本当に結ばれる、ただ一つの方法   作:らむだぜろ

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女の戦い

 

 提督が大怪我して数日。この日が来てしまった。

 今年は怪我のせいでうまく動けず、たまらず彼は最後の手をうつ。

 それは、一日私室から出ないこと。

 この日ばかりは毎年血に餓えた艦娘たちが鎮守府を彷徨くので外に出たくない。

 何を躍起になって、たかだかチョコを渡すのに熱くなっているのか。

 彼は女心の分からない阿呆なので、危険としか理解せずに引きこもった。

 ……完全に悪手とは、まだ彼は知らなかったまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 今年のバレンタインは幸い休日。

 提督は朝っぱらからテレビを見て過ごしていた。

 鈴谷の一件で受けた傷は激しく動かなければ痛みはない。

 連日お説教の連続で辟易していた彼は、特定の艦娘以外は私室に入れなくなった。

 何を言われてされるか、分かったもんじゃない。特に数の多い駆逐艦は勘弁したいのだ。

 煩い、鬱陶しい、あとやることがめちゃくちゃで、拒否するのは当然であった。

「……で、朝っぱらから何してるの貴方は」

「特撮見てる。厄除戦隊セツブンガー。面白いぞ意外と」

 ベッドに転がり寝そべったままミニテレビで眺めているニチアサの特撮。

 私室に合鍵で入ってきたのは早朝、気配を殺して忍び来た秘書の飛鷹だった。

 動きやすいように上下ジャージで、髪の毛は簡単に纏めている。

「セツブンガー……?」

「今年から始まった新番組。謎のローマ仮面と戦う厄払いの戦隊だとさ。必殺技はプリンオブセッツブーン」

「聞いてないから。で、具合はどう?」

 呆れながら聞くと、ボチボチと言う。

 飛鷹は一時取り乱すぐらい心配していたのに、呑気なものだ。

 鈴谷の暴走を止められず看過していた提督には鎮守府の艦娘総出でお説教して、鈴谷にも秘書として数時間ぐちぐちと刷り込むように叱っておいた。最終的に飛鷹をビビって鈴谷は目が死んでいた。

 彼は知らないが、飛鷹はあまりの事に一度本気で鈴谷を殺しそうになった。

 周りが慌てて止めていなければ今頃は反逆で解体も免れなかっただろう。

 付き合いの長い彼の無神経な行動は、強く慕う艦娘の心を見事に抉って、一種のトラウマにさせた。

(全く、もうあんなのは勘弁してほしいわね。この無神経アホ男。……心配したんだから、バカ……)

 今でも油断すると涙が出てきそうになる。死なれるのは嫌だ。失うのは絶対に嫌だ。

 守れるなら飛鷹は態度に出さないがなんだってする。彼の前では強い女でいたい。

 だから取り繕って、平気な顔をしてお説教をしていた。

 本当は無事で良かったと、抱きついて喜びたかった。

 虚勢をはっている。それは、今でも。

「……今日は外に出るの?」

「出るわけねえだろ。あの血に餓えた奴等の餌になれってか。飛鷹、マジでやめて。糖尿病で俺が死ぬ」

「いっそ、チョコの海で死ねば? 良いお灸になるでしょ」

 未だに怒っているのもあって、トゲが出た。彼は何度も謝ったし、もういいのに。

 嫉妬深い女だと思う。要は羨ましいだけのくせに。そこまで尽くされた鈴谷に妬いているだけにくせに。

 本音はきっとそれだろう。ああ、飛鷹も何だかんだで、そうして欲しいのかもしれない。

 一番近くにいて、こうして信頼されて、無防備な姿も見ていてなお満足できない。

 底なしの欲望が彼を狙って離れない。欲しい。もっと彼の全てが欲しい。

(……!? な、何を考えているの……私……?)

 自分でも理解できない妙な感情。我に帰り、ボーッとテレビを眺める提督を見下ろす。

 画面では同じく嫉妬深いローマ仮面が、必殺技、アクィラバルカンとポーラワインの会わせ技をぶっぱなしている。

 恨みは忘れないぞーとか妬ましく言っている。どっかで見たことあるような……?

