろうって、ずっと気になってたんだけど…」
「ジャンプ失敗、ケガによる長期休養へ。ケガしてたんだ!バスケはあんなに凄かったのに…。ほんとはまだ足が痛いのかな…?」
恐らくそいつは違うと思うぞ。足のけがはとっくに治っているのだろう。
だが、復帰していない…。失敗に対する恐怖とトラウマがまだあいつの心を蝕んでいるのだろうか。まぁ、俺には分かりかねる事なのだが。
「痛いのはきっと足じゃなくて…」
薬師寺もそこで言葉が詰まる。心…と言いたかったのだろう。
そして皆が黙り込む。
その時だった。河川敷の方から轟音が聞こえた。
すぐさま俺達は駆けつける。すると、そこにはいつもの化け物、オシマイダーと………
何故か輝木ほまれが居た。
「さあやちゃん早く!」
「待ってはなちゃん!あそこ!!」
「ほまれちゃん!?なんでここに!?」
こいつらもそこに居た輝木の存在に気付く。
そして話し掛けるが、
「そんなことより、先生が!!」
輝木はそう制した。確かに今はそんなことよりこいつを片付けるのが優先事項だ。
しかし、どうやら輝木は自力で助けるつもりのようだ。
おいおい…流石に生身の人間が敵う相手じゃねぇと思うが…
「どうすれば…」
戸惑う輝木。だが、俺達には心強い味方が居る。
うん。心強すぎるまである。
「大丈夫。さあやちゃん、希無君」
「うん」
「おう」
俺は別にプリキュアでは無いのだが、名前を呼ばれたので一応返事をしておく。
そして、彼女らが変身しプリキュアになる。俺はいつもの通り、イヤホンを手渡した。
「プリキュア!?ちょっとどういう事!?」
まさかのプリキュア登場に、輝木は俺を問いただしてくる。
だが、今の俺に言える事は…
「取り敢えず後にしてくれ」
それのみだった。
輝木が困惑していると、いつものチャラ男が橋の手すりの上に降りてくる。
「来たなぁ?やっちゃってぃ!オシマイダー!」
刹那、怪物の手のひらが俺達の上へと迫る。
だが、勿論俺達は無事だ。
野乃と薬師寺は怪物の手を片手で軽々と受け止め、押し返す。
そして野乃は少し怯んで後ろに体重を掛けるオシマイダーに追い打ちのパンチをかます。
だがしかし、それを怪物は左手で受け止め、跳ね返す。
薬師寺も右側を狙うが、それは相手にはお見通しだったようで川岸へと叩きつけられる。
野乃は上手く着地し、反撃しようとするが…。オシマイダーは自分の懐からバスケットボールを出すと、それを思い切り野乃に向かって投げつける。
ギリギリで躱し、反対側の岸へとジャンプする野乃だったが、オシマイダーは今度は懐からバレーボールを出し、また思い切り投げつけた。今度はヒット。野乃はボールに当たると物凄い勢いで堤防へと突っ込んだ。
「生きてるか!?」
「うん…」
野乃はどうやら生きているようだが、中々のダメージのようだ。
これはマズイな……
「データはばっちりなんだよ!!」
あいつ…俺達のデータを取っていたのか。単細胞みてぇな見た目してる割に結構有能じゃねぇかよ…
と、言っている時にハリーが到着する。
「あんた!なんか知ってんの?あの二人がプリキュアって…」
「はぁ!?何でバレとんねん!?」
ハリーは俺の方を睨む。
いやぁ…俺は悪くないんだよ?あいつらが人の目も気にせずに変身したのが悪いんだよ!?
「あははは……」
一応笑って誤魔化す。
いや、それしか出来る事無いじゃん?
俺達がそんな事をしている間に、薬師寺がいつもの砲撃を放っていた。
だがそれも虚しく、オシマイダーの懐から出したバットに二人とも吹き飛ばされてしまう。
あいつの懐って四次元ポケットかなんかなの?
二人は結構離れた場所まで飛ばされたので、また安否確認をする。
「おい!二人とも生きてるか!?大丈夫か!?」
しかし杞憂だったようで、「大丈夫」と返事を返してくる。
お前らの声音からしてもぜんぜん大丈夫そうじゃないんだけどね。
「プリキュアって…なんで、そんな…。でも…」
そう言って眉間にしわを寄せる輝木。
するとトドメを刺しに来たオシマイダーの足音と、チャラ男の声が木霊する。
「もう終わりかよ?じゃあ、さっさとギブアップして、ミライクリスタルをこっちに頂戴」
クソ、気に食わない。何が気に食わないかって…今、こうして何も出来ずにただ傍観するしかないってのが一番だ。俺も何か力になれれば…
「そんなの……ダメ…」
いきなりだった。野乃がそう言ったのだ。
「諦めない…」
そして薬師寺も野乃に続いて言う。
「プリキュアは、諦めない!!」
まさに、決意が籠った言葉だった。
良かった…ここで心が折れたりしていたら敗北確定だった。
「諦めない………私も…」
輝木は呟いた。
……まさか。こいつもプリキュアに…?
