今日もなんでも屋は喫茶店扱いです   作:ポレン

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お客様って可愛ければいいですよね

 最近どうも、お店の方に来店するお客さまが増えた。

 けれど頼まれるのは面倒事ではなく食事なので肉体労働的には楽になったとも言える。面倒なお客さまは増えたけど……。

 まあ、喫茶店扱いされているせいで買い出しの頻度が上がったのはいただけない。

「はあ……重い………」

 私の目線を超えて積まれた荷物は、運ぶのにも手間がかかる。というか、前がロクに見えない。

 こんな調子だとどこかで足を引っ掛けて転びそうなんですが、仕方ないですね。

 食材ばかりなのに、どうしてこう……。

「それ、愛香一人で持つのは無理にゃー」

「え?」

「はい、かして」

 有無を言わさずに私から荷物を奪い取る一人の女性。

 着流した黒い着物に、艶やかな黒髪。

 艶細やかで瑞々しい肢体が短い着物の先から伸び、その両腕が私に巻きつき――。

「って、荷物は!?」

 私から奪っておいてどうして両手が空いてるんですか!

 と文句を言うために彼女の拘束を逃れようとすると、黒い尻尾が腕に巻きついてきた。外で普通に尻尾を出す辺り、やはり彼女は相当な自由人だ。

 幸い周りに人はいないものの、一応の認識阻害くらいはしておかないと。

「まったく……これだから黒歌さんは」

「ん? あー認識阻害の魔法ね。ありがとね、愛香。でも、逃がさないわよ?」

 恩は恩では返ってこない。

 この人たちには常識的なことだからこの人が私から離れないのは想定内。けど、ここで私は思い出した。

「それはそうと荷物! あれまた買い直すの嫌ですから!」

 最初に奪われた荷物! かかった金額はどうでもいいけど、重い物をもう一回運ぶなんて嫌なんですけど!

「荷物? それならほら、しっかり持ってるにゃー」

 呑気な彼女の指差す先。

 そこにいる、銀髪の青年。

 少し暗みがかった、濃い銀色。引き込まれるような透き通った蒼い眼。

 その青年の手には、私の荷物が確かに握られていた。

「あら、ヴァーリくんですか?」

「俺以外の誰かに見えていたら大変な事態だな」

 なにが面白かったのか、微かな笑みを見せたヴァーリくんこと、現白龍皇である彼は、荷物を少し掲げ、

「ちょうど愛香の店に行くところだったんだ。店まで運ぼう」

 と言い、歩き出した。

 さて、これはどういうことだろうか?

 目線を黒歌さんに向けるが、ヴァーリの気まぐれよ、といったことしか読み取れなかった。きっと、深い意味はなく、近くに来たから立ち寄った程度のことなのだろう。

「まあ、この時間帯なら特に誰かがいるわけでもないからいいですけどね」

 心配なのは、この人たちの身分というか、属している組織というか。

 たまにアザゼルたちが愚痴っているのを聞いているだけに、彼らとは遭遇しないことを祈るばかりだ。

 お店に入るまでが怖いね。

「ところで今日は二人だけ?」

「ルフェイたちなら他の場所の散策をしてるわよ」

「ふーん……そっか、残念」

 ルフェイちゃんならかなりのサービスをしてあげたのに。ホットケーキでもショートケーキでもクッキーでもなんでも作ってあげるのになぁ。

「はあ……」

「……愛香は相変わらず小さいものとかわいいものが好きなのね」

 自分のキャラはどこへやら。黒歌さんもため息を吐きたそうな顔をしながら話しかけてくる。

「もちろん好きですよ。貴女たちのボスも、ルフェイちゃんも」

「愛香は変わってるわね」

「そうですか? ねえ、ヴァーリくん、どう思います?」

「そこで俺に振るのか? 確かに愛香は変わっているとは思うが。特に、俺たちのことを知っているにも関わらずアザゼルやサーゼクス・ルシファーに報告もせずに受け入れているところとかね」

 話ながら来たうえに重い荷物も持ってもらっていたので、気づけばお店の前まで来ていた。

 ヴァーリくんの言葉は一度保留し、お店の鍵を開ける。

「さあ、どうぞ。いらっしゃいませ、お客様」

 誰かに見つかる前に二人を店内に招き入れ、早々にプレートを持ち出し、入り口に『貸切中』の看板を立てかける。

「……よかったのか?」

「いいんですよ。こうでもしないと、ヴァーリくんたちとはお話できませんからね。もっとも、お昼には必ずアザゼルが来るので、そのときはあちらの個室に移ってもらいますけど」

 アザゼルはたとえ貸切だろうと平然と入ってきますからね。

 この前もソーナたち駒王学園の生徒会が貸切で使用していたのに途中で「コーヒーが飲みたくなった」という理由で来店したのは記憶に新しい。自由人ならではの思考でもあるのだろう。

「それでもいいにゃー」

「はい、そうしてもらえると助かります。あと、黒歌さんはそろそろ私の腕から退いてもらえると嬉しいのですが」

「ん〜それはもう少し後でもいいかにゃー」

 疑問系ではなく断定されてしまった……これは本当に引き剥がすのに時間がかかりそうだ。

 でも尻尾も巻きついているせいかちょっと気持ちいいかも。作業さえなければ抱きつかれていようと構わないんだけどなぁ。

「これはここに置いておけばいいかな」

「ありがとうございます、ヴァーリくん」

 ここまで荷物を持っていた彼も適当なところに荷物を置いてくれたので、あとはこちらで引き受けても問題ない。本当に助かってしまった。私も重いものを持つのは苦手だし、そもそも近接戦に持ち込まれれば勝ち目のない人たちばかりだ。

