本当に結ばれる、ただ一つの方法   作:らむだぜろ

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駆逐艦と出掛けるお休み 朝潮姉妹の場合

 

 しっかりと向き合うと決めた週末。

 ……最早毎度お馴染みの顔色の悪いゾンビがいた。

 苦悩が見てとれる。最近胃薬を常備するようにしている。

 決意は新たにした。然し、いきなりこれは難易度が高いんじゃないだろうか。

「……えっ? 纏めて連れていくの?」

「……まあな。姉妹たちきってのお願いだ。無下に出来ないから困る」

 前日。ゾンビは飛鷹と話をしていた。

 週末の日曜日。遠足よろしく駆逐艦の姉妹を丸ごと町に連れ出して相手せねばならない。

 これには理由があり、彼は自分と出掛けるなら何処を所望するか、アンケートを軽くとった。

 艦娘たちは喜んで書いてその日のうちに大半帰ってきた。

 で、その内訳は……。

 前提として、艦娘は届け出をすれば門限を守れば普通に外出できる。先日の吹雪たちがよい例だ。

 なので、外の世界を全く知らないと言うことはない。常識程度は持っている、一部怪しいが。

 それで。

「なんでカラオケやらゲーセンやらが駆逐艦はこんなに多いんだ……」

「あー。娯楽少ないからね、鎮守府って。そこそこ、個人で楽しむものはあるけど。皆で楽しめるレジャー施設もこの辺、ないじゃない。だからかな、皆で出掛けるときは大体パターン決まってるのよ。門限あるから遠くには行けないし」

 そう。レジャー施設がこの辺にはない。あっても普通の映画館や温泉、あとは商業施設程度。

 そこもよくあるタイプで遊ぶよりは買い物メイン。

 買い物はそこで済ませるのか、行くのは慣れて今更らしい。

 大人数でいくとゲーセンかカラオケが定番だと言う。

(この間の吹雪の一件があるから、あの子達互いに牽制しあってて個人で行くのは絶対に追われるって分かったみたいね。吹雪は単純な心配だったんだけど……。モテモテじゃない。良かったわね……って、この表情じゃ嫌みも言えないか。本当に苦しんでいるみたいだし……)

 そう。彼は知らないが変質者が吹雪たちだと皆知っている。憲兵も。

 彼はもう犯人はしょっぴいたから、安心しろと憲兵から言われて、同時にややこしいことは控えろと苦言を呈されており、姉妹の多い駆逐艦は提督を巡り内部で出掛けることに関して互いに見張っている。

 ついでに言えば、方法を限られたのだから、ならば足を引っ張って邪魔してやろうと言う魂胆は見え見え。

 故に、こうして姉妹が多いと必然的に考えることは同じになる。

 駆逐艦は数が少ない暁や配属していない吹雪の姉妹はある程度大人しい。

 が、陽炎やら白露やらの姉妹の多い駆逐艦は当然、意見がバラバラになると、チャンスが減るとも考える。

 皆で一辺に済ませた方が効果的で効率もよいと至ったと飛鷹は分析する。

 まあ、結果的に面倒を見る数が増えて彼はお疲れのようだが。

「明日は誰といくの?」

「……朝潮たち」

「分かった。鈴谷と加賀と私も行くわ。付き添うから、頑張りましょう」

「ありがとう、飛鷹。もう腹が痛む。今夜は眠れないかもな……」

 彼は天敵が多い朝潮の姉妹を選んだらしく、げっそりとしていた。

 飛鷹は皆まで言わずとも理解した。天敵の集団なのだ。荷が重すぎる。

 長女は彼が信頼する数少ない駆逐艦で、忠義を重んじるよく出来た娘だ。

 だがその妹が如何せん、彼が苦手なハイテンション、短気、彼いわく目付きがヤバい、強気、マイペース、相性最悪の集まりと言う、彼にとって救いのない姉妹たち。到底、彼一人では面倒を見きれない。