 巨大ロボットセツブンガーは……何だろう、この某国のデカイ暁と呼ばれそうな見た目の戦艦。

 いや、重巡……? プリンオブセッツブーンとか叫んで大量の豆をガトリングで掃射。

 ローマ仮面は恨み節を残して爆発。画面にサヨナラ! と黒い達筆で決まった。

「……意味不明ね」

「だが、悪くない。ノリと勢いは大事だ」

 現実逃避で見ていた画面もカオスだった。

 さて。……用事は済ませないと。だから朝イチで来たのだから。

「で、さ」

「ん? 毎年恒例のあれですか。ご馳走さまです」

 何かを言う前に長い付き合いで知っている阿吽の呼吸で、受け取ってもらえた。

 毎年あげている飛鷹のチョコ。甘いものが苦手な彼に合わせて手作りしたビターチョコだ。

 シンプルな包みのそれを受け取って、彼は嬉しそうに包みをあける。

「飛鷹のは、毎年外れなく美味しいんだよな。……じゃあ、また一緒に食べるか?」

「はいはい。コーヒー入れるわ。何処だっけ?」

「お前が欲しいって言ってた奴買ってあるよ。右の棚」

 慣れた手つきで物を探しだし、自分用と彼のマグカップを準備して、コーヒーをブラックでいれる。

 私室に艦娘の私物があるのは飛鷹だけだ。それ以外は提督がまず許可しない。

 合鍵だって、日常的に使っていいのは彼女のみ。

 非常時用に朝潮や初霜といった、信用できる艦娘には渡しているが、普段使うことは禁じている。

 飛鷹だけが、気心知れた仲故に許され、こうして一歩出し抜きを可能にしている。

 逆を言えば彼女ですら、眼中にないと言う筋金入りの唐変木だと言うこと。

 ついでに朝飯も一緒に食べる。

 置いてあった菓子パンを見繕い、二人して炬燵に移動してテレビを眺める。

 今度は仮面ランサームラクモなる特撮が始まった。

 敵であるブリザードから人類を守る闇の守護者とか。

「飛鷹って女子力あるよね」

「そう言う貴方も自炊できるでしょ」

 然り気無く寄り添って狭い中を隣に並んで共に見る。

 モソモソ二人して一緒に食べながら世間話をしている。

 割かしオフの日も飛鷹は彼に近づいても避けられない。

 公私混同を避ける人間であるため、オフは基本的に提督は艦娘とは共にいないで一人で行動する。

 唯一の例外が、この飛鷹。互いに歩幅を合わせて行動するので苦しくなく、自然にいられる。

 互いに気遣いせずにいられるのが有難い。彼と出掛けるのだって飛鷹にしては珍しくない。

 他の艦娘とは何を言われても嫌がる彼だが、友人のように付き添う飛鷹とは最早自然体。

 こんな感じで、二人して既に同棲したカップルのような生活をしている。

 因みに知っている艦娘はいない。飛鷹も提督も余計な騒ぎが嫌なので、黙っているから。

 今回は……そうとも言えない。何せ、外は艦娘が彼を探して彷徨いている。

 尚、物理的に入ろうとしても飛鷹のお札が貼ってあり、部外者は許可なく入れない。

 どの道、この時間だけは飛鷹のものなのである。

「……やっぱ、今日ぐらいは外に出るかねえ。多分、明日辺りにあいつら騒ぎだして五月蝿いから」

「今年は諦めがついたの? ……護衛はするから、しつこい場合はどうする?」

「即、爆撃でお願いします」

「派手なことするわね。……オッケー」

 彼は特撮を見終えた頃に遠い目をして呟いた。

 毎年胃痛と胃もたれに苦しみ、下手すると妙なものを食わせて暗殺しようとする艦娘もいるバレンタイン。

 毎度逃げるも翌日に襲撃されて結局苦しむのだから、彼は今年は潔く諦念し外に出た。

 飛鷹がいればある程度は防げる。彼女だけを頼りにするしかない。

 飛鷹もこの手のイベントの度に被害を被る彼に同情しつつ、己の為にも戦うことにした。

 本妻の余裕と言うものを、付け狙う連中に教え見せびらかす為に。

 提督が着替えて、窶れた顔で外に出ると……早速、襲撃にあうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 此処からは一切遠慮はしない。女の戦いだ。

