サンドバッグは破壊された。文字通り、鉄の拳にて。
その威力は戦艦の装甲に穴を空け、駆逐艦を撲殺し、後輩姉妹の意識すら飛ばす!!
祝え!! ここに新たな境地、新たな艦娘が誕生した!
その名は加賀! 空母の概念を覆し、誇りと矜持を胸に敵を葬る世紀末伝説!
この瞬間、ここに定義がされるだろう! 弓と拳で戦う新時代の幕開けである!
「変なナレーション入れるのを止めろおおおおおお!!」
「!?」
――ぐわああああああああ!?
ん? 冒頭のどこぞの預言者とか創造者みたいな白いのと黒いのみたいな奴は誰かって?
細かいことは気にしちゃいけない。
あの境地に至った加賀を止めることができるのはただ一人!
瑞鶴だ!! 瑞鶴じゃ、ないと!!
「怒濤のネタラッシュも止めろおおおおおお!!」
「!?」
――うわああああーーーー!?
……なんか、変なのが居るんだけど。
いや、って言うかあれなに?
「あれ、瑞鶴居るな? この辺に鎮守府あったっけ?」
「なんかヒーローショーに乱入して主役倒してますね」
サンドバッグ大会を終えて、帰路につく二人。
帰り際、寒いギャグにキレたと思われるクリスマス瑞鶴が、ヒーローを殴り飛ばしていた。
カードキー持っているヒーローがバーニングターキーとかいう物体を出して、瑞鶴がぷっつりキレている。
姉のクリスマス翔鶴が、参加型ヒーローショーで暴走する妹を必死に止めていた。
舞台の上で行われる死闘。上から降ってくる立体映像の七面鳥。
それを見て此方も顔を怒りで真っ赤にして絶叫の瑞鶴。なにがどうしてこいつはそうなるのか。
落ち着け瑞鶴。怪人が呆然と立ち尽くしているじゃないか。
お前がヒーロー殴ってどうする。殴るのそっち、主役は違うから!
などと提督は見ていて思う。
着替えて外に出て、いざ帰ろうとしたらこれだ。
自分の所の鶴姉妹とは思ってない二人は乱闘を眺めていた。
「ターキーは敵、私の敵!!」
「お願いだから落ち着いて瑞鶴!! ああ、大丈夫ですか!?」
……あれれー? 瑞鶴、なんか色薄くなってないかなー?
おかしいなー? ヒーローが応戦始めたら配色がダークになっていくぞー?
……見なかったことにしよう。違う、深海棲艦の瑞鶴なんか居ない。いいね?
二人は大乱闘瑞鶴シスターズとなった現場を後にする。
帰り道、約束通り海岸沿いを歩いていく。
水平線に沈む綺麗な夕日を、二人で暫し眺めて無言で歩く。
話に聞いていた通り、何もなく平和な海だった。
波の音を聴きながら、再び緊張がクライマックスの加賀。
提督の背後を続きながら、視線は右往左往。頬は紅潮、心臓はとんでもなく速かった。
いよいよか。いよいよ、指輪の贈呈。
深い意味などない。然し、その行為は信頼と信用に十分値する。
紛らわしいかもしれないが、互いにまだ恋愛要素はない。
あるのは、片や決まらない、名もない混ざった感情。
片や、完全に友愛。発展するには時間が足りない。
それでも、前に進まないと世紀末伝説は止まらない。
笑える範囲を超えてきていた。だから、仕方ないというと台無しになる。
けれども、仕方ないで終わらせないと取り返しもつかないから。
無理矢理にでも、一歩進んでそこで一度互いの感情を知っておけばいい。
そこから、二人の恋路は始まればいいのだ。
本当に結ばれる、ただ一つの方法。
互いの気持ちを知って、スタートラインに立っていく決意と約束の日。
それが、今日だ。
「なぁ、加賀」
不意に前を歩く彼が彼女を呼ぶ。
弾かれたように顔をあげて返事をした。
「……平和だな。この海は」
夕焼け色の水平線を眺めながら歩いて、彼はしみじみ言った。
加賀も続く。確かに平和そのものの海だった。
同じ海でも、どこかで戦争を行い、どこかで誰かが死んで、沈んで、消えていく。
此処だけは無関係、などと誰が言える。
戦う艦娘が、指揮をする提督が消えればここも同じ風になる。
改めて、静かで穏やかな海岸を歩いて思う。
「俺達、戦わないといけないんだよな」
「……はい。その通りです」
戦う理由など、個人によりけり。
彼には正直、戦う立派な理由などなかった。
