本当に結ばれる、ただ一つの方法   作:らむだぜろ

68 / 79
妹鶴参戦

 

 

 

 

 

 

 

 

 加賀は口下手である。口で語っても表情が固いので伝わらない。

 改善をしようとしているのに、皆に最近避けられている気がしたが。

 そこで思った。

 

(……世の中には肉体会話と言うものがあるのね。成る程、殴ってわかりあう……。何て素晴らしい文化!)

 

 自分も周りともっとコミュニケーションを取りたいと模索していた彼女はいけない方向に進みつつあった。

 参考にしたのはニヤニヤした秋雲が参考にと渡した不良漫画。

 海岸で殴りあってわかりあう艦娘たちの一ページを見て、誤解した。

 物語の主人公がまさに加賀のような口下手艦娘だったりしたせいで、シンパシーを感じて共感。

 話し合うために殴りあうと思い込み、翌日から努力開始。

 ……思い出してほしかった。

 加賀さん、貴方周囲から何て呼ばれてましたっけ?

 修羅の加賀って言われてたの忘れましたか?

 忘れていたどころか知らない。まあ、そんな感じで。

 加賀さんは新しいコミュニケーション、肉体会話を習得したのだった!!

 

 ……ヴェアアアアアーーーー!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 不味い。何かがおかしい。

 加賀が壊れた。何かあるたびに、よろしいならば戦争だと言わんばかりに殴りかかってくる。

 言いたいことがあるならカモン! と手招きして挑発する加賀さん。無表情で。

 大半の艦娘は無論悲鳴をあげた。提督は実際行って死にかけた。

 上記の悲鳴は弓の調整の話をしたくばこのパンチを受けてみよと放たれた一撃による絶叫。

 そのまま失神して事なきを得たが、呆然していた加賀。

 ……復活した飛鷹がやっぱりキレて、よろしいだったら乗ってやると喧嘩を開始。

 因みに惨敗していた。飛鷹が。空母の癖に殴りあうからこうなるのである。

 だが、敗北したが誤解はとけて、頭を下げて謝罪された。

 で。

「食らいなさい秋雲ぉぉぉぉぉ!!」

「ぎゃあああああーーーーーー!!」

 諸悪の根源オータムクラウドは猛禽類の猛攻にて薄い本ごと撃滅した。

 それはともかく。

 近々、この鎮守府に新しい面子が増えるらしい。

 それは、翔鶴が元々所属していた鎮守府からの異動。

 というか、多分思うにこれは、左遷だろうか。

 彼には先方の事情は知らないが、何やら揉め事があったと見える。

 そんなこんなの日々を過ごしながら。

 新しい艦娘……妹鶴の参戦であった。

 

 

 

 

 

「正規空母、瑞鶴です。よろしくお願いいたします」

 数日経過して、ある艦娘が配属された。

 翔鶴に似た衣装に、ツーテールの髪型。強い意思を感じる瞳を持つ艦娘。

 翔鶴の妹、瑞鶴の着任であった。

 彼が先日、そちらで預かってくれと言われて押し付けられた。

 敬礼している瑞鶴の目は、何やら……威嚇か、あるいは警戒に見える。

 彼はため息をつきたくなりながら、お決まりの文言を流して、案内でもしてもらってくれと言った。

 秘書である飛鷹が凄い顔で見ていた。これは、飛鷹の不愉快ゲージが上がっている。 

 彼に対するトゲを察知しているようだった。

「俺に敬語は要らない。そこまで偉い人間でもないんで」

 フランクに話しかける彼に、じゃあと瑞鶴は聞いてきた。

 敵意がこもっている声色で。

「提督さんは、なんか医者送りになっているって聞いたんだけど。それって、なんで?」

 ……誰かに聞いたか。外部にはやはりそういう評価を貰っても仕方ないと分かっていた。

 苦笑する彼が口を開く前に、我慢の限界が来ていた飛鷹が口を挟む。

「それはこっちの質問ね。前科持ちの瑞鶴さん?」

「…………」

 嘲笑うように、飛鷹が口火を切った。

 怒っている。彼に敵意を見せるこの新人に、彼女が怒っている。早速。

「あなた、書類で見たわ。……前の鎮守府で、提督を爆撃して殺そうとしたらしいわね。よくもまあ、解体を免れたものね? 幸い、提督側に落ち度があったって言って、解体は免れているけど。……寧ろ信用ならないのはあなたよ。この人に何かしてみなさい。……私が解体してあげるから」

 飛鷹に止めろと言うが、闇色の瞳をしている彼女には聞こえない。

 瞳孔をかっ開いた飛鷹に、瑞鶴は。

「……まあ、そうだよね。いきなりこんな態度じゃいけないって、分かってるんだけど。ごめん、まだここの提督さんを信用できなくて。翔鶴姉に話は聞いてるんだけど、詳細は知らないんだ」

