本当に結ばれる、ただ一つの方法   作:らむだぜろ

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ノイローゼ再び

 

 

 

 

 

 

 結婚か。

 果たして、そこにはどんな意味があるのだろう?

 真似事じゃない、自分の人生を全てを共にするというその選択肢は。

 よく聞くが、結婚は人生の墓場とも言う。

 然し、父の気遣いを無下にもしたくない。

 そして、個人的にも恋愛の絡んだ事案がまとわりつく。

 ……ストレスで死にそうだった。癒しがほしい。

 で、癒しと来れば……。

「鈴谷、恥を忍んでお願いがある」

「ん? 何、提督」

「癒して」

「!?」

 頭がパンクしそうだった。

 恐らくは重要な選択をしなければいけない。

 知りもしない女性とお見合い。断れない。

 けど、正直ビビって会いたくない。どんな人かも知らないし、自分みたいな無能など何を言われるか。

 何時もの卑下が始まって再びノイローゼ状態に陥る。

 だが、彼もバカじゃない。学習した。

 こう言うときは誰か頼る。癒しがほしい。

 こんなときは衝動的鈴谷の出番だ。

 率直で頼む。ゾンビの顔色の彼に異変に気づく鈴谷。

 数日経過して、一人で悩んでも苦しいだけなので今回は鈴谷に言えないけど癒してもらう。

 ある昼休み。鈴谷が暇潰しに休憩室で遊んでいると代理を相棒に任せた彼が休憩に来た。

 しかも、見慣れないものを持って。……タバコ?