流されてなにも考えずにここに来たような、どうしようもない男が彼で。
でも、今は違う。少なくとも、小さな理由はできた。
彼女に誇れるような提督でありたい。
有能じゃないし、強くもない凡才の彼でも。
彼女が、自分の提督と誰かに堂々と言えるような軍人に。
だから、戦わないといけない。
焼かれないために。壊されないために。奪われないために。
彼は、提督である限りは戦争を続けないといけない。
「俺、加賀に応えられるような奴かな」
指輪のケースを持ち出して、立ち止まり振り返る。
加賀も足を止めて、彼を見た。
彼は真剣な表情で加賀に問う。
即答する。
「ええ。私の提督は、私が命を託せる人間は貴方だけです」
迷うことはない。
加賀も、彼に誇れる艦娘でいたい。
頼られる艦娘になりたい。
彼がそう思うように、彼女もそう思う。
彼の指揮は普通に見れば何でもない当たり前のことだ。
然し、加賀には十分特別になる。
「伊達に重鎮じゃありませんよ。今まで、互いによく知らない部分もありました。それは、これから知っていけばいい。違いますか?」
「…………それもそうだな」
昔はあまり艦娘には入れ込まない彼も今はこうして共に出かける。
変わったのだ。彼も、そして加賀も。
今までダメだった。ならば先もダメと、決まった訳じゃない。
変化があるなら、未来も変化するのは時間の流れ。
加賀が世紀末伝説に変わってしまったように。
彼も、艦娘と向き合える人間へと変化している。
暗い結末も、悲しい終わりも、きっと来ない。
それを来ないように努力できるから。
「私は、貴方にどんな感情を抱いているのか、自分でも分かりません。ですが、少なくとも貴方と戦っていくと言う決意はあります」
「俺も、加賀には何て言うか……戦友みたいな感覚しかないんだけど。俺も、加賀とこれからも戦いたい」
ケースの中身を見せて、彼は本来と違うが、本音をぶつけて彼女に言った。
彼女も、素直に自分の感情を吐露する。
「分かりました。これからも、一蓮托生で宜しくお願いします」
「こちらこそ。宜しく」
そこに納まっている、銀色の指輪。
質素なそれを、彼女はケースごと受け取った。
まだ、彼に……薬指にはめてもらうには、時期尚早。いや、何もかも足りない。
自分で、受け取って……しまいこむ。
……しまいこむ!?
「あれ、つけないの指輪?」
「今つけると恥ずかしさで死ねます。勘弁してください」
ラストで加賀さん限界来ちゃった!
受け取ったけど目の前で指に通すのは無理。死んじゃう。
と、ヘタレた。セオリーが通じない連中である。
またお目目ぐるぐるで、面白いことになっていた。
提督、思わず爆笑。シリアスが破壊されてしまった。
「折角の空気が台無しになったじゃんか! まあ、俺達らしいなっ!」
「すいません、最後の最後で……」
申し訳なさそうに頭を下げる彼女に腹を抱えて爆笑する。
どうも、二人には重たい空気とか、シリアスは似合わないようだ。
結局、つられて加賀も苦笑して小さく笑い出す。
そして、ターキーを撃破した追跡者が追い付く頃には、二人は笑っていつも通りだった。
「あれぇ!? 情緒は!? なんで笑ってるのあの二人!?」
「……もう、いいです」
ぶち壊しの空気に唖然とする瑞鶴。
一日疲れて萎れている翔鶴の見ている先で。
なんだか、友達同士で歩くように。二人は、駄弁りながら帰っていった……。
指輪、贈呈。加賀さん覚醒。
これでもう、暴走も心配はない……。
「ほあちゃーっ!!」
無かった。
改善の兆し、無かった。寧ろ尚更悪化した。
加賀さん、空母としては完全に回復。
見事に復活して今まで通り、戦える。
だがしかし、役目さえ果たせば……なんでもするのがここの鎮守府。
即ち白兵戦、許可。但し面子を見て。
今日も唸る鉄拳、吹き飛ぶ深海棲艦。
飛鷹や瑞鶴、その他一部にのみ解禁されたインファイト。
指輪でパワーアップした。文字通り。
パワーがアップ。今回の獲物は姫の深海棲艦。
攻撃をものともせずに突き進み、援護を感謝しつつ。
全速力を乗せて、必殺の一撃を叩き込むッ!
