本当に結ばれる、ただ一つの方法   作:らむだぜろ

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エピローグ 水底で愛を謳うセイレーン

 

 

 

 

 

 

 

 ……あれから、幾時の時間が流れただろうか。

 二人を引き裂いたレ級を殺して、そして孤島に辿り着いて。

「思い返してみると、割とろくなことないよね」

「全くだ」

 軌跡を纏めると、デートに出掛けた。襲撃された。死んだ。

 何故か海にいて、帰ろうとしたら周りがおかしくみえていた。

 で、紆余曲折乗り越えて帰れば今度は監禁された。

 脱出したら犯人見つけて殺して今に至る。

 ……三つ目辺りから不幸の連続だった気がする。

「死んじゃったもんはどうしようもないしねえ」

 死人が動き回る現実などあり得ない。

 普通ならば。ここはもう、普通じゃない。

 普通じゃないから、普通の世界には帰れない。

 当然の結果であろう。ここにいるだけ、儲けたと思う。

「……暇だね」

「暇だな」

 で。

 二人は今、何をしているかと言うと。

 ……お客さんがくるまで、退屈そうに浜辺で海を眺めて謳っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あのあと。二人は、結論から言うと存在を許された。

 但し、鎮守府にはもう帰れない。存在は最高機密とされ、迂闊な行動も出来ない。

 逆を言えば、許される範囲なら、何していても自由。

 海軍に復帰して、現在は広い海域の遠征用の島々を管理する、管理人のお仕事をしていた。

 海軍扱いされてはいるが、一般の提督はその存在を知らず、一定以上の階級以外は立ち入り禁止。 

 その海域の、実質的支配者として君臨している。

 あの戦いのあと。

 言われた通りの孤島に向かい、やることなく適当にイチャイチャしながら飛鷹に連絡。

 数日は動けないと言われて、一週間ほど二人で過ごしていた。

 後から聞いたが、セイレーンの戦果は類を見ない程に高いもので、無傷での姫や鬼の捕獲に成功。

 更には翻訳機が開発された影響によって手に入った本人らの証言により、抑止力としての機能も認められた。

 戦術的に重要な遠征海域の支配をしてくれれば、復帰を許可して、敵対も止める。

 大本営は、そう正式に決めたのだそうだ。

 本人が怒り狂えば、有効な対抗手段を失って、今度こそ人類は海を失う危険性があった。

 現状、セイレーンに対しての有効手段はないのだ。

 世界で唯一の化け物に歩み寄る選択肢をこの国は選んだ。

 代わりに、最高機密として過ごすことを約束させられた。

 指定の海域以外には出ないこと。そこを支配し続ける事。

 細かい指定を受けて、了承した二人は、深海棲艦の追い出した広大な海域に住んでいる。

 最初は大変だった。自棄になって襲ってくる深海棲艦を宥めて、取り敢えず話し合いをしてくれと頼み込み。

 それでも聞かないときは仕方なく沈めた。

 時には人類と和平とは違うが利害の一致で交渉もした。

 まだ秘密だが、最近では上位の特に知性の高い深海棲艦、水鬼と一緒になって鎮守府を運営する試験的な試みもあるんだそうだ。

 平和を望む深海棲艦も少数だが存在しており、戦いを好まずに和平でも支配でも良いから放っておいて欲しいと嘆かれた。

 そういう連中も実はいた。

 今まで見境なく深海棲艦は滅ぼしていた人類だったが、こんな風に停戦も結べるのだと分かり、無駄な犠牲は減っていると聞いた。 

 最初は抵抗感のある提督もいたが、矢鱈本人が艦娘と人間をビビっており、弱いものいじめに感じていたたまれない気分になったんだそうだ。

 そんなこともあり、港湾などの一部の温厚な連中と結託して作った鎮守府は、それはそれは強い設備が充実しており、近々深海棲艦の中枢海域に皆で攻め込んでいく決戦も近い。

 なんていう、風の便りも聞いた。

 二人には関係ない。この広い海域にある、遠征用の島々の設備を日々メンテしないといけないのだ。

 移動するだけで一日以上かかるし、故障の際には修理する明石という艦娘も迎えにいかないといけない。

 そんな仕事を毎日こなしていた。

 気がつけば、この広い一帯は立ち入り禁止という状況もあって、こう一般の提督に言われているらしい。

 

