本当に結ばれる、ただ一つの方法   作:らむだぜろ

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孤独の海、束の間の安らぎ

 

 

 

 

 戦う。戦う。戦う。戦う。

 沈める。沈める。沈める。……鎮める。

(足りない……。足りないわ、私は誰を殺せばいいの……)

 何日連続で海に出た。

 何日一人で敵を沈めた。

 満たされない。怒りと憎しみと悲しみと。

 何より、寂しい。

(夢を一緒に見てくれた人。夢を一緒に目指してくれた人。夢を一緒に共有してくれた人)

 嗚呼、寂しい。悲しい。

 殺しても殺しても満たされない。沈めても沈めても、潤わない。

(提督との、私の約束は叶わない。……鈴谷を選んだ時点で、貴方は既に違う夢を選んでいたのね)

 共に旅行にいこうという、ささやかな願い。それすら、深海棲艦は踏み潰した。

 彼の命を奪った。許せない。許せないけど、同時に思う。

 飛鷹は、このままでは永遠に……満たされないまま、死ぬまで戦うのだろうと。

(加賀は言っていたわ。鈴谷は貴方を追ったそうよ。私もそうしたいけど、ごめんなさい。貴方の鎮守府を守らないといけないから。貴方の相棒として、奴等を殺さないといけないから。……まだ、そっちには行けないわ)

 この世界に飛鷹が生きる理由を失った。

 夢、相棒、意義。全部いっぺんに消えてしまった。

 残った抜け殻は、どうすればいい? 生きるべきか?

 今はまだ、生きるしかない。理由もなく死ねない。鈴谷の選んだ方法は、愛した飛鷹なら選ぶ。

 然し、相棒としての飛鷹なら選ばない。選べない。

 無責任に死ぬな。そう、彼ならいうはずだ。

(生きるわ、提督。貴方の分まで、一匹でも多くの深海棲艦を殺して、貴方への土産にしましょう)

 死ぬならそれまでに多くの深海棲艦を殺そう。

 あの話が本当なら、ここを滅ぼしに軈ては来るだろう、深海棲艦の艦隊が。

 支援していた犯人から連絡を受けて、司令官のいない鎮守府を破壊しに来る。

 分かっているから、戦う。準備はしておくとも。

 無闇に殺していたおかげで、満たされはしないが冷静になれた。 

 準備しておこう。猶予が何時まであるかなど分からない。

 彼女が、鎮守府を守ると決めた。壊されてたまるか。あの場所は、彼と飛鷹の居場所なのだ。

 最後の思い出の場所なのだ。その最後の大切なものまでは、絶対に奪わせない。

 飛鷹は準備を始めていた。哨戒を増やし、警備を厚くして、常に襲われても対処できるように。

 戦力もあげた。指輪の残った数を全て代理の権限で、加賀達と話し合って渡した。

 おかげで戦艦も、空母も、潜水艦も、重巡も、軽巡も、駆逐艦も、全域に指輪が渡った。

 足りないぶんは要求した。元より限界の練度は無数にいる。

 大本営は事態を知っているので、許可して大盤振る舞いをしてくれた。

 正確に言うと、何でも彼の父親が、渋る他のお偉いさんを怒鳴って無理矢理手配してくれたのだそうだ。

 彼の父は元々過激な方法を取ると聞いていたが、今回は味方であった。

 最後の息子まで失ってしまった父は、彼女に、電話で直接話して、こう伝えた。

「君も、私も、互いに尤も大切な存在を奴等に奪われた。飛鷹君、共に戦おう。深海棲艦を皆殺しにする日まで、あらゆる手段を講じてでも!」

 艦娘を酷使する外道と聞いていたが、成る程と飛鷹は思った。

 今の心境ならば艦娘であっても共感できる。

 憎いのだ。憎いから他者など最早何でもいい。どうでもいい。始末できれば、絶滅できれば。

「はい。……息子さんをお守りできずに、申し訳ありませんでした」

「謝罪は必要ない。私も君も同じ痛みを味わった。君と私は同志だ。君が艦娘であろうがそんな些末な事は関係ない。君が私の息子と戦ってきた相棒だとは、あいつから聞いていた。だから、私は飛鷹君を手伝おう。遠慮なく言ってくれ。私は全力で君達を助ける」