「ファイティング焼き鳥インパクトッ!!」
「自分で言っちゃダメでしょ加賀さん!?」
真正面から、フルパワーで防御ごと無視してぶん殴る。
背後の瑞鶴のツッコミは……今じゃ心地よい。
胃痛もスッキリ改善したし。えっ? 瑞鶴の頭痛はどうなったか?
……聞こえない。そんなの聞こえない。
天を舞う深海棲艦、落ちる常識。
今こそ、伝説極まれりぃ!!
「喧しいわッ!!」
と、戻ったときに執務室で流れていたテレビの映像に腹立って瑞鶴が怒鳴っていた。
加賀は良いけど瑞鶴の頭痛は消えなかったと言うことだ。
ラスボスが医者に治療されて成仏していった。どうでもいい。
報告に戻る。今回の撃破した、戦艦棲姫改を素手で殴り飛ばした加賀がMVP。
艦載機は囮にして、自分で突っ込んで殴った。相手は死ぬ。即死した。
なんだかんだ、戦果はあげている。瑞鶴もいい加減、慣れてはきた。
周囲も普段通り戦うときの加賀とは一緒でもいい。
独壇場の場合は全員お断りだった。だから悪化した。
「瑞鶴もどうですか? 鍛えれば空母だって勝てるんですよ」
「鍛えるの意味が違うよね!? 私は普通の空母ですけど!?」
鍛えてますので、と中年のヒーローよろしく答える加賀。
戦いの時は怖いが普段の性格じゃ現在加賀は大きく変わった。
主にノリと勢いで行動するようになった。
冷静沈着なイメージは崩壊。愉快な空母として、もう皆受け入れていた。
無表情で淡白なクールな美人という勝手な想像は払拭されて、残念な美人としての新キャラゲット。
つまり、物理でコミュニケーション能力すら乗り越えたのだ。
前よりも仲良くやっていたが、代償としてボケまくる加賀にツッコミの瑞鶴は同伴必須。
時々翔鶴も犠牲になっていた。哀れ。
指輪を今日もつけている。提督とも、悪友のような友人のような変な関係に変わっていた。
悪乗り同盟的な意味で。
彼も堅苦しいのが無くなって、よい意味で性格が軽くなった。
明るくなったと言えばいいのか……単純に悩まないバカになったと言えばいいのか……。
兎に角、問題は全部解決した。物理って最高!
「止めてええええ!! 誰か、誰かシリアスを返してえええええ!!」
ああ、今日も幸運な空母から頭痛の空母になった瑞鶴の悲しい叫びが木霊する。
なに、これからの問題も全部ノリと勢いと物理と加賀の拳で越えていけばいいのだ。
細かいことは殴ってから考えろ! 悩みがあるならその頭をぶん殴れ!!
殴ればどんな道でも切り開ける。ヒャッハー!!
「飛鷹さん助けて、私のメンタル死んじゃうよ!!」
「死んだらショックで蘇生してあげるから、安心して逝きなさい瑞鶴」
「うわあああああああ!! 飛鷹さんまでおかしくなってるうううう!!」
飛鷹も物理という流れに染まっていた。
なので、実質もう救いはない。
敢えて言おう。手遅れであると!!
加賀さん、提督は仲良くなっているのだ。
それ以上の発展は、もう少し先になるだろう。
だが、加賀さんルートはここでお仕舞いだ!
「ファッ!?」
一つの切っ掛けを乗り越え、改善した二人の間に恋が芽生えるのは多分随分と先になる。
そこまで描くと次のルートに行けなくなるので、そろそろ終幕にしようじゃないか。
「おい待て、私に救いは!?」
ないっ!!
「ふざけんなあああああ!!」
おっと、激怒の瑞鶴が深海棲艦になりそうなので、逃げないといけない。
加賀さん、提督。
最後に締めくくりお願いします。
「了解です。……拳で繋がった私達の戦いは、これからです!!」
「暁の水平線に、勝利を刻むその日まで! ってな」
「時間がかかりましたがここまでご視聴、ありがとうございました」
「次回のルートで、また会おうぜ!!」
「さよーならー!」
「勝手に打ち切りエンドで纏めるなああああ!!」
世紀末伝説加賀さん お仕舞い。