本当に結ばれる、ただ一つの方法   作:らむだぜろ

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壊れるバランス、覇道を行くラスボス

 

 ――ああ、憎い。

 

 何が憎いって、この鎮守府が憎い。深海棲艦が憎い。艦娘が憎い。世界が憎い。

 

 何でこんな世界なのよ。人並みの夢を持つのだって精一杯の世界なんて最悪だわ。

 

 あの化け物のせいで何時までも結ばれない。鎮守府のせいで戦うことを強いられる。

 

 他の艦娘が色目を使うのが目障りで仕方ない。こんな世界であるのが憎い。

 

 壊したい。滅ぼしたい。思い通りにならないものが嫌で嫌で、我慢ならない。

 

 特に他の艦娘は邪魔でしかない。彼に好意のある艦娘は消そうかな。

 

 そうすれば消去法で最後に残るのは私。最強である、私一人。

 

 彼に知られずに深海棲艦の餌にしてやれば全部解決なんじゃないのかな。

 

 そうか。そうだったんだ。連中殺せば全部解決!

 

 名案だ。全部殺そう。全部沈めよう。

 

 艤装に細工をして、自爆装置でも取り付けて消してしまおう。

 

 そうすれば、邪魔者はみんな海の底に……!!

 

 ――何を言っているのかしらねえ、こいつは。

 

 させるわけがないでしょう。仲間を沈める? ナンセンスにも程があるわ。

 

 そして短絡的、即物的、破滅的、盲目的、何をおいてもボツ確定。

 

 ふざけるんじゃないわよ。私をどうしたいのよ。

 

 あの人を苦しめるならそっちを先ず、殺すわよ……?

 

 ひぃっ!? な、何でここに……!?

 

 ナゼかって? それは、私が私だからよ。

 

 ま、まるで意味が分からないんだけど……。

 

 黙りなさい。いい? 私はね、貪欲なの。ただ結ばれるだけじゃ足りないわ。

 

 イチャイチャしたいし、ラブラブしたいし、えっちぃ事だってしたいし、彼の子供も未来も欲しいの!!

 

 そんな絶望の片道切符のノーガードなんて真っ平ゴメンよ!!

 

 最低三人ぶんの未来を奪う覚悟と度胸が……あるんでしょうねえ……?

 

 …………なにこの理性、私よりも怖いんですけど……。

 

 私の狂気に私の理性が負けるとでも? っていうか、理性の方が狂っているってどうして分かんないの?

 

 自分で狂っているって認めてるわこの理性……。

 

 喧しい。兎に角、ラスボスたる私は、そんな方法をとらずとも勝てるのよ。

 

 ゲームで言うなら幼馴染系ヒロインですが、地味で控えめなぶん、スペックは高いの。

 

 何故なら経験がものを言う此度の提督争奪戦。私のアドバンテージは多大な物だから。

 

 自分で言うのも何だけど、結構私は尽くすのよ?

 

 いや、多分それは彼も知ってる……。

 

 その通り。知っているからこそ、今彼は私を意識している。

 

 つまり。イチイチ殺しだの沈めるだのと過激な思想に走る狂気。

 

 あんたに足りないのは正妻とかいてラスボスと読む、自信と余裕なのです。

 

 ……!! 

 

 ラスボスは常に貫禄のある言動を、そして自信と余裕を要求されるのは当然。

 

 良いこと? 敵と共倒れする義理はもはやないわ。

 

 塩を送るのも譲るのももうお仕舞い。ここからは奪うのみ、勝ち取るのみ。

 

 私にはそのスペックと経験がある。見苦しい姿を見せずとも、彼に愛されてるだけのスペックが!!

 

 ……なん、ですって……!?

 

 手加減無用。立ち塞がる全てを私の魅力で打ち倒す。

 

 物理で殺すなど愚の骨頂。真のラスボスはラブで殺す!!

 

 提督のハートを掴むのは、飛鷹デース!! バーニングラーブ!!

 

 それ金剛のセリフ!! キャラ変わってる!! 狂っている理性ってなに!?

