本当に結ばれる、ただ一つの方法   作:らむだぜろ

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帰ってきた居場所

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数時間程航行を続ける。軈て、見えてきた。

「……街だ!!」

 鈴谷が嬉しそうに呟いた。

 何日目かの街だった。

 煌々と煌めく街灯が、酷くきらびやかに見えた。

 座標を確認。……どうやら、鎮守府からはかなり離れている場所の海沿い。

 海岸へとそっと近づき、上陸。目撃はされていない。

 このご時世、海岸へと近づく阿呆は頭の足りない若者ぐらいだ。

 人気がないのは確認済み。疲れたように、鈴谷は砂浜に腰を下ろした。

 時刻は、多分日付が変わるぐらい。大きな規模の街だから、不夜城のように喧騒は残っていた。

「……街は無事だったね。良かったよ、何事もなくて」

「そうだな」

 海岸に座り込んで、眠らない喧騒を振り返る。

 向こうにはいけない。鈴谷も、自分が死んでいるのが自覚できるため、行こうとはしない。

 寂しい気持ちはある。まるで死者と生者の境界線のような物を感じる気がする。

 海は死者の国。陸は生者の国。海岸は、その境界線。

 帰れない。陸には、これ以上は帰ってはいけないと、鈴谷は思う。

「どうやって、鎮守府に向かう? 徒歩?」

「それしかないな。下手に街には入れない。見つかってしまう」

「……だよね」

 自分の外見は人間とは違う。通報されて、捕まったら終わりだ。

 幸いこのまま、休まず歩けば……夜明けぐらいには、見えてくるはず。

 大体、五時間くらいか。

「そんなに歩くの……? 鈴谷疲れたのに……」

「海に出るよりは安全だぞ。戦闘と徒歩、どっちがいい?」

 嫌そうにワガママを言う鈴谷。

 だが、夜中と言えど歩道を歩けば道いく車に目撃されて、何が起きるか予想できない。

 隠れて移動するなら、海岸を歩いて向かうのが確実だろうか。

「どっかに落ちてるチャリンコないかな」

「艦娘がチャリ乗るってどうよそれは。っていうか、投棄されたもんでも乗るなよ鈴谷」

 そんなことをしている暇があるなら歩けと提督はたしなめる。

 小言を言いながら、立ち上がる鈴谷。薄い闇のなか、彼に文句を言いながら歩き出した。

「折角帰ってきたんだよ。お散歩にしたって、ただ何時間も歩くの退屈じゃん」

「喋りながら歩くか。ま、俺はそれしか出来ないけど」

「……言い出して何だけど、話題ないね。離れてから何れぐらい経過しているんだろ」

 歩けない訳じゃない。疲れていたが、艦娘の体力は人間の比じゃないのだ。

 あまり思い出せない死に際だが、どれほどの時間を居なかったのかも曖昧だった。

 足場の悪い砂地を、音を立てて歩いていく。

 すると、空から音もなく、白い粉が降り始めた。

 ……雪であった。

「わっ、雪降ってきた。寒くないけど、冷たいのは嫌だなあ……」

「適当に展開してもいいぞ? 雪避けぐらいにはなるだろ」

 鈴谷に言って、左肩の骨を展開して、頭上に広げた。

 鉄と混ざって少し大きくなった左手は、頭上で雪を受け止めてくれる。

「相合い傘って言うのかな? えへへ、悪くないね」

「傘が俺って言う意味不明な状態だけどな」

 照れたように笑う鈴谷に、つられて笑う提督。

 すっかり、この異常なやり取りも慣れていた。

 雪を時折捨て、二人は談笑しながら進んでいく。

 雪は無音で降り続ける。短い靴の鈴谷の足跡が、砂浜に残っていく。

 積もっていく雪のおかげで、海岸に近づくたわけ者とも遭遇せずに移動できる。

 防波堤を見上げたり、その辺に流れ着いたゴミを見て話の種にしたり。

 二人は僅かな楽しみを満喫しながら、向かっていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜明け頃。

 海岸が終わり、軍事施設のフェンスが、目の前に現れる。

 同時に、近くに監視カメラを発見して、慌てて隠れた。

