本当に結ばれる、ただ一つの方法   作:らむだぜろ

60 / 79
ヤンデレゾンビからの逃走

 

 

 

 

 

 

 結論から言おう。

 暴走していた彼女の危惧は現実となった。

 数日、セイレーンが目撃されなくなり、最後に出没した海域の皆に、大本営から問い合わせがあった。

 セイレーンはどうした。報告が上がってない。何か隠していないか、と。

 そう、勘繰られたらしい。

「二人とも、大丈夫よ。私が奴等を今すぐ殺し……」

「飛鷹、お願いだから落ち着いて」

 対応した飛鷹がいきり立って大本営にカチコミをかけようとして、加賀が直ぐ様止めた。

 適当に見失った、と報告しておいたが……監査が入るかもしれない。

 そうなれば、軟禁状態の二人もいずればれる。提督不在の状況も長続きはしない。

 次に着任する提督の話を聞いたとき、凄まじい顔をした飛鷹を覚えている。

 声色は普通だったが、明らかに殺気を堪えていた。

「飛鷹。俺達、やっぱり出ていった方が良くないか?」

「そうだよ。戻ってきたし、誤解もとけた。だから、鈴谷たちは適当に居なくなるってば」

 二人は相談して、結論を出した。

 即ち、此処から立ち去ろうと。

 皆に迷惑をかけてしまうと分かった以上、鎮守府に留まるのは得策ではない。

 既に最低限の目的は果たせている。

 これ以上留まることは、彼女たちの立場を悪くする。

 死者は死者の在り方を全うするべき。飛鷹に言うが。

「ダメよ。絶対にダメ。私は許さない。逃げてもその先にあるのは地獄でしょ。二人にこれ以上辛い想いをさせたくない。戦えないなら私が抗う。相手殺してでも」

 が、納得しない飛鷹は二人を閉じ込める。

 出ていこうとしているのに、壊れてしまった飛鷹は守るべく、出してくれない。

 闇色の瞳で、じっと言葉の通じない鈴谷達を見つめて、捕獲する。

 善意だから無下に出来ない。指摘通りだから、動けない。

 飛鷹の言葉に、間違いは何もない。

「飛鷹。鎮守府と二人、どちらを守るつもり?」

「二人よ。邪魔な奴は皆死んじゃえばいい。転属したいなら出ていって。協力しないなら最悪殺す」

 ダメだった。飛鷹にはこの時点で話が通じない。

 加賀がバカをやめろと言うが、聞いてない。

 完全に二人だけを優先して、マトモな判断が出来ていなかった。

「逃げちゃダメよ鈴谷。逃げたら痺れさせて連れ戻すからね?」

 執務室に閉じ込めた鈴谷に、真っ黒な目で見下ろす飛鷹。

 深海棲艦に脅されているように見える鈴谷は泣きそうだった。提督はドン引きしていた。

 憲兵が宥めるが、彼女にとって重要なのは二人の事だけ。

 それ以外は、眼中になかった。

 実際、執務室には必要以外は誰も入れない。

 報告は聞いたらさっさと追い出す。鈴谷たちは、併設する風呂場に押し込められて隠されている。

 確かに旅路に比べれば安全だろうが、窮屈というか。束縛がキツすぎる。

「提督。一個思い出したんだけどさ」

「……ん?」

 飛鷹にお風呂まで一緒に入られて、色素の抜けた白い髪の毛を丁寧に洗う飛鷹の様子を見て、風呂上がりに鈴谷は言う。

 目隠しされていた彼は、疲れた様に反応する。

「飛鷹さんって、もしかして……俗にいう、ヤンデレ?」

「……ヤンデレ? あー……オタクの用語か。ヤンデレ……ヤンデレ? デレてるか?」

「一応、純粋な心配と善意だと思うよ?」

「……そうか。俺の相棒はヤンデレだったか……」

 病んでいるのは間違いない。デレがあるかと言えば、ある。

 愛情とは違うが、庇護しようとしているのは合っているだろうか。

 ただ方法が過激というか、極端というか……。

「落ち着け! なぜコーヒー牛乳を差し入れに来ただけで襲いかかるんだ!?」

「そうやっていって、隙を作る気なんでしょう!?」

「そうでもある……間違えた、無いぞ!?」

「嘘を言うんじゃなああああああい!!」

 差し入れに来た長門に襲いかかる風呂上がりの飛鷹。

 得物に孫の手を装備しているが、瓶を持った長門には勝てない。

「無駄なことをするな!!」

「ぐはっ!?」

 華麗に一度瓶を二つ空中に放り投げて、その間に飛鷹の背後に回り首筋に手刀を鋭く入れる。

 ガクッと倒れて気絶する飛鷹。落ちてきた二つの瓶を余裕で捕まえて、唖然とする鈴谷に笑顔で渡す。

 もう一個は飛鷹の分だが、襲ってきたので返り討ちにしておく。

「……長門さんだよね? 深海棲艦の戦艦に見えてるけど」

「うん? そうだが? まあ、細かいことは気にするな鈴谷。お前や提督が戻ってきてくれただけで、私は嬉しい。なに、飛鷹ほどじゃないが、これでも気持ちは同じなんだ。任せておけ」

