本当に結ばれる、ただ一つの方法   作:らむだぜろ

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アーチャー(物理)

 

 

 

 

 

 キャラ崩壊から数日経過。

 依然として、加賀は調子が悪いようだ。

 彼が見かけるたびに様子を見ているが。

「……いえ、まだ……」

 と言って、出掛けるのは無理だと言っていた。

 そのわりには任務には出る。瑞鶴が面倒を見ながら何かあれば知らせてくれる。

 なので、イマイチ理解できない。何があったのか、彼は相変わらず分からない。

 見た目は……確かに熱があるのか顔は赤いし、視線は泳いで焦点が定まっていない。

 彼と会うと、直ぐに戻って休んでしまう。本格的に不味そうな予感がした。

 辛そうだ。近々医者に見せようと飛鷹に相談する。

「医者が治せるなら苦労ないけど。自覚しなさいよ、誰のせいだと思っているの?」

「……?」

 呆れた相棒に言われて、具合悪いのは不可抗力と思う阿呆は首を傾げた。

 殴りたくなる仕草に、飛鷹は益々呆れていた。

 動作が加賀にそっくりなのは、偶然だろうか。

 加賀が真似ているのか、あるいは彼のせいか。

 兎も角。

「もういいわ。提督、今すぐハイクを詠みなさい。介錯してあげる」

「ファッ!?」

 前触れなしに相棒に怒られた。理不尽すぎる。

 分からないことで叱られながら、提督は回復を待っていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 コンパウンドアーチェリー。

 それが、加賀の専用艤装の武器であった。

 提督の父の鎮守府にあった、役目を終えた試製の弓を改造して組み立てられている。

 外見は機械仕掛けの大きな弓。特徴的なのは滑車がついていること。

 物理学によって作られており、現在規格外の剛力に耐えられる唯一の弓であった。

 加賀は喜んで使っている。使い心地もいい。破壊力も抜群。連射もそこそこ出来るし、頑丈。

 何せ加賀が使えるように徹底的に改造してあるもので、逆に加賀以外は重すぎて扱えない。

 代償として、桁違いに重たいこと。

 取り回しが巨大ゆえに最悪なこと、反動がでかすぎることなどを除けば完璧な弓。

 試しに瑞鶴が借りてみた。持った瞬間に倒れた。

「重たい!? ちょ、聞いてないよ加賀さん……!!」

 派手に落として両手で持ち上げようとしてもびくともしない。

 なのに、加賀は片手でひょいっと持ち上げた。平然としている。

「私はこれがちょうどいいです」

 信じられないものを見た瑞鶴。

 丁度いいの意味が見えなかった。

 で、折角なので試射をしたいと少し遠い海域に出撃。

 鎮守府では不審者のような行動をしている加賀だが、海の上では大違い。

 本来の彼女は、凄まじく強かった。

 ……強かった。但し、空母ではなくアーチャーとしてだが。

「艦載機を使うまでもない」

 涼しい顔で撃ち抜く鋭い一撃。

 海の上を疾風の如く駆け抜けて、哀れ直撃を食らった重巡は爆発四散ッ!!

「待って、艦載機を使ってお願いだから!! 加賀さん、私達はなに!?」

「……艦娘ですが?」

 何を当たり前の事を、と瑞鶴に聞いた加賀。

 バカを見る目に見えて瑞鶴は思わずキレた。

「艦娘の何って聞いてるの! 弓引くだけなら私だって出来るよ!!」

 ……この物言いには、少し加賀も頭に来た。

 珍しく瑞鶴に対して、挑発的な事を告げた。

「ほう。出来る、と言いましたか? ならば瑞鶴、見せてください。私も参考にいたしますので」

 初めて言い返されて、瑞鶴も少しホッとした。

 やっぱり加賀はこうでないと。反発してくれないと此方も調子が狂う。

 嫌味か皮肉か、とも思ったがこの加賀はただのポンコツ。

 そういう遠回しなことはしないのは、短い付き合いでも分かった。

 だから、真正面からぶつかっていく。

「上等!! 弓使うアーチャーなんて可笑しいってことを教えてあげるわ!!」

「弓使いを全否定した……!?」

 然り気無く瑞鶴もボケていた。

 アーチャーは弓を使うもの。当たり前である。

 加賀は戦慄していた。弓を使わぬアーチャー……それで想像するのは。

「別に潰してしまっても構わんのだろう?」

 と主に問いかけるダージリンに、

「油断せずして何が王子か!!」

 と叫び愉悦しているゴールデン。

 ……確かにあの二名は、主流は剣だった。接近していた。

 つまり、瑞鶴はこう言いたいのか。

(私に、弓など使っているんじゃねえ、と……? アーチャーならば接近してこそだと? 空母を捨て、アーチャーになるなら、剣を持てと……そう言うの? わ、私は……剣術の心得はないのだけど……)