 見つからないように細心の注意をして、街中に飛び込んだ。

 街のなかは危険だ。そこらじゅうに防犯カメラが設置される昨今。

 下手に歩き回れば、それだけで見つかってしまう。

「なんか、入るの難しくない?」

「だよなあ。自分の鎮守府に侵入って、俺達は賊か何かか」

 正門には憲兵が見張っているし、鈴谷はそこの艦娘だが、死人である。

 除籍されていると思われるため、下手に近寄れない。提督も然り。

 近くの空き家と思われる家屋の庭に潜伏して、二人は朝っぱらから相談していた。

 近所の子供なのか、傘をさしながら挨拶をしていく様子が聞こえる。

 雪はまだ降っていて、曇天の空。路面も凍結してる寒い朝だった。

 幸い鈴谷は寒さを感じないのでいいが、傘の腕を引っ込めているので、雪は冷たい。

 提督も家屋のしたでいられるのは有りがたかった。

「……正面突破しかないかな」

「顔見て分かってくれりゃいいけど、多分無理だよな。死んでるし」

「憲兵さんも幽霊は信じないよね……」

 死人が朝っぱらから戻ってきたなど、どんなホラーだ。

 戻ったのはいいが、中に入れない。入りたいけど、入れない。

 見えている近場なのに。

 うんうん唸っている二人は、軈て決めた。覚悟を。

「カチコミしよう!!」

「殴って侵入!! 賊でいいよコンチクショウ!!」

 良い方法など死人には思い付かない。

 幽霊らしく無秩序に突撃して飛び込んでやろうと、鈴谷も提督も自棄になった。

 入れれば良いのだ。入ったあとでどうするか決めようという無計画。

 兎に角突撃していく。人間である憲兵よりは身体能力は高いのだ。侵入すればこちらのもの。

 自棄になった悪い顔で笑う鈴谷と、低い声色で笑っている提督。

 二人は、空き家から走っていく。疲れがなんだ。正念場だ。あとは勢いで駆け抜ける。

 数分後。鎮守府に緊急事態の襲撃発生。

 朝イチからの、幽霊の帰還であった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 正門の憲兵を見つける。知り合いだった。

 どうやら、人間は鈴谷にも人間に見えるらしい。

 ……だからどうした!!

「おい、貴様っ!! ここは軍事施設だぞ!! 許可なく立ち入りは……って、んっ!?」

 真正面から走っていくと、案の定塞き止められた。

 何か気付いたようだが、知らんぷり。

「ちぇすと!!」

「ごふっ!?」

 捕まえようとしたのを華麗に避けて、取り敢えず腹パン。

 殴って倒す。倒れる前に豪快に掴んで、騒ぎに気づいた応援に向かって、

「憲兵さん魚雷ッ!!」

 思い切り投げつけた。

 吹っ飛ぶ成人の憲兵さん。

 応援に来た数名を薙ぎ倒して縺れた。その間に走り込む。

「ナイス鈴谷!!」

「艦娘に比べたら楽チン! 陸路で正解だったね!」

 鎮守府に侵入して、走って逃げる。

 当然、内部には内線で襲撃者ありと連絡が入る。

 朝イチから押し掛けてきた賊が、憲兵を薙ぎ倒して施設内部に侵入。

 対象は高雄型艦娘の制服を着用した女性。頭にドクロのレリーフを飾っている。

 白髪のロングヘアーだと外見を知らされた。至急、艦娘にも応援をくれと。

 セイレーンが、襲ってきた。話を聞いていた憲兵たちは、武器を用いて迎撃中。

「朝っぱらから戻ってきたか……!! 待っていたぞ、この時を!!」

 長門が朝飯を食べているときに発生した襲撃に、待っていましたと言わんばかりに混雑する間宮のなかで立ち上がった。

 ……顔にご飯粒をつけたまま。台無しである。

「……なんで翌日の朝に帰ってくるんですか提督も、鈴谷も……」

 ボサボサの寝癖をそのままに、眠そうに目を擦って加賀は寝巻きのまま出動。

 まだ寝ぼけており、アクビをしながらのろのろと移動していく。

「皆!! 入ってきたのはセイレーンよ!! 陸路から裏をかいてこっちに来てる!! 艤装は危ないから使っちゃダメ!! 取り敢えず武器になりそうなモノで、見つけ次第連絡頂戴!! どんな姿でも驚かないでね!!」