 まず、スキンシップの激しい筆頭、金剛を塞き止める。

「ホワイ!? どうして邪魔するネ、飛鷹!?」

「……提督の顔を見なさい」

「ワッツ……?」

 金剛が視界に入った時点で露骨に嫌そうな顔をしていた。

 まるで大型犬に絡まれて無下に出来ない犬嫌いの人間のような顔。

 何とも言いがたい絶妙に酷い表情であった。

「OH……」

「毎回言うけど、止めなさい反射的に飛び付くの。今度やったら粘着のお札をぶつけるわよ」

 一応、チョコは受けとる。……分かりやすいハート型チョコ。愛が重たい。

 逃げ腰の提督は飛鷹に説得と説教を任せて後ろで黙っていた。

 

 

 

 

 

「……いいか、如月。それ以上俺に一歩でも近づいてみろ。お前が勝手にバケツをチョコの調理に使ったことを大淀に言うぞ」

「うっ……。何で知ってるのかしら。その場にいなかったのに」

「残念だったな。お前が好き勝手にやっていることを見ていた俺の味方が教えてくれた」

 某エロ担当、如月とエンカウント。苦手な天敵の上位だ。

 飛鷹に任せる前に威嚇した提督の言葉に怯む如月。

 慎みがないエロ担当に近寄られたら憲兵に誘拐される。

 そんなのはゴメンだ。絶対に近寄らない。近寄らせない。

 受けとるが……何でこいつもハート型なのか。

 手作りにしては何かアルコールの匂いが……。

 気にしないことにした。

 

 

 

 

 

 

 

「げっ、飛鷹さん!?」

 もっと慎みのない女子高生がいた。

 怪我が回復して、能天気にチョコを渡そうと徘徊していて彼女の師匠に見つかった。

「飛鷹、やれ! 攻撃を許可する!」

「了解! 攻撃隊、発艦始めて!」

 反射的に餌にされると認識した提督の命令で先制攻撃。

 飛鷹のバレンタイン迎撃艦載機が彼女を襲う!

「うわ、危ないじゃん! 何するのさ提督の意地悪!」

 負けじとイケイケ女子高生、鈴谷も反撃する。 

 慣れない空母としての実力を発揮して、抗うが……。

「うきゅぅ……」

 アッサリ負けた。空母としての経験が違うのだ。

「まだまだね、鈴谷。もう少し戦闘機の数を増やさないと、防御がおろそかになるわ。いくら軽空母としては頑丈でも、あんまり攻撃受けたら手も足も失うわよ?」

 尻餅をついて半べその鈴谷を助け起こして、優しく飛鷹は言う。

 無論、チョコは既に提督が受け取り、袋に入れるが……。

「提督! 今すぐ食べて! で、感想教えて! 鈴谷初めて手作りしたから!」

 復活した鈴谷に言われて、渋々提督は行儀悪いが立ったまま食べる。

 珍しくホワイトチョコ。なぜか星形。ハートだと被るから工夫したらしい。

 初めてというチョコのお味は……。

「あれ、美味しい」

 意外と提督の好みにあっていた。飛鷹も許可をもらって頂くが中々美味しい。

「そっかー。いやぁ、よかったよかった。数少ない情報を統計して試行錯誤した甲斐があったよ」

 情報収集して、頑張ったみたいでほっとしている鈴谷。飛鷹の胸中は穏やかではない。

(くっ!? こ、この子……意外と純情で可愛い! 見た目は今時の子なのに女子力が高い。油断大敵がまた一人増えた……。しかも鈴谷は素直なぶん、侮りがたい! 強力なライバル出現、か……)

