今回より、リクエストの方に戻れると思います。
一時方向が怪しくなり誤解を招いたこと、重ねましてお詫び申し上げます。
決意してから約十日。
提督は退院した。何度か見舞いに来た飛鷹とやり取りをして、解決の糸口を探した。
頭の怪我が包帯もとれて、メンタルも一応は大丈夫と診断されて、鎮守府へと復職した。
事前に通達と仕事の調子をみて、把握してから彼は戻ってきた。
明らかに違う、ハッキリした意思のもとに。苦悩の色は見られなかった。
戻って早々、彼は部下を食堂に集めた。心配したり、怒ったり、様子を見る彼女たちに。
彼は決心していたことを決行する。
「みんな。俺が不在の間、とても心配かけさせたみたいで、本当にごめん。此度はみんなに対しての数々の無神経な言動にくわえ、暴走行為を繰り返し迷惑をかけた……いいや、かけてしまいました。本当に、申し訳ございませんでした」
部下の前で、全員に向かって頭を深々と下げた。
飛鷹も同時に、隣で鎮守府に招いた混乱の一件をもう一度謝罪した。
全霊の謝罪と感謝、そして改めて皆にする誓い。
今度はしっかりとコミュニケーションをとって、溝や軋轢が出来ないように努めていき、決して彼女たちの心を軽んじたり、蔑ろにしないことを宣誓した。
当初は予定通り、土下座しようとしたら一部の艦娘に威厳が無くなるなら止めるように言われてしまい、断念した。
皆は、彼の態度に何かを感じてくれたのか、小言や文句を言いながら最終的には許してくれた。
特に怒らせていた艦娘にも再三の謝罪をすると、反省したのであればもういいといってくれた。
彼の勤務態度に文句がある訳じゃないし、その言動さえ改めてもらえればここは居心地はいいと大井も北上も言った。
どちらかと言うと北上優先の大井と駆逐艦が好きではない北上には、たとえワガママに等しいことでも考慮してくれる提督がやりやすい。他の鎮守府だとバッサリ切り捨てられて、揉めるのだそうだ。
山城や比叡には、姉妹に対する言動を改めさえすれば文句はないと断言された。
流石に金剛も一時の荒れていた具合を見ているために、互いに反省して仲直りすることも出来た。
で。新入りの翔鶴と曙だが……。
「お互い、まだ知り合ってそんなに月日は経過していないよな。来て早々、見苦しいものを見せてしまって、申し訳なかった。情けない上に無能な提督かもしれないが……どうか、これからも二人の力添えを頼みたい」
丁寧に謝って、彼は二人にも言動を改めるとキチンと言い切った。
「あ、あの……わたしも、提督がいないことを良いことに、あの時は言い過ぎてしまいました。本当に申し訳ありません、提督」
焦る翔鶴。よい扱いをしてもらっておきながら、言い過ぎた部分を自覚して謝ろうと思っていた彼女に、彼は間違っていることは何時でもいってほしいと言うのだ。
基本、目上には礼儀正しい彼女はこれからはそうすると言って、収まった。
「あたしも、提督には散々意味わかんない罵りしたり、見下すようなこと言って……ごめんなさい。ちゃんとこれからは思い込みじゃなくて、この目で見て行動するように努力します」
曙の場合、配属当初より目立っていた事実無根の中傷を謝罪した。
彼が何かした場合は遠慮なく叱るけれど、それ以外は部下として接すると言った。
性格の相性も言えないが何より思い込みでクソ提督呼ばわりは曙が悪いと思っている。
態度が腹が立ったが、彼の仕事に文句はないのに、全部を卑下するようなことをいい続けた。
その言動のせいで、この鎮守府に飛ばされたのに、またトラブルを引き起こすところだったことを反省した。
しっかり、仲直りの握手をして、皆と彼は改めて共に戦ってくれとお願いした。
言動以外は問題点のない彼は、そしてこれからどうするかを皆に語った。
