本当に結ばれる、ただ一つの方法   作:らむだぜろ

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繋がった想い

 

 

 

 

 

 

 

 

 昔の情勢からすれば、彼女の夢など実にありふれていた夢だった。

 然し深海棲艦の登場によって、全てが瓦解した。

 否。艦娘と言う存在自体が、夢を語るなどと言う事は稀である。

 何故なら艦娘と言うのは、得てして現在を優先する傾向があった。

 戦いの最中に贅沢など言えない。叶うわけがない。

 胸に抱くは誇りや矜持、あるいは義務。

 何れも過去や現在であって、未来ではない。

 彼女たちが夢を見るなどと言うのが異質なのだ。

 故に飛鷹は、夢を語りたがらない。

 艦娘の癖に生意気だ。夢を見るより、現実を見ろ。

 そう、言われるのが関の山。

(良いじゃない。夢を見たって……何がいけないの……?)

 それは使命じゃない。

 それは宿命ではない。

 余計なもの。いらないもの。

 だって……それは。

 未練、だから。

 客船の頃の半端な感情によって生み出されたただの未練。

 叶うわけがない。贅沢な思い。笑われる。

 分かっていた。なのに……。

(あの人は自分に夢がないから、私の夢に便乗した。叶えるために一緒に色々やってくれた。笑わずに応援してくれた。……思えば、それが好きになったキッカケかも……)

 飛鷹がホレた理由は夢の共有だったかもしれない。

 誰にも言えない秘密を知る彼が否定せずに応援してくれるから。

 思い起こせば、意識していたのはその頃だった。

 簡単な夢。でも、沢山の現在を失う。

 ……覚悟はあるとも。努力をして来た今ならば。

 使命を捨て、幻想を求めると言う愚行をする。

 艦娘としてはナンセンスそのものだ。笑いたければ笑うがいい。

 愚かと謗るのならば好きなだけ謗れ。

(バカでいいわ。狂っていてもいい。私は彼と共に夢を叶える。その為に過去の私を捨てろと言うのならば、捨てる)

 ああ、そうだとも。

 飛鷹は元から狂った艦娘だ。

 存在理由を否定して夢に狂い、恋に狂い、男に狂い、そして酔狂に未来に狂う。

 ならば、狂ったままひた走るのもまた一興。

(私は、『艦娘』飛鷹として人生を終わる気はない。『出雲丸』として……彼と共に、長い時を生きるって決めているもの!)

 最早狂いすぎて直らないのであれば!!

 

 不必要なものなど、捨ててしまえばいい!!

 

 使命? 艦娘の名前? 栄誉?

 

 下らない、下らない、下らないっ!!

 

 全部糧にして捨て去ってやる!

 

 既に心は決まっている!

 

 艦娘の人生に悔いはない。夢といぎ、ならば飛鷹は夢を選ぶ!

 

 自分を縛る使命など、そんなものはいらない!

 

 決意は何よりも固い。

 夢をみる猛禽類は、先を見ているのだ。

 何よりも優先したいことを、一緒に叶えたい人と共に、生きたいし、行きたい!

 艦娘として叶えられないなら。その事を応援してくれる人が、もう一人増えた。

 飛鷹は彼女に全てを託そう。これまでの全てを、惜しみ無く。

 滑稽そのものだろうとも。進むべきは目指す場所。

(さて、私もそろそろ本腰入れるかなぁ。私の人生、まだまだ先が長いことだし)

 先ずは……彼と結ばれようか。スタートラインはそこからだ。

 勝利した証をかっさらう為に、鷹は羽ばたき出発した。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で、彼はというと。

