本当に結ばれる、ただ一つの方法   作:らむだぜろ

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闇色駆逐艦

 

 

 

 

 

 

 さて、ここで大きな問題がある。

 現在、指輪持ちとこの鎮守府で言われる五名のうち、何名が戦えるだろうか?

 練度の序列から考えよう。

 一位、空母飛鷹。今は出撃の回数が増えている。留守にしがちな日々が続く。

 二位、空母鈴谷。現在提督包囲網の哨戒に忙しくて出られない。

 三位、駆逐艦朝潮。現在二位と包囲網でにらみ合いをしている。

 四位、潜水艦イムヤ。事情を聞いて苦笑いをしつつ、一位の後方支援を担当中。

 五位、空母葛城。正直言うと包囲網に入りたいが彼がゾンビになっているので空気を読める良い娘。

 要するに上位二名がバカやってて戦力低下を招いていた。

 限定解除をしているはずの二人が抜錨しない。それはイコールで跳ね返る。

 提督は、こんな形で切り札を切りたくはなかった。然し、このままではいけない。

 最早この二名のにらみ合いでは済まない。飛鷹の許可は得た。急いだ方がいいと警告も受けた。

 仕方無い。もう、彼の手にはあまる。

「ごめん、助けてッ!!」

 そう、複数の部下に指輪を差し出して、SOSを出す情けない司令官がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人が転がり込んで、約一週間経過。

 今日も今日とて騒がしい。空母と駆逐艦が揉めている。

 もう変なことしないので放っておいてほしいと真面目に思う。

 執務室で口喧嘩が絶えない。鈴谷が提督の補佐をするのは上手い。

 それは勿論、回数を重ねている鈴谷が有利なのは当たり前。

 朝潮に対して勝ち誇る笑みで出撃を言うものの。

「いいえ、私は司令官の相談役です! ここにいるのが定位置なんです! 鈴谷さんこそ抜錨なさってください!」

 朝潮も中々頑固で譲らない。彼女は相談役、鈴谷は秘書。仕事が被っている。

 仮にも指輪持ちが、こんなことでは困る。そこで、だ。

 先日、二人が寝静まる時を見計らい、数名に部屋に入ってもらい、指輪を手渡した。

 書類はあとでコッソリと書いていたので問題なし。情緒がどうとか言っている暇がない。

 そこで、渋っていた指輪の受託を、数名に行った。丁度戦果を挙げるのもあるし、好機であった。

 それ以上に胃痛との戦いを勘弁してほしい。こんなラブコメデイズは嫌だ。

 何よりも、助けをほしかった。この二人の怒鳴り声は色々キツい。

(頃合いか……)

