本当に結ばれる、ただ一つの方法   作:らむだぜろ

59 / 79
死者の行方

 

 

 

 

 

 

 

 明かされる衝撃の真実。

 多くの艦娘が見た。行方知れずの鈴谷が突然錯乱して襲ってきた。

 その姿はまさに深海棲艦、それも鬼や姫を彷彿とさせる。

 それが、まさか海の上で見ていたセイレーンだと、誰が信じる。

 大体、鈴谷は今まで何処で何をしていた、と問われた。

 なので、正直に明かした。既に二人は鎮守府に戻ってきたのだ。

 ……隠していくわけにもいかない。なので、憲兵の立ち会いのもと、全てを語らされた。

 

 ――提督はもう死んでおり、鈴谷もまた後追いして自殺している可能性があると。

 

 憲兵は言った。

 状況証拠で鈴谷は死亡している確率が高く、鈴谷は現在鎮守府の設備で解析できるだけ解析している。 

 暫く待っていてほしい。

 セイレーンはこちらと敵対する意思はなく、元々意思疎通を取ろうとして、失敗していたのだ。

 本人も得体の知れない状況に不安なので、今は会わないで欲しいと。

 ……皆は、放心していた。彼が死んでいた。鈴谷も死んでいた。

 理由は明かせない。大本営から口止めされている内容なので、知る権利はないと。

 実際はそんなものはないが、下手に暴走するのも危惧しておいた。

 大半の艦娘が、彼の悲報に唖然としていた。

 つまり、なんだ?

 セイレーンとは、幽霊だったのかと質問される。

 馬鹿げた話だが、大真面目に説明する飛鷹は頷いた。

「ええ。現時点で言える事は、理解できないと思うけど冷静に聞いて。……鈴谷は、死んだ自覚をしている。そして、あの子の身体は、一部が深海棲艦と同じような構成をしながら、まだ大半が艦娘と同じなの。要は、深海棲艦に身体を蝕まれていると言うこと。それで、錯乱した原因だけど……これははっきりいって不明。原因が分からないわ。何せ死んだあとに動くなんて聞いたことないから。鈴谷が言うには、艦娘は全員深海棲艦に見えているみたい。言葉も通じないって憲兵さんは言ってる。私達が海上であの子を化け物に見えていたみたいに。辛うじて、憲兵さんはマトモに見えているから、襲ってくる事はないって。襲った理由ぐらい、想像つくでしょ? 襲われたから、身を守るために反撃した。だから、自分から襲ってくることはしなかった。あの子に、皆を傷つける意思はなかった。あの声はね、皆に止めてって、鈴谷が訴えていた声だったのよ。でも、通じないで、私達は不具合を起こして苦しんだ。お互いに……ね。勘違いしないであげて。あの子には、殺すつもりも、況してや戦う気もなかった。それだけは、覚えておいて」

 飛鷹がそういって、昼頃に説明を終える。

 任務に出ている者以外の全ての仲間を呼び出して、食堂で説明を行った。

 皆は、混乱しながらも現実に起きている事を何とか飲み込んでいた。

 そして、肝心な事を聞かれた。

 なら、あの通信の提督みたいに聞こえた声は?

 その質問には、憲兵が代わりに答えた。

 残酷な事を、飛鷹は言いたがらない。憲兵が代弁する。

「それなんやけど……。落ち着いて聞いてや。あれな、鈴谷の艤装らしいんだわ」

 憲兵は自分でも意味のわからない事を言っている自覚がある。

 呆然とする皆に、懸命に噛み砕いて語った。

「これも原因がまるで分からん。見たと思うけど、鈴谷の頭にあったあの頭蓋骨、あれ提督の遺骨やねん。どうやら鈴谷、知らんうちに海の中で遺骨と混ざりあったみたいでなぁ……しかも提督、あの状態で意識あんねん。喋れるんや、マジで。しかも感覚をある程度共有してるみたいで、取れんのや身体から。死んだはずの提督が、何故か知らんけど艤装みたいな状態になって、鈴谷と融合しとる……としか、今は言えん。幽霊っていうか、言い方悪いけどゾンビ化してるって言うと、想像できるか?」

