俺には夢も希望もないというのに   作:COOPER

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こんばんは。COOPERです。
またまた間隔が開いて申し訳ございません。
と、言う訳で早速第七話、どうぞ。


第七話 真意というものは、自分自身で足掻いて見つけるものだろう。

「にんじん兄さん~ネギ姉さん~野菜はわたしの~家族なの~」

決して音は外れていないのだが、絶対に聴いた人の十人中十人は「音痴じゃねぇか」という歌声で某CMのテーマソングを歌うのは、野乃はなであった。

いや、マジで可哀想。声質って本当に重要なんだなぁ…と思い知らされる。

「さあやが出てたCM、良く覚えてるよ!まさかあの野菜少女がこんな身近にいたなんて!」

「なんで教えてくれなかったの?」

野乃が歌い終わり、CMの感想を言うと、俺ら全員が疑問に思っている事をスパッと、輝木が聞いたのだった。

「う~ん、言う程の事じゃないかなって」

薬師寺が少し照れながら言う。

いやいやそれ絶対言う程の事だから。誰だって言うレベルの事だから!

そしてそのあとに間髪いれず、野乃が驚きの声を上げた。

「え~!?私だったら絶対自慢しまくっちゃうよ!」

「確かに、そんなに有名なCMに出てたんだったら普通、人に言いふらすわな」

俺も会話に参加する。

いや、入ってはいたんだけどね?ほら、俺ってシャイだからさ?仕方ないじゃん?決してコミュ症な訳じゃないんだよ?

俺達がそんな下らない話をしていると、どこかから高笑いが聞こえたのだった。うん。明らかに不審者ですね。スマホ出さないと…。などとふざけていると、その笑い声を出したと思われる人物が、近くの木から飛び出してきたのだった。

「薬師寺さあや!ここで会ったが百年目!!一条蘭世で御座います」

そして、美少女が現れた。

俺達は琴浦さんもさぞ驚きであろう急展開に、口を開けて呆ける事しか出来なかった。

するとその美少女、一条蘭世の口から衝撃の事実が告げられたのだった。

なんと、彼女は野菜少女のCMで薬師寺と共演していたそうだ。

「あのCMでさあやと共演してた?」

「でも、こんな子出てたっけ?」

野乃と輝木が事の真偽を問い合っているが、それはすぐに一条により解決されてしまう。

ていうか仮に本当なら悲し過ぎだろ…出てたのに

「出てますわよ!」

そして、一条が持っていたタブレットに例のCMが映し出される。

しっかし、このCMを最初に見た時はビビったなぁ…。実はあの後、俺は帰宅してすぐに動画サイトで調べて野菜少女のCMを確認したのだ。本当に薬師寺が出ていた事に俺は驚いて、椅子から転げ落ちた事を今でも覚えている。それはもう某甘党探偵並みに華麗な転げ落ちだった。