 辟易した表情で仕事をする。捗るのはいい。主に現実逃避で効率は上がっていた。

 提督との約束の時間になった。すると。

 突然、執務室の扉が豪快に開く。驚く二人に、颯爽と救世主が現れた。

「朝潮、今日こそは観念してもらうわよ!!」

「……うわ、青ざめてる。ゾンビみたい……」

「鈴谷、演習の時間ですよ。来なさい」

 三名のメシアがずかずかと入室する。

 駆逐艦、霞と満潮。空母、加賀。

 この三人が、提督の窮地に参上してくれた。

「げっ、加賀さん!?」

「……霞? 満潮? 一体どうしたんです?」

 鈴谷は勝ち目のない相手が来て逃げ腰になり、朝潮は首を傾げた。

 まず加賀が、鈴谷の腕を掴む。無表情だが、腕に青筋が浮かんでいる。

「いい加減にしなさい。何時まで提督のそばでうつつを抜かすつもりですか? 最近、少々鈍っているようですから、徹底的にしごいてあげましょう」

「ひぃぃぃぃぃ!?」

 三人の左手の薬指には、銀色のシンプルな指輪がはめられている。

 その事に朝潮が気づいた。

「!!」

 提督の膝の上で鎮座する彼女を、霞が引きずり下ろす。

 油断していた一瞬の隙に、回収される。

「交代の時間でしょ!! 何時までもこいつから離れないんだから!!」

「ま、まだです!! 時間に余裕は……!!」

「ないから。もう真面目にギリギリだから。あんたが口先で大潮と荒潮丸め込んで代わりにやってもらってるの知ってるわよ」

 道理で交代制なのに朝潮が固定化しているわけだ。

 大潮たちに代返してもらっていたらしい。

「荒潮がお礼の間宮さんの最中食べ過ぎて体重増えたのは朝潮のせいだって、恨んでいるんだってさ。少し、哨戒に出て恨み言聞いてきなさい」

 ……キチンとお礼をするのは朝潮らしいが、しかしあの真面目一辺倒の朝潮がそこまでして心配しているとは。

 何だか、情けない気がしてきた。

「し、司令官!! 助けてください、霞が! 霞がぁ……!!」

 なぜか抵抗する朝潮を羽交い締めにして、霞が持ち上げる。

「……後で来るわ。仕事、見ててあげて満潮」

 了解、と頷く満潮を置いて、霞は哨戒任務に朝潮を連れていく。

「鈴谷。運動不足は、あなたのいう美容の敵よね? さぁ、運動をしましょうか。たっぷりと」

「ひぃっ!? 死ぬ、鈴谷死んじゃう!! 提督助けて!! 加賀さんに殺されちゃうよッ!!」

「……頭にきました。本気で追い回されたいらしいですね、鈴谷……!」

 ぐいぐい引っ張られて、足掻く鈴谷を連れていく加賀。

 喚く二名を教育係がキチンと仕事を再開させる。

 ばたん、と閉まったドア。途端、提督はハイライトの消えた目で満潮を見た。

「ありがとう満潮……。俺は、もう限界……だ……」

「うちの姉が暴走してごめんなさいね。悪気はないんだけど、如何せん加減を知らないから。限界でもやることはやって。私もキッチリ手伝うから。終わったら例の新作でも一緒に聴こうよ。ね?」

「……お前、あの限定品買ってたの!? マジで!?」

「ったりまえでしょ。ほら、やる気出して。頑張りましょ」

「おっしやる気出てきた! 頑張ろう!」

 何とか息を吹き返した顔に戻った。

 書類は書いているし遠征の指示も出している。

 この日から、五名だった指輪持ちに三名追加された。

 加賀、霞、満潮の三名に後日、長門や那智、金剛や榛名も追加されることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝潮はお説教をされていた。

「あんたはバカか! あいつに負担かけてどうするの!? 見なさい、鈴谷も加熱して倍増させたもんだから、あいつがまたゾンビになってるでしょうが!!」

「で、でも……」

「でもじゃない!! 私は頼られる事を目指せって言ったんであって、暴走しろとは一言も言ってないから!!」

 任務後。一緒に戻ってきた霞が、ガミガミと朝潮を叱っていた。

 萎縮する朝潮。普段は逆だったのに、今回ばかりは霞が正しい。

 ソファーの上で正座する朝潮はビクビクして叱られている。

 仁王立ちの霞は、イタズラをした子を叱る母親のように様になっていた。一応、妹である。

 提督は満潮と一緒に、大体の仕事を終えて二人で大音量でヘッドフォンを用いて現在現実逃避中。

 新作のデスメタルを聴いて、魂の浄化を試みている。

「あんなにあいつを追い詰めて! 前から強引なのはダメって知ってるのに何やってんの!?」

「……す、すいませんでした」

 忘れていた。彼は強引な艦娘は苦手であった。

 心配するあまり、感情を抑制できずにこの有り様だ。

 霞が説教するのも納得できる。朝潮は我に返り、深く反省した。

 慣れていない感情の暴走が、恋心に合わさって加速した結果の自爆。

 猪じゃあるまいに、と朝潮も自省している。

 霞は以後気を付けなさいと最後にいって、そして。

「……まあ、こんな形とはいえ、指輪を託して貰えたから、これ以上は言わないわ」

 そうだった。ハッとする朝潮。なぜ、妹二名が指輪を。

 それを霞はこう説明する。

「あいつから、簡単に聞いたわ。相変わらず、相談するってことを知らないもんだから、抱え込んで自滅するのよね。要は、大本営の差し金よ。連中、戦果を出すようにでも言ったみたい。支援や輸送だけじゃいい加減足りないんですって。指輪を腐られる前に、形だけでもやっておかないと五月蝿いから。私は、必要経費よ。満潮も多分ね。一番はあんたの暴走に歯止めをかけるストッパー。で、そのついでに私も戦いに出る」

 霞はため息をついた。同時に、少しだけ口元で笑っていたのを朝潮は見た。

 なんだか、胸の中で変な痛みがする。何だろうか。言い様のない、不快感を霞に感じる。

(……何だろう、この感覚。霞を見てると、なんだか黒い気持ちになる。悔しい……のかな)

 強いて言うなら、妬み……? 嫉妬……? 名前が特定出来ない嫌な感覚が広がっていく。

 自分が暴走していたのにかこつけて、ちゃっかり指輪を受け取ったように感じた。

 慌てて首を振った。違う。悪いのは、朝潮。突き進んだ、朝潮が悪い。

 ……なのに。

(私に対する嫌味……? 霞らしくない嫌がらせをする)

 ダメ。一度でも感じてしまうと、止まらない。

 自分だけ、朝潮を使って取り入った。満潮も、朝潮を利用した。

 朝潮にああだこうだと言うのは、自分がそういう立場にいるから? 出来るから?