 憲兵が分かりやすい例えで言った。鈴谷はゾンビとなって甦った。

 そして、そのおまけのように提督の遺骨と意識を取り込んで、一体化している。

 端的に言うと、セイレーンはゾンビだったという事。しかも知り合いで。

 言葉を失う一同。有り得ない現状、有り得ない相手。

 何もかも原因すら分からず、本人も覚えていないという始末。

 セイレーンを捕まえて誤解をといても、進展などない。

 分かったのは、正体だけであった。

「……混乱するでしょ。私もしてる。けど、これだけは約束して皆。……大本営には言わないで。今度こそ、彼がいなくなるわ」

 飛鷹は言った。上には黙っていると。

 モルモットとして、今に二人はきっと連れていかれる。

 大本営は言ったのだ。捕獲か、撃破。その二つしかないと。

 捕まえれば、間違いなく彼らは実験の材料になる。

 当たり前だ。ゾンビなどという貴重な被験者を逃がす手だてはない。

 簡単にその結末は想像できる。

 故に、黙っていて欲しいと。なんと、憲兵さんすら頼み込んだ。

「うちからも頼むわ。こんなん、職務怠慢なんやろうけど、提督はうちら憲兵とも仲良くやってくれてたんや。この事に関しては、うちらも手伝う。うちはイヤや。彼がモルモットになるんは。憲兵って言うんは、たとえ死んでも艦娘や提督の人権を守るのが仕事やと思う。……大本営と揉めるのはあれやしな。取り敢えず、隠しとこってこっちゃ」

 隠蔽しようと言い出した。悪いことをすると言うこと。

 だが。不意に、飛鷹は低い声で、皆を真っ黒な瞳で睨んで警告する。

「もしも、あの人を裏切ったら殺すわよ。いい? ……今の私は、誰だろうと、帰ってきた提督を奪う奴は許さない。反逆罪、上等よ。彼のためなら喜んで解体でも処刑でもされてあげる。……けど、その前に裏切った奴は絶対に殺すからね。邪魔する奴は今すぐ殺す。文句があるなら出てきなさい。その前に、疑いがある奴から始末していくけど……。ねえ? あの人をもう一回殺すような真似をした艦娘は生きたまま解体しても良いかな、憲兵さん?」

「やめえや!! お前マジで殺る気やろ!? 落ち着け、疑心暗鬼になるなって言うとるやろ!!」

 本当に艤装を展開して、飛鷹はこの場で全員を皆殺しにしようとしていた。

 お札を構える彼女に、慌てて憲兵が取り押さえる。

「ダメよ……私が、私が今度こそあの人を守るのよ……。そう、全員殺して口封じしなきゃ……。あの人の安全のためだもの。私が汚れ役を受けて、私が死ねばいいの。私と引き換えにここの艦娘をみんな殺して、自沈すれば……提督は安全、無事に鈴谷と過ごせる……。鈴谷と提督が無事なら何でもいい、怪しい奴はぜーんぶ殺せば…………」

「落ち着け、自分を追い込むな飛鷹ッ!! ……あかんっ!? おい、皆はよう逃げや!!」

 突然ぶつぶつと俯いて何かを呟く飛鷹。憲兵が叫んだ。

 切羽詰まった状況だった。ポカンとする皆。その時、食堂の扉が勢いよく音をたてて開かれる。 

 振り返ると、青ざめた長門とだらだら冷や汗を流している無表情の加賀がいた。

「ええい、飛鷹め、また癇癪か!? 皆、直ぐに避難しろ!! 殺されるぞ!!」

「急いでください。ここは私達が何とかします」

 突然の急展開。二人して、なんと、室内で艤装を展開して主砲と弓を構えていた。

 出口に向かって走れと叫ぶ。

 

 ……数秒後。

 

 

 

 

 

「鈴谷と提督以外。みんな、死んじゃえ」

 

 

 

 

 

 

 ……表情の抜け落ちた顔で、がらんどうの目をした飛鷹が、無差別の爆撃を開始してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「提督。……なんか、食堂の方から爆撃の音聞こえない?」