 彼女もまた、彼のために変わろうと努力する一人であり最近提督は鈴谷の努力を認めて甘やかす。

 既成事実がどうとか言っていたが、冷静になり、言動を省みて恥ずかしくなり自滅して暫く死んでいたらしいが、根っこはやっぱり純情なのだろう。

「鈴谷も頑張ったから褒めて?」

「う、うん……? えと、ありがとう。美味しかったわ」

 褒めるのが最近のトレンドで、提督も困ったように褒める。すると伸びるので驚き。

 前みたいに暴走することもなく、ちゃんと年相応の羞恥心と異性に対する距離をはかる鈴谷。

 こうなると、飛鷹と同じくガードをすり抜ける。しかも素直という新しい武器まで持ち込んで。

「えへー、あんがと。提督大好き!」

 照れたように上目遣いで微笑む鈴谷。

 飛鷹ですらグッと来る。提督は……何だか困惑していた。

「イケイケから普通の女の子に……。お前、やれば出来るのな。見直したわ」

 変化に戸惑っているようだった。

「そりゃねー。本気で提督の隣、狙ってますから」

「やめろ来るな。お前の本性は知っているぞ夜のビーストめ」

「あのね、何回も言うけど鈴谷経験ないの。誘惑もダメって言われたから止めたの。今は無害な小動物ですー」

 鈴谷は真剣に言う。確かに彼女は最早今までの鈴谷ではない。

 彼のために自らを変化させ、彼に好かれるために努力を惜しまない普通の女の子。

 無理に誘惑して取り返しのつかない結果を出して結ばれるよりも、愛し合う関係の方が好きだと言えた。

「だって鈴谷、提督のこと好きだもん。好かれたいもん。だから、嫌がることはやめたの。変わるって決めたから」

「うーん……。お前可愛いし、俺なんかよりもずっといい男捕まえること出来るんじゃない?」

 まっすぐな好意に困っている提督。堅物だからそりゃこうなると飛鷹も納得。

 いきなり言われても困るのも事実だ。あくまで部下として、接しているのだから。

「命救われてそりゃないと思うよ。それに、答えはまだいいの。急がなくて。鈴谷は、ずっと想ってるし。……負ける気もないよ?」

「へぇ……?」

 最後に小声で飛鷹を見る。……気付かれているのは知っているが、成る程挑むと言う事か。

 飛鷹もその敵意に怖い笑顔で応戦する。飛び交う火花。

 そんなことは気付かない提督はおいといて。

 そして、鈴谷も護衛につくと言い出した。飛鷹は仕方なく、了承。

 ……ポイント稼ぎで負けるほど浅い付き合いではないし、鈴谷が純粋に気になる。

 出来れば、素直になれる何かを発見してやるつもりである。

「護衛も限界超えた鈴谷にお任せ……って、そっか。公にしちゃいけないんだよね。修羅場になるから」

「既に遅いけどね……」

 指輪をはめようとして、ライバルが多いことに鈴谷は直ぐに引っ込める。

 飛鷹がボソッと言った一言に苦笑いして、鈴谷は近づいてきて、小さく彼女に言う。

「……けど、仲良くしようね飛鷹さん。鈴谷だって、飛鷹さんが一番強いと思ってるんだから」

 皮肉でもなんでもない、純粋な言葉。飛鷹はあまりの可愛い態度に一瞬落ちかけた。

 鈴谷はその気になれば可愛らしい女の子なのだ。女ですら真面目にヤバい。

 彼女は争うことはあまりしたくないのだ。だって、悲しくなるだけだから。

「可愛いこと言うじゃない。そうね。仲良く、一緒にこの唐変木攻略に頑張りましょうか」

 態度を変える。飛鷹は一緒に難攻不落の堅物を攻略する仲間として受け入れた。

 本人は敵襲に備えてビクビクしている。その後ろでタッグを組む、鈴谷と飛鷹。

 まずは血のバレンタインにしないため頑張ろう。主に彼が刺されないように。

 女の戦いは、まだまだ続く……。

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