そう言っている間に野乃は飛び立った。
「私も…もう一度…!!」
瞬間、輝木から光が発せられる。
間違えない…!!プリキュアだ!すると同時に、はぐたんも叫び声をあげる。
そして、ミライクリスタルが生まれた。
「あれって…ミライクリスタル!?」
「えっ!?」
その場に居る誰もが驚きを隠せなかった。無論、敵のチャラ男もだ。
「出やがった!!??」
「何あれ…」
同様する輝木だったが、ハリーがどうしたらいいかを指示する。
「走れ!!あれはお前の…未来や!!」
ハリーが言い終わるのと同時に輝木は走り出す。自らの未来を掴むために。
だが、当然オシマイダーが邪魔をしてくる。しかし、野乃と薬師寺がそれを妨害した。
「いっけー!!ほまれちゃん!!!」
そう言われ、ミライクリスタルを掴もうと飛び立つ輝木。
飛んだ!!……が、しかし。
輝木はミライクリスタルを掴めなかった。
ん?マズイ!!!あいつあのままだと堤防から転げ落ちるぞ!!
俺は咄嗟に駆けだし、あいつが落下する寸前で身体を抱きかかえる。
必死に落ちないように体重を踵に掛けるが、俺一人の力じゃ及ばずに共に転げ落ちる。
「消えた!やったぜ!」
お前はどこぞの土方かよ…っと、今はふざけてる場合じゃねぇ!
この言葉から察するに、ミライクリスタルが消えちまったって事か。
「おい…大丈夫か?」
俺が話しかけるが、輝木は返事をしない。
本当に大丈夫かこれ…?
「ほまれちゃん…」
野乃も心配の言葉をかける。
だが、どうやら怪我をしたようではなかった。
「無理…私…とべない」
どうやら原因は過去のトラウマのようだ。
輝木は過去に挫折し、ジャンプに失敗した。一般人からすればたかが一回なのだが、恐らく輝木にとってはされど一回。物凄く重要な事なのだろう。
「やっぱり…痛いのは…心」
薬師寺が言った。前の自分の発言を紡ぐように。
その通りだ。心が悲痛の叫び声をあげている。
「また…泣かせてしまった…」
いきなり、オシマイダーが語り始めた。
「オレはなんて不甲斐ない教師なんだ…」
咄嗟に声の方を向く。そこには、闇のオーラを放った梅橋教諭が居た。
そして、俺の腕の中からは泣き声が聞こえた。
輝木が泣いていたのだ。
「さっさとプリキュアを叩きのめせ!!やれってんだよ!出来損ないがぁ!!」
チャラ男が大声で言った。
お前は人の心と言うものを知らないのか…?
「オシマイダー!!!!」
オシマイダーはまるでその一言に反抗するように、雄叫びをあげる。
そして野乃にパンチをかますが、野乃はそれを跳ね返した。
するといきなり、誰かのエールが響き渡る。
「フレフレ!ほまれちゃん!フレフレ!先生!!」
そう応援を掛けたのは野乃であった。
しかし、オシマイダーはすぐさま復活し、野乃を叩き潰そうとする。
だが、野乃は当たる寸前にそれを右へと流し、力のベクトルを右にへと変えた。
そして一旦後ろへと下がり、地面を蹴ってまたオシマイダーへと近づく。
「ほまれちゃん…私まだ…なんだかよくわかんないけど!でも!!負けないで…!!負けちゃ駄目~!!!」
野乃はそう言いながらオシマイダーの攻撃を躱し、腕の上を走る。
そしてジャンプし……
強烈な脳天割りをオシマイダーに喰らわせたのだった。
すると、オシマイダーは気絶して地面に倒れる。
「ほまれちゃん!!先生も!!」
野乃はそう言うと、倒れたオシマイダーの上へジャンプし、いつものハート型砲撃を放った。
するとまた、「ヤメサセテモライマスゥ」と、全身に虫唾が走るような声でオシマイダーは言い、昇天していったのだった。
「何なんだよ」
チャラ男はそう言い残しまた消えていった。
取り敢えずは解決だ。
俺達は梅橋教諭を河川敷のベンチへと寝かせると、すぐにその近くの木の後ろへと隠れたのだった。
そして数十分後、無事に梅橋教諭は目を覚ました。
「アスパワワが戻ったみたいやな」
ハリーは冷静に状況を分析すると、そう予想を言った。
そして輝木を見送るために、俺達は橋の上へと向かった。
「先生を助けてくれてありがとう。それじゃあ、ここで」
哀愁に満ちた声色で輝木は別れを告げたのだった。
「うん…」
野乃も何処となく悲しげな表情をしている。
「なんか…ごめんね…」
輝木はそう言い残し立ち去ろうとしたのが…
「フレフレ!ほまれちゃん!!」
野乃は必死にエールを送った。
すると間髪いれず、
「やめて!!」
輝木は怒鳴った。
無理もないか…輝木ほまれは今、物凄く落胆しているだろう。プリキュアに成れなかった自分、また飛べなかった自分…そして何より、過去に打ち勝てなかった自分。
様々な負の感情が彼女の中を駆け巡っているだろう。そんな時に「がんばれ」と言われても、「やめろ」としか言いようがない。鬱の患者にエールを送ってはいけないのと同じなのかもしれないな。
「ごめん。今の私には…」
流石の野乃もエールを送るのを止める。
「今はそっとしといたれ…」
ハリーが冷たく言った。
同感だ。気持ちの整理がついて、頭を冷やし終わってからにするべきだろう。
「また明日…また明日ね!!」
野乃はめげずにそう言ったのだった。それが一番の言葉であろう。
また明日…この言葉を無責任だと言う者もいるであろうが、今の輝木にとってはこの言葉が励ましになるのではなかろうか。
少なくとも輝木の背中は、野乃に感謝の言葉を述べているように俺には見えた。
お気軽に感想等どうぞ。いえむしろお願いします!w
誤字脱字等御座いましたら、ご報告よろしくお願い致します。