 余った指輪を、部下に託していた。

 これからも己が目指すものと共に強くあってほしいという、当初の願いを込めて。

 信じているみなに、支えてもらったみなに、想いを告げて手渡した。

 戦艦は長門や金剛、榛名に。

 二人にはごめんなさいと言うが、納得してるから気にしないと言われた。

 正直、どっかのラスボスには勝てる感じはしなかったので、仕方無い。

 本気の愛情って言うのは時として闇を湛えて病みを見せるものだと知った。

 重巡は那智や足柄に。取って置きの達磨と宴会の席も用意した。

 これからの活躍と勝利を祈って、どんちゃん騒ぎして笑いあった。

 足柄のカツは美味しかった。ただ、量はもう少し減らして欲しかった。

 軽巡は、川内や神通の姉妹に送った。

 川内など大喜びして夜の戦に突撃していった。

 驚いたことに凄まじい戦果を叩き出した。夜戦バカは伊達じゃない。

 空母には、最近最大練度になった翔鶴と、前から約束していた加賀に。

 ついでに翔鶴はこの鎮守府で初めての装甲空母に変身した。

 これからは、二人も鎮守府を支えるエースとなる。

 提督は深い感謝を込めて、お礼を言った。二人とも、特に加賀は珍しく照れ笑いをしていた。

 駆逐艦からは、案の定争奪戦に発展しかけて、事態を重く見た朝潮が全員を一人で制圧してしまった。

 流石忠犬改めお利口狼朝潮。言う前に最近では察してくれる。

 あんまり健気で可愛いので撫でた。朝潮はじゃれてきて、飛鷹にロリコンと怒られた。

 ……困ったことに、駆逐艦は数が多くて、しかも全員が諦めずに限定解除を求めていた。

 潜水艦たちが、空気を読んで辞退してくれても尚数が多すぎる。

 提督に関係なく、上限を超える強さには幼い彼女たちには憧れがあるらしく。

「……仕方無いわね。いいわ、選別しましょ。……かかってきなさい」

 残りは三つしかない。追加は理由あって出来ない。

 なので、手下を引き連れラスボスが起動した。

 自分たちに勝てる自信がある奴だけかかってくればいい。

 勝ったら、提督の手から貰えるのだと試練としてラスボスが立ちはだかる。

 因みに一人じゃない。

「な、何で鈴谷まで……」

「私と本気の殴りあいした癖に何を言うの。あの子達の実力をはかるのも、役目よ鈴谷。……朝潮、良いわね?」

「はいっ!! 朝潮も全力で戦います!」

 巻き込まれた現在の練度上位三名によるデスマッチ。

 最早敵のいない飛鷹、渋々対応する鈴谷、葛城を抜いて最強の駆逐艦、朝潮。

 この三名と演習して勝ったものだけ対応すると。

 そう、埒があかないので提督は決めた。

 無論挑むか挑まないかは自由。

 その無謀とも言える挑戦に怯まないのは……。

「……まあ、折角だしね。飛鷹さんと一戦交えるのも悪くないわ」

「負けないっぽい!! 提督さんに褒めて欲しいから頑張るよ!」

 最高練度に成長した曙と夕立だった。

 まさかのラスボスに挑むと言って、翌日他の面子と揃ってマジで挑んでいったのだ。

 不敵に笑って、迎え撃つラスボス。

「心意気はよし。然し、実力がなければ……ね?」

 で、予想通り呆気なく敗北。猛禽類には流石にツンデレと狂犬では勝てなかった。

 しかも結局一人で全滅させた。他二人は単なる保険であって、飛鷹一人で足りてしまったのだ。

 過去、飛鷹とタイマンして一番長続きしたのは朝潮で、その朝潮ですらまだ一度も飛鷹には勝利していない。

 腕を組んで、死屍累々の一行を堂々と見下ろす飛鷹に鈴谷は。

「うわぁ……」

 ドン引きでした。

 残りの三つは中々決まらない。駆逐艦は数が多くてみな、特性が似ているものが多い。

 追加するにも、大本営が一回問題起こした奴が何いってんだと却下。

 なので、三つしかない訳で。

「……ううむ」

 勝ち気な彼女たちは日々空母に挑んでは敗北していた。

 というか、朝潮が別次元になっている気がするのは気のせいだろうか。

 一人だけ飛び抜けて強いのだ。個性の強い妹を束ねる姉は伊達じゃないのか。

 なんかもう、いっそ誰も飛鷹に勝てないなら駆逐艦内部でサドンデスでもした方が早い。

 一週間しても誰も勝てないので予定変更。もう当初の通り存分にやりあってもらった。

