ふと、思った。
最近じゃすっかり皆と仲良くできていると思う。
飛鷹も割りと良い感じと褒めてくれたし。
ここいらで、いつもこっちを困らせてくれている艦娘にお返ししてやろうと企む提督。
親睦を深めるため、ふざけあうのもよいと思う。
一応、相棒に相談。内容も全部明かす。
「良いんじゃない? 笑えるレベルだし、誰も傷つかないなら」
呆れていたがオッケーは出た。よし、と早速準備を開始。
怪しまれないように日々の仕事をこなしつつ、飛鷹の手助けを受けて仕上げること三日。
……出来上がった。渾身の出来映え。悪くない。
邪悪に笑う彼は翌日、ドッキリを開始した。
「!?」
翌日。本日の秘書、朝潮が部屋を訪れた。
朝の挨拶をしながら入室。すると。
「……」
何だか妙な物体が提督の机に座っていた。
ぎょっとして、強ばる朝潮。提督じゃない。
「だ、誰ですか!? そこは司令官の机ですよ!!」
気合いで怯みを正して睨み、叫ぶ。
その物体はなにも言わない。背後で一人でにドアが閉まった。
油断していた朝潮は、慌ててドアノブを回すが施錠されている。
……閉じ込められた。あの得体の知れない物体と同室。
何度やっても開かない。朝潮はその物体に向かって振り返り、静かに問う。
「……あなたの仕業ですね?」
「…………」
なにも言わない。朝潮はツカツカと近づいていく。
「司令官は何処ですか? 私が怒らないうちに白状するのが身のためですよ」
バンッ、と両手で机を叩いた。脅しをかけるも、物体は身動きしない。
「……だんまりですか。鎮守府への不法侵入、司令官の拉致、及び監禁。……許されると思っているんですか。ここは軍属の施設ですよ。民間人がイタズラに忍び込む場所じゃありません。窃盗なら早いうちに出てってください。司令官も解放してください。……本当に、あの人にバレたら殺されかねませんよ? 冗談ではなく、本当に司令官に何かしらした場合、あの人は殺りかねません。まだ大事にしないと約束しましょう。ですから、早いうちに出てってください。司令官も解放してください。お願いですから」
閉じ込められても慌てず、相手に負けない強い意思で対抗する。
朝潮は流石に信頼できるが、勝手に物事を決めているのは頂けない。
殺しに来ると言うのが誰かは知らないが。
物体は黙りを続ける。朝潮は軈て諦めたのか、敵意のある目で低く言う。
「言うだけ無駄なら、実力で突破しますよ。空砲を撃てば誰かしら気付きます。そうしたら、あなたも終わりです。警察につきだしてあげます。いいんですか、最終通告ですよ。早く、司令官を解放しなさい。ふざけていると、死ぬよりも痛い思いをしますよ」
怒っている怒っている。朝潮が珍しく眉をつり上げている。可愛い。
艤装を展開、弾を抜いて空砲をスタンバイ。マジでやる気だった。
いい加減そろそろネタバレを、と思ったが。
朝潮は何かに気がついた。
「……これは、司令官の汗のニオイ?」
突然、物体につかみかかり、彼女はクンクンニオイを嗅いだ。
すると、パァっと明るい表情に様変わり。
「司令官じゃないですか!! 何してるんですか!? 朝潮にイタズラですか!? 嬉しいです!! 朝潮にもそう言うことしてくれるくらい、朝潮を信頼してくれるんですね!?」
速攻バレた。しかもニオイで看破。なんでや。
抱きついてきて、嬉しそうにじゃれつく。物体はようやく口を開いた。
「おはよう朝潮。これはドッキリだ。脅かしてすまんかった。ニオイで看破するとは、やるな。俺の負けだ」
信用する相手にしかしないと言うわけでもないが、朝潮が上機嫌なんで訂正しない。
事情を説明。朝潮も参加すると言い出したので仕方ない、仕掛人になってもらおう。
朝潮は朝っぱらから大潮みたいなハイテンションで、物体にくっついて喜ぶ。
気のせいか、物体のせいで朝潮が妙に距離が近いのだが……。
「今日の司令官は可愛いです!」
「……だろうな」
彼は現在、大きな着ぐるみを被っている。
体型までも変化させるまるで魔法のような布で拵えたお手製。
大本営のマスコット、通称失敗ペンギン。
艤装などを開発する際、たまに出来上がる摩訶不思議な物体で要するにただのペンギン。
一部ではグンカンドリ扱いされるが、公式ではペンギン。謎の生き物である。
ドッキリの内容は執務室に入ったらよくわからんペンギンが椅子に座って仕事をしていると言うもの。
ドアが突然しまって施錠されるオプションつきで。
至って無害。誰も悲しまない。平和なドッキリ。
こんな感じで一日、失敗ペンギンが執務室に着任してました状態になるのだった。
次なる被害者は、持ち直してきた鈴谷だった。
朝、報告書の提出に来たら。
――二羽のペンギンが執務室で書類書いてた。
「ふぇ!?」
驚く鈴谷。ペンギンは黙々と仕事をしている。
鈴谷に気づいた様子はない。室内を見回すも愛しの提督はいない。
小さなペンギン、大きなペンギンがいるだけだ。
で、完全に入室すると、ペンギンが手動でドアを閉めて施錠する仕掛けを起動。
「えっ!? な、なに!?」
慌てる鈴谷。ドアが閉まった。しかも開かない。
何度ノブを回しても開かない。
「なに、何なの!? 提督は!? 提督どこ!?」
鈴谷は書類を持ちながら室内を探す。
ダブルペンギンが居るだけだった。
鈴谷は益々慌てる。ペンギンが? ほわい? なんで?