 会話も表情も彼女には伝わらない。

 憲兵が翻訳して漸くだ。反応されて礼を言われる。

 一方通行の会話にも慣れてきた長門は、そういって去っていった。

 見境がないヤンデレと言う人種の飛鷹。提督は説得は無理だと鈴谷に言われて諦めた。

 そんな日々。正直言うと、色々困っている。

 セイレーンは、壊れたヤンデレに監禁されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 脱走を試しにしようとしてみた。

 憲兵さんにも許可を得てある。

 隙を見て逃げる気はないがそれらしい素振りを見せると。

「逃がさないって、言ったでしょ……?」

 直ぐ様気付いて追い回してきた。

 ただ単に廊下に出て、外の様子を見ようとしただけ。

 突然まえぶれなく現れて、向こうがゾンビよろしく追いかけてきた。

 フラフラとした足取りで、追い回してくるのだ。

「マックスやべー!?」

「ハザードのスイッチ入ってるじゃん!?」

 二人には深海棲艦の空母以下略。

 怖いので逃げる。反射的に。

 廊下を全力で疾走する。

「逃げるなああああああ……!!」

 恐ろしい声をあげてついてくる追跡者。

 何いっているか無論分からないが、凄い声で雄叫びをあげているように聞こえる。

 泥のような目をした空母ゾンビ。デンジャラス過ぎる。

「デンジャー! デンジャー! ヤンデレクライシス!! デンジャラス空母ォ!!」

「だ、誰か助けてェ!! く、食われるううううう!!」

 提督の意味不明な絶叫と鈴谷のヘルプがこだまする。

 廊下を走り回る彼女を見て、通りすがる艦娘たちが驚いていた。

 数日前から監禁されているらしい鈴谷。未だに深海棲艦みたいな見た目だが、反応は見知った鈴谷だった。

 そして、聞いていた通り彼の声もした。主に頭から。

 なんか、セイレーンが艦娘に助けを求めている。追いかける飛鷹が雄叫びをあげているようだが……。

「待ちなさあああああい……!!」

 流石に初日のように艤装はつかわないが、執拗に追い回して閉じ込めようとする。

 意外と鈴谷、セイレーンは元気そうであった。

 元気じゃないのはそこの空母ゾンビの方である。

「朝潮おおおおお!! 夕立いいいいいい!! どっかにいるなら、助けてくれーーーーー!!」

 前から特に仲良しだった駆逐艦たちに助けを呼ぶ提督。

 そんで、その声には死んだあとでも確実に飛んでくる狂犬と賢い狼。

 暫く聞いて無くても、しっかりと反応した。

「し、司令官! お呼びでしょうか!?」

「提督さん、どうしたの!?」

 帰ってきて、初めて顔を会わせる二名。

 逃げる前に躍り出る深海棲艦に驚く鈴谷。急停止して悲鳴をあげる。

「大丈夫、落ち着け鈴谷。多分……えと、この牙出してるほうが夕立かな? 合ってたら軽く動いて」

「ぽい?」

 見えなくても、通じなくても。

 提督は考えた。ジェスチャーで反応してもらえばいい。

 姿は変わっても、こっちの声は聞こえていると聞いている。

 ならば、問いかけにして反応を見ればいい。動き自体は、多分変化しないだろうと思う。

 実際、試したら合っていた。

 牙を出すほうの歩く駆逐艦が多分夕立。

 反応してるので合っている。では、この尾っぽ振り回すほうが朝潮。

「朝潮、合ってたら頷いて」

「はい、朝潮で合っております!」

 首肯した。やはり、意思の疎通は工夫次第で可能なようだ。

「あ、そっか。言葉も姿もおかしいけど、皆変わってないもんね。その手があったか……」

 鈴谷も名案だと提督の発案に喜んだ。これで少なくとも簡単なやり取りはできる。

 用件を伝える。後ろの空母ゾンビを何とかして。

「鈴谷ぁああああああ……!!」

 折角一時的に撒いたのにもう発見してくる飛鷹。

 彼女を見た二人は唖然とした。成る程、ゾンビと言うのは向こうのほうか。

 絶叫する鈴谷は、身ぶり手振りで必死に助けてと頼み込んだ。

「朝潮、足りなければ皆でタコ殴りにしちゃっていい。夕立も、お姉ちゃん呼んで素敵なパーティー血祭り開催を許可する。久々にあっていきなりごめんな? けど正式なお願い。……飛鷹を、狩ってよし」