そして話を戻すが、一条が見せてきた野菜少女のCMには確かに、一条と思われる幼女が映っていたのだ。

「ネギ?」

輝木は一条がこなした役が何なのか自信が無かったのか、問うようにそうポツリと呟いたのだった。

「あのCMで…貴女は野菜少女として御茶の間に親しまれた!なのに私はネギ!ただのネギ!」

興奮気味に文句を言う一条に、薬師寺は優しく励ましの言葉を送ったのだった。

「私は好きだよ、ネギ」

「そんな話をしているんじゃありませんわ!悔しかった…惨めだった…あの時誓ったの!いつか貴女をギャフンと言わせてやると!」

「完全に逆恨みじゃん…」

輝木の感想は正しく正論だ。どこにも薬師寺が悪い要素ないんだよなぁ…そして、俺も感想を言う。

「理不尽極まりないな…」

しかし、俺らのそんな辛辣な言葉など耳に入らない程興奮しているようで、一条は薬師に詰め寄る。

「貴女には分からないでしょうね!大女優の母という後ろ盾を持つ貴女には!」

「私はなにも…」

流石にこのままでは拙いと思ったのか、野乃がいきなり仲裁に入ったのだった。

いやいや、さっきから聞いてると何一つ薬師寺に悪いとこねぇじゃねぇか…

「まぁまぁ…って、大女優!?」

おいおい…お前が話に流されてどうするんだよ…と、思わずツッコミそうになるが、俺も気になるので黙っておく。

「あら?ご存じありませんでしたの?この子の母は、あの薬師寺れいらですわよ」

一条の口から出た超がつく程の有名人の存在に、野乃は困惑してしまう。

「えぇっ!?薬師寺れいら!?知ってる!知ってる!あの…あのCMの綺麗な人!」

確かに、薬師寺れいらといえば日本でも一、二を争う程の美貌を持つ女性と言われている。

成る程…言われてみれば、薬師寺にはどこか彼女の面影がある。

「ほんと?」

「うん」

あまりにも現実離れしている話に、輝木は薬師寺に確認を取る。

するといきなり、野乃が薬師寺に迫る。

「サイン!サイン頂戴!」

「アホかおめーは」

俺は野乃にチョップする。いや、しょうがないよね。いきなりアホなことする野乃が悪いよね。

「ちぇー」

そして野乃はそう言うと、頬を膨らます。なんだよそれ、目茶苦茶あざといじゃねぇか。

「そういえば、ちょっと似てる?」

「そう?」

俺らが好き勝手にあれこれやっていると、一条が会話に復帰する。

「一方私は何のバックも持たないでどんなに小さな役でも地道にやってきました。貴女!今度舞台のヒロイン役のオーディションを受けるのでしょう?」

またしても驚きだ。薬師寺がオーディション?もしかしてこいつ将来マジで有名になるんじゃねぇのか?

「一応そういう話はあるけど…」

「私も同じオーディションを受ける事になっていますの。必ずや貴女を蹴落とし、役をゲットしてみせますわ!」

「でも、私は…」

「問答無用!叩き上げの底力、見せ付けてやりますわ!」

薬師寺の言葉を全く耳に入れない一条は、そう薬師寺に挑戦状を叩きつけると、またあの高笑いを上げて帰っていったのだった。

その高笑いマジで気持ち悪いし道行く人皆に絶対可哀想な人を居る目で見られるぞ…

「な、なんじゃ?ありゃ…」

「オーホッホッホって本当に言う人居るんだ…」

「きっと役作りかなんかなんじゃねぇの?知らんけど」

俺らはあいつのおかしな部分について語り合う。だがすぐに野乃によって話題は変更されたのだった。

「でも、オーディションなんて凄いね!フレフレ!さあや!」

野乃は薬師寺を応援するが、応援された薬師寺の表情は少し、いやだいぶ曇っていた。

そしてその後、皆でビューティーハリーに行こうという話になったのだが、薬師寺はオーディションのため家へ。そして俺も、母から御使い頼まれていたためその場を後にしてスーパーへと向かい買い物を済ませ、自宅へと帰ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

×   ×   ×

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、学校でも薬師寺は表情を曇らせたままであった。

考えられる事としたら…やはり母親の存在であろうか。巨大すぎる壁、それも日本を代表する程の大きな壁…それが薬師寺の心に負荷を掛けているのであろう。いや、間違いない。

「さあや…やっぱり元気無かったね」

いきなり俺を頭の中から現実へと引き戻したのは、野乃はなであった。

てか俺いっつもコイツに現実に引き戻されてんな。

「恐らく、例のオーディションだろうな。相手にその気があるかないかは分からんが、あそこまでプレッシャーをかけられたんだ。普通に過ごせる方がおかしい」

俺の返答に対し、野乃は頭を抱えて唸っている。すると今度は、輝木の口から疑問が出たのであった。

「でもなんでたかが一個のオーディションで?」

「いや、たかがオーディションされどオーディション。何でも完璧にこなさないと気が済まないあいつの性格上、やっぱりオーディションという存在はデカいものなんだろうな。それか、何か別に理由があるとか」

「うーん…」

輝木も野乃と同様、唸り声を上げて黙ってしまう。完全に詰んだ。どうにかして薬師寺を元気付けてあげたいのだろうが、誰の頭にも名案は浮かんでこない。俺達が悩んでいると、薬師寺がタイミングよく教室の横を通った。確か先程まで職員室に居たと思うから、恐らくこれから帰宅なのであろう。すると突然、野乃は突拍子もない事を言い始めた。