 この態度の真意は何? 自慢? 優越感? 見下し? 哀れみ?

 姉に対して、過去散々言われた事へのお返し?

 司令官を追い詰めた姉への報復? あるいは、脅し?

 まさか霞は満潮と結託して、司令官を朝潮から奪おうとしている!?

 

(……………………何ですって?)

 

 違う。二人は何にも悪くない。

 悪くない。悪いのは、周りを見なかった朝潮。

 迷惑をかけた朝潮。それは間違いない。

 

(……………………嘘だ)

 

 迷惑をかけたことは反省している。

 追い回したことも反省しよう。

 けれど、待ってほしい。

 それは理解したが、何であそこで満潮は司令官の膝の上で座っている?

 何で霞は、必要以上に朝潮を遠ざけようとしている?

 

(……私が、邪魔なのね? 一番近くにいる、私が目障りなのね?)

 

 知っている。二人も、ずっと前からあの人が好きだって。

 何で朝潮が怒ったと思っている。

 素直に尊敬していると、好きだと言わずに憎まれ口を叩くからだ。

 照れ隠しに、酷いことを何度も言ったからだ。

 

(私は……覚えているわよ、霞。あなたが、司令官をグズと呼んだことを。満潮、あなたがこの鎮守府をこんな場所と蔑んだ事を。私は、決して忘れない)

 

 ……なぜ?

 あれだけ罵倒を続けた二人が、どうして……今、朝潮よりも近くにいるの?

 最初から慕っていた。ずっと尊敬していた、朝潮よりも近くに。

 後から来たくせに。指輪だって、言い訳をしなければ受け取れないくせに。

 

(…………憎い)

 

 奪われる。自分の妹に、あの人が。

 鈴谷? あんなのは今はどうでもいい。今は、霞と満潮。この二人が……憎い。

 違うと言うなら、今すぐあの人に証明して見せて。

 好きだと。愛していると。

 素直に、感情を発露して見せろ。

 朝潮は、自覚した。やっぱり、朝潮はこの人が好きなのだと。

 好きだ。間違いない、大好きだ。自分を制御できないぐらい、好きすぎる。

 

(……………………邪魔)

 

 頭に来た。ああ、完全に今回は頭にきた。

 これ見よがしに見せつけてくれるじゃないか、後から来たくせに。

 必死になっていた朝潮を利用して、彼に近づいて思惑通りに指輪を手に入れてご満悦のようだ。

 良い度胸だ。姉を使って、素直じゃない自分を改めず、あまつさえ姉を怒鳴るか。

 怒鳴る内容は全面的に謝罪しよう。ならば、次はお前らの番だよな?

 

(…………私を利用して手に入れた指輪の件は、謝ってもらわないと)

 

 先ずは、その指輪を外せ。

 

 外す気がないなら、指を折れ。さもなくば切り落とせ。

 

 止めろ。その幸せを誇る笑みを止めろ。

 

 私をダシにして手に入れたくせに、勝ち誇るのを止めろ。

 

 私を惨めにするな。

 

 司令官に近づく口実に、よくも使ったな……ッ!

 

 好きと言えないくせして、状況を有利にしただけの泥棒猫が!!

 

(……許さない。許さない、許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない!!)

 

 コイツら、よくも!! 

 

 よくも私を利用したな!!

 

 ただ、ただ好きだっただけなのに!!

 

 ただ、そばにいたかっただけなのに!!

 

 ただ、あの人の力になりたかっただけなのに!!

 

 全部奪われた!! 霞に、満潮に!!

 

 私だけが指輪を許された駆逐艦なのに!!

 

 許さない、絶対に許せないッ!!

 

(…………思い知らせてやる)

 

 姉妹がなんだ。

 

 妹がなんだ。

 

 司令官をグズと罵り、鎮守府を否定した艦娘なんて私の妹じゃない。

 

 朝潮型に、こんな娘はいらない。

 

 司令官を慕えない奴なんて、妹じゃない。

 

(殺してやる……絶対に許せないッ!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――私から司令官を奪う駆逐艦は、私が…………て、やる。

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