 彼と朝潮の姉妹と陽炎の姉妹と、白露の姉妹と暁の姉妹は兎に角波長が合わない。

 大人しい子が先ずいない。誰かが付き添いしていないと、一日で死ぬだろうと思われる。

 これでも良心的な方だろう。朝潮一行の所望は……カラオケか。

 因みに陽炎と白露姉妹ははゲーセン。好きそうなのがちらほらいる。

「吹雪たちみたいにある程度分散してくれないのは何でだ……」

(だってあの子達は吹雪たちと違って好戦的だもの。……貴方の苦手なイケイケなのよ)

 吹雪たちは一辺に二名まで、と取り決めを決めたと長女が伝えに来た。但し磯波は終えたので除く。

 よい思いをしているので本人も満足している。綾波の姉妹もそこそこ、決まったらしい。

 若干一名、誰がわかりあうもんかと抵抗する艦娘がいるが、長女いわくツンデレなので放置でいいと言う。

 が、こいつらは基本姉妹の中で争っているため、譲らないし妥協しない。

 彼のことになると躍起になって互いに威嚇しあうので、実は知らないところで言い争っているらしい。

 大人の艦娘が間に入って仲裁しているが、本人は知らなくていいだろう。

 知ったら今度こそ切腹とか言い出しかねない。

「じゃあ、鈴谷と加賀に伝えておくわね。……性格的にうまくできるのはあの二人ぐらいだし」

 もう一人頼むこともできるが彼女の場合は恐らく喧嘩になる。

 気の強いもの同士は会わせると拒絶反応を起こすものだ。

 まさかのご一行レベルでの集団でのお出かけ。

 お目付け役もでしゃばって、運命の時はあっさりとあっさりときた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、鎮守府前。彼が来る前に。