 無念さで受話器を握る手に力が籠る。

 父は、飛鷹の謝罪は受け取らず、その前に共に戦おうといってくれた。

 ああ、復讐の始まりだと気付いた。

 これは、終わらない戦いだろう。

 飛鷹も、艦娘でありながら、外道と艦娘に謗られる人間と同じ動機を抱いている。

 ならば、心強い。他の艦娘がなんと言おうとも、飛鷹は彼を尊敬する。

「ありがとうございます。必ずや、皆殺しにしましょう……奴等を」

「ああ。私達の敵が如何に無尽蔵の存在であろうとも、我が命が尽きるまで殺し尽くすと、この胸に誓って」

 闇色の瞳で、飛鷹には戦う理由ができた。生きる理由もできた。

 この場所を守る。その序でに、深海棲艦を滅ぼす。

 その為なら、外道とも手を結び、地獄でも何でも堕ちてやる。

 最強の味方をつけて、最大練度の全員に指輪を配布した。

 この過剰な動きに、皆は薄々気付いていた。 

 飛鷹の様子からして、多分……提督はもう、帰ってこないのだろうと。

 そんな動きの甲斐があった。

 予備軍だった最大練度は、指輪の大量配布により、大半が……限界を、突破していた。

 そんななか。気になる情報が舞い込んだ。

 謎の深海棲艦の存在。黒い霧を纏う、半魚人の化け物。

 不気味な声をあげて、深紅の瞳で薄ら笑いを浮かべて、移動中。

 出会った艦娘を次々撃破して、殺しはしないものの襲えば迎撃してくる。

 出会う艦娘全てが、強い恐怖と危険なモノだと説明するらしい。

 その声による影響で、一時的に錯乱状態になることと姿から、仮称セイレーンと名付けられた。

 その存在の、撃破であった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 漸く休める。

 二人は、ため息をついてある無人島に到着した。

 海を疾走すること、何日目か。

 真夜中だと思われる時間に、漸く追っ手を振り切り上陸する。

「もう眠いよ……」

「俺も限界だ……」

 遠征時に立ち寄る、補給用設備のある無人島。

 提督は初めて知ったが、遠征時にはこうして海底資源を回収する無人島がたくさんあり、ここで補給して鎮守府に帰るんだという。

 場所により取れるものも違うが、ここは燃料らしい。

 単に遠征とだけ命じていた彼も詳細までは知らずに驚いていた。

 艦娘たちが休める場所もある。交代で見張りをして、使った設備をメンテして帰るのがルール。

 なので、丸太で出来た小屋やちょっとした施設も完備していた。

「ふひー……」

 小さな島にある小屋。

 豊富に出てくる燃料を使った発電機により、電気もつくし水もある。

 あとは食品や風呂、着替えなどもあるとか。長旅で疲れた艦娘を癒す設備を初見する提督。

 小屋の中は、シンプルな作りで最低限のものしかない。

 机や椅子、木製のベッドや冷蔵庫など。洗濯機まであるらしい。

 ベッドに身を投げて横になる鈴谷。艤装は解除して、ぐったりしている。

「大丈夫か?」

「提督との折角、初めての外泊なのにこんな場所ってのがショックだよ……」

「お前割りと元気じゃねえか」

 心配してたら軽口を言って、笑っていた。

 こう見ると以前と大差ないのだが、やはり顔色は悪い。真っ白になっている。

 頭の提督と、バカな話をしながら鈴谷は立ち上がる。

「兎に角、死人でも一応お風呂入りたい……。あと着替え」

「だよなあ……」

 鈴谷は認識が常に変化している。

 現在、自分を死人と認識できており、提督も死人だと認めている。

 それでも、生前と同じ生活はしていたいらしく、取り敢えずボロボロの服に手をかけて……。

「あ、提督も一緒だった。着替えとかどうする?」

「視界なら大丈夫。遮断しておくよ」

 困ったように彼に聞いた。

 頭のこれは取り外しは試していないが無理だろうし、だからって気にしない訳にも。

「い、一応恋人同士だし? 見てもいいけど? 鈴谷は恥ずかしくないし」

「鈴谷、目が泳いでる。落ち着け、見ないから」

 互いに好きあっているのは知っている。両想いの恋人同士。

 鈴谷がそう言い出して、提督も異論はない。死人同士のカップルという気持ち悪いものだけど。

 他者などどうせいない。気にしないでいい。

「まあ、もう提督には鈴谷の身体をあげちゃってるけど」

「……そんなんいうなら俺だって肉体ないぞ。艤装だしなあ」

 互いに普通の恋愛は無理な身体だ。艤装に死人。意味がわからない。

 が、それとこれとは話は別で。

「……ごめん、正直言うと恥ずかしいから見ないでくれる?」

「素直でよろしい。お前が終わるまで少し黙るな」

 着替えの最中は、礼儀として視界を閉じる。

 真っ暗になる視界。感覚は共有しているが、意識しているとほとんどの伝わってこない。

 提督は考える。このまま行けば、鎮守府の近海に入る。

 そうすると、哨戒している警備艦隊を鉢合わせするだろう。

 大規模な戦いは避けられない。自分の知り合いたちと戦うことになる。

 そこには、相棒たちもいるだろう。

(飛鷹か、一番の問題は……)