 彼も頼み込むと、二名は敬礼して承諾。

 んで。

「飛鷹さん? 司令官の監禁などの所業ですが。そろそろ、朝潮も怒りますからね?」

「泣けるっぽい。提督さんと鈴谷さんは帰ってきたら閉じ決められるとか、飛鷹さんは外道だとあたしは思う!」

 二名は、折角帰還したのに二人に対しての行いに文句があるようだった。

 殺る気満々で、ゾンビに身構える。

「邪魔するなら、お仕置きよ、朝潮ォ……夕立ィ……!!」

 デンジャラス空母ゾンビが、某ゲームのように立ち塞がる。

 二人は果敢に立ち向かう。戻ってきた彼から請け負った初めての任務を、成功させるために。

 生物兵器と戦う、特殊部隊の豪傑のように……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は、倒れないわぁ……!!」 

 生きてた。ゾンビ、生きてた。

「……嘘でしょ」

「何でさ……」

 たんこぶが出来て煙をあげる狂犬と賢い狼。負けてた。

 姉妹たちも参戦しているが悉く撃破。

 皆気絶している。それを乗り越え追いかけるゾンビ空母。

 鈴谷と彼は絶望した。おかしい。何でか飛鷹はダメージ負ってたら強くなっている。

「絶望が俺達のゴールなのか!?」

「他の鎮守府のゾンビじゃあるまいに!!」

 前に聞いた、提督を追いかけるゾンビ駆逐艦だか潜水艦の話。

 提督に幾度となく撃破されても復活すると言う人種らしいが。

 鈴谷は冗談か怪談かと思っていたが、どうやら実話のようだ。

 ヤンデレと聞いているその艦娘と同じく飛鷹もゾンビになっていた。

 つまり。

「ヤンデレはゾンビだった……?」

「違うと思うよ。多分……」

 自信がないが、兎に角逃走。追ってくる飛鷹さん。

 待てと叫ぶが待つわけがない。

 必死に逃げていく。すると今度は。

「鈴谷!? それに提督!? 逃げたんですか!? 自力で脱出を!?」

 加賀が何やら書類を持って歩いていた。

 誰か分からず身ぶり手振りで聞き出して、加賀と判明。

 助けてとお願いして、加賀は了承してくれた。

「全く……飛鷹はまたですか」

 書類を脇に抱えて迎撃。その間に逃げおおせる。

 呆れる加賀に襲いかかるゾンビの恨み節。

「邪魔よ加賀、退けェ……!!」

「お断りよ飛鷹。ここで私と決闘しなさい」

「掴まないで、離せェ……!!」

 どっすんばったんと決闘開始。

 ライフは幾つに設定されているのだろう。

 数ターン後。

「全速……前進、よ……!」

 加賀をライフゼロにして、ゾンビは進む。

 滅びのゾンビマジックで倒されてしまったようだった。

「ヤバい! 加賀も倒された!!」

「もうなんか、逃げられない気がする……」

 鈴谷は半分諦めた。それでも一応逃げておく。

 もう監禁は御免だった。勘弁してほしい。

 鎮守府のなかを走り回る鈴谷たち。それを追いかけるゾンビ。

 時には。

「死ぬが……いい」

「うわああああ!?」

 蜂のようにつき倒し。

「艦娘目掛けて……シューッ!!」

「スーパーエキサイティングッ!?」

 ゴールを決められ。

「飛鷹さん、なぜ追いかけるんです!? 私達は仲間じゃなかったんです!? 本当に裏切ったんですか!?」

 噛みそうな台詞を叫ばれて。

「何なのよォ、今のはァ……?」

「ふぉお!?」

 壁に叩きつけられて。

「ヴェアアアアアア!?」

 意味もなく長門は倒されて。

「飛鷹さん!? 飛鷹さんなんで!?」

 川内は俳句を詠む前に負けて。

 などと、色々あった。結局、二人はまた捕まった。

 そして監禁されていた。運命の、その日まで。ずっと……。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。