本当に結ばれる、ただ一つの方法   作:らむだぜろ

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全ては鍛えるマッソー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 軽巡、神通は信じられないものを見てしまった。

(そんな……提督、そんなことって……!)

 彼女が見てしまったもの。それは彼女の淡い思いを裏切る重大なものだったのだ。

 そう。

 執務室を掃除しているときに発見してしまったもの。

 それは、丁寧に偽装された、分厚い男の日焼けした筋肉が描かれている、如何わしい本だったのだ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……知ってしまった。

 いや、まさかゴミ箱に入っているものを勝手に閲覧するなんていけないことなのに。

 秘書の日のことだった。彼女は昼休み、執務室を掃除していた。

 掃き掃除を終えて、ゴミ箱を除くと……何やらカバーがずれている本を発見。

 何だろうと手に取ったところ、カバーが外れて姿を表す卑猥な物体。

 神通は悲鳴をあげそうになって堪えた。顔は真っ赤で火が出そうなほど熱い。

 気になってしまったのだ。上に偽のカバーをかけてある、謎の本。

 薄いものの、開いてみると中身は筋骨粒々とした男達の屈強な肉体の裸体の写真がびっしりと入っていた。

 一応やたらカットがキツイパンツははいていたが……ポーズは見せびらかす前提だと思う。

 全部読みきる前に戻ってきた提督に気付いて、慌ててバレないためにそのまま捨ててしまったが……。

 あれはきっと違いない。きっと、あのまま進めば……あのまま進めば……!!

 神通は知らないがあれが俗に言うエロ本、と言うのではないか。

 見たことがなかったが普通にショックだった。色々な意味で。

(提督……そんな趣味だったんですね……。わたし、知りませんでした……)

 翌日から神通からハイライトがご退場なさった。

 提督がまさか、女性よりそっちの趣味だったとは。

 性の知識が薄い彼女にとって、あれは精神的に不味かった。

 女性よりも男性の筋肉の方が好きだなんて。こんなこと、誰に相談すれば。

 彼の隠された性癖を知ってしまった神通にとって、ショッキング過ぎて魂が抜けた。

 悪夢になって出てくるムキムキの腕、足、腹筋に背筋。こびりついて取れやしない。

(あああああああああ……!! 筋肉が、筋肉がああああ……!!)

 連夜魘される彼女にとって、男の逞しい肉体はキャパをオーバーしすぎて理解できない。

 好きになるなら彼がいいし、然し意中の人は筋肉に夢中。女にはあれは無理だ。

 彼女は日々、目に見えて元気がなくなっていた。

 失恋のショックと理解できない筋肉趣味に神通は病み始めているのを彼は知らない……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んー。そりゃあれだね。提督はホモだね」

「……ほもぉ?」

「要するに野郎大好きな野郎ってこと。あちゃー、まさかの趣味暴露に私もドン引きだわ」

「!!」

 あまりの追い詰められた妹に姉が心配して相談に乗ってくれた。

 姉の部屋で詳しく説明するとひどい言われようで返ってきた。

 妹の見たそれは間違いなくエロ本で、彼は男が好きな男、要するにホモ扱いになった。

 説明を聞いている限りそれが原因だろうと川内は思う。

 神通は目を見開いて驚いた。然し、言われてみれば納得もいく。

 今まで女性との深い関係になったことはないとはいった。

 愛も恋も知らないといった。女性との恋愛を知らないと言う意味。

 それはまさか、男同士で付き合っていたから……?

「姉さん……。提督は、女の子を知ろうとしているんだけど……」

「ん、じゃあ両刀使いか。うわ、すごい趣味してるわねあの人」

「?」

「人類みんなだーい好き。女も男も何でもござれ」

「!?」

 姉の実に見も蓋もない言い方に神通はさらに混乱する。

 何でもござれて? 怖い。提督が怖い。男も好きで女も好き?

 彼女はもう限界寸前だった。半泣きで困ってしまった。

「あちゃー。神通には次元が高い変態だったね。うん、暫く近づかないでいこう」

 提督、変態確定。川内の暴走で彼の株は暴落するのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 神通は見た! 

 翌日から彼は上半身素っ裸で執務室に姿見を持ち込み、ポージングをしているところを。

 慌てて逃げて半泣きで川内に密告。川内はその日のうちに姿見を回収しておいた。

 

 

 

 

「!!」

 神通は見た!

 それは彼が執務室で、腹筋をしながら苦痛の顔をしつつ、どこか満たされている顔をしているとこを。

 慌てて逃走、川内に密告。川内はその日のうちに執務室に罠を仕掛けて腹筋すると上から水が流れるように細工しておいた。

 

 

 

 

 

 

 

「!!!!」

 神通は見た!

