「……えっ? 彼がロリコンになった?」
突然相談されたことは、提督がロリコンになってしまったという鈴谷の悲痛な訴えだった。
飛鷹は仕事をしながら、首をかしげる。
「どういう意味?」
「だって……!! 提督が、提督が朝潮を天使とか言い出したよ!? おかしいでしょ普通に!!」
執務室で書類を書いていた飛鷹に泣きつく鈴谷。
何事かと思えば、先ほどフラれたらしく、理由が朝潮にガチでホレた提督のご乱心。
彼は朝潮と向き合うとちゃんと鈴谷の言えたらしい。
「良いじゃない別に」
「良くないよ!? 提督変態になってるんだけど!! 飛鷹さんも確りして!?」
飛鷹はなにがおかしいと逆に聞いた。鈴谷、余計にパニック。
何で飛鷹は平然としている。相手は子供だというのに。
子供相手に天使とか言っている野郎をおかしいとは思わないのか!?
すると。
「鈴谷。朝潮は本気なのよ。そして、あの人も本気。……だったら、外野のあんたも私も、黙って見守りなさい。変態とか何とかって、騒ぎ立てるのは良くないわ」
真剣な表情で、逆に飛鷹は鈴谷をたしなめる。
唖然とする鈴谷に、飛鷹は走らせるペン先を止めて、説明する。
「いい? 逆に聞くけど、まさか朝潮やあの人がそれを理解していないとでも? バカ言わないで。あの二人は……きっと、誰がどう言おうとも結ばれる。今時、年の離れた恋人なんて珍しくもない。今は問題でも、朝潮が大人になる頃には関係ないわよ。子供に愛を叫ばれて、受け入れるのも問題だという鈴谷の指摘も理解する。けど、結局は二人の問題なのよ。フラれたなら、受け入れなさい。もう、鈴谷はその場所に居ないんだから」
飛鷹は飛鷹なりに、彼らの交際を応援する気のようだ。
言葉を失う鈴谷に、涼しい顔でまた仕事を再開した。
まるで鈴谷が間違っているように言われて、思わず噛みついた。
「そういう問題じゃないって……そういう問題だよ!! 相手は朝潮、子供だよ!? また何を知らない、ロリコンの意味すら理解していないような幼い駆逐艦なのに……提督はどうかしてるよ!!」
相手は子供。提督は大人。その年齢差は、いかんともしがたい。
一方的に朝潮を子供扱いして、提督を異常者扱いする鈴谷。いや、世間一般の常識。
……無意識に諦めて、提督の相棒という居場所を選ぶ飛鷹に、この行動は不味かった。
忘れがちだが、飛鷹は提督に敵対する者は誰であろうが攻撃の対象になる。
応援する二人を妨げる者も、無論攻撃する。
彼女は何よりも、提督を優先したい。
たとえ選ばれなくとも、その背中を預かる以上、決して背後には誰も入れない。
自身が彼の隣に居なくても。代わりに、誰かがいるなら。自分を殺してでも、祝福する。
それが、本当に彼が幸せになれると、信じているから。
「いい加減にしなさい。それ以上言うと……あんた、海に沈めるわよ?」
本気で怒った。飛鷹が睨む。緋色の瞳が、どす黒い闇色に変化していた。
光を通さない汚泥のような怒りだった。今、飛鷹は本気で鈴谷に殺気を向けていた。
「!?」
怯む鈴谷。飛鷹の殺意を間近で受けて、思わず一歩下がる。
ゆっくりと椅子から立ち上がり、そして。
「彼が決めたのよ。それに口出しするの? じゃあ……覚悟しなさい。私が朝潮の代わりに、相手してあげる」
なんと、鎮守府内部で艤装を展開した。
眉をつり上げて、お札を手に逃げ腰になる鈴谷に迫る。
「ちょ、タンマ……。鈴谷、そういうつもりじゃないんだけど……」
両手あげて降参しているが、下手なことを言うと、血祭りにされる。
殺気を放つ飛鷹は、今誰にも止められない。肌で感じる、彼だけを優先する艦娘の本気。
ヤバい。そういう人だった、飛鷹は。改めて相談する相手を間違えたと後悔する。
飛鷹は絶対の味方。提督だけに尽くす女。逆らうものは、大本営でも滅ぼしかねない。
血の気を失せた真っ青な顔で、弁明する鈴谷。飛鷹は、もう一度だけ言った。
「見苦しいわよ鈴谷。私が相手なら兎も角、朝潮に負けたのなら、身を退きなさい。引き際も分からなくなったんなら、容赦はいらないようね? 前の暴走は大目に見たけど、今度はダメ。許さない」
「……す、鈴谷そんなにおかしいこと言ってないよね……?」
理不尽すぎる。殺意しかない飛鷹に思わず言う。不味いとは思うけど、あんまりな対応だった。
別に未練があるんじゃない。ただ、提督がロリコンだからどうしようと相談しているだけなのに。
が。
「ロリコンだからなに? というか、あの人が朝潮に手を出したの? そんな事実もないのに喧しいわ。手を出したら、私も対処するわよ。けどね、ないんでしょ? なら良いじゃない。あの人が朝潮を愛することに何か不都合があるのかしら? 常識? 世間体? 他人が人の恋路に口出しする理由なんてないでしょうが。愛は自由よ。恋も自由よ。年齢、立場、種族。そんなもので阻まれる世の中がおかしいの。真実の愛なら、そこに何人も介入は出来ない。関係ないでしょう、他人がどう宣おうが、本当に愛しているのなら。鈴谷、今のあんたは無粋よ。負け惜しみを言っているようにしか私には見えない」
……ダメだった。飛鷹は完全に提督の味方だった。常識がないほうだった。