「さあやの後…ついてっちゃう?」

「…は?」

そんな一言が始まりで、俺達は薬師寺の後をつけていってしまったのだ。そして今は、学校の近くにある池のそばの木の陰で、息を潜めている。

俺達が木陰で薬師寺を見ていると、あいつはいきなり何かを決心したかのように立ち上がり、靴下を脱いで池へと入ったのだった。

俺は靴下を脱ぐ薬師寺を見て、思わず息を呑んでしまう。いや、決して俺は変態じゃないんだよ?ただ、薬師寺のその仕草には何とも言えぬ雰囲気があるのだ。

「ここはどこ…?私は誰…?分からない…暗くて何も見えません…。それでも…私の道は、私が開かなくては…!」

刹那、薬師寺の背中から白い翼が生えた。

勿論、実際にはそんなものは生えていない。だが、間違えなく俺の瞳には、彼女の背中から美しくて巨大な翼が生えているように見えた。喩えがアレだが、まるで頭文字DのAE86のようだ。実際には無いのだが、その雰囲気やオーラによってそういう風に見えていると錯覚してしまう。科学的には照明できないもの…。たかが中学生の演技に、ここまでの動揺と衝撃を覚えさせられたのは初めてだ。確かにこれなら、あの大女優である薬師寺れいらの娘というのも納得だ。

そしてその流麗な様に、俺達三人はうっとりと見惚れてしまう。

「天使さま…?」

ポツリ、と呟いたのは、俺の隣に立っていた野乃はなであった。気付けば、俺達は木陰から出ていて、池の前に立っていた。

「はな!?ほまれ!?希無!?」

野乃の一言に薬師寺は気が付き、後ろを振り返って俺達の名前を呼ぶ。そしてすぐに、輝木は悪気があった訳ではないと言う事を説明する。

「ご、ごめん…覗き見するつもりじゃ…」

「今の何!?」

輝木の説明を遮ったのは野乃だった。

おいおい…折角輝木が説明してたのに……

「天使が本当に居ると思ったら、さあやだったの!天使がさあやで、さあやが天使で!あ~もうなんて言うか!」

野乃は頑張って説明しようとするが、言っている事は最早支離滅裂である。

「背中に羽見えたっていうか…!」

あまりの演技力に、俺らの語彙力は小学生レベルへと退化してしまう。いや、本当に仕方ないのだ。それくらい衝撃的だったのだ。

「ありがとう…今度のオーディション、地上に降りた天使の役なの」

「マジ凄い!役に入りきってる感じだった。スケートの演技の参考になる!」

「そう?自分ではよく分かんないんだ」

全然大した事ないように薬師寺は言うが、正直中学生のレベルではない。

「お前やっぱり凄いのな……」

俺の口からも、称賛の言葉が零れる。

そして野乃は、目を輝かせながらもう一度やってくれと薬師寺に懇願する。

薬師寺もリクエストに答え演技をするが、残念ながら先程俺達が見た薬師寺の演技とは程遠いものであった。

もしかしてあがりやすいのか?

「えっ?」

俺達はいきなりすぎる事に驚いて言葉を発せられなくなる。

「人に見られてると、こうなの…。オーディションは特にダメ…」

まさかの事実を薬師寺はカミングアウトした。

お前それでオーディション受けて大丈夫なのかよ…

「緊張するってこと?」

「色々考えすぎちゃうのかな…?この人は私に何を求めてるんだろう、何が正解なんだろうって」

「でも、あのCMのさあやはそんな風には見えなかったけど…」

輝木の言葉は確かにあたっている。しかし、恐らくだが昔だからこそ、あんな風にふるまえたのではなかろうか。

「確かに、昔は何も考えず役になりきる事が出来たの。でも…私は母のようになりたいのか、それとも…。段々、色んな事が分からなくなっていって…女優になりたいかどうか、自分の気持ちも分からなくなっちゃった」

「気持ちが分からない…」

「残念だが、そいつは俺達にはどうする事も出来ない。自分の気持ちなんてのは自分しか分からないし、答えを出すなんてきっと何年もかかる。何回も足掻いて、踠いて、それでやっと見つかったものが自分の本当の気持ちだろ」

「……………」

皆が黙り込んでしまう。

いや、本当に仕方がない事なのだ。俺はエスパーなんかではないし、ましては薬師寺本人でもない。自分の気持ちが分からなくなった。きっとそれも、大女優である母が原因であろう。恐らくこいつは昔から芸能界に居た。そしてそれと同時に大人たちの期待も背負っていたのだろう。本当に厄介なものだ、大人というのは。自分たちの都合しか考えず、相手の事など気にも留めない。クソ野郎とは正にこんな奴らの事を言うんだろうな。

