本当に結ばれる、ただ一つの方法   作:らむだぜろ

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意地の戦い 後編

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――演習開始のブザーは鳴った。

 皆が固唾を飲んで見守るなか。

 飛鷹は彼女のやり方を思い出していた。

 基本的に、攻めてこない。後手で対応するやり方が多い。

 でも、今回もそうとも限らない。

(先ずは様子見……いや、私から攻めてみる?)

 それではいつも通りの戦法になる。

 搦め手は必ずあるだろう。警戒に越したことはない。

 取り敢えず移動しつつ偵察機を発艦。相手の様子を見る。

 が……。

(ん、あれ……? 艦載機の数がもっと少ない?)

 気がついた。鈴谷の放つ艦載機の数がいつもよりも更に少ない。

 もともと空母としては極端に少なかったが……今回はそれ以下。 

 何やら見慣れぬ艦載機を放っているが……。

 と、思ったら。

 鈴谷は飛鷹を発見して、直ぐ様突撃してきた。

 なんと、自ら攻撃に出たのである。

(やっぱり攻めてきた! だったら艦載機で迎撃を!)

 鈴谷に対して飛鷹は艦載機を発艦。迎撃に向かわせる。

 あんな少ない数、飛鷹にかかれば一網打尽にできる。

 目を閉じて意識を集中しながら、航空戦に神経を使う。

 60を越える艦載機の一斉攻撃。鈴谷も対策はしているだろうが、制空権は飛鷹のもの。

 空で鈴谷には勝ち目はない。スピードをあげて距離を開ける。

 飛鷹の脳裏に写る鈴谷。艦載機を見上げて……笑っている?

 引っ掛かったな、という表情だった。途端。

 

 激しい衝撃が飛鷹の足元を襲った。

 

「きゃあっ!?」

 

 バランスを崩して転倒。

 意識が艦載機から離れて途切れる。

 何事かと起き上がって移動し、周囲を見回す。

 右足が損傷。艤装の一部が壊れて速力が低下している。

(なに……? なにが起きたの、今?)

 煙をあげて、痛む右足。堪えながら確認。

 数秒で理解した。……先読みされた雷撃だ。

 移動していた方向に予め、予測して発射しておいた魚雷に自ら突っ込んだようだ。

 何故、と思う前に態勢を立て直す。

 その間に、接続の切れた艦載機が撃墜されていると気付き再び接続。

 鈴谷は距離を詰めている。かなりの数が撃ち落とされている。

(やってくれるわね……!! 不意討ちってことか!)

 飛鷹は分かった。今の鈴谷は、空母ではない。航巡だ。

 ずっと空母として戦ってきてきた飛鷹に対する思い込みを利用した不意討ち。

 しかも、飛鷹は何も知らされていない。提督も何も言っていなかった。

 と言うことは、勝手に改装して元に戻っていたと言うことか。

 資材の悪用と無許可の改装と見ていい。飛鷹は舌打ちする。

 完全にしてやられた。

 飛鷹の苦戦する様子に、提督は驚いた。

 彼は飛鷹の考えとは違い、ちゃんと改装したことを知っている。

 無許可だと飛鷹は思っているが、提督が飛鷹に言っていないだけ。

 改装したその日の午後、急な出張に駆り出され、彼は飛鷹に伝えていなかった。

 飛鷹はその時出撃していて事を知らない。 

 戻ってきた提督は彼女が知っていると思い込んで言わなかった。間が悪かった。

 鈴谷はその事を知って、知られないようにしつつ、不意討ちしてやろうと準備していた。

 彼女は、空母のまま戦うと思い込んでいた。だが違った。

 鈴谷は対策として、空母ではなく航巡として戦うつもりだったのだ。

 艦載機はあくまで、囮。本命は経験から予測して準備していた魚雷の方だった。

「いっつぅ……」

 痛みで集中が途切れやすくかっている。

 雑な動きは、空母のときと違って格段に動く鈴谷の良い的だった。

 しかも、砲撃に加えて飛鷹の猛攻を掻い潜り頭上に到達。爆撃してくる。

(あれ、瑞雲だったのね!)

