本当に結ばれる、ただ一つの方法   作:らむだぜろ

74 / 79
フィストアンドクリスマス

 

 

 

 

 

 

 世間は一応、本日はクリスマスらしい。

 行き交うサンタクロースたちを見送りながら、彼らは街中に入り歩く。

 そして追跡者鶴姉妹。あの二名はまだしも、すれ違う周囲は子供連れが多かった。

 目立つ姉妹に、子供が不審者がいると指を指していた。

「……ん? 瑞鶴?」

 で、慌てて隠れると再び気配に気付く加賀。振り返ると、サンタクロースしかいない。

 何だろう。なんであの後輩の気配がチラチラと……。

 提督が何かあったと再度問う。

「……いえ」

 立ち止まった彼に何でもないと告げてまた歩道を進む。

 瑞鶴はだらだら冷や汗をかいていた。なんと言う察知能力。

 これでは直ぐにバレてしまう。デートの冷やかしと思われては最悪だ。

 姉はもう帰ろうと言い出すが、然し心配すぎるのも事実で。

 ならば……。

「翔鶴姉、ちょっと待ってて!」

 瑞鶴さん、近くに開店したばかりの服屋を発見。一度離脱。

 数分して速攻帰ってきた。手には荷物を持って。買い物したようだ。

「ダメだ、私達クリスマスに浮いてるよ! 溶け込むようにしないと!」

 また追跡を続ける姉に瑞鶴は言った。懲りない、諦めない。追跡する鶴はまだ退かない。

 何せ前では、自販機で温かいものを買っていた加賀が、たまたま提督が手渡した時に触れた彼の感触に過剰反応。

 受け取った中身の入るコーヒーを握り潰した。顔は紅潮、お目目ぐるぐる。少女漫画か。

 それを見てると本気で心配になってきた。主に加賀のメンタルが。

「……着替えておけばいいのね?」

 翔鶴、瑞鶴の気持ちがわかる気がした。

 あれは、真面目に気になって仕方無い。

 どんだけ余裕がないのかあの空母。

 驚く提督もいちいち律儀と言うか、なんと言うか。

 袋の中身を受け取った姉が今度は離脱。不審者から周囲に溶け込む、完璧な変装にチェンジ。

 こそこそついていく彼女たちは、交代でその辺のコンビニで着替えてきた。恥ずかしいが今回は見送る。

 その姿は、鶴姉妹サンタクロース。そう、皆さんご存知。

 瑞鶴クリスマスmodeと翔鶴クリスマスmode、の上からジャンパー着ている状態。

 可愛い。非常に可愛い。それにしても何で加賀さんのクリスマスmode無いんだとかそんなツッコミは良いとして。

 年末年始には鶴姉妹の晴れ着modeも是非、じゃない。

 そんなものは多分ないので置いておく。今はクリスマス瑞鶴と翔鶴が、デートの加賀を追跡するのが最重要。

「…………」

 加賀さん、拳に生きる修羅としての性か、やはり後ろが気になる。

 拳で戦うものは、背中を見せるのは仲間のみ。不審者に見せるものじゃない。

 などと身体が勝手に反応している気がする。

「何でしょうこの視線……? あっ、七面鳥」

(誰が七面鳥だごらぁああああああ!?)

 唐突なバイオレンス。キレそうになる瑞鶴を姉が必死に止める。

 加賀はクリスマスフェアの開催している店のディスプレイを提督と眺めていた。

 瑞鶴に、クリスマスにおける七面鳥発言はNG。いいね?

「お、落ち着いて瑞鶴! 七面鳥関係ないから! ただのクリスマスフェアだからね!?」

「大人しくフライドチキン食べなさいよおおおお!?」

 キャラ崩壊起こしてる……大丈夫かこのクリスマス瑞鶴。

 伊達に全国の瑞鶴が一斉にキャラ崩壊起こしてクリスマスパーティーに爆撃開始する日じゃない。

 これが大丈夫なのは例の魔境の瑞鶴ぐらいなもんだろう。幾度となく聞いた怪談顔負けの噂だが。

 さておき。食べていくかと言う彼の誘いに、だが加賀は丁重にお断りする。

 はしたない真似はしないのと、動くのにこれはきついと言う理由で。

 ……加賀さんはいっぱい食べるのである。最低でも相棒よりも。

 などという珍道中。先は長い。いや、既に気が重たい翔鶴であった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 移動が終わり、商業施設に到着。混んでいた。