「ちょ、提督……喫煙したっけ?」

「ああ、ごめん鈴谷。分煙しないといけないか。悪い、タバコを吸うなら休憩室でって、憲兵さんに言われてさ。ほら、駆逐艦いるから。外じゃ寒いしさ」

「あー……いいよ。鈴谷は気にしない」

 普段ならタバコなど健康に悪い、止めろと鈴谷も怒る。

 何より美容と容姿に気遣う鈴谷の前でタバコを遠慮なく取り出すほどこの男は無神経ではないはず。

 それをした、詰まりはまた何か抱え込んでいる。前にあった父親の用件のことかもしれない。

 噂で彼がデンジャラスなゾンビになってオーバーワークで土管復活する前に誰か知らないかと艦娘たちは気にしていたが、これは相当追い込まれている。

 然し親子の事に艦娘が首を突っ込めない。

 相手は大将、挙げ句に彼の過去は壮絶と知っている。

 踏み込めない。デリケートな問題だから足踏みする。

 こう見ると彼の精神はストレスで苦しんでいるんだろう。

 事情を察した鈴谷を見て、ハッとして彼は気まずそうに無言でタバコを仕舞う。

「……悪い」

「だから、良いって。どうせ艦娘は煙ぐらいじゃ死なないよ。見た目とか臭いを気にする人が多いから、余計に肩身が狭いでしょ。鈴谷が居るときぐらい気にしないでよ」

「……一応、部屋のことも」

「じゃあ寒いけど換気して、窓際行こう。良いから、ほら」

 鈴谷だって気にすると言うと、逆に怒る。

「……あのさ。癒しがほしいって言ったよね。タバコは、癒しじゃなくて気晴らしじゃないの?」

「……お前には負けるぜ、鈴谷」

 現実逃避にタバコに逃げた。そう、バレていた。

 相棒も知っている。吸いすぎるなと言われた程度だった。

 後は臭い消しはしておけと何処からか消臭剤をくれた。有難い。

 また、周囲に気遣いを受ける。甘えようと思ったが尚更情けなくなってきた。

 窓際に向かい、窓を開けた。冬空の晴天。寒い北風。

 上半身を窓辺に乗っけて外に出して、タバコに火をつけた。

 一応初心者向けの薄い奴。味などないし、臭いだけだった。

 ただ、合法麻薬の威力は抜群で、イライラや不安感は薄れた気がする。

 紫煙を吐き出す彼のそばで、壁に寄りかかって鈴谷は問う。

「……で、どうしたの?」

「……下らない話だ。俺は今、人生の分岐点にいる。それだけでな」

 よく考えれば結婚と退役、両方無視できない。

 部下たちからすれば寝耳に水。知られたら何されるか。

 特にオープンで彼を好きと公言する彼女には、人選ミスだった。

 ああ、また間違えた。後悔しても遅かった。

 現実逃避に癒しを求めて鈴谷に来たのは愚行。

 彼女は抜群の美少女で、癒しにだってなってくれる。

 けれど、癒す前に聞かれると分かっていたじゃないか。

 何でこう、重要なときにミスを仕出かす。

 また自分本意の思考に嫌気がして、自己嫌悪。

 その悪循環。毎度の無限ループ。

「……」

 鈴谷は当然悟る。

 嫌な予感がした。この表情、とんでもない爆弾を背負っているに違いない。

 下手すると、居なくなる。そんな空気すらニュアンスで感じてしまう。

「……それで?」

「それだけ。迷っているし、これは俺の問題なんだ。抱えるしかねえよ。親子の事だからな」

「……そう」

 自分の人生を左右しかねない重要な分岐に迷っている。

 だが、艦娘には入れない。予想通り、親子の事を言われてしまった。

 人間の問題か。……大体わかった。

「提督……」

「ん?」

「鈴谷、できることない?」

 バカな事を言っている。

 自覚できた。今しがた、予防線を張られただろう。

 癒しなら何でもいいと、寂しそうな顔で言う。

 寂しいのは事実。でも、打ち明けてくれた。

 飛鷹もまだ、聞いてないと言うその話を鈴谷にしてくれた。

 嬉しいと思えない。悲しい。内容がわかった気がして。

 遠回しに、フラれた気がして。

 煙を吐き出す彼は青空を見上げて暫し黙った。

 鈴谷は待っている。何もない、そう言われるのを知っていて。

 実際、首を横に振られた。

「だよね。知ってた……」

「悪い。何しに来たんだろう、俺……」

 鈴谷に頼もうと思ったが、しっかりと考えれば悪手だった。

 改めるにも、彼女がどうにか出来ることがそもそもない。

 騒がしくない、静かな時間が欲しかったから親しい間では適任かもしれないが。

 ……いや、それだ。提督は思い付く。

 兎に角今は静かに過ごしたい。相棒には全力でもう甘えている。

 あとで散々土下座でも何でもするし、然し一人では気が滅入る。

 ……同席、してもらえれば良いのだ。要するに話し相手。

「鈴谷。このあと、お前時間あるよな。出撃ないだろう?」

「うん? まあ、ないけど……それがなに?」

 鈴谷は本日は一応非番。というか待機任務。

 時間はあるし、飛鷹が彼がゾンビなら執務はしておくと全部奪っている。

 提督も休養しろと言われていたのだ。だから、このあとは暇。

 少し、話し相手になってくれないかと彼は頼み込む。

 気晴らしでもいいと、鈴谷は言ってくれる。なら、もう少し甘えてしまおう。

 こんな情けない男に好意を抱く彼女にすることじゃないけど。

 話題は何でもいい。兎に角一人では居たくない。

 泥沼に引き込まれて、戻れなくなりそうな気がしていた。

 鈴谷は構わないといってくれた。

 今は現実を忘れたい。そう思う、提督。

 

 ……彼女の気持ちを利用するのか。

 

 自分をそう責める声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、彼と鈴谷は休憩室を出た。

 空いている部屋で、喋って午後をすごそうと思う。

「鈴谷。あの人をよろしく」

 飛鷹が少しだけ顔を出して、彼女に小声で言った。

 飛鷹ですらお手上げの今回は、誰でもいいから彼を支えないと危なっかしい。

 そう言う雰囲気を飛鷹も感じた。鈴谷はそう判断する。

 私服に着替えて、提督はボーッと待っていた。

 一人で居ると、途方に暮れているような顔だった。

 酷いものだ。大体わかった気がするが、鈴谷は落ち込んでは居られない。

 支えなきゃ。悲しい気持ちがもっと強くなる結果よりは、今は我慢した方が救いがある。

 自分にできることは何でもする。そう言う少女が鈴谷だから。

 せめて、彼の気持ちが落ち着くまで。彼の心が、平穏になるまでは。

 自分の感情を押し殺す。なんか飛鷹なみたいなことをしていた。

 提督も自分を責める声が徐々に大きくなってきていた。

 最低な男。惚れた女に、見合いの話で弱った自分を慰めてほしいのか。

 その行動は最低なことだと分かりながら軽はずみにやっている。

 お前はクズだ、最悪で救いがたい男のクズ。

 そこまで結婚が嫌か。いや、理解できてない。想像すら出来ないものな?

