本当に結ばれる、ただ一つの方法   作:らむだぜろ

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あの時の復讐

 

 

 

 

 

 ほぼ無傷のレ級。本来であれば、残存の艦隊が全滅するほどの戦力が現れた。

 まさしく絶望の体現とも言えるなんでもできる化け物なのだ。

 慌て出す提督たちが、一目散に逃げ出すように命令する。

 主力艦隊を導入していた彼らからすると、全滅は避けたい。

 無事に帰投するには、然し敵が強すぎる。

「ハッ。残ってるのは死にかけばかりかよ。雑魚が!」

 バカにするように、何故か喋るレ級が皆に主砲を向ける。

 巨大なウツボよろしくの頭部を模した艤装だ。生物と機械が混じる、セイレーンに似た形。

 それを容赦なく向ける。

「丁度いいぜ。憂さ晴らしに沈めて」

 ベラベラ喋って、余裕の笑みを浮かべていた。

 その時だった。

 

「――沈めてやる」

 

 台詞が被った。攻撃も被った。

 セイレーンがいつの間にか真ん前にいて、レ級の顔面をぶん殴っていた。

 しかも、左肩の骨の左手と、左手に持ってた重巡の主砲をぶつけた。

 主砲は本来殴打には使えない。繊細な艤装なのだが……殴った拍子に派手に壊れて誤爆した。

 で、その爆風を顔面にもろに受けた。吹っ飛ぶレ級。バウンドして海上を飛ばされる。

「ってえ!? な、なんだ!?」

 それを食らって平然と立ち上がるレ級も規格外だ。驚いて周囲を見る。

「な、何に殴られたんだ!? なにもいない……」

「っ!」

「ぐはぁ!?」

 近寄るセイレーンの拳が、更に殴る。

 右往左往しているレ級の様子がおかしい。誰かが言い出した。

 確かに奇妙だった。

 起き上がっては混乱して、殴られて蹴られて潰されて抉られてをしているレ級。

 喋れる事も驚きだが、それ以上になぜ、セイレーンに気づかない?

 何度も叫んでいる。なぜ攻撃される、どこにいると。

 要は、目の前で暴力を振るうセイレーンに気付いていないように見える。

「鈴谷。あの子が、今謳ってる……」

 それを見て、ぼろぼろの飛鷹が呟いた。

 肩を貸している艦娘が何事か聞くと。

「多分、同じ鎮守府の艦娘だからかな……。何となく聞こえるの。あの子ってば、レ級の頭にだけ作用するように調節して謳ってる。感覚を操作して、視覚的におかしくしているんじゃない? レ級からすれば、見えない相手に一方的に襲われて、なにがなんだか分かってない。レーダー機能も殺している念入りっぷり……相当恨み入ってるわね」