 

 あんたには、ラスボスとしての威厳と風格を持ってもらうわ。

 

 じゃないとあんたには彼あげないから。

 

 !! 待って!! それだけは止めて!! お願いだから!!

 

 なら言うことを聞きなさい、私の狂気。あんたは戦闘担当、私は攻略担当。オッケー?

 

 くぅ……! 分かったわよ、やればいいんでしょう!? 

 

 素直でよろしい。従う事ね、狂気。理性に勝てる狂気など私の中にはないわ。

 

 だって私こそが本当の狂喜だもの!! 理性は多分、誰かがやるし。

 

 え、何で!? 何で理性が存在しないの私の中!? ストッパーは!?

 

 狂気はね、狂喜には勝てないものよ。同じ穴のむじな、強い方が勝つのは自然の摂理!

 

 毒を以て毒を制するとか、大丈夫かしらこの空母……あ、私か。

 

 さー行くわよ戦闘担当。ラスボスに勝てないことを真っ向から教えてあげるわー!!

 

 ……ああ、もう手遅れだったか私。提督、ほんとごめんね……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鎮守府の様子がおかしい。

 部下たちが妙にざわついている。

 なにが起きているのか……。彼には見当もつかなかった。

 それもそのはず。彼には今まで以上にラスボスによる無自覚の攻略が侵攻しているのだから。

 乙女達は肌で感じた。とうとう、ラスボスが自ら動き出したことを。

 聖戦が始まったことを予感していた。

 今までどこか引いていたラスボスは他者を寄せ付けぬ圧倒的正妻パワーで彼を虜にしていた。

 本腰を入れて奪いに来ている。強い、強すぎる。いろんな意味で。

 最早嘗ての飛鷹ではない。彼女はこのジハードにおける最後の敵。

 今までのフォロー、気遣いは消失。あるのは容赦ない蹴落としの女王。

 潰す気だ。彼女は、敵を全て真っ向からぶっ潰すつもり。

 見せつけるように自然とイチャコラして、彼も満更でもないようにしている。

 焚き付けている。煽っている。倒せるものならやってみろと。

 油断も慢心もない。純然たる事実として、鷹は男のハートを鷲掴み。

 鷹のくせに鷲掴みとはこれいかに。どうでもいい。

「……どうしたの? 何かあった?」

「あのさ……何か、みんなお前を睨んでないか? 何て言うか、恨めしい目で……」

 ある時は一緒に然り気無く昼食を食堂で取っていた。

 隣が定位置と言わんばかりに、他の艦娘が寄れないように強烈なプレッシャーを放ちながら。

 見せつけるのだ。彼は私のもの。誰にもあげない。私の彼氏なの、的な。

 彼も彼で、ここのところ飛鷹と一緒にいる時間が欲しくて一緒にいるので、他の艦娘は隙がない。

 遠巻きで恨みのこもった目で睨むと、流し目で一瞥。羨ましいでしょ、と挑発。

 強行突破して間に入ろうとしても機敏に動きを察知して、買収した味方を用いて事前に潰す。

「あー、すまんな陽炎、初風。お前たちには昼から演習だ。私と共にこい」

 陽炎の危険分子は疑問符を浮かべる長門に回収させて。

「さあ、哨戒任務に出るぞ。ついてこい」

 白露の因子は那智が哨戒に連れていき。

「葛城。弓の訓練をします。来なさい」

 葛城は加賀が阻止。渋々手を貸している。

 無邪気な夕立、時津風、雪風は飛鷹のプレッシャーに気圧され近づけず。

 最大の警戒対象に至っては自ら手を下す。

「朝潮。午後、少し遊びましょ。……全力で、ね?」

「…………」

 演習の申し出なのに、ニヤッと笑って苛立つ朝潮を手招きしている。

 タイマンでかかっていく朝潮。練度は大幅に飛鷹が高い。

 駆逐艦としては不利だが、煽られたら乗ってしまうのが恋する狼。

 不満は演習でぶつけると躍起になっていた。計算通りとも知らずに。

 彼は飛鷹がなにやら周囲にたいして、厳しい態度をしている事ぐらいは気付いていた。

 が、長年の付き合いで信頼する彼女に任せているのが彼女の思惑通り。