 ――水底海域と。

 

 結局その呼び名だった。

 水の底のように静かで、そこのいる化け物は恐ろしく強く、眠れる存在を起こしてはならない。

 そんな風に噂されている。実際、迷い込んだ艦隊は知らぬ間に海域を抜けている。

 鈴谷が、謳って誘導して、追い払っているから。

 そんな経験もあって、不気味な海として知られている。

 なので、許可された艦娘と鎮守府以外は基本的にこない。

 毎日仕事を終えると、暇である。

 深海棲艦は寄ってこない。セイレーンの話は深海棲艦にも伝わっているようで、忌避されている。

 稀に姫がやってきて、少し話を聞いてくれというぐらいか。

 前回は、鈴谷と同じく死んだはずなのに深海棲艦になってしまって、助けを求めに駆逐棲姫がやってきた。

 以前は春雨という艦娘だったらしく、仕方無く大本営に聞くと、いらんから引き取れと言われて、預かっていた。

 それからも、住人は増えていた。

 幸運にも轟沈を免れ、生き残った艦娘などもここには住み着いている。 

 全員、除隊されており、ここではセイレーン以外の存在は死人である。

 で、肝心のセイレーンも死んでいるので、ここには結局死人しかいない。

 案外、名前通りの海域と言うことだ。

「鈴谷さん、これどうすればいいですか!? あの、発電機が壊れているんですけど!?」

 ここに暮らしている駆逐棲姫、改め春雨がパニックになって泣き出していた。

 燃料を回収する機械と、それに使う電力を発電する発電機が黒煙をあげていた。

 完全に故障していた。

「あ、これダメだね。明石に直してもらわないと。明日には呼んでおくよ。電源落として春雨」

「後はメモに記入な。故障部分と原因は……分からんか。まあ、現状だけでいいや」

「は、はいっ!!」

 春雨やここにいるはぐれ艦娘には、彼は提督とやっぱり呼ばれている。

 性格的に真面目にやっていて、ある程度女性の扱いにも慣れてきた。

 何より鈴谷の彼氏だ。人柄は悪くない。

 皆、死んでもなお寄り添う素敵なラブロマンスと言っている。

 その辺はよくわからない。

「萩ー! そっち大丈夫そう?」

「……きゃー!?」

 次から次へと島を移動する。整備艦隊とも呼べる人数に増え上がっているので、移動も大変である。

 萩風という新米の深海棲艦は、艤装が壊れている状態で流れ着いた。

 で、応急処置をするべく普段暮らす島に帰ろうとすると、悲鳴をあげて溺れそうになっていた。

 慌てて鈴谷が助け起こして、左肩の骨で掴んで持ち上げる。

「げほ! げほ!」

「萩風、平気か?」

「す、すいません……」

 咳き込んでいるが、大丈夫そうであった。

 びしょ濡れの彼女を背負って、皆で戻っていく。

 今日は久々に、飛鷹たちが遊びに来る。

 正確にいうと、必要な物資を持ってきてくれる補給艦隊として訪れるのだ。

 早朝のお仕事を終えて皆で戻る。すっかり、お姉さんという立場になっている鈴谷。

 島に戻り、冒頭の暇な時間を過ごしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼のいた鎮守府は、平穏なものらしい。