俺達の沈黙、そして重苦しい雰囲気を破ったのは、またしても野乃であった。

いきなり薬師寺に水をかけたのだ。

「冷たっ!何!?」

いきなりの事に困惑する薬師寺であったが、すぐに野乃が説明をする。

「さあやがこ~んな顔してたからさ」

野乃は自分の指を目じりと唇の端に当てると、それを一気に引き下げて変顔を披露し、それを先程までの薬師寺の表情だと揶揄した。

正直、今の野乃の顔は面白いなんてレベルを逸脱している。

「そんな顔してない!」

薬師寺もすぐに反論する。だが、これで重い雰囲気は無くなり、いつもの空気が戻った。

もしかしたら野乃は人の心等を自然と元気付ける力があるのではないのだろうか。

「ほら!二人もおいで!」

野乃はいきなり、俺と輝木を池の中へと呼ぶ。そしてすぐ、俺達は池へと駆ける。

輝木は走りながら、思い切り薬師寺に水をかける。

「ちょっと!ほまれまで!」

「ねぇ、さあやはどうして、オーディションを受け続けてるの?」

するといきなり、輝木は薬師寺にそう問う。こいつはやっぱり凄い。話、そして相手の心の核心を突いてくる。

「きっと…自分の気持ちが分かりたいからだと思う。答えが分からないまま、諦めたくない。落ちてばっかりだから、かっこ悪いけどね」

薬師寺が自虐的に言うが、すぐに野乃がそれを否定する。

「何で?それ、めっちゃカッコいいじゃん」

「カッコよくないよ!ずっと悩んでるんだもん」

「別に悩めばいいじゃん。私たち、傍に居るし」

「そうだ。答えさえ出ればいいんだからな」

そして、薬師寺の表情に笑顔が戻る。

「はな…ほまれ…希無…」

やはり何と言うか、女子に名前で呼ばれると言うのはこそばゆいものだな。こう、何?心の中がムズムズするっていうか、こちょばしいっていうか。おっと、つい方言が。

そしてそのあとすぐ、薬師寺は俺らに水をかけたのだった。

「フフッ、ありがとう」

と、言う訳で水かけ戦争の始まりである。

はぁ、いや、別に嫌では無いんだけどね?

まぁ、そんなこんなあり翌日。俺達は薬師寺のオーディションの会場に来ていたのだった。

「ここからは一人で大丈夫」

「応援しとるで」

「はぎゅ~」

薬師寺の言葉に、ハリーとはぐたんが励ましのエールを送る。

今の薬師寺の表情や声音からするに、どうやら緊張はしていないようだ。このまま何もなくオーディションが終わるといいが…

「これ、はぐたんと皆で作ったの」

そう言って野乃が差し出したのはミサンガ。

全く、こいつを作るのにはマジで苦労したぜ……。ミサンガ程度ってナメてたがこいつは侮っちゃいかんな。

そして、薬師寺はミサンガを身につけると会場へと向かった。

ここからは俺達に出来る事は無い。

俺がそう考えていると、不自然に会場がざわめき始めた。

恐らくだが、あの一条だか言う奴が薬師寺の事を言ったのであろう。このままでは拙い。だが、俺達にはどうする事も出来ない。

しかし、

「ほまれ」

「うん」

こいつらはどうにかする気のようだ。

いや、マジでどうすんだよ無理だぞこの状況で…

「お前ら…何するつもりや?」

ハリーの言う通りだ。一体なにをするつもり…ってまさか。アレをやる気なのか?おいおい待て待て…アレって冗談じゃなかったの?だってあんな事したら絶対通報されるよ?

「アレ」と言うのはこいつらが考えた本気ならば相当アホな作戦で、他のオーディションの会場と間違えたふりをして、薬師寺を励ますという作戦だ。いやいや、第一会場に入れたとしてもどうやって薬師寺に話しかけるんだよ。絶対無理だろ。