「いい? 喧嘩だけはご法度よ。絶対に暴力や口喧嘩はしないこと。満潮、霞! あんたたちは特にね!」

「もしも騒いで提督の胃痛を加速させた場合、艦載機に縛り付けて鎮守府に送り返します」

「二人とも、顔がヤバいってば。みんな怯えてるじゃん」

 点呼をする空母たちに、朝潮姉妹は全員怯えていた。荒潮ですら、冷や汗流して苦笑い。

 宥める鈴谷。この二人は多分キレたらマジでやる。特に飛鷹は怒らせるとその場で怖い。

 シンプルな私服に着替えた飛鷹と和風に纏めた加賀、かわいさ優先の鈴谷。

 朝潮たちは、何故か制服姿。……なんか、臨戦体勢に入っているのが二名ほど。

「満潮、邪魔しないでよね」

「はぁ? 霞こそ、悪口言ったら承知しないから」

 早速互いに睨む問題の満潮と霞。

 口こそ普段から悪いがその都度最強候補の長女に精神を折られて、今では牙を抜かれたただの子猫。

 忠犬には、決して勝てぬのである。

「二人とも。帰ったらお話が」

「なんでもないから」

「別に……」

 怖い笑顔で律する朝潮。流石は信頼を受ける数少ない駆逐艦。強さと意思も段違い。

 慌てて大人しくなる二人。今日は悪く言わない。そう決めている。

「あらあらー……」

「アゲアゲで楽しみましょう!」

 で、こっちは傍観している荒潮とご機嫌の大潮。

 余裕を取り戻した荒潮は眺めているだけでいい。

 大潮は何も考えていない無害なものだ。

「わーい。朝雲姉とデートだー」

「山雲は何いってんの……?」

 山雲は姉がいれば大人しいし、朝雲は妹さえ居れば世話を焼くので問題なし。

 で、この大人数を纏める一番の大人がきた。……凄いくまが出来ている、ゾンビがこっちに来る。

 山雲がそれを発見。朝雲の背中に隠れた。怖がっている。

「……おはよう。みんな、支度は出来てるか?」

 げっそりとしている彼は、きっちりと支度を整えていた。

 表情以外はほぼ完璧。上以外は。

「司令官、大丈夫ですか!? 顔色が優れないようですが……」

「大丈夫、いつもの通り。うん、朝潮。統率を頼む」

 血相を変える朝潮に、小声で返事をする。

 折角のお出かけにこの有り様。呆れたように早速聞こえる悪態。

「何やってんのよ、あんたは……。気を付けてよね。一応責任者なんだから」

「それでも提督な訳? シャンとなさいな! 折角の外出が台無しになるわよ」

 満潮と霞なりの心配だったのだが。空気は読むべきだった。

 空母二人がコッソリと持ってきているお札とオモチャの矢を取り出していた。

 彼に気付かれないように。加賀に至ってはおもちゃでも十分駆逐艦なら大破できる。

 で、素直に言えない二人に怒る朝潮が、横目で見る。雰囲気がヤバかった。

 気の強い二人が気圧されていた。ただ怯える山雲と戸惑う朝雲。関わらない方が良さそう。

 トゲが少しでもあると、守りの空母と忠犬に噛まれる。ピリピリしていた。

 寝不足で分からない彼に、能天気に励ます大潮とクスクス笑う荒潮は癒しでもあった。

(うわ……これ、個室入って大丈夫な集団かな。鈴谷、帰りたいかも……)

 過剰な防衛に、この一行の行方は恐らくは最後の良心である鈴谷に任された。

 頑張ろうと一人心に誓う鈴谷だった。

 恐怖の自己アピールが激しいであろうカラオケ大会の始まり始まり……。

 

 

 

 

 