 後任の提督は女性で、かなり有能で優しい方だそうで。

 しょっちゅう皆で遊びに来るし、一週間のうちの何処かは必ず誰かいる。

 それぐらい、補給艦隊として顔を見せている。というか、補給はあの鎮守府以外は許可されていないらしい。

 父が定めているとかで、流石は最近元帥に位をあげた男。見事な手腕と言えよう。

 ここには、深海棲艦も艦娘も、死人もいる。 

 水底のように、動きの少ない、安定した毎日である。

 皆で仲良く暮らしていた。

 平和そのものの日常。多少自由がないぐらいで、後は十分幸せだった。

「春雨さん、私の野菜ジュース!! 飲んじゃったんですか!?」

「……え? わたしじゃないですよ?」

「じゃあ誰……あ、睦月さん!! あなたですか!?」

「にゃ!? む、睦月じゃないぞよ!? 言い掛かりはよくないのね!!」

「ならご自分の口の回りを見てくださいよ!!」

「……しまったの、拭いてなかった!」

 何やってんだあいつら。浜辺で暇している二名だが、背後が喧しい。

 振り返れば、暮らしている大きな小屋のなかで、萩風のジュースを奪ったらしい睦月が追い回されていた。

 旧式駆逐艦だが、なかなかどうして動きが素早い。

 が、萩風に勝てるわけもなく。

「にゃしいいいい!?」

 捕獲されていた。春雨が呆れてため息をついていた。

 他の艦娘や深海棲艦は、笑っているが止めろよ、と彼は思った。

 こんな風に日々喧しい賑やかな場所で生きる鈴谷と提督。

 一番五月蝿くなるのは、夜なのだが……それは、今晩のお楽しみにしておこう。

 遠くで、皆がお待ちかねの補給艦隊が、見えてきたのだから。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜。補給艦隊の皆もいつも通り泊まり掛けでいく週末。