「……もう、飛鷹から聞いたと思うけれど、俺の軽はずみな行動のせいで、指輪がまだ14も余ってしまった。大本営にはきちんと使えと言われていてな。今の四人には、何も考えずただ活躍を期待して手渡してしまったが、次回からは練度以外にも、よくよく周囲と相談して渡そうと思う。……ああ、あと。ここも重要だから、予め言っておきたい」
指輪について、彼は正直に己の見解を明かすことにした。
飛鷹ともよく相談して、どうするべきか決めた。
ある程度、騒動の原因も説明しないとまた起きる。
言いふらすことではないが、言わなければ伝わらない。
彼は……己の過去を、少しだけ語った。
即ち、ケッコンカッコカリによる恋愛の悲劇を何度もみたせいで、怖じ気づいているという情けないことを白状した。
「みんなは戦場で戦っている艦娘で、俺は提督。今は戦争中。俺が死なないようにしても、どんな対策をしても、俺か、皆が死ぬ確率は……何時までも付きまとうと思うんだ。そんな中で、俺は皆と結ばれても、幸せにできるか、分からない。その幸せを守り抜く自信もない。何時かは、終わりが来てしまうような気がして。今は、どうするべきか、何がいいのか……ベストな答えが、見えないんだ。だから、時間がほしい。この中に、俺のようなろくでなしを好いてくれる酔狂な者は少ないと思う。けれど、まだ……今は、何も言えない。あの様を晒して、悩んだ末に行き着いたのがこの答えだ。…………曖昧な結論ですまない。詰ってくれていい。軽蔑も構わない。俺はそれだけの事をした。皆が言うほど、立派な人間じゃないし、適当に生きるようなクズだが……これが、今言える精一杯」
これが、逃げる以外でたどり着いた答えだった。逃げるのなら最後の最後。そう決めた。
他に何か方法を探したい。ベストな、互いが幸せになれるような答えがほしい。
玉虫色の結論だ。ただの先伸ばしに過ぎないし、指輪を渡すのに、まだ他意は持てない。
艦娘の気持ちは、しっかりと胸にとどめておくから、保留にしてほしい。
言わば、こう言うことだった。聞く前から突っぱねることもやめた。皆を深く傷つけるだけだと思う。
せめて、断るなら言い切れる理由をもち、ちゃんと誠意を持ちたい。それが、今の彼だった。
同時に、本音を彼はこう告げた。
「もっと言えば……恋愛など、知らなくてな。好きとか愛しているとかよくわからない。誰かを好きになったことすらないからだろう。皆の気持ちが、まだ……自分の中で理解するには、時間がかかると思う」
彼女いない歴=年齢だと正直に明かした。それを知っているのは飛鷹と初回の時に話した磯波だけ。
意外そうな表情で皆は彼を見る。人ならば、女性のことを知っていると思ってたが異なるようだ。
申し訳ない、と項垂れた。結局、彼は恋愛すら満足にしたことのない男。
色々な意味でガッカリ……と一部は思うが、彼のことを少し知れればよかったと思う。
今まで自分のことは何も言わない、個人情報が極端に少ない人だった。
今は積極的に打ち解けるようにしてくれた。ならばこれからどうにもなる。
相変わらず卑下する悪癖は直ってないが、あとあと自信を持てるように皆で頑張ればいい。
彼は、ケッコンカッコカリにたいしてはこれが今の誠意であると述べた。
もう少し、女性に対する理解を深めた方がいいのは目に明らか。
しかし、嫌な経験もしているらしいので無理強いもしたくない。
今の話を聞いていた彼女たちは、各々どうにかして、指輪を狙えるか改めて考えることにした。
彼は数えきれない謝罪をしてから、皆に聞く。
「……俺は、皆に贖罪をしないといけない。これ程までに、多大な迷惑をかけたのだから、何か俺にできることがあったら何でも言って欲しい」
この一言が、彼女たち覚醒させた。彼の暴走でうやむやになっていた、例の話。
もっと艦娘のことを知るというやつ。今の彼にも、なんだかんだ必要な事ではないか?