 と、己の非をあっさりと認め謝罪した。

 驚く飛鷹が、もとに戻る。噛みついた割には、すぐに落ち着く様子に目を丸くした。

 彼は気にしないでいいと言って、正直に話す代わりと言って、条件を出した。

「俺も翔鶴のいた頃のそちらの提督さんしか知らない。後任と何かあったのは、分かる。言える範囲で良いから、教えてくれないか? 瑞鶴が言いたくないなら、無理強いはしない」

「……いいよ。全部話す。大本営には、反乱分子扱いされてて、聞いてくれやしないし」

 俯いた瑞鶴に、腰を下ろしてもらい、飛鷹は詫びを入れてからお茶を取りに行った。

 然り気無く席を外してくれたのでその間に、話を聞いた。

 いわく、翔鶴がこちらに異動したのち着任したのは、若い男性。

 翔鶴は魔の手を避けられたが、これがまたとんでもないセクハラ男で、憲兵に何度捕まっても懲りない阿呆。

 日々艦娘にお触りするわ、卑猥に話しかけるわ、嫌がらせするわで最悪だったらしい。

 仕事はできるし采配も悪くない。が、人望はゼロだった。

 で、みんな耐えていたのだが、瑞鶴に対しては更にひどい扱いをしており、我慢の限界が来て、瑞鶴はキレた。

 セクハラ、パワハラ、更に嫌がらせと我が世の春を謳歌していた奴に爆撃を敢行。

 執務室諸とも殺しはしないが、反撃をしたせいで、瑞鶴は左遷された。

 幸い、原因は提督だったし、死にかけて医者送りにされたのち、軍法会議送りにもされている。

 瑞鶴は自分の反撃と皆の安全の為に戦い、結果居場所を失いここに来た。

 という、流れだった。

「瑞鶴。誰も言わないだろうから、コッソリと俺が言う。……よくやった。これで悪は滅びたんだ」

 提督は聞いていて、彼女の勇姿に健闘を讃えた。ビックリする瑞鶴に、彼は続ける。

「誇れないだろうけど、瑞鶴は間違ってない。お前は正しい事をした。俺は、瑞鶴の勇気ある行動を讃えるべきだと思う」

「……普通私は即刻解体だとか言われるべきだよ?」

 呆れている瑞鶴は、戻ってきた飛鷹の渡したお茶を啜る。

 飛鷹もお盆を胸に抱えて、側で立って聞いている。

「なんでセクハラした奴に反撃して解体されにゃならんのだ。そんなやつは死ね。というか殺さずに爆撃とか瑞鶴すごくね? 流石翔鶴の妹。伊達じゃないな」

「……何があったの結局?」

 詳しく知らない飛鷹にも許可を得て説明すると。

「私なら試製南山にくっつけて外洋まで持ってって捨てるわね」

「なに物騒なこと言ってるの!?」

 飛鷹はもっと酷いことをすると言っていた。

 真顔でだ。思わず突っ込む瑞鶴に、同じくお茶を啜る彼は言う。

「そうか。お前も災難だったな……。じゃ、次は俺か。飛鷹、客観的にしたいからお前が説明してくれ」

 艦娘の立場から、彼の自滅を語ってもらおうと、飛鷹にバトンを渡した。

「はいはい。そう言うと思ったわ。じゃ、先ずはこの唐変木の失態から話しましょうか」

「唐変木ってお前、時々容赦ないよな」

「事実でしょ」

 素っ気ない相棒の言葉に微妙に傷ついて、彼女が語る。

 彼の悪癖や自滅、ノイローゼになって医者に運ばれるわ自殺未遂を何度もするわの騒動を。

 次第に憐れみの視線になる瑞鶴は、最後に全部聞いて彼に言った。

「提督さん。……艦娘は女の子だからね? 杜撰に、蔑ろは、私はダメだと思うよ?」

「肝に命じております……」

 今更ながら、有難いお言葉だった。

 彼はしっかりと受け止めていた。

 瑞鶴も、改めて最初の言動を詫びた。

「ごめんなさい。あいつみたいな奴かと思ってた、私が無礼だったわ。同じ医者送りでも、提督さんはみんなのこと考えて過ぎて壊れそうになってたんだ……。真面目なんだね。鈍感だけど」