 またも加賀の世紀末補正がかかった。

 和弓を構えて矢を放つ瑞鶴を見る。

 姿勢も綺麗に整って、凛とした視線で放った一撃は……イ級にすら届かない。

 簡単に回避された。

「あれ!? 当たらない!? なんで!?」

 ちゃんと狙ったはずなのに。イ級が避けてから、主砲で反撃してきた。

 呆然とする瑞鶴は反応が遅れていた。

 仲間が危ないと叫ぶ。ハッとする瑞鶴の眼前。

 ……飛来する無慈悲な一撃が見えた。回避できない。

 甲板で防ぐ、けれども防げば今放つ艦載機が機能が止まる。

 皆の支援を失うことになる。

 どうすれば、と一瞬迷う。その迷いが、砲弾の距離を縮める。

 しかも、軽巡や重巡に集中砲火をされていた。

(……あ……)

 気がつけば、瑞鶴は直撃寸前の場所に棒立ちしていた。

 死ぬ。そう、思った。この距離、この数、甲板で防御しても致命傷は避けられない。

 生憎、瑞鶴はまだ装甲を纏った甲板ではなかった。咄嗟に腕で庇う。

 けれど、駆逐艦と言えども火力はある。諸に食らえば、きっと沈む。

(私……何してるんだろ)

 バカだった。張り合って、失敗した。

 艦載機に集中すればこんな事にならずに済んだのに。

 未熟だったのは、瑞鶴の方だった。加賀に挑んで、無駄に張り切って。

 加賀は慣れている。殴りあいを経験しているし、艦載機無しでも戦える術を知っている。

 瑞鶴はまだ知らない。空母としての戦い方しか知らない癖に真似をして、ミスった。

 倒す戦い方じゃ、無茶をすれば倒せない。生きる戦い方をするから、加賀は死なない。

(うわぁ……カッコ悪い。ごめんね、翔鶴姉……。私、沈むみたい……)

 情けない。余りにも情けない。なんだ、この様は。

 これが誇りある空母のすることか? 

 加賀に少し言われてムキになって、でしゃばって。

 加賀が悪いんじゃない。加賀の特性を知りながら、同じ真似を出来ると軽々しくほざいた瑞鶴の未熟さ。

 それが招いた自滅だった。

(私、本当に……バカだったな……)

 改めよう。死ぬ間際だが。

 加賀は、加賀の流儀がある。空母としてでなくても、加賀は実際強い。

 ならば、あとは艦載機さえ持たさせれば、完璧ではないか。

 なんの問題がある。問題は瑞鶴の性格の幼さだった。

 バカみたいな理由で沈むとは。幸運の空母が聞いて呆れる。

 七面鳥も、笑えないな……などと、生きることを諦めて、悲壮感漂う瑞鶴だったが。

 

 ――忘れてやいないか。瑞鶴は、誰の近くにいた?

 

「剣は無くとも、拳はありますっ!!」

「!?」

 突然前に青い影が割り込んだ。

 んで、襲い来る砲弾を、何と。

「瑞鶴は、死なせませんッ!!」 

 庇ったのでなく、全部殴り落とした。

 派手に火花を散らして、次々と。 

 重巡の砲撃だ。20cmの砲弾を、殴って弾いた。

 ……連続パンチの弾幕で。

「ファッ!?」

 奇声をあげる瑞鶴。何が起きた。

 加賀さん乱入。代わりに集中砲火。

 なのに身代わりではなく、防御でもなく、殴る。

 殴って、落とす。

(きぇぇぇぇああああああぁぁぁぁ!? 砲弾殴って落としたぁぁああああああ!?)