 当然か、と締めくくる。自分の恋人を殺したのだ。許せないだろう。

 まあ、本人たちが思い出したかは不明だが。記憶ないし。

 実際その通りで、飛鷹の推測は満点に近い。

 鈴谷は声に出さずに謳ってる。提督が代わりに殴っている。

 但し、死んだときの記憶は依然分からず、ただ異様に腹が立つ。

「なあ、鈴谷。なんで俺達はこんなどうしようもなく、苛立つんだと思う?」

「決まっているよ。きっと、鈴谷達の記憶はなくても、魂が覚えているんだ。こいつが、鈴谷達を引き裂いた、張本人だって」

 武器など使うに値しない。

 何故だろう。殺すならば、素手でズタズタにしてやりたい。

 まるで、自分がそうされて死んだように。

 話は聞いていた。事実そうなのだろう。だが、覚えていない事は自覚できない。

 けれども、感覚がいっている。こいつが、殺した。彼を。こいつが、奪った。彼女から。

「畜生、畜生!? 何だよ、何が起きているんだ!? 艦娘が消えてんじゃねえか!? 何で!?」

 レ級にはなにも見えない。聞こえない。理解できない。

 青い空と海を、見えないなにかに攻撃されてのたうち回っている。 

 誰もいない世界だ。海と空しかない世界になった。奴等は何処だ。味方が何処だ。

 感覚を、完全に掌握されていた。反撃したくも、何に反撃すればいい。

 何処に反撃すればいい。

「クソッ!!」

 闇雲に尾っぽで凪ぎ払い。空を切る。

 見当違いの方向に空振りしただけ。

 鈴谷は真ん前にいる。真後ろには誰もいない。

「情けないな。俺は、こんな奴に殺されたのか」

「仕方ないよ。生前は人間と、空母の艦娘。戦艦には勝てないからね」

 下らない遊びをしているようだった。

 一方的に、絶対的に弄ぶ。それは、子供が蟻を潰して暇を潰すような稚拙ささえ見える。

 意味もなく命を奪い、なにも感じない。

 生前襲ったレ級がそうだったように、苛立ちしか感じない二人は、淡々と処理する。

 豪快に蹴り飛ばす。骨と鉄の爪先が、鳩尾にめり込んだ。

「がはっ!?」

 内臓でも潰れたか、吐血して吹き飛び、転がるレ級。

 歩いてついていく鈴谷たち。表情は冷たく、凍りついていた。

 絶句している周囲は、リンチに近い光景を黙って見ていた。

 規格外。まさに、レ級を蹂躙するセイレーンは文字通り次元が違う。

 艤装すら持ち要らない。歌声一つで、艦ならば簡単に惑わせて、苦しめる。

 のろのろと起き上がるレ級は明後日の方向に、助けを求めた。

 誰かいるなら加勢しろ、見ていないで早く助けろ。

 司令塔が命令しているのになぜ来ない。

 そんなことを、口走った

「ねえ、提督。こいつさ、提督をぐちゃぐちゃにして殺したんだよね?」

「そう聞いてるな。思い出せないけど」

「ミンチの記憶なんて思い出さなくていいよ。問題は、こいつをどうやって殺そうか?」

「同じ目に合わせてやろうぜ。流石に俺も気分が悪いからな」

 二人はそんな風に話している。誰も止めない。

 恐ろしすぎる。セイレーンが怒っているのを、本能的に悟って深海棲艦も艦娘もなにもしない。

 今逆らえば、同じことをされる。あの無様に転がったレ級と、同じ目に。

 大人しくしていないと。死にたくないのは、皆同じ。

 小動物が自分よりも強い動物には逆らわないのと同じだ。

 追い詰められても尚、動けない程の差が、ここにある。

 鈴谷の赤い瞳は鮮血のように美しく軌跡を残して、骨はカタカタ、コツコツと気味悪く鳴り響く。

 レ級が起き上がる。鈴谷が徐に手を伸ばして、先ずは目障りな尾っぽを掴んだ。

 そのまま、提督の骨の腕が、手刀を作って、勢いよく降り下ろす。

 結果、生身の部分が豪快にぶつ切りにされて、切り飛ばされた。

「ぎゃあああああああ!?」

 初めてレ級が絶叫した。

 放り投げる鈴谷の先で、宙を待っていた艤装頭がぼちゃんと落ちてきた。