その内ぐるぐると目を回して、彼女は隅っこで現実逃避を始めた。
「夢だ……。これ悪い夢なんだ……。提督がペンギンになるなんて、鈴谷疲れてるんだよきっと……」
かわいそうになってきたので、大きなペンギンは立ち上がり、鈴谷に近づく。
途端、怯える鈴谷。半泣きで抵抗する。
「ひっ!? 近寄んないで! 触んないでよ!! やだ、提督以外に触られるのやだぁ!!」
見てて良心が痛むくらい必死だった。
凄い可哀想なので、ペンギンは喋る。
「鈴谷、俺だよ俺。ドッキリしてるんだ。脅かしてごめんごめん」
ペンギンが喋ると、キョトンとする鈴谷。
彼が何ならニオイを嗅げばわかると言って、鈴谷も飛び付いてニオイをチェック。
……確かに鼻腔を擽るこの汗臭さ、彼のものだ。
ここでネタバラシ。彼女は怒りながら言った。
「もーっ!! 脅かさないでよ!! 本当にビックリしたんだからね!?」
鈴谷もペンギンの迫力にビックリして、パニックになっただけ。
お詫びに、本当は非番なのだがこの際、一緒に仕掛けることにした。
因みに秘書の朝潮も小さなペンギンになっている。
幾つか制作過程でリアル失敗したのがまだ結構残っているので、鈴谷もそれを被ることにした。
まだまだドッキリは続く。
お次は、装備のことで相談に来た加賀だった。
ノックをして、入る。
「失礼します」
そういって入ってきた加賀が見たものは。
三羽のペンギンが仕事をしている謎の光景だった。
「……」
加賀、呆然。一度冷静にドアを閉める。開ける。
同じ光景が目の入る。再び呆然。
「……ペンギン?」
ペンギン。
「……大本営のマスコットがなんでお忍びで……?」
いいえ、全員ここの関係者です。
「提督に何かあった……?」
提督が何かしているだけです。
(……失敗ペンギン。居ない提督。秘書も居ない。不自然な室内。怪しい大本営のマスコット……。私が来たことに気付いていないの? ……ハッ!? まさか、大本営の回し者!?)
なんでそうなる。
加賀はいきなり意味不明な理屈で納得して艤装展開。矢をなんと提督に向けた。
勘違いして思い込みで早とちり。睨んで告げる。
「大本営のペンギン風情が私達の提督に成り代わるなどと!! 身の程知らずめ、焼き鳥にしてやるっ!!」
プッツンして、激昂。
冗談が通じない相手だった。提督の机に座る大きいペンギンが裏返った悲鳴をあげた。
「ヴェアアアアアーーー!?」
その悲鳴に聞き覚えがある加賀は、目を丸くした。
今の声は提督だった。見れば小さいのと中くらいのが大きいペンギンを庇っている。
ってことは。
「はい? 提督? 何をしているんです?」
またもキョトンとする。加賀はその後、ドッキリであると説明されると、
「何をしているんですか全く。まあ、そういうノリは嫌いじゃないのですが。このあとすることもないで、私も参加します。予備のペンギンあります?」
心底呆れつつ、面白そうなので悪のり。意外とノリノリな加賀さんであった。
次は演習のための艤装について、話をするために来た長門だった。
ノックをして、返事があったため入る。すると。
「なんとぉ!?」
驚いて変な声を出した。
大きいペンギン、中くらいのペンギン、小さいペンギン、何か弓持っている青いペンギンが作業していた。
唖然とする長門。ペンギンがいる。仕事している。器用に羽でペンをもって書類を書いている。
足を進めて入ると勝手に閉まるドア。施錠される。
流石に動揺してドアを何度も開けようとするも無駄。
仕方なく、向き返り。
「……。ペンギン、だと? 提督が……ペンギン? まさか、とうとうなにか怪しい薬でも飲んでしまったのか!? 他の皆を巻き込んで! 何故私に言ってくれなかったのだ提督!」
此方は追い詰められまた彼がしでかしたと思われていた。
つい、その反応に突っ込みを入れる。
「心配してくれるのは嬉しいけどペンギンになる薬ってなに!?」
「ああ、まだ意識があったか!? 良かった、何があったのだ! 今でも遅くない、教えてくれ! 私は全力で力になろう!」
ドカドカと近寄ってきて真摯な目で見られる提督。
とても心配させているようだ。そこで、来客用のソファーで弓を手入れしていたペンギンがネタバラシ。