と、思ったのだが…。

「上手くいったよ!」

帰ってきた野乃達はどうやら成功したようで、満面の笑みを浮かべていた。

おいおい審査員……お前ら仕事しろよ……

しかし、成功したならばこちらのもの。薬師寺の本気の演技に勝てる者などいないだろう。

俺がそんな事を考えていると、だ。

いきなり物凄い轟音と揺れが、俺達を襲ったのだった。

間違いない。オシマイダーだ。

「さあや!」

薬師寺はすぐに会場から飛び出してきて、皆変身する。

「さてと、行きますか」

俺がそう言い、皆が駆けて屋外へと出る。

するとそこには、正体不明の飛行物体が居た。シルバーのカラーに、趣味の悪い紫色のパーツ。まさに近未来の乗り物といったところだ。

「現れましたね…プリキュア」

どうやら今回はあのパップルだか言うバブルBBAではないようだ。

しかし、相手の姿が見えない。コレはあくまで俺の憶測だが、今回の相手は今までのどいつよりも強くて狡猾だ。

「ええ!?UFO!?」

野乃が驚愕の声をあげた。

いや、無理もねぇな…。今まではずっと生身の人間が近くに立って指示をするだけであった。もしかしたらあのUFOで攻撃を仕掛けてくるかも分からない。

「貴女達のデータは既に分析済みです。行きなさい、オシマイダー」

どうやら、あのチャラ男やパップルが言っていたデータはコイツが解析したものだろう。通りでおかしいと思った。あんな単細胞の馬鹿どもが解析など出来る筈はないと思っていたが、そう言う事ならば納得がいく。しかし、コイツは厄介だ。今までで一番厄介だ。あの二人は感情的で煽りなどに弱かったが、さっきの声を聞く限り相当な事が無いとコイツは揺るがないぞ…この状況であれ程安定した声が出せると言う事は、相当戦いに慣れているか、もしかしたら感情やそう言った人間の重要な部分が欠如しているのかもしれない。なんにせよ、細心の注意を払わねぇとな。

そしてすぐ、野乃がパンチを放つが…

見事にパンチを撃ち返され、壁へと叩きつけられたのだった。

「おい、野乃!大丈夫か?返事しろ!!」

「大丈夫…ちょっと…油断しちゃったみたい…」

野乃は声を絞り出すように言った。

それに続いて、薬師寺と輝木も攻撃をかます。

「待て、あいつは恐らく当たる瞬間を狙って逆に攻撃してくる。一応構えていた方が良い!」

俺の言葉は正しかったようで、二人のパンチが当たろうとしたその瞬間、オシマイダーの膝蹴りが炸裂する。しかし、二人は既に予測済み。膝を蹴って華麗に着地する。

危ねぇ……どうやら分析したデータをあのオシマイダーに搭載しているようだな…。これは手を打たないと本気でヤバいかもしれない。

「なんのこれしき!」

野乃は薬師寺達に攻撃を喰らわして背中がガラ空きになったオシマイダーを背後から狙うが、綺麗に躱されてしまう。

そして、野乃は正面のビルの壁を蹴り返し、オシマイダーを殴ろうとするが、またもや躱されてしまう。

「キュアエール。貴女の動きは直線的で読みやすい」

どうやら、奴さんガチで野乃達の動きを把握しているらしい。しかも、それに対抗するプログラミングをオシマイダーに搭載しやがった。多分、学習機能も搭載されている。

野乃が躱されたのを見て、輝木も攻撃しようとするが、オシマイダーの足によってそれは阻まれてしまう。

「キュアエトワール。貴女の身体能力は群を抜いている。だけど…思いがけない出来事に対して非常に脆い」

その言葉と同時に、輝木が蹴りあげられる。

そしてすぐに薬師寺が輝木の元へと近づく。

「そしてキュアアンジュ。貴女の戦闘能力は最も低く…」

奴さんが喋っている間に、薬師寺はバリアを貼る。だが、それはいとも容易く突破されてしまう。

絶体絶命。とは正にこの状況を指すに相応しい言葉であろうな。手も足も出ない。

「得意のバリアも、私のオシマイダーで破壊可能・トドメです。オシマイダー」

奴さんがそう言うと、オシマイダーは連続攻撃を始める。そしてその寸前、俺はある事を薬師寺に言う。

だが、あいつが返答する間もなく、攻撃が始まったのだった。

「プリキュア、排除完了。あっ…」

敵さんは自信ありげに勝利宣言をしたが、そいつは咄嗟に俺が放った作戦の所為で虚偽となってしまう。

そう、薬師寺が立っていたのだ。

俺はあの攻撃が始まる寸前、バリアを貼って攻撃を最小限にするしかない…と、言った。そしてあの数秒あったかどうか分からない間の内に、薬師寺はバリアを貼って自身と野乃、輝木を守ったのだった。

いや、しかし流石は薬師寺だ。あの僅か過ぎる時間で俺が言った事を理解し、そして実行したのだから。今、薬師寺達の負傷が最小限で抑えられているのは、正に彼女さまさまだ。