 三名になるまで徹底的に戦ってもらった。

 結果……。

「あ、有り難く貰うわね……ありがと」

「朝潮が伊達に姉じゃないわよ。どうよ?」

「褒めて褒めてー!」

 満潮、霞に宣言通り夕立が勝利。

 頬を赤くして受けとる満潮と、自慢げに笑う霞。

 無邪気に飛び付く夕立に、提督は苦笑しつつ指輪を渡した。

「やっぱり、私の妹はみんな優秀なんです。司令官、朝潮はとても誇らしいです!」

 朝潮が胸を張って言うが、二名ほどひきつった顔をしている。

 過去、その精神的な問題で姉に叩きのめされた妹たちにすれば、姉に逆らい培った経験が妙な形で発露して勝った。

 なんとも言えない気分なのだった。

 首を傾げて、不機嫌な飛鷹に犬なのに猫つかみされた夕立を見て声を出して笑う提督は思う。

 平和なもので、これで全部の指輪を皆に託した。これで、第一段階は完了。

 残るは、最後の大仕事。全ての現況にして、彼らの関係の一つのゴール。

 彼は……覚悟を決めて、飛鷹をその日の夜に執務室にコッソリと呼び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜の執務室。

 提督は深呼吸して、待っていた。

 思いを告げよう。そう、思っていたのだが……肝心の意中の人が中々来ない。

 予定の時間を過ぎても、現れないので次第に不安になっていく。

(あ、あれ……? 何だろう、几帳面なあいつにしては珍しい)

 何時までも来ないので心配になって、執務室の外に出る。

 探しに行こうと思っていたのだが。

 ドアを開け、廊下に出て閉める。すると。

「………………………………」

「うぉっ!?」

 影に隠れるように膝を折って、飛鷹が小さくなって座っていた。

 長い髪から見える耳は真っ赤だった。微かに震えている。

 明らかに普通じゃなかった。恐々声をかける。

「ひ、飛鷹……? おい、大丈夫か?」

「ごめん……。あんまし、大丈夫じゃないかも……」

 彼がビックリして聞くと、飛鷹は小声で言った。

 余裕のない声で、完全に怯えている。何になのかは分からないが。

「どうした?」

「……実は、さっきからずっとここでビビってへたれていたの。正直言うと、付き合いが長いからかな……。貴方の言うことの大体予想はついてるし、私も覚悟は決めてきたんだけど……ごめんなさい、やっぱり怖い」

「ん? 何が?」

 何を言っている? 提督は一先ず具合は悪くないと言うので安心したが。

 飛鷹が何を言っているのかさっぱりだった。

 提督も軽く座って、話を聞く。

 ボソボソと、飛鷹は座ったまま説明する。

「いや、ね? 多分だけれど、私の自意識過剰でないなら……貴方、私に告白するとかしたかったんじゃない?」

「……正解。やっぱ、バレてる?」

「うん。ほら、指輪も全部配布したじゃない。一応、目下の問題は解決したし……。となれば、ね?」

 一大決心がおじゃんになった。

 ムードのある告白をしたかったのだが、付き合いの長さと今までの経緯で大体、互いの気持ちは分かっていた。

 言うまでもなく、互いに好きあっている。それは間違いないわけで。

「……なんか、台無しになったんだけど。俺、お前のこと好きなのな。真面目に。結婚とか、割りと視野に入れたい」

「うん、知ってる。私もバレバレだと思うけど、好きなの提督。嫉妬で暴走するぐらい大好きなの。結婚したいのも同じ、貴方しか居ないし」

「だろうな、知ってた。周りにもバレバレで分かりやすかったもんな、後半の俺ら」

 相思相愛なのは、今さらで。互いに言葉にすると、実にすんなりと出てきてしまった。

 本当に、早くやっておけばこんなことにはならずに済んだのに、と互いに後悔しつつ。

「で……続きは?」

 ここまでは提督の用事。簡素に、あっさり終わった。

 ムードもへったくれもない。鎮守府の執務室前の廊下。

 人気ない夜の薄暗い廊下で、互いに座って小声で告白。なんだこりゃ。

 イメージと全然違った。なんと言うか、色々酷い。

「あ、秋雲が……秋雲が、いつの間にか話に気づいていて、私に今夜はお楽しみですねえ、ってからかってきたのよ。で、意味が分かんないからちょっと問い質したわけ。で……」