ドッキリで、ちょっとしたイタズラ。ペンギンが突然仕事をしていると言う内容だと。
「なんだ、そういう一種の企画か。驚いたぞ。しかし、中々良くできているなこれは……。着ぐるみなのか?」
長門は怒ると言うより、着ぐるみに興味があるらしい。
相談がてら、一個譲ってほしいと言われた。量産しているので、予備をお裾分けすることに。
んで、サイズの確認のついでに長門が参戦。益々増えるペンギン。カオスな室内。
彼女も結局、参加することになった。ここの鎮守府、ノリがいい艦娘が多かった。
続いては。
「提督、新型の感想纏めてレポートにしたわ……よ……!?」
ノックも無しに入ってきた曙。
大、中、小、青いの、特大なペンギンを見て絶句。
「ぺ、ペンギン……!? なに、何事!?」
なかに入る。閉じ込められる。パニックになる。
ここまではテンプレ。
「て、提督! 悪ふざけは止めてよね!! もう、怒るよあたし!!」
意外とプンプンしているわりに書類を机に丁寧において、曙は言う。
と言うか、彼女は凄かった。
「朝潮に鈴谷もなに笑ってんのよ! で、加賀さん……だと思うけど、何で悪のりしてるかな! 長門さんは若干サイズあってないよ。足元が破けそうだから、あんまり動いちゃダメ」
全員の名前を言い当てた。見た目はペンギンなのに。
しかもサイズの違いまで分かるのだ。大したものだ。
「やるな、曙……。お前も参加するか? 記念に失敗ペンギン着ぐるみを贈呈しよう」
素直に褒めて事情を説明。仕事を続けながら、出撃のない曙に聞く。
量産した失敗作はのちに補修して、しっかりと仕上げると約束すると。
「え、いいの? 失敗っていってもこんなにできがいいのに……。欲しいけどさ」
午後にちょいとした仕事があるだけで、曙も結構暇だ。参加することにする。
正直、着ぐるみを欲しいのが目的。失敗ペンギンのマスコットは好みなのであった。
と言うことで、暇をする艦娘がまた一人、味方になった。
まだまだ続くドッキリ。
続いては。
「キャーーーーーー!」
のっけから悲鳴をあげ、逃げ出す前にドアを閉められ更にパニック。
青ざめて狂乱の翔鶴であった。
「ペンギン!? ペンギンなんで!?」
喧しくあたふたして、スッこけた。
運悪く加賀ペンギンの前。
妙な威圧感があったらしい。
「すみませんすみません!」
懸命に謝った。居たたまれないので直ぐにネタバレ。
翔鶴はただ用事を済ませようと立ち寄っただけ。
疲れた顔をして、程々に苦言を残して戻っていった。
何か気の毒なことをしてしまったようだった。軽く皆で反省し、続ける。
本日一番危険な艦娘登場。
「ぐるるるる……」
夕立だった。遠征帰りに報告に来たのはいいが、室内のペンギン達に威嚇していた。
閉じ込められる事で拍車をかけたようで。
提督ペンギンに噛みつこうとして阻止された。
そのまま小さいペンギンとにらみ合いに。
唸る夕立、羽をばたつかせて威嚇する朝潮ペンギン。
鈴谷と長門が仲裁に入るも、狂犬には通じず。
「夕立、お座り!!」
提督ペンギンの一声でその場で正座。待てのコンボで沈静化した。
そしてネタバレ。夕立は襲ったことを謝って、彼女も参加。
無論ペンギン着ぐるみをプレゼント。嬉しそうに受け取ってくれた。
丁度、ふざけながらやっていたら正午になった。
一度切り上げて、お昼にすることにした。
……食堂にこのままいこうと彼がいいだし、彼女たちも害はないので面白がって乗っかった。
そして……。
「いらっしゃいま……はいっ!?」
食堂担当の伊良湖がビックリ何故なら、大、中、小、特大、青いの、花飾りの、顔つき魚雷の飾りをくっつけたペンギンが集団で食堂に押し掛けてきたのだ。
ぶはっ、とそれを見て祥鳳が味噌汁を吹き出した。瑞鳳はお茶で噎せた。
陽炎が持っていた箸を落として固まった。満潮はおかずを飲み込んで詰まらせた。
などなど、各自面白い反応が見れたのは言うまでもない。
後日、提督は量産型失敗ペンギンの着ぐるみを配布。
欲しいもの順に配るとあっという間に完売した。
「……何してんのお前」
翌日には、ちゃっかりと提督が着用した着ぐるみを飛鷹が入手して秘書の仕事の時に使っているのだった。