『……ふむ、君も駄目か』
声が聞こえた。
果たしてその声の主が、今の自身の現状に落胆したのか、それともどうでもいいのか。
最早それも分からない。
『そろそろ刻限だ。君を最後の候補とし、その落選を持って、予選を終了する』
告げられた言葉の意味を、薄ぼんやりと理解する。
なんだ、死ぬのか。
死、言葉にすればたった一文字で済む。
だが実感は無い。まるで自分には縁が無いとでも言うかのように。
自身に追いつこうと迫る死の気配。
けれど自身の体はぴくりとも動こうとはしない。
死、即ち、終わり。
生きているなら、いつかは死ぬものだ、なんて考えてみる。
ならば自身は死を受けいれているのだろうか。
分からない、分からない、分からない。
ただ一つだけ分かることがあるとすれば。
「…………うご…………け…………」
ほんの僅かでもいい、指先を動かそうと全ての神経を尖らせていると言うことだけだ。
ドールはすでに砕かれた。力無く横たわる無貌のガラクタは、まさしく今の自身そのものである。
声の主の言葉を借りるとすれば、落選、それが自身の現状と言えるのだろう。
それでも、それでも…………だ。
醜く足掻いてでも、無様に這いずってでも。
それでも自身は……………………。
音にならない言葉が口から溢れだす。
瞬間―――――――――
“ああ…………それで正しいのです”
序々に薄れていく意識の中、それを見つける。
目の前に立つ男の足。
そして男の手に握られ、だらんと垂れ下がった人形の四肢。
「サーヴァントライダー、呼びかけに応じ、ただいま到着致しました」
ぶん、と男が軽々と人形を投げ捨てる。ごろんごろん、と人形が転がり、力無く転がる様はまさしく今の自身によく似ていた。
「閣下」
気づけば、男が片膝を着き、倒れた自身に手を差し伸べていた。
「お名前、お聞かせ願えますでしょうか」
男の手を取り、ゆっくりと立ち上がる。
そうして男の顔を真っすぐ見据え、呟く。
「――――岸波…………白野」
それが、自身、岸波白野と彼、ライダーの最初の邂逅だった。
* * *
月の聖杯戦争。
それが今、岸波白野と呼ばれる少女が巻き込まれた騒動の正体である。
意味が分からない、それが少女の正直な感想であった。
予選では戦争に参加を希望したウィザードたちが自我や記憶といったパーソナリティを全て削除され、仮初めの記憶と役割を与えられた上で学園生活を送る。そして期間内に記憶を取り戻し、サーヴァントを呼び出せたもののみが予選突破となる。
サーヴァント、それは英雄である。正確には、伝承などに語られる英雄を月の聖杯がその人格、能力などを再現した、月の聖杯によって生み出される戦闘代行体。
少女のサーヴァントも、過去、歴史上に存在した実在の人物をモデルとした再現データであるとライダークラスの彼は言う。
クラス、とは言わば役割を差す。戦争、と名がつくだけあり、呼び出される
一つは
。
この七つの兵科を基本としてサーヴァントたちは呼び出され、それぞれの役割を振られる。振られた役割に応じて、サーヴァントはよりその兵科に適した能力値に修正され、それによってサーヴァントごとの特色と言うのも変わってくる。
さて、この戦争だが、戦争と名はつくものの、百二十八名で一斉によーいどん、と戦いを始めるわけではない。本戦からは百二十八名でトーナメント形式の一対一の戦いを行うこととなる。
つまり、守ってくれる味方は居ない。だが邪魔してくる敵はいくらでもいる。何せ聖杯の所有権を得るのはたった一人に限られている。誰もが残りの百二十七名全員がライバルだと思っている。
だがそんなことはどうでもいい。
少なくとも、岸波白野にとってはどうでもいい。
今岸波白野を悩ませる問題は二つ。
この戦いに敗れたマスターは死ぬ、と言う事実。
そして、何よりも。
――――――――岸波白野の記憶が戻っていない、と言うことである。
「…………バグ、でしょうか?」
マスター各位に与えられた個室の入り口前で、休め、の姿勢で立つ男、ライダーがやや戸惑ったように呟く。
「分からない、分からないけど…………けど、立ち止まっていられない」
岸波白野には自身の名前以外の記憶が無い。
それはこの聖杯戦争において、大きなハンディとなることは間違いなかった。
自身が何者かも分からない、と言うことは、自身に何ができるのかも分からなければ、自身がどうしてここにいるのかも分からないと言うことだ。特に後者は、モチベーションに大きな影響を与えるだろう。
「どうして私はここにいるのか、か」
思考を巡らせながら呟く声に力は無い。
少なくとも、岸波白野の感性で語るのならば、人を殺すのも殺されるのも御免である。
