※前回のお話
生徒会に呼び出された『西住みほ』は、履修を拒否した戦車道を、もう一度始めることを決意した
そして決意の中、現れたのは転校前『黒森峰女学院』で一緒に戦車道をやっていた『逸見エリカ』だった
ーーーーーーーーーーーーーー
去年の10月頃までだったか、『私』が熊本の黒森峰女学院を学舎にしていたのは。
後期の途中で私は転校した。
産まれてからずっと住んでいた熊本の地を離れて一人、茨城の大洗の地にやって来た。
大した理由ではない。
黒森峰戦車道の10連覇がかかった決勝戦で負けて、その責任をとって戦車道を辞めて、当時戦車道のなかった大洗女子学園に転校しただけだ。
あの試合、OG会や周りの人間はフラッグ車に乗っていた副隊長『西住みほ』の責任が大きいと言っていたが、それは違う。
私達が進んだあの道に、待ち伏せの可能性が高いことを隊長『西住まほ』と副隊長『西住みほ』は考えていたし、皆もそれを承知していた。
けれど、たとえ待ち伏せの可能性があっても蹴散らせる戦力であったし、あの道を進めれば戦局は大きく変わることもあって、皆が納得して進んだのだ。
結果的には、あの道に待ち伏せは居たし、それでも十分相手を蹴散らせる戦力をもっていたから『そこについては』問題はなかったはずだ。
運が悪かった、神は私達に味方していなかった、ということだろう。
天候は大雨、視界もかなり悪く、進んでいた道の横には増水し流れの早くなった川、大雨の影響による地盤の悪さ、色々問題はあったのだろう。
フラッグ車を護るために前にいた私が乗っていたティーガーⅡに、砲撃が集中し地面が抉れたのだろう戦車の操縦が出来なくなり、そのまま、増水した川に落ちていった。
私以外のティーガーⅡに乗っていた選手達は、川に落ち、沈んでいく戦車を見て大混乱に陥った。
下手に外に出るのは危険だし、少なくともコーティングされている車内ならば水は入ってこないし、救援を待つべきだ、と冷静に言っていたつもりだったけど、皆に私の声は届いていなかった。
一人がハッチを開けたことにより、川の水が車内に入ってきて、さらに車内は大混乱。
ハッチを閉めさせようとしたが、一人、また一人と外に出ていってしまう。
せめて流されないようにロープを着けろッ!っと最後に出た選手にロープを渡し私も出ようとした瞬間、川の流れに戦車が動きハッチが閉じてしまった。
後から聞いた話だが、私が渡したロープを岸にいた『西住みほ』に渡し、選手達は川に流されず無事に助かったらしい。
私?
70t近い戦車なのに、川の流れに負けてどんどん流されていったらしいわ。
ハッチは水圧で開かない、コーティングされているはずの車内にどんどん泥水が入ってきて『ああ、これは助からない』と思ったわ。
ハッチやキューポラを開けようと必死になったわ。
外に出ようと必死に努力したわ。
けれど、ビクともしない。
泥水が首の所まできて『こんなところで死にたくないッ!誰か助けてッ!!』そう思っていた。
息を吸える場所もなくなりかけて、意識も訳がわからなくなった時かしら?
泥水で前が見えない状態だったし、半分意識もなかったからよくわからなったけど、何処からか光が指したように見えたわ。
光が指した方向に手を必死に差し出すと、誰かがその手をしっかり握ってくれた気がした。
とても暗かった
とても寒かった
朦朧とする意識の中で見えたのは、どろどろになった蒼い髪と、泣きそうだけど自身の目を見た私に輝くような笑顔、そして、
「安心して。すぐ救護車が来る。頑張ったね、もう大丈夫だよ。」
私の手を握ってくれた手はとても暖かかった。
そして私は意識を完全に閉じた。
・
・
・
次に目を覚ましたのは、決勝戦の2日後。
副隊長『西住みほ』が乗っていた戦車はフラッグ車。
彼女が私達を助けるために、試合中にも関わらず降りたことにより指揮系統が途絶。
そのまま、待ち伏せしていた相手戦車の猛攻に遭い、フラッグ車は撃破された。
これにより黒森峰戦車道の10連覇の夢は泡と消え、関係各所からこの責任について、怒濤のような糾弾が黒森峰戦車道に届いていた。
多くの人間は、フラッグ車に乗っていた副隊長『西住みほ』の行動について責任がある、と言って彼女を糾弾した。
冗談じゃない。
危険はあるが、あの時、あの場所を進軍することに賛成したのは、黒森峰戦車道の選手達全員だ。
それにあの子が岸にいなければ、私以外の選手達は川に流されて命を落としていた可能性もあるし、何よりも『川に落ちてしまった戦車の車長は私』だ。
地面がぬかるんでいることを知っていた
川に落ちる可能性があることを知っていた
フラッグ車を護るためとはいえ、あの場に戦車を置いたことは私の責任だ
川に落ちたとき、皆を冷静にできなかったのは私の責任だ
『あの子』の行動が間違っていないとは言えない。
『あの子』の行動が間違っていた、とは言わない。
『あの子』の責任について、皆は大きく声をあげるけど、私は私が行った行動について責任をとる。
それでいいんだ。
私にとっても『あの子』にとっても、皆にとっても・・・
「・・・あれは不味いだろ・・・」
「兄さん?」
「間に合わない・・・いや、間に合うッ!!」
「え?兄さんッ!?駄目ですよッ!!問題になりますよッ!!」
「喧しいッ!!お前の言葉でも今は聞けんッ!!」
一人の少女の言葉を振り切り、男は自身のバイクを走らせた。
「・・・初めて見た・・・兄さんのあの姿・・・」