 提督が新たな世界にいくために何かの雑誌をしながらまたも上半身素っ裸で激しく運動しているところを。

 裏返った声を出す前に撤退、川内に密告。川内はその日のうちに素っ裸でいると上からタライが落ちてくる罠を設置しておいた。

 

 

 

 

 

 

「!?!?」

 神通は見てしまった!!

 彼が執務室で、客人と思われる大男の腕を、興味深そうに卑猥な手つきで触っているとこを。

 とうとう神通はその場で失神。川内が直ぐ様回収、提督に最早執務室にはいれなようにしてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、最近何が起こっているのよ? 貴方が凄まじい変態だって噂が流れているけど」

「……。聞きたくないけど内容は?」

「貴方が実はホモで、艦娘相手に両刀使いになりつつ、筋肉を鍛えて楽しんでいるって言う噂」

「ヴェアアアアアーーーーーッ!?」

 ここ一週間ほど様子がおかしい。

 部下たちは提督を変態であると言っているのだ。

 一応聞くと、曙は「……変態じゃないよね?」と聞いて、翔鶴は「……提督……」とめっちゃ警戒し、秋雲は「そっちの薄い本は製作してないなー。……一筆書こうか?」とウキウキしながら聞かれる。

 挙げ句には執務室に罠が仕掛けられて、水とタライが降ってきた。

 姿見がいつの間にか撤去され、昨日などは執務室に入れなくなった。

 一体、何が起きていると言うのか……?

「また何か勘違いか何かさせたの?」

「えっ……。俺、最近減量始めただけだぜ。仕事終わりに暖房ガンガンつけて、その中で筋トレしてるだけ。ちゃんと人が居ないとき限るし」

 運動不足と筋力アップを狙ってはじめた筋トレ。上半身が汗だくになるので素っ裸で激しくやっている。

 因みにちゃんと一人の時だ。暖房が効いている執務室にちょうどいい簡単な運動だけだが。

 昨日は同僚の筋トレマニア、ちょっと近くに来たついでによってもらい、お手本の筋肉をさわらせてもらった。

 健全なハズなのに何ゆえにそんなハイレベルな変態に昇華されたのか。理解に苦しむ。

 気を使っているハズなのに。

 秘書の飛鷹は、彼なりにしっかりとやっているの理解した。

 だが、どうやら彼の評判を落とそうとする裏切り者がいるらしい。

 ようやく仲良くしてきたのに変態と来たか。しかも両刀使いですと?

(……よし、殺そう)

「おいそこの猛禽類。ヤバイことするなよ。いいか、ヤバイこと絶対するなよ」

「了解、狩りの時間ね。鷹を甘く見ていると怖いことを教えてやるわ」

「止めんか!!」

 彼に危害を加えたとして飛鷹が久々にキレた。

 噂の元手探し出して厳罰を与えると言う

 彼も誤解だと言う事を知らすべく、対策をとる。

 このままでは狸の腹が引っ込まない。減量を続けるためにもやってもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ……!! おのれ、変態の提督! あの子は絶対に渡さないよ!!」

「俺お前に何かした!?」

 速攻捕まった。その日の夜。執務室にお冠の飛鷹が、くの一を引っ捕らえて帰ってきた。

 縄でぐるぐるにされて、転がる川内は意味不明な事をいっている。

「川内。一体どういう了見かしら? 彼が両刀使いのドマゾって。言っとくけど、この人は単なる堅物で女の扱いが下手くそな童貞だから。ホモ疑惑は否定できないけど」

「飛鷹さ、文句があるなら俺にいってよ。然り気無いディス入れると俺泣くよ? あと俺のそっちの事情言わないでいいから。セクハラでしょ」

「私は気にしないわ」

「俺がするの!!」

 怒り心頭の飛鷹は言いたい放題言うが、川内は嘘だと断言する。

「そんな見え透いた嘘を言うな! 見たって言う情報はあるんだぞ提督!! 正直に言って、バイなんでしょ!?」

「違うわっ!! 男の趣味はねえよ!? 毎回言うけど何でホモ扱いが出てくる俺!?」

 川内は認めない。彼がごくごく普通に女の子が好きで、野郎には気がない事を。

 言い争うが飛鷹は容赦なかった。

「ふんっ。そこまで言うなら、誰がその情報を提供したか、言えるよね?」

「絶対に言わない! 私は身内を売るほど落ちぶれていないわ!!」

 既に白状していたようなもんだ。彼は察する。

(ああ、神通か……。そう言えばその時期からだもんな、トラップ。やったのは川内か)

 飛鷹は拷問にかけても吐かせようとする。相当怒っていて話を聞くとは思えない。

「くっ。結局提督の慰みものにするんだ!! 夜戦が海じゃなくてベッドの上になるんだ!! 酷い、最低だよ提督! 忍者だってそっちの夜戦は経験ないのに無理矢理なんて!!」