だったらどうして自身はここにいるのか、他人を殺してまで叶えたい願いがあると言うのか。
万能の願望機、それが聖杯と呼ばれるものだと言われている。
どんな願いでも叶うのならば、どんな手段を使ったとしても得たいのかもしれない。
それくらいは理解できる、だが自身が一体どんな願いでここにいるのか、それが分からない以上、どうしても相手を殺すこと抵抗はある。
だが相手は誰もかれも容赦無く自身を殺しに来るだろう。
ただでさえ、マスターとして最弱だと言うのに。他人の命まで気にする余裕などあるはずもないだろうに。
生き残りたいなら殺すしかない。
だが殺したくない。
堂々巡りする考えが、頭の中を駆け巡って岸波白野を迷わせる。
「……………………迷っているなら」
そしてそんな彼女を見て、ライダーがふと口を開く。
「いっそ忘れてしまうのも、手かと思います」
そんなライダーの言に、少女が首を傾げる。
「忘れる?」
「堂々巡りする考えに陥ってしまったなら、いくら考えても結果なんて出ないのだから、悩まず先に結果だけ出して、後で後悔してしまったほうが良い、と言うことであります」
ライダーの言葉を受けて、少しだけ考え込む。
それが正しいことなのか、それとも間違っているのか。
岸波白野には記憶が無い、故に感性…………つまり、何となく、以外に判断基準が無い。
だから分からない、それが正しいのか、間違っているのか。
けれども。
「…………うん、そうしてみる」
自身のサーヴァントの言である。
そのくらいは、信頼してみようと思った。
今の白野には、ライダー以外によって立つ物が無い。
だから、せめて、ライダーのことくらいは、信頼したい。
この決断が正しかったのか、間違っていたのか。
そんなもの、未来の自分に決めてもらおう、そう思った。
* * *
フランシス・ドレイク。
それが一回戦で戦うこととなった、シンジのサーヴァントだ。
「撃て、撃て、撃てぇぇぇぇ! 全部全部全部全部、撃って、撃って、撃って、破産するまで撃ち尽くしてやりな!」
クラスはライダー…………奇しくも、自身のサーヴァントと同じ、ライダー同士の戦い。
「良く回る舌だ…………自分には真似できないな」
その両手に持つマスケット銃が火を噴き弾の嵐を見舞う。
背後からぬっと現れた砲が轟音を立て次々と放たれていく砲弾が周囲を抉っていく。
それでも、ライダーは倒れない。
「やれやれ…………閣下、少々お離れください」
自身のライダーが持つのは向こうのライダーと同じ銃。ただし向こうの遥か昔のマスケット銃と比べ、こちらが持つのは近代的な物。数十年前までなら地上で使われていただろう現代テクノロジーの産物である。
「ははっ、良く凌ぐ。ならどんどん行くよ、シンジィ、アンタももっと離れてな」
「付き合おう、お前が倒れるまではな」
「ぬかしな!」
互いに銃と言う飛び道具、距離としてそれほど近いわけでもない。
だが両者の間を飛び交う銃弾の数は異常の一言に尽きる。
何も知らない人間が一歩足を踏み入れれば即座に体中に穴が開くだろう銃弾の押収。
けれど、宝具を…………互いの切り札を未だに切っていない現状、これでもまだ本気でないことは明白であった。
宝具とは、言わば具現化した神秘であり、そのサーヴァントを象徴する物でもある。
これを破らない限り、互いに勝ちとは言えないだろうことは分かっている。
両者とも狙っているのだ、暴風のような攻撃の嵐の中で、互いの必殺の一撃をぶつける瞬間を。
現在の戦況だけで言えば、やや不利と言ったところか。サーヴァント自体はほぼ互角と言っても良い。少なくとも、互いに小手調べで苦戦するような相手では無い。
だがマスターの質が違う。岸波白野と間桐シンジでは、マスターとしての力量が天と地ほどの差がある。
優秀な
そして、その時は来る。
「シンジ…………そろそろ勝ちに行っていいかい?」
「ああ、見せてやれよ、エル・ドラゴ、僕の力の程ってやつをさ」
ライダー…………フランシス・ドレイクの魔力が高まっていく。
「野郎ども、時間だよ…………嵐の王、亡霊の群れ…………ワイルドハントの始まりだ!!!」
その背後が波打ち、顕現するは黄金の艦船。
そしてそれに追随するかのように次々と現れる小型の船。
「ライダー!」
その全てに砲が取り付けられている。白野のライダーを半包囲するように展開された火砲の包囲に堪らず白野が叫び。
「心配無用であります、閣下」
男が呟く。
「さあ…………今宵もまた、伝説を塗り替えよう」
爆発的に高まる魔力。
そしてその背後の空間が波打ち、ソレが現れる。
岸波白野はそれを知っている。
岸波白野の知識にはそれが確かに存在している。