 人混みを分けて進む二名とサンタクロース追跡者。

 スポーツを楽しむ一画にたどり着き、早速料金を支払い向かっていく。

 周囲は様々な体験ができる、道具も全部貸し出しの便利な場所なのだ。

「何しようか」

 と、一度更衣室でジャージになった彼が、待っていた加賀に聞く。

 漸く落ち着いたのか、周囲を頻りに確認する彼女は、何かを探しているようだった。

 軈て、お目当てのモノを発見して、彼を誘う。

「提督。あれで、一回勝負しませんか?」

 加賀はどこか挑発するかのような顔で聞いた。

 何だろう、四年近くいて、初めて見た表情だった。

 意外とノリノリな女性なのかもしれない。

 誘っていたのはバッティング。

 決められた回数のうち、どっちが多く打てるか勝負しようと言い出す。

 相変わらずのサンタクロース追跡者、やっとこさ良い空気になって安堵しつつ隠れて観察中。

「バッティングかぁ……。ゲーセンとかと勝手が違うが、やってみるか!」

 因みに提督、野球のルールなどそもそも知らない。飛んでくる球を打てばいいんだろうと思う。

 加賀も知らない。ただ、思い切りバットを振りたかっただけ。

 そのついでに、彼と対決しようと思った次第。

「良いじゃん良いじゃん、このまま行っちゃえ加賀さん!」

「なんか、漸く普通のデートみたいな空気になったわね……」

 お疲れの姉と、素直に応援する妹の声など聞こえない。

 が、またもやシックスセンスに反応する妹、瑞の気配。

「ん?」

 加賀は今度はバッチリ発見した。

 挙動不審にも慣れてきた提督は先に向かって手続きをしている。

 加賀は鍛えられた視線で、こそこそ隠れながら潜んでいる鶴姉妹を発見。

 見つかったと隠れる二名を見て。

(あぁ、この辺の鎮守府の瑞鶴たち……。サンタクロースの格好だし、何かのイベントかしら)

 別の所属と思い込んでいた。

 瑞鶴ファインプレー。加賀は全然気づいてない。

 格好が違うだけで、見事に彼女を騙しきった。お見事。

 で、終わって戻ってきた提督と一緒にプレー開始。

 開始……したのは、いいが……。

「翔鶴姉、あれ……何が起きてるんだろう?」

「……分からないわ……」

 数分後、鶴姉妹は唖然とした。

 いや、正直投げられる球が瑞鶴たちにはどういう名前の投げ方なのか判断できない。

 それが直球か、変化球かの違いしか見えないし、彼に至っては視界に認識すらできない世界。

 それを、この女。片っ端から打ち返す。

 調子に乗ったのか、提督が早々に降参したので面白くなってきたのか。

「何処までいけるか、見ててください」

 などと嬉々として抜かして、バカみたいに打ちまくる。

 モードを変更して、チャレンジにしたせいで徐々に加速する野球ボール。

 なのに追い付く、打ち返す。気のせいか……放っている機械の表示速度、200とか出てないか?

 何でこんなに速い弾丸の如き速度があるとか、加賀は凄く楽しそうにバットを振り続けるとか。

 言いたいことはたくさんあったが、楽しそうなので……気にしない方向で進めていく。

 但し、ギャラリーが集まって目を点にして、終了後注目の的にされて加賀のメンタルが再びブレイクされたのは言うまでもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 その後、瑞鶴たちは見た。見ていた。見てしまった。

 加賀が仕出かす世紀末の数々を。

 バスケットボール。ダンクを叩き込み、格好いいのはいいが、着地に失敗して顔から墜落。

 サッカー。ゴールキーパーの提督の股間の提督さんに一撃ぶちこみノックアウト。

 ランニングマシン。腕を組んで、下半身のみを残像が見える速度で動かして自分は微動だにしない謎の疾走方法を無表情で披露。

 同じ速度の提督は直ぐ様振り落とされていた。

 バドミントン。シャトルが音速を超えて放たれて、提督の眉間に直撃、ノックアウト。

 卓球。ピンポン玉が超速度に到達、反応できない提督の頬にめり込み吹っ飛ばす。

 バレーボール。レシーブしようとして、顔面にボールが激突。本人がノックアウト。

 ……軽食の昼を挟んで、午後になってもこの有り様だった。加賀に球技はダメすぎた。

「あははははは!! いや、最高に楽しいわ!!」

「わ、笑わないでくださいよ……!」

 でも、提督は寧ろ大喜び。滅茶苦茶楽しんでいた。

 こんな訳の分からない騒動も慣れてきたのか、笑っていた。

 休憩の最中、顔を赤くして抗議する彼女とコーヒーで一服する二人を尻目に。

 死にかけているのは、鶴姉妹の方だった。

「常識はずれにも程がある……!!」

「嘘でしょう……嘘って言ってよ瑞鶴……」

 そのあまりに世紀末な楽しみかたに、常識人の鶴姉妹は苦悩していた。

 何なのあのスコアとか得点とか。係員にして、プロを超えるとか言わせたのですが?