 航巡よく使う艦載機、瑞雲。爆撃も可能な器用な艦載機の一つ。

 飛鷹は無理矢理艦載機を割り込ませて、爆撃を凌ぐ。機動力の低下のせいで、回避運動が鈍い。

 爆風が吹き荒れる。飛鷹の艦載機が、鈴谷をかするも、回避される。うってかわって、よく動く。

 足が速い。雷撃、砲撃、爆撃の波状攻撃。過去に飛鷹が勝ちを奪ったのは空母としてだ。

 航巡としてなら、別のやり方をするだけだが……鈴谷は必要な艦載機を率先して撃ち落としていた。

 自分が負けた原因は念入りに排除するつもりと見る。

 飛鷹も負けじと反撃に出る。痛みで雑念がこもりやすいのを、強引に進めた。

「うわぁっ!?」

 鈴谷も驚く。撃墜寸前の艦載機が突然、鈴谷目掛けて突撃してくるのだ。

 質量爆弾のごとく、上から特攻紛いの事をしてきた。しかも範囲が広い。

 空母の命である艦載機を突撃させて、自爆させる。

「きゃー!?」

 撃ち落とすも次から次へと、無事な艦載機まで使い捨てるように、片っ端からぶつけてきた。

 うち漏らし、直撃コースを飛行甲板をシールドの代わりにして、何とか防ぐ。

 爆発。鈴谷反射的に雷撃をかまして、魚雷をすべてうち尽くす。何とか誤爆は防げた。

 扇状に広がる雷撃。その方向は、のろのろと動く飛鷹の移動方向に重なった。

「ヤバ……!」

 飛鷹は意識が艦載機に行くと砲撃の回避がおざなりになる踏んで、艦載機を全部使い捨てた。

 大胆な方法であろう。下手すれば悪手。それでも、砲撃能力のない空母には砲撃、雷撃は十分脅威だ。

 どうせ半分ほど叩き落とされている。ならばいっそ、被弾を下げた方がいい。

 只でさえ足をやられている。元より足の遅い飛鷹には致命傷。

 やったことのない自爆だったが、ある程度は届いたと感じて、意識を戻すとまたも雷撃。

 ギリギリの所を通りすぎていった。ほっと安心するも、然し。

「いっけー!」

 目視の距離に迫っていた鈴谷の雄叫び。

 砲がこちらに向いている。全身至るところから煙をあげて、服が所々破けて裂傷が見える。

 かなりのダメージを受けて、彼女も瑞雲を操作できなくなっていた。魚雷も尽きた。

 然し、依然として生きている主砲がある。

 火を噴く重巡の主砲。直撃すれば飛鷹の装甲など簡単に貫くだろう。

 だが、彼女は艦載機がなくとも、自衛は出来る。

「ふんっ!!」

 非常時のお札だ。全面に展開して、砲撃を防ぐ。

 空中に浮遊し防壁となり、彼女を守る。

(あれが加賀さんとかが言っていた、例のお札。と言うことは、空からの攻撃はもうない。下からもない。純粋な殴りあいになる。鈴谷は主砲がまだ生きてる。副砲も持ってきた。まだ、戦える!)