 絆の深さが違うのだ。彼に悟られる理由はない。

 今日も鎮守府は絶好修羅場デイズだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午後。

「……司令官、朝潮……負けてしまいました……」

「お前ってやつは……」

 ぐずぐずに泣かされた朝潮が、仕事をしている彼の膝の上でべそをかいていた。

 涼しい顔で秘書の仕事をする飛鷹。演習でぼろ雑巾にされた朝潮は、彼女に迫られた。

 

 ……彼を諦めるか、彼と無邪気に遊べる駆逐艦として接するか……好きな方を選びなさい。

 

 さもなくば、この鎮守府において誰が一番強いか、身体に教え込むわよ……?

 

 瞳孔かっぴらいて、闇色の瞳で飛鷹は一方的にタコ殴りにした朝潮に聞いてきた。

 一撃も与えられず、下手すると鎮守府から追い出されそうな気配を感じた。

 泣く泣く、彼を朝潮は諦めることにした。ダメであった。ラスボスには勝てなかった。

 だが、ラスボスは配下の艦娘には非常に寛容であった。

 スキンシップオッケー、節度を弁えるなら何しても許す。

 但し怪しい動きを察知した場合は漏れ無くぶっ潰す。彼は飛鷹の候補です、と。

 今まで以上に彼女は助けてくれる。なんと、添い寝まで許してくれたではないか!! 

 邪な思いなどない事を知っているし、朝潮が『あくまでなついている駆逐艦として』接するのならば、セッティングから憲兵の隠蔽工作も引き受けてくれるらしい。

 ……ただ、諦めろと言うのではない。ある程度の譲歩もしてくれた。

 だったら、朝潮も配下に加わった。恋は無理でも、この幼い容姿を用いた甘える行為はラスボスの配下に加わる。

 勝てぬ相手には逆らわない。忠犬としての本能で理解していた。

(司令官の匂いだ……。今までで一番近い……。何か、恋人じゃなくても娘とかで甘えるのも……あり?)

 朝潮も飛鷹の口先で洗脳され、あっさり鞍替え。ラスボスの軍勢に下った。

 フガフガ匂いを堪能して嬉しそうだった。彼は彼で仕方ないと受け入れている。

「飛鷹、もう少し優しく……」

「ごめんなさい、少し大人げなかったわ。朝潮、ごめんね」

「いえ、ワガママ言った……朝潮が……悪いので……」

 朝潮にそういう行為は控えろとお説教したと彼は聞いている。

 ロリコンで憲兵とお友だちにされるのはさすがに嫌だ。

 彼女には相応の言動にしろと指導したらと聞く。

 確かに大人しくなったが……何でこんなに距離が近いんでしょうか。

 朝潮も満足そうに膝の上で……恍惚とした表情で座っているので気にしない方向で。

 ラスボスは、最大の敵の一人、恋する狼からなついた狼にクラスチェンジした朝潮を仲間にした!

 まだまだ覇道は続く。目指すは敵の全滅。恋敵は合法で潰す。一人残らず。

 正妻に逆らうものに、鉄槌を!!

(……次は、あの娘を……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……見つけた。飛鷹は、番犬として朝潮を起用し、好きに甘えてよいと許可した。

 割かし、前と変わらず甘えまくる朝潮と苦笑いする提督をおいて、もう一人の敵を潰しに飛鷹は出る。

 鎮守府の中を探し歩き、彼女はターゲットを発見。

 相手は飛鷹を見て……青ざめた。

「ひ、飛鷹……さん……?」

「見つけたわ……。す、ず、や……?」

 目障りな恋敵。命がけで参戦した新人空母、鈴谷だった。

 及び腰でビビる鈴谷に用事があると告げる。

 瞳孔かっぴらいてバトルモードの飛鷹は水鬼ですら裸足で逃げそうなほど怖かった。

 鈴谷は解する。食われる。あるいは獲物としてロックオンされた。殺される。

 命の危険を感じて、距離を開けてついていく。

 ついていくと、人気のない建物の路地に到着。

 暗殺でもされてしまうのかと警戒する鈴谷に振り返って飛鷹はシンプルに言い出した。

 