 軽いパニックを起こしていた。

 喋ったことを絶叫して喜ぶ子供の如く。

 どこの世界に空母が庇って砲弾落とすバカがいる。

 一人目は、遠い世界の金剛さん。吹雪庇って裏拳で吹っ飛ばした。

 んで、目の前にもいた。かの空母、加賀が。

「今の私は、負ける気がしない……ッ!!」

 無傷で、ラッシュによって砲弾をやり過ごす加賀。

 黒煙があがって、視界を一瞬隠すが、風が流していった。

 そこには、手甲をはめて、弓を捨てている空母が強気の表情で立っていた。

 背後には、あまりの剣幕に腰を抜かして尻餅ついている瑞鶴を背に。

 瑞鶴は見上げる。力強い空母の背中を。捨てられた弓が漂って、瑞鶴の手に当たった。

 なんでいざってときに毎回弓捨ててるんですかこの人。瑞鶴は救われながらそう思った。

 その答えは、これだ。

「瑞鶴。挑発するような真似をして、ごめんなさい」

 背を向けたまま、加賀は謝った。本当は瑞鶴の自滅なのに。

 艦娘は背中で語る。加賀の背中は、強い後悔を背負っていた。

「そして、私に教えてくれてありがとう。私は、大切なことを思い出しました」

 加賀はそのままゆっくりと、進む。 

 瑞鶴を狙った許せぬおろかものを、倒すべく。

 話が見えない瑞鶴は困惑するが、加賀は理由を言った。

「弓を使うアーチャーなどいない……。確かにそうでした。窮地に弓など無粋。間に合わぬときはどうすればいいか、思い出しました。仲間と我が身を脅威から護るのは、この拳一つのみッ!! 空母ならば艦載機さえ操れればいい。弓は普段使えればいいんです。ピンチになったとき、誰かを守るために必要なものは、空母としての機能ではない。アーチャーとしての武器……即ち、拳ッ!! ダージリンやゴールデンもそうでした。最後の戦いは何時も、白兵戦ッ!! 私は剣術の心得はありません。ですが、私には……この手甲が、拳があるッ!! 剣は無くとも、拳はありますっ!! 安心してください、瑞鶴。この鉄の輝きに誓って、貴方を守りましょう。同じアーチャーとして!! 仲間として!!」

「私まで色物扱いやめて!? 私は空母だから!! 普通の空母!!」 

 思わず言い返す瑞鶴。空母であってアーチャー違う。

 和弓使うけど空母。あくまで空母。瑞鶴は空母の艦娘。

 加賀みたいにアーチャーの艦娘とかいう新手の存在じゃない。

 金色の器求めてそういう奴は戦争していろと思う。

 進み始める加賀。さあ、始まった。

 今回も派手に暴れる加賀のインファイト。 

 弓を捨て、空母を捨てて、アーチャーとして拳を信じて進む女。

 その覇道を、決して遮ることは許されない。

 加賀は空母である。間違いなく空母である。

 だが、発展している今は違う。

 彼女は……重い、機械仕掛けの弓を使う弓使い。

 そして、仲間を守るとき、その豪腕は放たれる。

 弓を捨て去り、己の拳に誓って戦うアーチャー。

 それが加賀だ。

(番組違うから!! もうやめて!! 私のライフはとっくにゼロよおおおおお!)

 血祭り物理を始めていた加賀に、心のなかで瑞鶴は叫ぶ。

 その先で、拳を握った加賀は果敢に戦う。

「成敗ッ!!」

 謎の賢い狼が吠えそうな掛け声で、殴り倒していく。

 瑞鶴のピンチに、とうとう加賀は第一段階を完全覚醒した。

 アーチャー(物理)として。

 

 

 

 

 

 

 

 追記。

 鎮守府では提督相手に不審者、海の上では深海棲艦相手にアーチャー(物理)。

 これ、どこに転がるだろうか?

 そんなものは、誰にも分からない。

 覇道を順調に進んでいる以外は。

 

(や、ヤバい……。加賀さんの空母離れが止まらない! ロマンチックと一緒に!! 私が、私を助けたせいでこうなったんだ。私が何とかしなきゃ……!! 兎に角、加賀さんの目を覚まさせないと! 空母は空母、潜る以外はなにもできないって事を!!)

 

「な、何なんだお前は……!?」

「そちらに名乗る名はないッ!!」

「演習中に何を言っているの加賀さん!? 相手の方に失礼でしょ!!」

「こう言うときのお決まりの返し文句と伺いました。秋雲に」

「……」

「そして、必殺技も教わりました。加賀ハンドクラッシュだそうです」

「秋雲おおおおおおおおおお!!」

 ……真顔の加賀に妙な事を吹き込んだ秋雲はのちに瑞鶴にお仕置きされましたとさ。

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