 油断はしない。予備の弾薬もある。痛みで悲鳴をあげる身体。飛鷹は小破、鈴谷は中破。

 然し攻撃手段を失い、機動力の低下した飛鷹には致命傷。

「やってくれるわね、鈴谷……。まさか、無断改装するとは思ってなかったわ……」

 風にのって、そんな飛鷹の声が聞こえる。静かに、怒り狂っていた。

「む、無断改装なんてしないよ!! ちゃんと許可貰った! 何でそうやってすぐ思い込むかな!!」

 心外な言い分に激怒して、鈴谷は無線を開いて怒鳴り返す。

 なにもしていないのに、勝手にキレた。鈴谷はたまらず見ている提督に確認。

 彼も飛鷹が勘違いしていると知って、彼女に聞く。すると、彼女は知らないと彼に怒る。

 謝る提督に、飛鷹は彼に文句を言う。最後に、彼に小言を言って無線を切った。

 見ていて分かる、繋がりの強さ。飛鷹はため息をついて、鈴谷に謝罪。

 その様子を見て、鈴谷は呟いた。

「……羨ましいよ。提督と一緒にいる時間が長い飛鷹さんは」

「……えっ?」

 飛鷹が反応する。

 飛鷹が鈴谷に抱く感情が嫉妬のよるなら、鈴谷が抱く感情は劣等感による羨望だ。

 飛鷹には絶対に分からない感情を鈴谷はずっと感じていた。

「そうだよね。命かけたって、時間の流れには決して勝てない。思い出をたくさん持っている飛鷹さんには、鈴谷じゃ……敵わないことぐらい、知ってたよ。だって、鈴谷は……まだ、その半分の時間もいってない。知っていることも、頼られるだけの信頼も、飛鷹さんが全部先。何年も支え続けていた人には鈴谷の気持ちなんてわかんないよね」

 言わせてもらおうか。言いたい放題言ってくれたのだ。

 鈴谷だって、思っていたことをぶちまけるくらいは、許されるはず。

 一度口を開けば、止まらない。

「どんな努力したって、自分よりも優れた人が目の前にいるんだもん。いっぱい頑張ったって、既にそこを通っている人がいて、実際に頼られているのがわかっちゃう。……ねえ、飛鷹さんに分かる? 鈴谷が抱えてる悩みが、ひとつでも」

「……」

 飛鷹はこちらを見ている。

 鈴谷は、一度主砲を下げて、代わりに言葉を投げる。

 ずっと飛鷹に対して感じていた事だった。

「わかんないよ。だって、飛鷹さんにはもう、あるものだから。経験、思い出、秘密。二人で重ねてきた、時間の流れが形になって、ちゃんとある。鈴谷にはそれがない! 飛鷹さんには、提督をずっと支えてきたって言う、自負がある! 鈴谷には何にもない!! 鈴谷は提督と出会ってまだ一年も経過してないひよっこだから……。何をしても飛鷹さんの二番煎じ!! 空母として勝てないから航巡に戻った! 同じ土俵じゃ勝つ自信なんて鈴谷にはないから!! 不意討ちしたのは、そうでもしないと勝ち目が無さすぎるもの! 艦娘としても、女としても!! 鈴谷はずっと前にはいけなかった!! 前には常に飛鷹さんがいた!! 分かってるよ、提督が今、誰を見ているかぐらい!! 鈴谷に向ける笑顔と、飛鷹さんに対する笑顔の種類が違うってことも!! 全部知ってる!! 言われなくても、自分で理解してる! だけど、それで諦めつくなら鈴谷だって苦労しないよ! 仕方ないじゃん、好きになったのがあの人だったんだから!! 一生懸命やっても、ダメだって分かってても……すんなり、受け入れられる程鈴谷は強くない!! みっともなくたって、見苦しいって言われたって、自分自身が納得できないなら、進むしかない!! 負けないって誤魔化しながら、進んで行くしかないじゃん!!」