「さて、わかってはいますが一応聞きますね。お二人はなにをしにここへ?」

「決まってるにゃん。愛香の手作り料理を食べによ」

「だな。愛香の淹れるコーヒーが飲みたくなってね。悪いが頼むよ」

 うん、ですよね。

 前回なんていきなり来てラーメンが食べたいとか言われたときと比べれば全然いいよ。

「はい、少々お待ち下さい」

 とりあえず作業に入るとして、ああ、先ほど買ってきた素材も使いましょうか。

 でも作業となると――うん、どう考えてもやりづらい。

「ねえ、黒歌さん、そろそろ……」

「やー」

 離すどころか余計にくっついてくる黒歌さん。腰に抱きつかれては困ってしまう。

 仕方ないですね。

「黒歌お姉ちゃん、ダメ?」

「おね――……って、ダメよ、ダメ」

「黒歌ちゃん、本当に腰から手を離してくれないと構ってあげないよ?」

「ちぇ〜、じゃあこっちでいいにゃー」

 渋々、といった感じで腰から離れる黒歌さん。と思いきや。

「隙あり!」

「ひゃっ!? あ、ちょっと黒歌さん、やめ――あ、んっ……」

「言われた通り腰からは離れたにゃー! まあ、胸触ってるだけなんだけどね?」

 あ、あろうことか人の胸を後ろから鷲掴みにして揉みしだいてくる!? あ、そこダ――。

「って、そこもダメに決まってるでしょ!」

「えーでもほら、こんなに感度いいのに?」

「くーろーかー…………」

 一向に手を離さない様子に、私の中のイライラも募っていく。

 黒歌もかわいいのだから、ある程度のボディタッチも嫌ではないし、構ってほしいと言うのなら構うのも平気だ。けれど、それとこれとは別問題だよね?

 ああ、ここが私のお店の中でよかった。

「ふふ、ふふふふふふ……黒歌、お姉ちゃんとたくさん遊ぼうね。だいじょうぶ、今日は泣いても手加減しないから」

 直後、私と目があった黒歌はすぐさま私から離れ後退したが、もう遅い。

 仙術だろうとなんだろうと、一切の自由はさせないからね、黒歌。

「さあ、遊ぼうか」

「ひ、ひにゃああああああああああああああああ!!」

 

 

 

 

 

 人間すっきりすると何事もうまくいきますね。

 会心の出来である料理を黒歌さんとヴァーリくんにお出しし、世間話を始める。

「相変わらず、愛香は強いな」

「そう?」

「ああ、仙術の使い手である黒歌をこうも容易く無力化するとは思わなかったよ」

 ヴァーリくんの隣で小さくなる黒歌さん。

 かわいそうに、よっぽどお遊びで疲れてしまったのだろう。

「私も人間の中では最上級って言われてますからねぇ。流石に神様相手は無理ですけど、皆さんくらいなら相手にはできますよ」

「フッ、やはりキミとは一度戦ってみたいものだ」

「ヴァーリくんと戦うのは遠慮したいところです。容赦なく潰されそうですから」

「よく言う。あんな部屋を簡単に作れるのに。俺が捉えるよりも早く制圧されそうだよ」

 あんな部屋とは、彼らの属している組織のトップちゃんを招いている部屋のことだろう。アザゼルですらいまだに気づいていないだろう強固な部屋。人の多いときはヴァーリくんたちも活用しているからか、その有能性がわかるらしい。

 前はお忍びで来ていた九尾の親子を招いたりもしたっけ。

「っと、それはそうとヴァーリくん、駒王学園のお昼休みが始まるので、アザゼルがやってきます。長居するようでしたら声をかけないまま出て行ってもいいですからね」

「ああ、いつも悪いな。必ず、キミとの関係が悟られないように出て行くよ」

「まあ、仮にばれてもシラを切るので構いませんよ。ほら、黒歌さんもお部屋移動しますよ」

「んー……」

 いまだに先ほどのお遊びを引きずっている黒歌さんを優しく撫でながら、私以外には中の人物の認識をされない部屋へと案内する。

「さて、ではごゆっくり。なにかありましたら、気軽にお呼び下さいね。あと、次はどうぞ、皆さんでお越しください」

「愛香って、やっぱり幼女が好きなの?」

「黒歌さん、それは間違いです。かわいいものが好きなんですよ、私は」

 彼女の疑問に答えつつ、部屋の扉を閉める。

 それと同時。

「おう、愛香。宣言通り今日も来たぜ。さって、じゃあ今日は――お、なんかいい匂いがするな」

「いらっしゃい、アザゼル。さっきまで新作パンケーキの練習をしていたので。よければ今日はパンケーキを作りましょうか?」

「パンケーキか……いや、たまにはいいか。あとはコーヒーを頼む。酒でもいいけどな」

「教師にお昼から酒は渡せませんよ。すぐに用意するのでお待ち下さい」

「あいよ。じゃあ、今日も頼むよ」

 まったく、この人は毎日毎日、よく飽きずに来るものです。

 貸切中の看板もアザゼルのせいで効力をなくしたので店内にしまいこむ。

 さて、外が少し騒がしくなってきましたね。これは、また新しいお客様が来店するのかもしれません。

 仕方ない、準備を始めましょうか。

 

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