 言っている本人が真っ青になっていたんですよ? 何がどうなったんですかこれは!?

 など、此方の二人は内心大混乱であった。お目目ぐるぐるはこっちの番だった。

 で、そろそろ最後にしようと、提督が何だか面白そうな催しを発見して誘う。

 見れば、サンドバッグ吹っ飛ばし大会とかいうまた意味不明な催し。

 気になる二人は見に行って、姉妹はそんなデンジャラスなものは勘弁してと弱音を吐く。

 ルールを聞いてみた。

 先ず、奥行きが結構ある区画の前、円形のなかに立つ。

 奥行きには目安の数値が書かれている。

 事前に吹っ飛ばすサンドバッグの重さを決め、円形の中でも可能な動きで何処まで飛ばせるか競うシンプルなルール。

 吹っ飛ばす動作は自由で、掴もうが投げようが何でもあり。但し道具は使えない。

 最低10キロ。最高で30キロほどの重さから選べるらしい。

 何やら、説明を受けていると芳しくなかったのか数名が裏チャレンジなる単語を喋りながら通る。

 合言葉でなんかあるのか。と、それを聞いた彼は加賀に言った。

 裏チャレンジ、やってみればと。悪乗りで。すると……。

「そうですね、やってみましょう」

 加賀さん、サムズアップで了承。

 マジでやる気満々だった。

 当然、彼もやるが裏チャレンジはキツそうなので止めておく。

 試しに、20キロほどで挑戦。

 円形の中で、取り敢えずサンドバッグを持ち上げると。

「……重たいな」

 自分と同じ程の高さだ。それにしては軽いが、嵩張って投げると結構大変。

 それでも、一応海軍の提督。意地を見せて気合いで持ち上げて、思い切り投げた。

 ……あまり飛ばない。何度かバウンドして勢いが死んで、精々15メートルが良いところ。

 それでも、それなりの結果だそうだ。

 腰痛がするが、待っていた加賀にクリスマスプレゼントとして貰った、マスコットをあげた。

 不細工なデフォルトの七面鳥。クリスマスにちなんだものだ。

 受け取ると、嬉しそうに僅かに笑った。

「ありがとうございます」

 なんか、笑ったのを久々に見た。

 普段はあまり笑わないので新鮮な気分。

「おう!」

 次頑張れと、応援しながら交代する。

 受付で、加賀は裏チャレンジの合言葉を言う。

「パワーこそ力」

 この意味不明な単語が合言葉。

 限界を超えた、50キロのサンドバッグが登場する。

 真っ黒な巨体を見て、そしてギャラリーで応援する彼を横目で見て、対峙する加賀。

 そして、最早死にそうな姉妹も見ている。

 加賀は不敵に、小さく呟く。

「鎧袖一触を、見せましょうか」

 指の骨を鳴らして、腰を低くして構える。

 なんと彼女、殴り飛ばすようだ。

 驚くギャラリー、提督も今ではノリノリで声援を送る。

「ブッ飛ばせ加賀! 遠慮なんかせずに!!」

 声援を受けて、深呼吸。大丈夫、いける。

 拳も構えて、呼吸も整えて。

 いざ……参るっ!!

 

「チェストォッ!!」

 

 咆哮。

 全てのパワーを拳に乗っけて。

 一点に集中、勢いに乗せて放つ。

 唸る拳、切り裂く風。

 めり込む一撃、響き渡る轟音。

 そして、吹き飛ぶサンドバッグ。

 ……残像が見えた。

 で、マッハで奥行きの壁に一瞬で到達、激突。

 割れた。もう一度言う、割れた。

 威力高すぎて耐えきれず、壊した。パンチで。

 注意、加賀さんはパンチで吹っ飛ばした。

 それを見ていた姉妹はとうとう気絶。白目を剥いていた。

 ギャラリーも絶句。加賀は満足して構えを解いた。

 ……世紀末ここに極まる。

 加賀さんは、サンドバッグを……殴って測定不能な最大値まで、ぶん殴るのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。