 劣等感による、一種の意地だった。

 負けていると最初から自覚していた。

 勝てないと言うことも分かっていた。

 やっぱり現実は勝てなかった。でも、自分が納得できずに足掻いた。

 意地になって、負けを認めたくなくて。何をされても言われても、諦めはつかなかった。

 最後には認めたくないという鈴谷のワガママ。頭じゃ理解しているのに感情が否定し続けた。 

 結果として飛鷹もヒートアップして、周囲に迷惑をかけて、こんな大事にしてしまった。

 言葉にすれば、みっともないのは鈴谷だった。

 限界かもしれない。どのみち、そういう約束で演習をしているのだ。

 鈴谷は、無線を入れて切り出した。

「ねえ、提督。聞こえるよね? この際、ハッキリ言って。そうしないと、鈴谷何時までも踏ん切りつかない。ここで、今すぐ、教えて……」

 最後には、大粒の涙を流して鈴谷は俯いた。

 彼に言われないと、きっと鈴谷は苦しみ続ける。

 答えを先伸ばしにしてきた、彼の失態。宙ぶらりんにされて、鈴谷はずっと辛かった。

 飛鷹がなにかをいう前に、通信が入る。提督からだった。

『……鈴谷』

 彼は、大きく息を吐き出す。

 彼女にこれ以上、何も言わないわけにはいかない。

 ずっと頑張ってきた、鈴谷に対する返答を、出さなければいけないのだ。

 例えそれが、辛い事を告げる残酷な言葉だったとしても。

 告げるときが来た。情けない男が漸く出せた答えを。

 

『……ごめんな。鈴谷の気持ちには、応えられない。俺は、好きな人がいる。だから、ごめんなさい』

 

 ……やっぱり、か。鈴谷の中にスッと、彼のお断りの言葉が入ってくる。

 予想はしていた。そうだろうと、誰もが思っていた。

 鈴谷は、涙をぬぐった。本人から、やっと返事が聞けた。

 本人から言われて、鈴谷は……一先ず、自分を納得することが出来た。

 フラれた。長い間放置されていたが、今ごろになってフラれた。

 でもその事実が、彼女が受け入れるべき、現実。

 散々足掻いていたくせに、飛鷹の行動にもめげなかった彼女は、軈て。

 これだけは、言いたかった。

「提督。答え出すの、遅すぎ。おかげで鈴谷、すっごいキツかったんだよ。ダメならはやくいってよ。いってくれた方が、楽だった!」

 文句を言って、顔をあげた。涙で腫れた目で、飛鷹を見る。

 大きく息を吸って、吐き出して、言った。

「……もう、終わりにしよっか。提督にフラれた手前、続ける理由もないし。鈴谷の敗けにして、この件はお仕舞い」

 呆気なく、終了を申し出た。飛鷹は、痛む足を引きずって頷く。

 演習終了。飛鷹の勝利。二人は鎮守府へと帰還する。

 互いに助け合いながら。

 無線を切って、飛鷹は肩を貸す鈴谷に小声で言った。

「ごめんなさい。酷いことをして」

「いいよ。大体の原因は提督だから。後で腹パンしてやるって決めた」

「じゃあ、私も腹パンね。後で頂戴」

「いやいや、提督だけでいいから」

 飛鷹が謝りながら、思う。申し訳ないことをした。

 飛鷹の暴走と提督の先伸ばしが、鈴谷を深く傷つけた。

 こんなことは、もうしないと誓おう。幾らなんでも、酷すぎる。

 飛鷹は何かできることをすると、心に刻みながら帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後。鎮守府に戻った二人。

 鈴谷に、改めて提督は顔を合わせて言った。

「ごめん、鈴谷。ここまで伸ばしてきて。本当に、ごめん」

 頭を深々と下げて、謝罪した。鈴谷は、怖い表情で彼に告げる。

「後でもっかい空母にして。あと、好きなもの奢って。それでチャラ。鈴谷も、引き摺らないよう努力する」

 とだけ、言ってドックに入っていった。飛鷹も続き、傷を癒す。

 彼女は頭から高速修復材を被ってさっさと上がって、姿を消した。

 一人になりたいのだろう。飛鷹は声をかけずに、お湯に浸かった。

 これで、一応……解決だと思っていた。後は、自分に出来ることをしよう。

 このときはまだ、そんなことを考える余裕はあった。

 まだ、この時は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……はぁ。やっぱり、ダメだったか……。悔しいなぁ……。……誰も居ないし、泣いても、良いよね……?)

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぐすっ……。うぅ……うぁあああああああーーーーーーーーーっ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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