「率直に言うわ、鈴谷。……ゴメンね。あなたの恋心、木っ端微塵に砕くことにしたの」

 

 なんと、宣戦布告。彼女は邪悪に微笑み、唖然とする鈴谷に突きつけた。

「あなたが私に対して劣等感を感じているのは知っている。だから、その劣等感ごとあなたを踏みつけていいかしら。一番手強いのは私だって、言ったわよね。私ももう、我慢する気はない。全力であの人に尽くす。……鈴谷。勝ち目がなくても、きっと鈴谷は私に挑むでしょう? 簡単に諦めはつかないし。……不毛な争いになると思う。でもね、手加減なんてもうしないわ。あなたを助けることもない。ただ、壊れるまであなたを追い詰めるって決めちゃった。後腐れなくスッパリ諦めがつくように、壊してあげる。彼と結ばれるのは、私よ。鈴谷じゃない、私一人」

「……!」

 わざわざ壊すと言いに本人に言うとは。他の艦娘とは違い、強敵と認識されているらしい。

 酷い言いようだが、事実なので反論はできない。この一点を除いては。

「……確かに鈴谷は戦うよ。でも、素直に好きって言えない人に負ける気はない」

 立場を越えても尚、好意を言えない飛鷹には負けない。

 鈴谷は気丈ににらみ返して言う。鈴谷は何度でも言える。好きだと、愛していると。

 飛鷹は苦く、笑った。

「好きと言えばなんとかなるとでも? ……そうね、言えればそれに越したことはないと思うけど。でも、似たようなことは言ったし、ずっと一緒にいるって彼に向かって言えない鈴谷じゃ、説得力がないわ。覚悟も足りない、感情も足りない。甘くないのよね、誰かを支え続ける日々ってのは。素直すぎて、自分をコントロール出来ないあなたには難しいかな?」

 ああ言えばこういう。あくまで誘うか、攻撃を。鈴谷も頭に来た。

「あくまで、誘うんだ。鈴谷のこと」

「ええ。潰すに値する相手じゃないと、根回しで終わりそうだもの。それに……ちゃんと、鈴谷とは決着をつけないと。そりゃ、ライバルと宣言された手前、卑怯なことはしたくないし」

 鈴谷はかなり高く評価している。

 見下すのではない。脅威として、直々に砕くのだと。

 彼女はそういって、鈴谷に改めて挑戦状を叩き付けた。

「提督は渡さないわ。恋人に……本当の意味で結婚をしたいなら、私を倒して見なさい。私は鈴谷を倒す。私の前に阻む敵としてね。彼のお嫁さんになるのは、私……飛鷹なんだから」

「上等。鈴谷だって、負けないし。下克上してみせればいいんでしょう。這い上がって絶対に降ろしてやる……!」

 バチバチと火花を散らす。飛鷹は余裕綽々で、挑発して背を向ける。

「ふふっ、楽しみにしてるわ、初心のお嬢さん。……もう少し、スケベに耐性つけないと夜の相手が大変よ?」

「んなっ!?」

 最悪の爆弾を残して優雅に黒髪を揺らして去っていく。

 顔を真っ赤にした鈴谷は、思わず悔しくて叫ぶ。イケイケ時代の弱点をつつかれた。

「ひ、飛鷹さんだって人のこと言えないくせにー!」

 経験なんてみんなない。思わせ振りなことして、強がっているだけ。

 実際飛鷹もそうだが、彼女には強味がある。

 量産された性癖を攻められる、開拓者としての強味が。

(……再び使うときがきたか。猫よ、私に力を!)

 それは例の黒歴史。彼の暴走した変態の一日。

 飛鷹が覚醒したきっかけ。エラーオブキャット。

 最高の……猫耳の出番であった……。


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