「まだ…」

薬師寺は立ち上がると、そう言ったのだった。

その通りだ。まだ終わっちゃいない。これからだ、今回のあのクソウザい分析野郎をぶちのめすのは。

「キュアアンジュ…もう諦めたらどうですか?」

分析野郎は少し呆れたような、そんな声音で言った。

あの野郎…やっぱり勝った気でいやがる…。いや、もしかして挑発か?いいや、考え過ぎだろうか。どちらにしろ、薬師寺は諦めない。

「私は諦めない。何故なら…!三人を守りたい気持ちは!誰にも、負けない!!」

薬師寺がそう宣言したのと同時に、彼女の胸元が光る。そしてその光が治まると、なにかクリスタルのようなものが生まれる。あれは…

そしてすぐにバリアである、ハート・フェザーを発動させる。

だが、今までのモノとは全く違う。その雰囲気と迫力に、オシマイダーも一歩後ろへと後退する。

行ける。間違いなく。

薬師寺はバリアを貼りながら回転すると、それをオシマイダーへと投げつけた。

オシマイダーはその強さに吹き飛ばされてしまう。

「野乃!今だ!」

敵を討てるのは弱っている今しかない!

どうやら野乃もそれを理解していたらしく、すぐにハート・フォー・ユーを放った。

するとオシマイダーは、いつも通りの気色悪い声を上げ、昇天して行ったのだった。

てか倒すたびこの声聞かされんのかよ…結構しんどいぞ……

ま、そんな事はともかくこれにて一件落着。

薬師寺はオーディション会場がある建物へとすぐに戻り、合格発表を待つ。

残念ながら発表の場には俺達は立ち会えない。まぁ、仕方ないっちゃ仕方ないんだけどね。と、言う訳でビューティーハリーに先に行って、あいつの帰りを待っていたのだった。

そして、それから数十分後…帰ってきた薬師寺の口から、結果が知らされたのだった。

しかし、残念ながら結果は不合格。だが、本人の顔色は曇っている事は無く、寧ろ清々しい位だったのでよしとしよう。

「折角応援してくれたのにごめんね。合格できなくて。ちょっと役からズレちゃって…」

「どうして謝るの?」

「さあや、自分の気持ち言えたんでしょ?」

「なら、謝る必要なんてねぇんじゃねぇのか?」

そう、謝る必要なんて微塵もない。薬師寺は自分の疑問に答を出す事が出来たのだ。それが一番であろう。

「オーディション…受けて良かった」

安堵のため息と共に、薬師寺の口からそんな言葉が漏れる。

そう、それが重要なのだ。本人が納得いくものだったら、それが例え不合格だろうと合格だろうと、なんでもいいのだ。

「女優になりたいかはまだ分からないけど…自分の心をキチンと見つめて、頑張ろうって思えたから」

それと同時に、薬師寺はあの時のミライクリスタルを見つめる。

「一つ目のミライクリスタルより、色が深くなっとるな」

「私の心の、もっと深い所から出てきたから…かも」

と、言う事ならば、ミライクリスタルはクリスタルが誕生した瞬間の気持ちの強さ、深さ、そういったものによって効果や力の大きさが変わるのであろうか。

「私だけの光…」

なんにせよ、今までよりパワーアップした。今度こそ、あの野郎どもにひと泡吹かせられるかもしれない。

「うんうん。成る程な」

ハリーはご満悦だ。いや、それもそうだな。力が強くなったのもそうだが、これで薬師寺は人間としても大きく成長する。保護者的な立ち位置に居るこいつからしたら、さぞ喜ばしいものであろう。

「ほまれ」

俺達が今回の件について其々想いを馳せていると、唐突に輝木を呼ぶ声がした。

「やっと会えた!」

いきなり現れた者はそう言うと、輝木に抱きつく。

…は?抱きつく!?待て待て、状況が把握しきれない。頭の中で整理しよう。

俺達は其々に考え事をしていた。するといきなり輝木の名前を呼ぶ奴がいて、そして抱きついたと。ごめん、やっぱり意味分かんないわ。名前呼んでから抱きつくって…過程がぶっ飛び過ぎだろ。外国かよ。

だが、今輝木に抱きついている奴の髪の色は金髪だ。あ、あれ?マジであちらの国の方?

そして、そいつはもうアイドルか何かじゃないかってくらい、整った顔立ちをしていた。

……取り敢えず、一言言おう。

イケメンは死ね。




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