 賑やかを通り越していた。

「ぐるるるる……」

 夕立が久々に遊びに来て、睦月とにらみ合いをしていた。

 デザートの間宮の羊羮と伊良湖の最中を奪い合っているのだ。

「にゃしいいいい……」

 睦月は妙な唸りで威嚇して、夕立とにらみあう。

 机の上には、他にも取り寄せた大和のラムネなどもあるのに。

 どうもこの二名は、顔をあわせるたびに菓子の奪い合いをしないと気がすまないようで。

 そこに現れる、無敵の猛禽類。

「夕立。睦月ちゃんに譲りなさい。芋羊羮あげるから」

「納得できない! それあたしの!」

 飛鷹が仲裁に入るが、夕立は譲らない。

 やれやれとため息をついて、不意討ちで額にお札を貼る。

「へっ?」

「お姉ちゃんは我慢なさい。鎮守府で死ぬほど食べたでしょうが」

 びりっとお仕置き。痺れる夕立は一発KO。

 伸びてしまった。睦月が勝ち誇るように、戦利品を食べるが。

「睦月。……萩の最中持ってるね?」

 萩風の最中を食べようとしていたらしく、ギクッと身を強ばらせた。

 知らないと目が泳いでいるが、提督の腕が隠し持っていた最中を発見して回収。

「し、司令官っ!! それは萩風に貰ったので……」

「嘘を言うんじゃない。萩風は、交換すると言ったんだ。じゃあお前のチョコをこっちに渡すんだな」

「くっ!?」

 扱いが末っ子の睦月は毎回こうして、皆を困らせるが、それはそれで愛嬌があるので許している。

 まあ、明確な悪意はないし、来たばかりの頃は虐待を受けていたのか酷く怯えていた。

 ここにいる艦娘も深海棲艦も、みんなそんなものだ。春雨は死んでいる。萩風も死んでいる。

 睦月は多分虐待されたのち放逐されて、他にもいじめや思考制御などされていた者ばかり。

 そんな経歴でも皆笑えるのは、得てして鈴谷と提督の人柄ゆえ。

 渋々言えば言うことを聞くし、鈴谷を何より怖がらない皆とは仲良しだと思う。

 それに、飛鷹たちとも一緒に過ごして仲良くやっている。

 実に幸せな未来だった。

 騒ぎながら夕飯を過ごして、皆はロフトや自分の部屋、客室で眠る夜更け。

 飛鷹と鈴谷、提督は窓際で夜空を見上げながら語っていた。

「……で? 今はどんな感じ?」

 二人の恋仲を冷やかしたい飛鷹は酒を飲みながら、頬を染めて楽しそうに聞いてくる。

 この生活になってそこそこ経つが、関係性はどうか聞きたいという顔をしていた。

「普通だよ。いつも通り愛してる」

「当然愛してますとも。浮気なんてする環境でもないし」

 のろけを聞いて、飛鷹はニヤニヤ珍しく笑っている。

 指輪をずっとしたままの二人。互いの指には、二つの指輪がはまっている。

 嬉しそうに、彼女は酒をあおって言った。

「幸福そうで何よりよ。こうして、また一緒にいられるのも見ていて嬉しい。感謝しないと、彼のお父様には」

「……してるよ。ずっとね。だから、何かあれば真っ先に駆けつける。セイレーンは、受けた恩は忘れない」

 鈴谷は義理の父とも言える元帥に感謝している。

 彼の戦いはまだ続くだろうが、何かあれば抑止力が動くのだ。

 それで十分だと言われた。

 彼自身も、父には深く感謝していた。

「鈴谷も、すっかりお姉ちゃんね。私も気がつけば鎮守府の重鎮扱いだし」

 飛鷹はそんな、愚痴のような事を鈴谷に言う。

 昔は相談するのは鈴谷の方だったし、飛鷹は弱味を見せなかった。

 今では、彼女が愚痴を言える数少ない友人となった。

「っていうか、どちらかというとお母さん? 提督がお父さんで。あらあら、お子さんがいっぱいいるわね?」

 飛鷹は寝静まる室内を見て、わざわざ言い直した。からかうように、鈴谷を見て微笑む。

 鈴谷は飲んでいたお茶を吹き出した。噎せながら流石に言い返す。

「いやいや、お母さんは酷くない? 鈴谷死んでるし、年齢関係ないけどさ……まだ若いよ?」

「俺もお父さん扱いはねえだろ……。司令官で十分だよ」

 二人して、結婚扱いは否定する気はない。それはからかい上等だ。

 年齢は流石に、享年なので言い返すが。

「そうかしら? なんかもう、完全に夫婦って感じするけど?」

「せめてお姉ちゃんにしてよ……」

「そうだそうだ。俺達を中年扱いするな飛鷹」

 夫婦もいいが、まだ新婚だと二人は思う。

 なんて、バカな事を言いながら。

 不意に、飛鷹は表情を引き締めて、聞いていた。

「……鈴谷。提督。二人は、今は幸せ?」

 それは、飛鷹なりの心配の言葉。

 こんな風に、鎮守府に帰れずに、居場所を失った皆と生活する今の環境。

 結局、普通には戻れなかった世界に対して。

 鈴谷は、提督は、即答した。

「幸せだと思う」

「ああ、間違いなく幸福だ」

 穏やかに微笑み、鈴谷は告げる。

 世界に居場所があること。平穏な時間を送れること。

 そして、皆と離れることがなく、笑顔で居られる事。

「鈴谷は、幸せだよ。提督がいる。みんなもいる。閉じ込められても、閉じ込められた箱庭には、相応の幸せがあるんだよ。これ以上は鈴谷は求めてない。提督は?」

「俺も十分すぎる。贅沢ってもんだ、まだ足りないなら。これだけあって、不幸せに見えるか、飛鷹」

 穏やかに過ごせる時間に、笑いあえる世界。

 二人は飛鷹に言うのだ。これでいい。これだけでいい。

 セイレーンとして、この水底海域が、二人の居場所だと。

「……そう。聞くだけ野暮だったわね」

 満足そうに、飛鷹はまた酒を飲む。

 答えは貰った。二人が満たされた世界ならば、文句はない。

 このまま、長い時を過ごせれば。それが、飛鷹の願いだった。

 本当に結ばれる、ただ一つの方法。

 人類のため、海で愛する人と生きていく。

 ここにある、大切な時間。水底で、愛を謳うセイレーン。

 二人の選んだ、死して掴んだ幸福だった。

「ねえ。子守唄でも謳ってよ、鈴谷。よく眠れるように」

 立ち上がって、寝る支度をする飛鷹は、そんなことを言い出した。

 セイレーンの謳を子守唄にするとは、大胆な艦娘であった。

「良いけど……。勢い余って永眠しないでね」

「死ぬわけないでしょ。貴方にその気がないなら」

「ないない。飛鷹さんには勝てる気は今でもしないよ」

 冗談を言いながら、鈴谷も眠ろうと思う。

 良いだろう。日課になっている気がする、即興の子守唄でも謳おう。

 但し、飛びきり甘ったるい提督への愛を謳うけれども。

 甘い悪夢に魘されない事を祈ろう。

 ベッドに入り、飛鷹は言った。

「お休み、鈴谷。提督」

 鈴谷提督も返事をして、布団に入る。

 さて、ご所望の謳を始めようか。

 よい夢を見られるように。

 そう願いながら、目を閉じて謳い出す。

 彼への、尽きない永遠の愛を、ずっと……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鈴谷ルート 水底で愛を謳うセイレーン おしまい。




鈴谷ルート、これにて完結です。
ここまでお付き合い下さり、ありがとうございました。
次回は加賀ルートを予定しています。
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