「…………続けて」

「……今晩はベッドウェー海戦が鎮守府内部で起こるから人払いはしておくんで、お楽しみくださいって……」

「よし、飛鷹。今晩はオータムクラウドハンティングの時間だ」

 またあの薄い本の達人が飛鷹にいらぬ知識を吹き込んで悶えているのを楽しんでやがった。

 前回もなんか、変に怯えている時期があって、原因はオータムクラウドだったと聞いた。

 顔を真っ赤にして、エロい妄想で自滅して震えていた可愛い嫁を豪快にお姫様抱っこ。

「ひぃ!? やめて、お願いだから……! 貴方でも怖いことは怖いのよ……!」

「何にもしないよ、お前そんなに怖がることないって。大切な彼女なんだから、優しくするし丁寧に扱うって。俺はケダモノか」

「……ケダモノは最初、みんなそんなこと言うのよ……」

「前に聞いたよ、それ。よーし、オータムクラウドを先ずは一緒に八つ裂きにしようか。平気、エロ同人みたいな事なんてしないぞー? よしよし、可愛い俺の飛鷹め。大丈夫大丈夫。イチャイチャするだけで俺は満足だから。よしよし」

 完全に想いが繋がった途端、美味しく全部頂かれると勘違いしていた初心の飛鷹を、正直になった提督は優しく下ろして頭を撫でる。

 前回の事で懲りたと思いきや、他の艦娘にも今夜はお楽しみタイムと広めやがったどこぞのオータムクラウド。

 それの厳罰が優先だった。未だに鵜呑みにして怯える飛鷹。

 だからここでビビって震えていたのだ。エロ耐性低すぎである。

「……怖くしない?」

「しないよ。恋人だもの。な、飛鷹?」

「恋人……。私、恋人?」

 恋人、というと飛鷹は顔をあげて問い返す。

「そ。俺の恋人。だから先ずは一緒に……邪悪なるエロ駆逐艦を駆除しに行こうか?」

 恋人の最初の共同作業。

 夜の戦意味深よりも、まーた余計なことを教えて告白を台無しにしたオータムクラウドを引っ捕らえる事。

「…………分かったわ。そうね、私は貴方の恋人だもの。秋雲に翻弄されるなんて……油断したわ」

 調子を取り戻した彼女は、表情を引き締める。

 でも、何処か嬉しそうに彼に寄り添っていた。

 長年の想いが、隠していた、殺していた想いが漸く報われた。

 嬉しくない訳がない。今すぐキスの一つぐらいなら出来そうなくらいとても嬉しい。

 然し……。

「私を追い詰めて、折角の告白を……よくも台無しにしたわね……秋雲」

 だからこそ、記念すべきこの機会を冗談で潰されて二人は、飛鷹は激怒した。

 ハイライトがオフになった。いや、成就したおかげかより危険な闇色に変化。しかも攻撃的。

「……殺す」

「精神なら許す。好きなだけ殺せ」

 よく見れば提督もハイライトがご退場なさっていた。

 この瞬間、怒らせたら面倒くさいヤンデレとその彼氏のカップルが誕生した。

 プッツン、と理性がキレた二人は駆逐艦の寮を目指す。

 今夜のお楽しみは、オータムクラウドそのもので楽しませて貰おう。

「好きよ、提督。今までも、今も、これからも」

 飛鷹はヤンデレアイズで、一緒に歩く彼に歌うように自然と言えた。

 素直になればいい。鈴谷みたいにこれからは隠さずに堂々と言おう。

「愛してるわ、貴方。何処までも一緒に行きましょう。……どんな敵が相手でも、飛鷹は怯まず戦うわ」

 それがたとえ、己の仲間だとしても……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれっ? お、お二人とも……何でそんなおっかない顔をして……え? 殺す? 同人誌八つ裂きにする!? やめて、マジでそれだけは!! 完徹の結晶が……!!」

「爆撃……開始。死になさい秋雲ォッ!!」

「ギャアアアアアアーーッ!!」


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