 敢えて鈴谷だとは言わない。ただ、もう予感として皆知っている。

 セイレーンは、ただの化け物じゃない。

 もしかしたら、彼か、彼とともにいる誰かだとは予感していた。

 飛鷹の号令で、人海戦術で一斉に放たれる艦娘たち。

 本当は三人と憲兵で対応するつもりだったが、朝イチなら話は別。

 全員でお出迎えをしてやろう。鈴谷には悪いが、覚悟をしてもらおう。

 飛鷹は執務室で指示を出す司令塔。同時にカメラで居場所を特定する。

 憲兵のいう通りだった。一足早く発見したその姿は……。

 

(……鈴谷。あなた、生きていた……訳じゃないわね。本当に深海棲艦みたいになってる……)

 

 高画質のカメラで見た彼女は、確かに様変わりしていた。

 白いロングヘアー。ボロボロの服装に、深紅の瞳。

 土気色の肌に、頭のドクロ。あの二名の言う、今の鈴谷がいた。

 呆然とする飛鷹。これで、ほぼ確実となった。

 セイレーンは、鈴谷と提督。その、信じられない推論が。

 この目で見たから、信じよう。今は、袋のネズミとなった鈴谷を捕まえる。

 セイレーン捕獲作戦の、開始であった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なにこれ!? どうなってんの!? 深海棲艦と憲兵さんが協力してる!?」

 パニックになる鈴谷。逃げ回る慣れた鎮守府の中。そこらじゅうにいる深海棲艦。

 我が物顔で歩き回っていると思えば、憲兵と手を組んで追いかけてくる。

 訳が分からない鈴谷。提督は黙っていた。

「提督!? 和平したとかそういうオチ!? 何が起きてるの!?」

「……」

 憲兵の言葉は理解できるだろう。鈴谷は今、余裕がなくて聞いていないだけだ。

 解決の糸口が見えた。憲兵に翻訳してもらうしかない。

 人間の声は正しく聞こえた。艦娘は無理でも、仲介がいれば。

 きっと、話し合える。依然、艦娘は向こうも何を言っているか分からないままだが。

「鈴谷。おかしいのは、俺達だ」

 もういい。

 もう、真実を話しても。

 追われる鈴谷は、目の前にいたモップを装備している人間らしきイ級を放り投げて迎撃していた。

 背後では、憲兵が拳銃を撃ってきた。慌てて隠れる鈴谷。

 廊下の角で、叫ばされる台詞に困惑していた。

 

「鈴谷、聞こえるか!? 落ち着くんや!! うちや! お前の知ってる憲兵やで! お前がパニックになってるのは分かっとるわ!! 艦娘の言葉がわからんのやな!? うちはお前の言うとる事分かっとる!! 今、周りに攻撃をやめさせた!! 出てきてくれ!! もう安心していい! こっちは何もせえへん!!」

 