「好意的解釈のし過ぎだよ瑞鶴。俺は、ただの目を開けたままボケていた超弩級の馬鹿野郎に過ぎないって」

 軽蔑されてもおかしくない愚行を繰り返していた男なのに、苦笑いして瑞鶴は受け入れてくれた。

 飛鷹も黙ってからになった湯呑みにお茶を注ぐ。二人は、何故だか互いに苦く笑っている。

「変な人だね、本当に。行った先で今すぐ解体も覚悟していたのに、褒めるってどうなのそれ?」

「そいつが悪いなら良いじゃん。瑞鶴に殺されてねえだけマシじゃね?」

 意外と話してみると瑞鶴と彼は気が合うようだ。

 その例の野郎の悪口で盛り上がっていた。

 彼女も鬱憤を張らすようんに流れ出る罵倒の数々。

「ムカつくんだよね、ターキーターキーって。何度、深海棲艦の餌にしてやろうと思ったことか」

「だろ? 思うよな普通に。飛鷹もそうだろ?」

「私なら一回でもあればその場で殺すわ」

「ですよね……」

「飛鷹さんは何でこんなに物騒なのさ!?」

 飛鷹が時々容赦ない言葉で相槌をしながら、いつの間にか罵倒大会となった初対面。

 悪友のように、互いに例の野郎の悪口で時間を終えていた。

「いやー、超スッキリしたわ! 提督さん、さーんきゅ!」

 けらけら明るく笑って、瑞鶴は飛鷹に鎮守府を案内してもらうことになった。

 夕刻に、廊下で初対面とは思えないほど、三人は打ち解けていた。

 主に、他人の悪口で。

「また今度話でもしよう。瑞鶴って意外といい性格してんな」

「そーかなー? でも気が合うみたいだね、私達。飛鷹さんも私は馬が合いそう」

「そうね。でも、まだまだ甘いけど。殺るなら徹底的じゃないと」

「やるが殺るに聞こえたんですけど!? 落ち着いて、さっきからちょくちょく出てくる殺気はなに!?」

 飛鷹の危険な言動に怯まずツッコミをできる貴重な存在、瑞鶴。

 あの提督とまるで幼馴染のようにあっという間に打ち解けたのは、彼女の気さくさ故だろう。

 あとは悪友のような雰囲気。彼との相性の良さもあった。

 振り返り手をふって、よろしくと挨拶して去っていく。

 そして、見送る彼は重要なことに気づいた。

「……仕事終わってねえ!?」

 このあとめちゃくちゃ仕事した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で。

 食堂に案内されたとき、運命の出会いが起きてしまった。

 瑞鶴には、途中で合流した久しい姉と駄弁りながら飛鷹についていく。

 間宮に来た頃、暇をもて余した青い空母が、何やら必死に無表情で貪っていた。

「……あれ?」

 妹鶴が真っ先に気付く。

 因縁の相手。意味がなくとも攻撃したくなる因果な相手。

 その名を……。

「へえ、この鎮守府……加賀さんがいるんだ?」

 途端に攻撃的な表情の瑞鶴が、ずかずかと彼女に近づいていく。

 翔鶴がヤバイと思った頃には、声をかけていた。

「どうも、ご無沙汰してますね。……一航戦の加賀さん?」

 威圧的に、瑞鶴はおやつを無心で貪っていた彼女、加賀に声をかける。

 何事かと振り返る加賀は、ツーテールの見慣れない艦娘が何故かこっちを睨んでいる。

「……? ああ、新しい艦娘の方ですか? 初めまして。正規空母、加賀です。お見知りおきを」 

 展開が見えない加賀は、顔をあげて挨拶だけして、あとは食事に戻る。

 瑞鶴の返事は聞いてない。ただ、貪っている。目の前には、巨大な間宮羊羮が鎮座する。

 軽くスリッパサイズのそれを大きな皿に乗せて、食べている。

「……。ええと、初めまして。五航戦、瑞鶴です……。って加賀さん、なにか私に言わないんですか?」

 突っかかって見たのはいいが、何の反応もない。

 瑞鶴は驚く。

 なにせ、瑞鶴と加賀と言う艦娘はなぜか他の鎮守府では一緒にすると凄まじい化学反応を起こしていがみ合う。

 理由は不明だが、加賀は一航戦、瑞鶴は五航戦なのが関係しているらしい。

 が、そんなものはここの加賀さんは通用しない。

「瑞鶴、止めなさい!!」

「ちょっと瑞鶴、どうかしたの?」

 翔鶴が止めに入って、飛鷹が首を傾げるが。

 加賀は気にせずに食べていた。困る瑞鶴。予想外の反応であった。

 もっとこう、反撃してくるとか、逆にキレるとかないのか。

 至って気にしない加賀は再び顔をあげる。無表情で、聞き返す。

「言うこと、ですか? ……」

 考える。相手は新人の空母。

 自分が言うことは、挨拶だけじゃないと言いたいのか。

 他に言うこと? というと。

 刹那、分かった加賀。

(ああ、これが食べたいのね)

 全然分かってなかった。なのに行動する。

「間宮さん、瑞鶴と翔鶴にも大きめの羊羮をお願いします。私の奢りで」

「ファッ!?」

 奇声をあげる瑞鶴。突然謎の奢り発生。

 違う。想像していたのは、想定していたのはこれじゃない。

 なんでこうなった。唖然とする鶴姉妹。翔鶴まで奢られた。

「え、加賀。私は?」

「飛鷹は自分で頼みなさい。私が奢るのは新人の瑞鶴と一緒にいる翔鶴だけ」

 なんでか知らぬが、いきなりん奢り。

 戸惑う瑞鶴に、加賀は言うのだ。

「同じ鎮守府の空母として、よろしくお願いします。着任祝いに、どうぞ」

「はぁ……。ご馳走さまです……」

 取り敢えず敵意はないらしい。寧ろ優しくされた。

 瑞鶴は知らない。これは、戦いの狼煙。

 ツッコミの瑞鶴と、ボケの加賀の……空母としての在り方を考える、険しい戦いの始まりだったのだから。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。