「……また飛鷹か。勘弁してくれ……」 

「この音、きっと試製南山だと思う。飛鷹さんの主力艦載機じゃ……」

「……はぁ」

 その頃。半分軟禁状態の鈴谷と提督が、執務室で休んでいた。

 見張りに他の憲兵が一緒にいてくれる。襲撃への謝罪は済ませてある。

 皆、いってくれれば中に入れたと苦笑いして許してくれた。

 皆には鈴谷は確かにゾンビとなっているが、意識ははっきりしているので、脅威にはならないとしっかり伝わっている。

 二人は長旅の疲れを癒すべく、涙を流して帰還を喜んでくれた間宮につくってもらった久々の食事を堪能している。

 服装はいつもの鈴谷の制服。久し振りにきた感触は、随分と懐かしい。

 箸を咥えて窓の方を見る。……南山が様子を見に、窓際で滞空していた。

 大丈夫とジェスチャーすると、旋回して戻っていく。

 問題は、飛鷹がまたもや暴走を始めている事だった。

 詳しい話は聞いた。二人の抜け落ちた記憶の部分や、皆の経緯など。

 此方も分かることは全部話した。統合した結果を、皆に話しに行ってこの様であった。

 聞いてもやはり曖昧で思い出せない死亡した過程の記憶。そこは、どうしようもない。

 飛鷹が情緒不安定になり、ヒステリックになってきたと聞いて、彼は。

「飛鷹。色々有難う。死んじまったけど、何とか俺はここにいる。心配するなとは言えない。けど、取り敢えずお前は落ち着いてくれ」

 戻ってきたと制裁を加えたあとにあれこれ、親身に世話を焼いてくれた彼女は、こう言ったという。

「鈴谷。私に提督と一緒に、あなたを守らせてほしいの。二度と間に合わないなんて事がないように。私が、二人の幸せを必ず確保して見せるよ」

 死した二人の恋路を応援するといってくれるのは嬉しい。

 だが……。

 

「二人の敵は死んじゃえばいいんだあああああああーーーーーーー!!」

 

 飛鷹の絶叫が聞こえる。食堂で死闘を演じているようだった。

 数名、応援に出ていった。

 彼女は、長い間のストレスによりどうやら発狂に近い精神状態になってるようだった。

 理性が最早理解の範疇を超えたり、心細い以前に戻るのを忌避したいが為に負荷に堪えきれず、難しい思考を阻害して、短絡的な考えに走りやすくなっていると、心理カウンセリングの資格を持っている一人の憲兵が教えてくれた。

 分かりやすく言えば、こちらには最強の味方として君臨。 

 周囲を全て敵と判断して、全員皆殺しにしてでも守るという考えに固定されつつある。

 以前よりも遥かに凶暴化しているのだ。

 先ほど、長門と加賀相手にぶちっとキレて、触るな近寄るなと殺しにいった。

 真面目に本気で殺しに襲いかかり、二名で叩きのめされ正気に戻っていた。

 酷い有り様であった。

 唖然とする鈴谷には、深海棲艦となった飛鷹が他の深海棲艦二名に襲いかかったようにしか見えなかった

 実際、これから先どうするかは考えていなかった。

 飛鷹は、二人の将来を危惧して、疑心暗鬼になっている。

 それほど、心配してくれていた。

「飛鷹ッ!! いい加減にしなさいっ!!」

「正気に戻れ、聞いているのか!?」

 恐らくは加賀と長門が二人で押さえつけているが、

「私が、私が守らなきゃいけないの!! 死んだっていい、私が代わりに死んででも、あの二人だけはっ!!」

 狂ったように吠える、事実狂った飛鷹は大暴れしていた。

 食堂の方で大騒ぎになっている。

 自分を殺してでも、凄惨な未来は変えると飛鷹は暴力で解決しようとしている。

「飛鷹さん、大丈夫ですか!?」

 朝潮らしき声も参戦して抑えてくれるので、多分大丈夫だろう。

 彼女の言うことは間違いではない。

 実際、鈴谷と提督の未来は依然絶望一色であり、死人が動くのを受け入れるここがおかしいだけ。

 普通に考えれば、二人の行く先は実験動物が関の山だろう。

「……飛鷹さんなりに応援してくれるんだね」

「あいつ、適応力高すぎだろう……」

 二人は彼女の想いを理解していた。

 この先、どうすればいいのか。まだ、わからないまま。

 食堂で暴れる彼女に応えることもできずに。

 ただ、ここで軟禁される以外にすることのない現実。

 ため息をついた。戻ってきて、果たして正解だったのか。

 それすら、鈴谷と提督は、見失っていた……。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。