 ……良かった。知り合いが、一番話の通じる憲兵が駆けつけてくれた。

 鈴谷に正しく聞こえている。だから、困惑していた。

 すがるように、右手でドクロに触れる。

「……提督、どういうこと?」

 聞かれて、彼は正直に今までの事を全部明かした。

 即ち、鈴谷と彼の認識のズレ。

 艦娘が深海棲艦に見えて、向こうも今はいいが海の上では化け物に見えていたかもしれないと。

 今まで、鈴谷が死なないために、指摘しても最初からダメだったゆえ、黙っていたと。

 レーダーでは正しく表記されても、向こうも海上で攻撃してきた。

 生きるために、迷いを生むから黙っていたと。

 謝罪も込めて、教えた。

「……じゃあ、鈴谷は?」

「ああ。艦娘に襲われていたんだ。最初は艦娘も見えていたけど、時間が経ったら深海棲艦に見えていた。俺もな。だから、黙ってた。ゴメン、鈴谷」

 憲兵の言葉を聞かずに、彼の言葉に愕然とする鈴谷。

 ショックを受けていた。ならば、彼女は同士討ちをしていたことになる。

 向こうも海上では化け物として襲ってきた。

 すれ違いを起こして、今日まで生きてきたのだと。

「……そっか。皆、無事だったんだ」

 近海での事でも、言える話。

 彼が止めろと言っていたのも、相手が艦娘だとわかっていたから。

 話を聞いて、鈴谷は……納得したように小声で言った。

 彼女は襲ったが、誰も殺していない。襲われても追い払って逃げていた。

 それだけは、幸いだった。

 どこか、安堵したように鈴谷は彼に言った。

「鈴谷がおかしくなってるんだね。死んじゃったから、仕方ないよね……」

 死人が生者を正しく認識できるはずもない、と納得していたと言うか。

 彼を責める気はない。そうしないと生きられないのも事実だった。

 迷えば死ぬような軌跡であったし、言われない方が気持ちも楽だった。

 だから、受け入れる。彼の行動を。

 言われて、感覚を修正できない事実にも気付いた。

 何せ、未だに皆が深海棲艦に見える二人。

 どうすればいい。誰が誰だか分からないままではどうしようもない。

 

「……はあっ!? おい、止めえ!! 聞けってのに、飛鷹ッ!! 待てや、何構えててんねんお前!? あかん……あかん!! 鈴谷、逃げろォッ!! 殺される、お前殺されるで!! はよにげェ!! おい、ぼさっとしてないでお前らも飛鷹とめんかい!!」

 

 ……なんか、後ろから切羽詰まった憲兵さんの声が聞こえた。

 そして、数秒間何かを薙ぎ倒す音と悲鳴も断続して。

 何事だ、と隠れる鈴谷が見たものは……。

 

「…………」

 

 ……深海棲艦の空母が、バールのようなものを構えて、邪悪に笑いながらゆっくりと近づいてきていた。

 背後には、痙攣する憲兵さんや深海棲艦が頭から煙を出して、目をバッテンにして山積みにされていた。

 

「……うわぁ、逃げたいなぁ。逃げ切れる気がしないけど。これ、誰だか分かるよ鈴谷も。絶対飛鷹さんだよね?」

「だよな……。飛鷹、俺の声聞こえる? 取り敢えずその物騒な工具を下げてくれませんか?」

 

 この言い様のない殺気。間違いない、提督の相棒である。

 何やら得体の知れない言葉を言っている。二人には理解できないが、視点を変えると。

 

「本当に喋ったわね、提督。そして鈴谷……? 色々言いたいことはあるし、伝えたいことはあるけど。取り敢えずお帰りなさい」

 

 満面の笑みを浮かべて、迎える飛鷹。

 それが、深海棲艦補正される二人は、猛烈に怖かった。

 因みに腰が抜けていた。

 

「提督……。多分もう一回死んじゃうと思うから、今のうちに言っとくね。大好きだよ。あっちの世界でも、宜しくね」

 

「ああ……俺も愛している鈴谷……。俺はこんなおっかない飛鷹は知らない……。飛鷹、黙って死んだことは謝るから、頼む許してくれ……」

 

 さらっと重要なことを言いながら、だが猛禽類は止まらない。

 

「……勝手に居なくなった事を許してほしくば、今すぐに制裁を受けなさい。鈴谷と一緒にね……」

 

 ああ、振り上げる。バールのようなものを、振り上げる深海棲艦、もとい飛鷹さん。

 何を言っているか分かりません。けど、ご立腹なようです。

 

「あ、前にもあったなこれ。あの時のクリスマスだ。確か、あの時は純白の布地……」

 

 

 走馬灯を見ていた彼は地雷を踏む。

 昨日の夜に加賀に同じことを言われていたのを彼は知らない。

 瞬時にキレた飛鷹さん。容赦なかった。

 

「……まだ視界はおかしいのね。なら、早くこっちに帰ってきなさい、提督ぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!」

 

 ヤンデレの本懐。好きな人に戻らせるため、暴力を振るう。

 墜ちる鉄槌。そして。

 

 

 

 

 

 

 

 ――ぎゃああああああああああーーーーーー!! 

 

 

 

 

 

 

 

 という、二人の断末魔が、戻ってきた鎮守府に、木霊するのであった……。

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