 戦うことに迷いはない。向こうもどうせ、襲ってくる。

 たとえ自分の鎮守府の艦娘だろうが、襲ってくるなら戦う以外に道はない。

 向こうがどう見ているかは知らないが、鈴谷だと気づかないだろうとは思う。

 ……問題は、練度が最大の艦娘たちがたくさんいて、鈴谷だけでは突破は難しい。

 最悪、一度退いて回り道して迂回するか。

 更に、相棒の問題もある。

 飛鷹は最強の艦娘だ。加減なしに襲われれば、勝ち目は薄い。

 鈴谷は演習で惨敗している。今の彼女でもきっと大変になる。

(逃げて追ってこないなら、陸路で攻めるのもありだな)

 迂回するなら、陸路で行くかと名案を思い付く。

 幸い、提督の艤装は接近しても鈍器にはなる。

 予想の裏をかいて、一度遠くにあがってから、歩いて戻るのもあり。

 憲兵のほうが、艦娘よりは勝算は高いだろう。

「提督、終わったよ」

 呼ばれて、視界を開放する。

 すると、違う私服に着替えた鈴谷が立っていた。

 ……見覚えがある。恐らくは他の艦娘の制服だろう。

 これは……。

「愛宕さんの制服かな。これしかないけど、サイズブカブカ……」

 重巡愛宕の青い制服を着ていた。

 ……流石の鈴谷でも愛宕の圧倒的胸部には勝てない。

 確かにブカブカだった。

「ブカブカで何が悪いか。鈴谷なら可愛いぞ。俺は好きだな」

 空しそうに胸元を見下ろす鈴谷に豪語する提督。

 すると、声真似して彼女は言った。

「……ぱんぱかぱーん」

「!? 良い、良いぞ鈴谷!! お前最高だッ!!」

 凄い似合っていた。

 頬を赤くして照れたように呟く鈴谷が最高に可愛かった。

 何をしているんだろうかこのバカップルは。

 褒められて嬉しそうにはにかむ鈴谷。可愛い。そして尊い。

「改めて思ったわ。お前が恋人で良かった。好きだ鈴谷、これからも頑張ろう」

「うん。好きだよ提督。一緒に鎮守府目指そうね」

 決意を新たに、互いに告白する阿呆二人は簡単に夕飯を食べた。

 鈴谷が好きと言っていた海軍のカレーだった。インスタントだったが。

 そして、お楽しみタイムは始まった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 風呂だ。

 疲れを癒す一番の手段は、風呂である。

 風呂と言えば、素っ裸。つまりは楽園である。

 小屋の隅に小さな浴槽にお湯をためて、着替えている間は目を閉じて、待っていた。

 覚悟はある。鈴谷は恥ずかしいが心に決めた人だ。

 散々迷って、麗しの裸体を見ることを許可した。

 意気込む提督。彼女の裸だ。期待してなぜ悪いか!

 ……が。

 

「……ごめん鈴谷。お前の身体が痛々しすぎて心が折れそう」

 

「鈴谷の裸見てそれが第一声!?」

 

 身体にタオルを巻いて入浴開始。

 したはいいが……長旅の傷と元々の傷跡が大量に目立って、痛々しい裸体だった。

 浸かっている鈴谷の裸体を特別に許可されて恐る恐る見た彼は、素直に白状した。

 期待していたのと違う。魅力云々の前に痛々しい。

 傷だらけの裸体は、そこらじゅうにケロイドやら裂傷やら青アザやらの痕が残っていた。

 興奮する前に、目を背けたくなる。彼は彼女の傷ついた裸に興奮する変態ではない。

「……お風呂入れば治ると思ったのに……」

 呟く鈴谷は落胆していた。ここのお湯は、鎮守府のドックと同じく治癒能力のあるお湯なのだそうだ。

 入っていれば治るはず。だが、大半の現実は治らない。

 ケロイドは治るが、裂傷や青アザは完治しない。

 理由は明白であった。

「お前が死ぬ前に負った傷ってことか……?」

「みたいだね。よく思い出せないけど。後から出来た火傷のあとは治ってるし」

 ケロイドが消えると、多少は傷は減った。

 が、依然として怪我人のような姿は変わらない。

 提督は腕や腹の傷を眺めていた。性欲など微塵もわかない。 

 痛ましい気持ちで、いっぱいになった。

「……ごめんね。なんか、見苦しくて。期待させちゃった。自分でも思ってた以上に酷い有り様だったみたい」

 軈て、鈴谷は俯いて言った。

 自分の身体は既に死体。動いている理由は知れずとも、真理はこれ以上覆らない。

 着飾るなら、死化粧をしろと言うのか。傷だらけのまま、もう治らない。

 