世の中が悪いと言い切る人だった。常識人は鈴谷だけ。要するに絶望した。
「えぇ……」
飛鷹の言うことは理想だろうに、だがそれを貫ける度胸があるから、朝潮は手に終えない。
言われずとも多分、朝潮は愛を謳い続ける。それが彼女の最強の武器。
人間に近づき、恋を知り、愛に目覚めた忠犬改め狼だから。
愕然とする鈴谷。飛鷹は贔屓目ばかりで宛にならない。
だから、取り敢えず今は死ぬ気で謝って、違う人に相談しよう。
そう、考えるのだった。
宛になりそうな人物。
まず、加賀さん。
「……別にいいんじゃないですか? 朝潮ならば、外見以外は問題ありませんし」
「だからその外見が問題なんだけど!?」
「それを言うなら、大本営には駆逐艦を妻とする猛者もいると伺いました。先駆者がいる以上、違法ではないかと」
「ええええええええ!?」
許していた。
次、間宮。
「え……? 朝潮ちゃんがあそこまで言うんですよ? 問題あります?」
「見た目!! 見た目が問題!!」
「……鈴谷さん。最近の駆逐艦を舐めちゃいけません。ああ見えて、凄く大人なんですよ?」
「マジで!?」
許していた。
次、曙。
「いや、朝潮以外にあいつのお嫁さんできる人っている? あたし飛鷹さん以外じゃ、見当つかないけど」
「曙ちゃんはそれでいいの!? 駆逐艦だよ!?」
「あたしも駆逐艦だけど? 知らない? 他の鎮守府じゃ、他のあたしがお嫁さんしてる場所も多いんだって。まあ、正直言うとあたしが相手って言うと気持ち悪いけど、あいつの場合は……朝潮だし、良くない? 互いが大好きだって叫びあってるバカップルだもん」
「えぇ……」
許していた。
次、翔鶴。
「うーん……確かに、不味い気がしますね」
「でしょ!?」
良かった。漸く味方が……。
「でも、わたしは提督のご意志を尊重致します。愛し合う二人を引き裂くのは、心苦しいので……」
「認めちゃうの!?」
「ええ。まあ、軍規に違反しないならば、恋愛は自由だと思います」
ダメだった。というか、駆逐艦も入籍できるのは知らなかった。
提督以外にもそんな変態はまだいるらしい。
鈴谷は自分で調べた。そして、絶句した。
実際、出来るらしい。
因みに朝潮も最近それを知った。現実は朝潮の味方だった。
なので過激になるアプローチ。
「司令官! 今度こそ司令官がほしいですッ!! 今回のご褒美は司令官のお心で!! 結婚しましょう!」
「そ、そんな……朝潮……。天使朝潮が……俺なんかを……俺なんかのために……!!」
「司令官、号泣するなんて……。私では、何か足りませんでしょうか……?」
「違う、違うんだ朝潮……。俺は、俺は嬉しいんだよ……。こんな情けない、頼りない男なのに、朝潮にそう言って貰えるなんて……嬉しすぎて、涙が……止まらねえんだ……」
「頼りなくなどありません!! 司令官は私の生涯ただ一人の司令官です!! 私は、朝潮は愛してます司令官! 私が一生かけて幸せにして見せます!! ですので、結婚しましょう!! マジの方で!!」
「…………俺は、俺はぁ……!! 俺で、こんな男でいいなら、是非喜んで……!!」
「そこ、鈴谷の後ろでプロポーズするな!! 今仕事中!! 朝潮は妹が見てる! 自重しなさい!!」
ことあるごとに、朝潮がプロポーズし始めていた。
調べて分かったのは、一定の戦果をあげた艦娘は、己の種類に関係なく、一定の期間を経れば人間と同じように婚姻を結ぶことが可能になる、という特例の決まりだった。
因みにその戦果は、上位の深海棲艦を倒したり捕まえたりというかなりの無茶だったが、朝潮はとっくに捕獲しているのでクリアしていた。
というか、戦果は余裕で超えておりお釣りが来るレベルである。
あとは数年、待つばかりであった。
桁が違う。チャンスさえあれば求婚する様は、なんというか……清々しい。
妹がいようが、他人がいようがお構いなしだ。
既にロリコンに洗脳された提督は通用しない。
憲兵も好きにしろと諦めているし、事実条件もクリアしている。
要するに、詰み。なんの問題もないのだ。
但し、まだ性的に手を出すのはNG。そこは軍規で固く禁じられている。
破るとブタ箱行きである。
「つまり……私達も、義理の……妹?」
「要は家族か……。あれ、問題なくない? 隣じゃないけど、身内入りだし」
霞、満潮も姉に惨敗したが、義妹というかなりレアな立場に気がついて、ならば良いかと受け入れた。
それはそれであり。何故なら、家族になるのだから。
嫁の妹。義理の兄貴に、提督はなるらしい。早くも朝潮姉妹は納得していた。
「あらあら……。司令官がお兄ちゃん? んー……それも悪くないわねぇ……」
「大潮も大歓迎ですッ!!」
荒潮も大潮も大丈夫と本人に言うし、山雲も朝雲もなんでか喜んでいた。
鈴谷、最早自分が間違っている気がしてきた。
「鈴谷、これが現実よ? いい加減に認めなさい。ロリコンは罪ではないの。そう、変態であっても……立派な、愛の形なのだから」
飛鷹にそう言われて、鈴谷は思わず叫んだ。
「そんな理不尽なあああああああ!!」
理不尽でも結婚はできる。だからする。
故に朝潮と提督は結ばれる。
世界にロリコンと言われても。
大本営は、結果を出したロリコンには、優しいのだから!!