「いてえ!! なんだってんだ!? 何で首が取れた!?」

 まだ、なにも見えていないのか、頻りに確認している。

 見えているのは消えた艤装の頭ぐらいか。 

「足りないよね。提督は全身壊されたんだよ? 頭一つで足りると思ってんの?」

「ああ、足りねえよ。満足できねえ。許せねえ。もっと刻んでやる」

 腕から血を垂らして、歩いてゆっくりと追いかける。

 レ級はがむしゃらに殴りかかり、暴れていた。虚空の敵を探している。

 今度は背中に回った。振り回す腕を掴んで、肘を下から殴打した。

 逆に加わった力により、肘が破壊されて逆方向に折れた。

 またもや絶叫。悲鳴をあげて、悶える。

 足りない。もっと壊す。鈴谷は決して許さない。

 思い出さなくても。この怒りは間違いなく生前の感情だと思う。

 無念さや不甲斐なさ。そういう感情の果てに、沸いてくる怒りだろう。

 なにもできずに護れなかった鈴谷は死んだ。今いるのは、その復讐が叶う化け物だ。

 転がるレ級の膝も壊した。俯せで転がったのを、不愉快そうに両の膝を踏み潰す。

 ぐしゃり、とその都度嫌な感触が伝わった。けど、心地好さもある。

 壊していくレ級の悲鳴と、伝わる触感が、黒い気持ちを癒してくれる気がした。

 提督も気が晴れてきた。もっと壊そう。死ぬまで壊そう。

 抵抗できない嘗ての自分と同じ目に合わせて、最後に豪快に殺してやる。

 最早戦いですらない。処刑だ。処刑をセイレーンは行っている。

 思わず目を背ける彼女たち艦娘。だが、飛鷹だけはしっかりと見ていた。

 彼はあんな風に死んでいったのだと。この光景を二度と繰り返させない為に、脳裏に刻む。

 四肢は全部へし折った。動きが鈍くなる。

「ち、畜生……! 俺が何をしたって言うんだ……!!」

 悔しそうに這いずって、逃げようとするレ級。

 泣きながら、それでも生き延びようとしていた。

 なんと無様な姿か。これが、あのレ級だと? 

 死にかけの虫のように這いずって痙攣する死に体が?

 笑えてくる光景があった。深海棲艦をなぶれるだけの能力を持つ者。

 殺された怨念を今、二人で行う化け物がいる。

「取り敢えず手足は折ったね。次はどうする? 内臓でも引きずり出す?」

「これらいにしておくか。一応、これ以上のスプラッタは飛鷹が泣く」

 気が済まない鈴谷は内臓も腹をかっ捌いて出したかったが、見物客がいるので控えた。

 これでも十分、皆のメンタルを削っているが。

「てーとくー! もっとよ!! もっと豪快に捌いてよ!! そんなやつ三枚におろしちゃえ!!」

 遠くでリクエストが飛んできた。飛鷹が魚の三枚下ろしを希望している。

 どうするか迷うと、一斉にそれ以上は勘弁してと周囲が騒ぎ出した。

 もういい、早く始末して終わらせてほしいと、懇願してくるのだ。

「……じゃ、最後に盛大に決めちゃおうか」

 足りないが、制止されたら言うことを聞くしかない。

 提督もそれでいいと言うので、最後の仕上げにはいる。

 謳うのをやめる。回復する感覚。レ級が泣きながら見上げると。

「……久し振りだな、クソ野郎。元気そうじゃねえか」

「こんなところで会うなんて奇遇だね? 誰にやられたの? 随分と情けないけど」

 見下ろすようにたっぷりの嘲りを見せて、二人はレ級を哀れんでいた。

 聞き覚えのある声に、レ級が怒り叫んだ。

「て、テメェ……まさか、あの時の人間か!? それにお前も知ってるぞ! 一緒にいた艦娘じゃねえか!! なんだその姿!? 俺以上の化け物になってるじゃねえかよ!!」

 今頃認識したのか、呻くレ級を見て、愉快そうに鈴谷は笑った。

「化け物? 深海棲艦に言われたくないよ。陸上にいる奴に。でも、無様だね。何この様。自分で立つことすら出来ないの? うわ、可哀想。ねえねえ、どんな気分か教えてよ。海のうえで寝転がるのって気持ちいい? 見下ろされて嘲笑されるってどんな気分? 折角だし教えてくれない?」