そう思い立った彼女たち、特に行き損ねていた駆逐艦たちは大声で突然主張を始めた。
……彼の言う、酔狂な艦娘を代表して、とある艦娘が元気よく叫び、彼に言った。
「提督さんと一緒にいろんなことをしてみたいっぽい!」
「……えっ?」
手をあげて発言した駆逐艦に、彼の顔色は……みるみるうちに、色が抜けていく。
猛烈に嫌な予感と、己の発した言葉がいけない方向に加速させたことを自覚した。
要するに、プライベートを一緒にすごそうと言う、前と大して変わらないことを皆に求められたのだった。
「おお、貴様思ったよりもやるじゃないか! よし、次はこれだ!」
「な、那智止めて!! この人お酒に弱いって言ったでしょ!? 絡むな、絡むなってば! 無理して余計に飲んじゃう!!」
その日の夜。
執務終了後に、事件は起きた。
駆逐艦の提案に賛同した艦娘たちの意見に、彼は頷くしかなかった。
前と大きく変化がないのに、前よりも追い詰められている気がするのは何故だ。
きっと、嫌がる自分から受け入れる自分になったと言い聞かせて、努力すると返事をした。
で。早速、夜のうちに重巡と戦艦に宴会に誘われて、彼も恐々初めて参加したのだが……。
誘った艦娘は酒豪で、彼は酒が苦手だった。前回断っていたがゆえに、彼なりに打ち解けようとするのはいいが、飲兵衛相手には悪すぎた。
早速行くのはいいが、心配してついてきた飛鷹は大慌て。
元々姉妹に凄まじい飲兵衛がいるので、こういう手合いは慣れていたが誘った重巡、那智は絡み酒だったのだ。
提督も無理して飲むものだから、開始一時間でふらふらに酔っぱらっていた。
「本当にすんませんでした。この通り、この通りでございます。どうかお許しください」
酔いすぎて、意味不明な行動を始めた。酒を飲んで騒ぐ皆にまた土下座して許しをこうていた。
顔は真っ赤、息は酒臭い。現在、重巡の寮の談話室で夕飯をかねた宴会のさなか。
提督の復職祝いと銘打って、ただ酒に厳しい代理の時に飲めなかった鬱憤を晴らしているだけ。
それでも、初めて提督が出席しているのでみんなテンションは高かった。
「提督。あまり、そうへりくだるな。司令のあなたがそんなようでは、私達は困るぞ」
隣で黙々とツマミを食べていた長門が酔っぱらいながら苦言を言う。
提督はそれにも、
「もーしわけございませんでした。お許しください長門さま」
「いや、私の方が部下なんだが……」
やっぱり謝る。罪悪感は残っていて、酔っぱらっていた本音が出てきている。
長門は困っていた。那智に絡まれかなり短時間で悪酔いしている。
那智や他の酔っ払いは彼を見て豪快に笑っているが、
「…………。頭に来ました。全員、外にでなさい。爆撃してやります」
提督と宴会ができるとホイホイついてきた酔っ払い加賀がマジギレしていた。
ちゃっかり弓を手元において、頬を赤くして眉を吊り上げている。
「そう固いことを言うな、加賀。大体貴様は水臭いぞ。私達とて、貴様の悩みを聞くぐらいはできるのに、決まって断ってばかりで」
那智は普段から愛飲する達磨を一口煽り、言う。
彼が悩んでいた時期、那智は気晴らしにと何度か誘ったがそのたびに断られた。
「それは私も同感だ。あの時、何もできなかった自分が歯痒かった」
不器用に慰めようとして長門は提督の手の骨を砕きそうになった。
この場にいる大半の艦娘が彼の悩みを聞くぐらいの態度は示していた。
悉く逃げていたのは提督の方。遠ざけていたのは彼なのだから。
「配慮して頂きながら無下にしていたこと、本当に申し訳ございませんでした。以後、心身に叩き込み決して忘れぬよう精進していきます」
彼は何度も謝っては許す代わりにもっと飲んで楽しめと言う那智やもっと酔う艦娘に酒を注がれ、全部律儀に飲み干した。
飛鷹が止めるも空しく、結果。
「ヒャッハーっ!! 皆の酒を飲めねえ提督は提督じゃねえっ!! 飛鷹が分身してるけどお前って忍者だったのか?」
メーター振り切れ提督がぶっ壊れた。
視界が歪んでいるようだが、話しかけるのは長門である。
「私は長門だ。飛鷹はあっちだ」
「え、飛鷹? 何か青くなってない?」
「提督。私、加賀です。お酒どうぞ。日本酒、美味しいですよ」