 駅前に移動する集団は数が多いので目立つ。道中、彼と話すのは問題の二人と大潮、荒潮。

 空母二名と長女による監視のもと、ある程度有益な情報をゲット。

 本音は朝雲も混ざりたいが山雲が然り気無く阻む。

 鈴谷はハラハラしながら見守っている。

 水面下の女の戦いは年齢や外見は関係ない。

 加賀は大人の朝潮と言えるが。

 カラオケボックスに到着。ゾンビが会員カードを提示。

「意外ね。あんた、カラオケとかするの?」

「一応な。他の提督の飲み会の帰りとか、二次会の時とか」

 楽しい空気ではないけど、と苦笑いする彼。

 霞はなら、今日は思いきり楽しんでほしいと頑張って素直に言った。

 キャラ曲げてまで言ったのだ。意地でも楽しませてやると腹をくくる。

 満潮は一歩置いていかれた。舌打ちしそうになるのを我慢。

 地獄耳が結構いるので大人しくしておこう。

 空気になれた山雲とうずうずしている朝雲も会話に参加。

 本格的に騒がしい空気になる。彼はそれはそれで少し楽しいと思い始めた。

 で。パーティールームに案内されて、荷物とか飲むものを置くと、早速かじりつく大潮。

 彼と来たことで凄まじいハイテンションで、勝手に知っている曲をぶちこんだ。

 朝潮いわく、いつもの事なので気にしない。

「それじゃ大潮、アゲアゲで行かせて頂きます!」

 初っ端から飛ばすアップテンポなイントロが始まった。

 そう言えば部下の音楽の趣味も皆無だった。彼はしっかりと覚えて帰ろうと耳を傾けた。

 なんだかんだ、楽しんでいるようだ。みんな入り交じって、談笑しながら歌ったりしている。

 提督は聞く専門に徹して熱心に聞いている。が、満潮がとうとう動いた。

「歌わないの? 聞かせてよ、歌声」

 然り気無く近くに来て、入力する機械を手渡す。

 一人歌わないの気でいた彼はたじろぐ。

「俺もか? いや、俺は……」

「あたしが聞きたいの。……良いでしょ。次も一緒に来たいし」

 お願いする様に満潮に言われた。部下の願いを断れるような男ではない。

 ぶっちゃけ、ドン引きされる自分の趣味。飛鷹ですら、苦い顔をするが。

 歌えるものはこれしかない。

「あっ……不味い。加賀、あの人が歌い出したら耳を塞いで。潰れるわよ」

 飛鷹が気づいて加賀に言って、詳細を聞いて鈴谷に伝えて、鈴谷は……止めた。

 駆逐艦はみんな聞く気満々だった。堅物が好む音楽に。それが自滅のものと知らず。

 堅苦しいものが好きな朝潮、歌詞がなんかグロいのばかりの荒潮、ロックンロールの満潮に意外な流行りのバラードを好む霞、デュエットが多い朝雲と山雲。

 鈴谷は恋愛ドラマの主題歌ばかりで飛鷹は何でもあり、何故か加賀は歌えば出てくる演歌の数々。

 狙っているんだろうか。しかも普通に上手でギャップが凄い。

 ……一番のギャップはこの男だが……。

「みんな、最初に言っとく。本気で、ゴメン。俺はこう言うのしか聞かないんだ」

 自分の番になって、謝る提督。それもそのはず。ここから先は地獄しかないのだから。 

 キョトンとする皆に、始まる恐怖のパーティー。

 聞き惚れる相手は多分、誰もいない。合掌を心でする空母たち。

 それでは、お聞きください。提督の……レッツシャウトォッ!!

 

「ヴェアアアアアアアアーーーーッ!!!!」

 

 始まって途端、何処かの化け物みたいな見事なシャウト。

 溜まりに溜まった心の毒を、ブレスに乗っけて体外へェッ!! 

 踊るサウンド、吐き出すストレス!! 燃えるぜ鼓動、揺れるぜヘッドォッ!!

 ある意味、ストレス発散にはなったかもしれない。……周囲はビビりまくって絶句したが。

 言わんこっちゃない。彼の趣味は駆逐艦には早すぎる。きっと、理解できまい。

 空母は耳を塞ぎながら狂ったように頭を激しく前後に振るう提督を眺めていた。

 彼が好む音楽はハードロックやヘヴィメタル。酷いときは今やっているデスメタル。

 兎に角破壊的、狂気的、退廃的なサウンドが大好き。

 ヘッドフォンで聞いているときの奇行は飛鷹しか知らない。

(うわ……相当ストレス溜まってるのね。マクホル歌うときは限界に近かったときだし。気の毒ねあの子達も)

 特に好むユニット、マックスホルマリンという海外の曲は彼が言うには至高らしい。

 飛鷹には耳障りなノイズにしか聞こえないが。鈴谷はその豹変した剣幕に絶句。

 加賀はメンタル限界で白目向いて失神してた。

 だが……?

 

「!! !!」

 

「!? !!」

 

 二名ほど目を輝かせて一緒に頭を振っている。朝潮とまさかの満潮。

 ノリノリでついていけているのだ。って言うか、あの満潮が喜んでいた。

 提督の暴走に一緒になって騒ぎ出したのだ!

 朝潮も珍しく興奮して持っていた空のグラスを振り回す。

 何が起きている。大潮も何か感応して愉快に踊り出すし、カオスになっていた。

 朝雲と山雲は半泣きで隅っこに逃げた。荒潮は気絶した。霞は放心していた。

(嘘でしょ……!? あの趣味についていけてる!?)

 飛鷹も驚く。デスメタルが大丈夫どころか受け入れた駆逐艦がいるとは。

 目を疑った。

「いやー歌った歌った! スッキリした」

 晴れやかな顔をして復活の提督。死屍累々の周囲。

 我にかえって青ざめたが。

「いい趣味じゃない! さっきのあんた、最高だったわ!!」

 なんか満潮がべた褒めした。しかも見たことない笑顔で。

「デスメタルって言うの? これもありね。今度教えてよ!」

「……分かってくれるのか満潮!? 俺のドン引きされる趣味を!」

 なんか急速に仲良くなっている二人。ガッチリ握手して、意気投合している。

「朝潮も凄く胸が熱くなりました! 司令官、是非朝潮にもご伝授頂きたい!」

「大潮も教えてください! アゲアゲな曲は大好きです!!」

 ああ、真面目な朝潮も大潮も向こうの趣味なのだろう。

 今までが嘘のように提督はイキイキとしているではないか。

(……意外すぎる仲間ができたわね)

 半分は死んでいるがどうやら同じ趣味がいたようだ。

 これをきっかけに、苦手な相手がまさかの仲良しになるとは誰も思わんかった。 

 同時にドン引きされる事態も引き起こしたが、必要経費で気にしないことにする。

 飛鷹は少し安心した。共通の何かがあると早く打ち解けあえるのだろう。

 とりあえず、提督は朝潮姉妹の一部とわかりあったのだった。

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