 自分が結婚するイメージが無い。所帯を持って、幸福になる自分が未来にいるのかも分からない

 言い訳ばかり用意して正当化に忙しい小物め。卑怯なんだよお前は。

 何時までも逃げることしか頭にない臆病者。答えを出せばいいだろう。

 解決したいだろう? じゃあ流されてしまえばいい。

 安易な回答は不安か。その通りだ、これは別の不幸の始まりに過ぎない。

 お前じゃ自分すら幸福にできないのに、相手の女を背負えるのか。

 お前にそんな価値があると思うのか、身の程を知れ恥知らず。

 膨れ上がる自責。ノイローゼが加速する。

 鈴谷と話しているのに、鈴谷じゃない誰かの声がずっと聞こえ続ける。

 なぜだ。此処に、鈴谷以外の誰かが居るのか? 事情を把握している誰かが居るのか!?

 誰かが、彼を見て聞こえるように責め立ててくるのか!?

「……提督?」

 訝しげに鈴谷は対面して座る彼を見た。

 様子がおかしい。普通に話していたのに、次第に情緒不安定になっている。

 何かに怯えるように頻りに周囲を気にして、鍵がかかってるかを確認した。

「ねぇ、大丈夫?」

 鈴谷が聞くと、逆に聞かれた。

 此処に来ることを誰かに言ったか、と。

「い、言ってないよ。本当にどうしたの……?」

「い、いや何でもないんだ。……うん、多分幻聴だから。そう、空耳に違いない。俺の気のせいだ、そうだ……」

 ……どこが大丈夫なのだ。どう見ても精神的に危険なサインが出ているじゃないか。

 窓の外をチラチラ見て警戒している。顔色はまた土気色、血の気が失せている。

 挙げ句には若干だが呼吸も荒れてきた。まるで中毒者の禁断症状。

 決して危ない薬には手出しはしないだろうが、何が起きている。

「提督、もう休もうよ。具合悪いんじゃ……」

「待ってくれ、俺は」

「無理しないで。鈴谷は大丈夫だから。落ち着いて、深呼吸。此処には鈴谷しかいない。鈴谷が絶対提督守る。分かった?」

 落ち着かせるように、優しく鈴谷は告げる。

 深呼吸して、不安定な精神を鎮静化。それからだ。

 明らかにまた、ノイローゼになっている。

 医者行きか。そう、経験上理解した鈴谷は休めと提案。

 だが、それを聞くと。

「休めねえよ……休めるわけねえ。勘弁してくれ、またこれだクソッタレ……!」

 耳を塞ぐように、目を閉じる提督。

 何か酷く苦しんでいるようで、本当に医者に行かないと不味そうな空気だった。

 何に苦しんでいる。何も言わない、言えないから余計に困る。

 鈴谷は冷静に、取り乱すことがないように行動しようと誓った。

(……やっぱ、これ……。提督、もしかして……退役するの? 結婚とかで……?)

 鈴谷は内心満点の答えを予想していた。

 自責と罪悪感、不安で揺れ幅が大きくなっている彼に寄り添いたい。

 それが出来れば、苦労しない。

 提督はその後、飛鷹が異変に適切に対応して何とかした。即ち。

 

「彼は暫く静養するわ。……自宅に帰って、留守になるから宜しく」

 

 役目がある以上は退役せず、父も少し追い込みすぎたと反省して権力を無駄遣い。

 後日、飛鷹がそう発表したように息子を、一時的とはいえ自宅に戻して……ゆっくり休ませるのだった。

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