 煽るように笑い、心底見下す鈴谷。

 提督を恰も子供のように弄んだ相手を、子供のように弄ぶ。

 歯軋りをさせて吠えるレ級を見下ろし笑う優越感。

 抵抗するので、頭を踏みつけて力を込める。

 悔しそうに呻いている。それを見て、少しはスッキリしたようだ。満足した。

「じゃあ、もういいや。次はお前が死んじゃえ」

「俺を殺したんだ。俺もお前を殺してもいいよな?」

 二人がそう聞くと、死にたくない今更命乞いをするレ級。

 すがるように、助けてくれと泣き出した。

 みっともない。そう、提督は思う自分もきっとこうしたんだろう。

 けど、こいつはどうせ笑って殺したんだ。そう、忘れている記憶が囁いた気がした。

「鈴谷は殺らない。こんなきったないの、殺すのは嫌だし。お前は、あいつらに殺されちゃえばいいよ」

 鈴谷は嫌悪感丸出しで、もう一度甲高いソプラノで謳った。

 次は、傍観していた深海棲艦の姫たちが悲鳴をあげる。

 セイレーンが、命じてきたのだ。

「逃がしてあげてもいいよ。引き分けにしてあげる。その代わり、全員でこいつを殺せ。じゃないと、お前ら全員沈めてやる」

 セイレーンが逃がす条件として、仲間を殺せと言うのだ。

 姫たちは、言われた通りにするしかない。絶対主の命令には逆らえない。

 必死に頷く。殺すから見逃がして、殺さないでと哀願してきた。

「帰ろう、提督。もうあいつはお仕舞い」

 鈴谷は嫌そうに、皆の場所に戻っていく。

 背後で、動き出す姫たちに警戒する艦娘に言った。

 今回は連中は見逃しておくと。姫たちは、もう二度と逆らわないと誓わせてもいい。

 何なら、人類に近寄らないように言うけれど、どうするか聞いた。

 提督たちは、姫を配下にできるなら頼むと言う。

 現金な奴等で手土産さえあれば、手のひら返して喜んでいた。

 鈴谷は渋々、追加条件を出した。それを殺したら降伏しろ。

 悪いようにはしないから、来い。じゃないと沈める。

 彼女たちは全員、白旗をあげ降参しているようだった。

 動けぬ、倒れたレ級を取り囲む。

 全方位から主砲を向けられていた。

「ま、待てよ……お前ら、俺を殺すのか!? 俺はお前らの手伝いをしているのに!? ふざけるなよ、裏切ってんじゃねえよ!!」

 顔をあげて叫ぶレ級。皆、知らん顔で聞いていない。

 恨み言をいい放つレ級だったが。

「……殺りなさい」

 鈴谷に言われて黙って実行。

 容赦のない砲撃が、レ級を飲み込み、大爆発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後。決着はついた。

 上位の姫たちは漏れ無く降参。協力する為、捕虜になった。

 連行されていく姿を見送り、いつかの夕暮れのような海で、セイレーンは背を向けていた。

「ついたら、連絡頂戴よ。約束だからね。逃げないでね今度は」

 最後に飛鷹が帰る前に、口を酸っぱくして言っていた。

 皆は一足早く撤退しているらしい。

 鎮守府では、皆や憲兵が心配してたが無事だと聞いて安堵しているそうだ。

「分かった。ちゃんと待ってるよ。逃げないから、飛鷹さんは早く治療してね。足が酷いよ?」

「そうだぞ飛鷹。お前の方が重傷なんだからな。ご自愛してくれ」

 二人に言われて、言い返す飛鷹。漸く何時もの相棒に戻ってくれた。

 此れからは、孤島に行って暫く様子を見る。

 ダメならまた逃げるし、追ってくるなら沈めるだけだ。

 鈴谷の脅威は皆分かっているだろう。どちらが利口かは、判断できるはず。

「何かあったら遠慮なくいって。私は鈴谷と提督の味方よ」

「知ってる。だから言うけど、監禁とストーカーは止めて欲しいな。息苦しいから」

 やんわり釘をさすが無理と言われた。

 呆れる二人に、連れ添いの艦娘が迎えに来た。

 飛鷹を助けて、去っていく。

 手を振って、帰っていく飛鷹を見つめる。

 小さくなっていくのを見て、鈴谷と提督は、逆の方に向かい、進み出した。

「平穏になるといいね」

「そう願いたいな」

 後は彼ら次第だ。セイレーンを、どう扱うかは。

 二人はここまで来れば、どう流れようとも一緒になる。

 愛しているのに違いないし、二人でなら何処でもやっていける。

 死んでも愛し合うのは、伊達じゃないのだ。

「折角の新婚旅行……」

「そこ気にするのか!?」

 鈴谷の台詞に呆れている提督は、新婚生活にしてくれと頼み込んだ。

 残念そうな鈴谷だったが、それを聞いて気をとりなおす。

「よし! 孤島を愛の巣にしちゃおうよ!」

「鈴谷。人様の島を自分の家にしないでください」 

 突っ込み入れながら、二人は向かっていく。

 夕日に紛れるように、セイレーンは上機嫌に即興で作ったヘタクソなラブソングを謳いながら進んでいく。

 水底に行く謳は、どうやら沈まずに済みそうだ。 

 愛を謡うのは変わらないが、少しは……周りも、二人も、救われて。

 セイレーンは優しいオレンジ色の中に、消えていった。

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