「あ、どうもありがとう」
今度は黙々と酒を飲む加賀に晩酌されて、日本酒をごくり。
「て、提督……! 寝落ちの処理手伝ってってば!」
飛鷹は一足早く潰れた艦娘を部屋に連れていく仕事をしていた。
彼女も相当酔っぱらっていた。貧乏くじをひいていたが文句は言わない。
「あー、ちょっと待ってー。今行くー」
千鳥足で向かう彼に、最後まで駄弁っていた加賀と那智と長門も続く。
気がつけば日にちが変わっている。
結構長い時間を騒いでいたようだった。
粗方協力して片付けと搬送を終える。すると、提督が呟いた。
「なんか、お腹すいたな……。夜食食べてから風呂はいって寝るか」
「確かに少し食い足りないな。ツマミは……もうないか。もう一本、秘蔵のがあるが……貴様はどうする?」
「行きます」
那智に付き合う彼は悪い笑顔で言うが、顔は最早ゆでダコ。
限界も通り越しているだろうに、自覚はないらしい。
明日には動けなくなりそうだ。長門も飛鷹も最後まで付き合う事にした。
戸締まりをして、会場は明日非番の那智の自室へと移動する。
シンプルな室内に、最低限の家具だけと言う那智らしい部屋だった。
両サイドの部屋は空室なので、最低限騒ぐ程度なら問題あるまいとのこと。
「えーと……ああ、パスタしかないや。具材も微妙、とくるか。しゃーない、手抜きでいくかな。みんなニンニクとか平気?」
提督は夜間の女子寮のキッチンに立ち、皆に問う。
一応聞く辺り、少しは気遣いが出来るようだ。
夜食にこれはキツいが、皆酔っぱらっているので思考力が低下して、大丈夫と言ってしまう。
それが、翌日悲劇を生むのだが。
「パスタ? あぁ、羽黒の持ってきた余りか。その辺のは好きに使ってくれ。私は料理はしないんでな。貴様はするのか?」
「自炊レベルならねー。って言っても基本は手抜きばっかで、できる範囲に入らないけど。ペペロンチーノ作るから少し待ててー」
自炊するらしい彼は、すぐに準備に取りかかる。
「彼は家事ができるのか。意外だな」
「本人は雑だって言ってるけどね。普通よ普通」
長門が見直すような視線を向けるが飛鷹はそういって、軽く体を動かす。
那智は泊まっていくなら好きにしろと皆に言う。すると提督は彼女に、自分は戻ると言った。
「飛鷹はいいけど俺はだめっしょ。そういう誤解を招くし、昨日今日でいきなり失敗は不味いと思うし」
「こんな時間に女の部屋で料理しているのに何を言うか。ま、二次会のようなもんだが」
彼はしっかり、そういう分別はつけていた。那智の軽口に、その時はそのまま言うと言った。
「確かに、大丈夫?」
「平気だろう。彼の普段の行いを見ていれば分かる。セクハラすら一度もない人だ。こういう騒ぎぐらい、これからいくらでもある。それに、私達だしな。提督にそういう感情はない。安心してくれ」
心配する飛鷹を尻目に、長門は酔っていてわりとひどいことを言うが、彼は安心したように苦笑い。
「二人には結構助けられているし、感謝もしている。俺も尊敬してるぐらいかな。流石ビッグセブンに、うちの鎮守府の頼れる姉貴の那智って」
彼の言葉に偽りはない。それを二人は聞いていて感じた。
嬉しいことをいってくれる。何だか、気分が良かった。
「次の戦もこの那智に任せておけ。貴様に最高の勝利を見せてやるさ」
「ビッグセブンの恥ない戦いをしよう。あなたと共に、誇れる戦いをしよう」
旨そうな匂いをさせて、湯気を出すペペロンチーノを持ってきた彼は笑いながら言った。
「サンキュー。頼りにしてるよ」
飛鷹もこの二人と戦うのは心強いし、気にならない。
長門も那智も普通に尊敬しているだけ。ライバルにはならないし、頼れる仲間だ。
とりあえず今は彼のお手製簡単ペペロンチーノをいただく。最後のお酒を飲みながら。
因みに、わりと好評だった。ただ……。
「提督、お酒臭い……あとニンニクの臭いが……」
酔ったまま寝落ちしてシャワーを浴びてなかった彼は翌日、身綺麗にしていた飛鷹に指摘された。
序でに二日酔いも起こしていたが、薬と気合いで乗りきった。
ようやく戻ってきた彼の生活。
今度こそ、本当に艦娘と向き合うと、彼は誓いながら新たに歩き始めた……。