「いや、しないからね? 部下に手を出すとか榛名のトラウマ甦るから勘弁して川内……」

 涙目で騒ぐ川内に彼もハイライトがオフになった。あの時はヤバかった。提督人生の終了が聞こえた。

 飛鷹が容赦なく追求するも、彼女は抵抗する。

「……。分かった。そこまで言うなら、通常の夜戦にしよう。演習だ。準備しろ、川内」

 平行線の言い争い。仕方なく、彼は勝負で決着をつける。

「今からお前は俺の指揮する子達と戦ってくれ。俺が勝ったら、お前の情報を教えてほしい。悪いようにしない」

「……私が勝ったら?」

「神通に後で間宮と伊良湖にスイーツの食い放題のお願いしてくる。お前と那珂も一緒にいいぞ」

 甘いものは世界を救う。川内はやる気になって、準備しに自力で縄をほどいて工厰に向かって走っていった。

「ああ、もしかして神通だったの? その誤解」

「多分な。……筋トレしてたのを覗いちゃったか。うーん、しくったなぁ」

 飛鷹が成る程と頷く。あの神通ならばあり得る。

 彼は内線をとって、神通の部屋に連絡。苦笑いしながら、恐る恐る出た神通に説明する。

「あー、それは筋トレの本だよ。中身は写真つきで、筋トレのやり方が後半にのってるの。見たのは写真だけ?」

 彼女の発端は捨ててあった筋トレの本だった。

 後ろを見ていないせいで誤解し、川内がいらぬことを吹き込んで完全に思い込んでいた。

 要するに、川内が全部悪い。噂を広めたのも神通を変態から守るためらしい。

 ため息をついて、神通には後で甘いものでも皆で食べてと謝った。

 そして、受話器をおく。飛鷹はまたもプッツンしており、すごい表情であった。

「さて。じゃあ、少しあのムッツリスケベを懲らしめますかね」

 次に提督は内線で収集をかけた。急な演習でも、彼女たちは喜んで駆けつけてくれた。

 夜の戦に格段に強い駆逐艦を六人、しっかりと集めておいた。

 お仕置きの演習が、夜をこよなく愛する川内に牙を向く……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ヴェアアアアーーーーー!?』

 提督みたいな絶叫が聞こえる。川内が一人で駆逐艦たちに追い回されているのだ。

 無線でその様子を聞く提督と飛鷹。彼は結構本気で執拗に彼女を追い回すように指示を出す。

「夕立ー。川内は追い詰めると急に反撃してくるから、徹底的に余裕を奪うんだぞー」

『了解っぽい!! 素敵なパーティー、楽しもう川内さん!』

 悪夢が忍者に襲いかかる。主砲が火を吹き、彼女を威嚇。

 更にパニックになる川内。何せ最高練度が六人ときた。そりゃ慌てる。

「朝潮、満潮。先回りして、脅かしていいぜ」

『朝潮、了解! 全力で脅します!』

『任せて。あんたの酷評の恨みは晴らすわ!』

 朝潮と満潮が先回りして川内を脅かして追いたてる。

『ギャアアアーーーー!!』

 夜の闇に紛れるような姿をしているので慣れている川内でも目視は難しい。 

 何より後ろから狂ったように主砲を乱射する狂犬が追いかけてくる。

 更には。

「綾波はそのまま照らし続けて。白露、援護続けて。陽炎、フィニッシャーは接近して鳩尾に一発パンチいれたれ」

『はい。綾波も頑張ります!』

『あたしが一番頑張ってるから、見てて!』

『オッケー!! 一気に行っちゃうよ!!』

 逃げ回る川内は常に光に照られて丸見え、夕立の姉が更に追撃して、余裕のない川内に陽炎が不意討ちを打ち込む。

 彼女は約一時間、六人に翻弄されていじめられ、戻ってきたら今度はお怒りの神通が、余計な知識を吹き込み噂を流した姉を連れていく。

「なんで!? 神通なんで!?」

「姉さん、庇い方を考えてください。あの人の評判を落とす真似をわたしが、許すと思います?」

 単なる筋トレの本だったと知るや、恥ずかしい思いをしてムッツリスケベと同類と思われた気がした。

 なので川内に対して凄くいま、怒っている。

「覚悟してください。……朝までお説教です」

「え、今演習から戻ったばっかり……」

 鬼となった神通には聞こえない。思い人にムッツリスケベと思われる辛さは分かるまい。

 土気色の顔で、川内は部屋へと引き摺られて行ったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 尚、数日後には誤解はとけた。

 筋トレには長門がコーチとしてついてくれるので、堂々と鍛えることができるようになったはいいが。

「提督。減量には食事も大切だ。上質な睡眠も必要だな。暫くみっちりと付き合おう」

「お、おぅ……」

 意外と厳しい長門コーチは、何故か専門的なやり方で進めていった。

 結果、二週間ほどで彼は身体がゴリラと言われるほどガチムチな身体に仕上がるのだった。

 ……ここまでは、目指してなかったのだが……もう、気にしないでおこう。


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