「戦闘……機……?」
初めて見る自身のサーヴァントの宝具。
実際、岸波白野は自身のサーヴァントの真名を知らない。
未熟のマスターである自身が迂闊に口にしないよう、自身で聞くことを止めたからだ。
だから、一体どんな宝具を持っているのか、今の今まで知ることは無かった。
その宝具は、現代の英雄がモデルになったと予想した白野の予想を確信に変える。
「はは、それがアンタの船かい。随分と小さなもんだねえ…………さあ」
ライダーが笑う。笑い、自身の持つマスケット銃を彼に向け構え。
「撃ち落としな!」
瞬間、火砲が火を噴いた。
「発進」
と、同時、戦闘機の後方から突如、爆発音と共に火が噴き出す。
その勢いで一気に戦闘機が加速し、一瞬にして離陸、そして飛びあがり、さして広くも無いコロシアムの空を舞う。
「落とせ、落とせ、落とせ落とせ落とせ落とせ落とせぇぇぇぇぇ!」
轟音がコロシアムに轟き渡る。コロシアム全体を揺さぶるほどの大火力は、けれどただの一度も空を舞う翼を穿つことは無く。
しゅん、と超高速で戦闘機が一隻の船の脇をすり抜ける。
直後、船が爆音と共に火を噴き上げ、虚空へと沈んでいく。
さらに虚空を舞う戦闘機から、しゅう、と白い軌跡が放たれる。
それがミサイルだと気づいた瞬間、狙いを違えずライダーの両脇の船を同時に爆発する。
休まず放たれる砲弾の雨、嵐を潜り抜けながら接近した戦闘機がその機銃でまた一隻、また一隻と沈めていく。
「は、はは! はははは! なんだいこれは」
次々と沈められていく自身の群れ、これだけの放火を浴びせられながら掠りもしない戦闘機を見て、ライダーが笑う。
「アンタのほうが…………よっぽど悪魔だよ」
自身へ向けて放たれる十発近いミサイルの白い軌跡を睥睨しながら、ライダーが呟き。
直後、艦隊の中心であった黄金の船が爆発と起こした。
【CLASS】ライダー
【マスター】岸波白野
【真名】KOBAYASI
【性別】男
【属性】中立・善
【ステータス】筋力C 耐久D 敏捷D 魔力E 幸運B 宝具A++
【クラス別スキル】
騎乗:EX
乗り物を乗りこなす能力。ただしライダーの場合、馬などの生物に関してはクラス補正がかかって何とか乗れる程度。
車や船、航空機など近代テクノロジーの産物ならばどんなものでも乗りこなせ、さらに搭乗時に全ステータスに補正を得る。
怪物殺し:B
ライダーを英雄へと押し上げた切欠となった出来事から得たスキル。人外存在と相対した時、全ステータスが上昇する。
エースパイロット:A
航空機乗りとして最上位の腕前を象徴するスキル。どのような状況の空であろうと支障無く航空することができ、航空機の能力を十二分に発揮させることが可能となる。
【宝具】
語り継がれし伝説の翼(レジェンドオブファイター)
ランク:A(A++)
種別:対軍宝具
レンジ:1〜99
最大捕捉:100人
ライダーがライダーたる由縁であり、ライダーが生涯乗り続けた魔改造戦闘機。
二十世紀の日本の航空自衛隊で採用されていた汎用性に長けた戦闘機をとある神々が改造した結果、およそ時代を数百年は先取りした凄まじいスペックとなっている。
さらに使われた技術に神秘が多用されており、その武装にまで浸透した神秘は、並の神秘では防ぐことすらできない。
ただし扱いは非常に困難であり、ライダー以外の誰も、まともに飛ばすことすらできなかった非常にピーキーな機体となっている。
()内は下記の宝具使用時。
空舞う戦場の悪魔(ラーズグリーズ)
ランク:A+
種別:対軍宝具
レンジ:1
最大補足:1人
数々の戦場を戦い抜いたとある飛行士たちの経験と知識を、とある邪神が写し取りライダーに与えた物。
ただの数機の戦闘機で一軍を相手取ったその経験と知識は、ライダー自身へと溶け、戦場にて昇華され、神秘へと至った。
航空機の類に搭乗した際にのみ使用可能。操縦する航空機を宝具化させる(元々宝具だった場合、ランクを上昇させる)。
自由自在に空を舞い、変幻自在のテクニックを持って他者を翻弄する戦場の悪魔の技術の結晶。
ステータス作るのに一時間、小説書くのに二時間かかったぜ。
前に感想でKOBAYASIをライダーで、とか言ってたの思い出して、今日ふと思いついたネタ。
話し方は軍人さんなので、上官(マスター)には基本敬語。あとは適当。
エクストラとかやってる途中でPSPがぶっ壊れて最後までできなかったので実は途中から知らない。
あと続かない。
最後に。
大変お待たせしました。もうすぐオリ主スレ更新します。
二年前に温めていたネタ解凍してたら某ドラマCDと序盤被りまくっててまじで困惑しました。