 ――だって、鈴谷は。提督は。死んでいるんだから。

 

「だからなんだって言うんだよ」

 提督は、悲しい苦笑いで顔をあげた鈴谷に告げる。 

 驚く鈴谷に、彼は言った。

「……痛ましいのは否定しない。でも、傷があるなら傷ごと俺はお前を好きになる。刻まれた傷跡がなんだって言うんだ。鈴谷に傷があれば嫌うとでも? 俺は確かに女性の気持ちを疎んじていたクズだが、一度ホレた女が傷だらけだろうが、そんなことで愛想を尽かす程落ちぶれちゃいない。俺の好きを侮るなよ鈴谷。お前は骨しかない俺を好きだといってくれる。なら、俺は死体のお前が好きだ。死んでいても好きなんだ。だから落ち込むな。互いにもう、普通には戻れない。だったら、異常なまま行こうぜ。死人には死人の、骨なら骨の恋がある。俺達だけの恋愛ってやつでさ」

 彼は鈴谷を好きだと言える。鈴谷なら死んでも愛せる。

 鈴谷は提督を好きと言える。提督なら骨でも愛せる。

 嗚呼、異形の恋愛だろうとも。誰が理解できる。誰が祝福してくれる。

 世界の全ては化け物と罵るだろう。だが、それがなんだと言うのか。

 恋愛には、愛する二人さえいればいい。相思相愛。素晴らしいことじゃないか。

 応援する者などいなくともいい。祝福などされずともいい。

 ここには、死を乗り越えた二人の愛がある。それ以上、恋愛に何が必要となる?

 死体と骨。化け物と艤装。どう見ても、万人受けする物語ではないのは知っている。

 ならば、異形のまま、異常なまま、愛し合うのが利口と言うもの。

「提督……」

 鈴谷は愛を謳う骨を、何故か泣きそうな顔で見上げていた。

 彼は何度でも言える。好きだと。嘗て、鎮守府にいた生前、鈴谷がそうであったように。

 今度は彼女に彼が言おう。

「今まで言えなかったんだ。今度は俺は言うぞ。鈴谷がどんな姿だろうが好きでいられる。俺は鈴谷を愛していると言っても過言じゃないぜ」

 そうだとも。生前には気付けなかった気持ちは、これなのだ。

 人を好きになる。誰かを愛する。それが、この気持ち。

「バカは死ななきゃ治らないって言うだろ? 見てくれよ鈴谷。死んだらバカが治ったんだ。生きてた俺が言えない事を、今の俺ならハッキリ言えた」

 彼は堂々と言った。最初は驚いた。痛ましくて見ていられないと思ったのに。

 現金なもので、冷静になるとスイッチが入った。

 バカを言うなよ俺、と内心待ったがかかった。

 女だぞ? 思い出せ。俺は童貞で死んだ。まじまじと見られる女体はこれが初めてじゃね? 

 傷だらけがなんだってんだ。彼女だぜ? 鈴谷だぜ? 食い入るように見ても怒られないんだぜ?

 つまりは。

 

「……ぐふふっ」

「!!」

 

 肉体なくても性欲が動き出す。

 で、生前よりも鋭くなった小動物の本能でスケベ心を察知した鈴谷。

 やはり急激に恥ずかしくなって、タオルで頭を巻いて視界を奪った。

 実に素早い動作で。

「ぬおお!?」

「や、やっぱりもうダメ!! スケベな気配がした!!」

 お預けになってしまった。

「そんなご無体な! 見せてくれェ!!」

 却下の方向である。

 嬉しいことをいってくれる。

 どんな鈴谷も好きと言える。それは、とても嬉しい言葉だった。

「…………提督って死んだあとのほうが好きっていってくれるよね」

 前は忙しいのと関係がハッキリしてないせいでいってくれなかった。

 でも今はずっといってくれる。それが何よりも嬉しい。

「好きだ鈴谷、おまえのおっぱいが!!」

「最低なこと言わないでほしいんだけど!?」

「見せて!」

「ダメ! また今度!」

 見てもいいけど、また今度。

 ぎゃあぎゃあ騒ぎながら、二人は生前のように、束の間の時間を、楽しんでいた……。

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