ではどうぞ!
「は~~い、それでは先日のメディカルチェックの結果発表!」
「は、はあ……」
目の前のハイテンションな了子を見て、響は困惑した顔で頷く。
響が特異災害対策機動部二課に連れてこられた翌日。放課後の教室で翼が再び響をここに連れてきたのだ。別にそれはいいのだ。あれで終わるとは響自身思っていなかったのだから。だけどなんでまた手錠を付けられなければならなかったのか、そこだけは分からない。
壁のモニターには機能の検査で集められた響のデータが表示されており、部屋の中には響と了子の他に翼に弦十郎、更にスタッフの友里あおいと言う女性と藤尭朔也という男性がいる。
「初体験の負荷は若干残ってるものの、体に異常はほぼみられませんでしたー!!」
「ほぼ……ですか……」
響はいまいち分かっていないのか、それとも別の事が気になるのか曖昧な返事をしながらモニターを見つめる。だが、その事は了子も予想していたのか小さく頷く。
「うん、そうねぇ。貴女が聞きたいことはこんな事じゃないわよね?」
「は、はい……教えてください。昨日私が纏ったものは何なんですか?」
響の問いに弦十郎は後ろの翼に目配せをする。その意図を察した翼は胸元からピンクのペンダントのようなものを取り出す。
「天羽々斬。翼が持つ第一号聖遺物だ」
「聖遺物?」
「聖遺物と言うのは世界各地の伝承に登場する現代の技術では製造不可能な異端技術の結晶の事。その多くは遺跡から発掘されるんだけど、そのほとんどは長い時間の中で破損してしまって、完全な力を秘めたものは本当に希少なの」
「この天羽々斬も刃の欠片の一部に過ぎないんだ」
「欠片に残ったほんの少しの力を増幅させ、解き放つ唯一のカギが特定振幅の波動なの」
「特定振幅の波動……ですか?」
「分かりやすく言うと歌だ。歌の力によって聖遺物は起動するのだ」
弦十郎の言葉に響はあ、と小さく声を上げる。
「確かに昨日、あの時、心から……いえ、胸の奥から歌が浮かんできて、私それを無意識に歌ってました。緑羅君からはこの状況で何やってるんだ!って怒られましたけど……」
「怒られた……やはり彼は歌を歌っていないという事か……」
弦十郎は小さく唸り声をあげながら顎に手を当て、翼はその表情を険しくする。
「歌の力で活性化した聖遺物を一度エネルギーに還元し、鎧の形で再構成したものが、翼ちゃんや響ちゃんが纏うアンチノイズプロテクター、シンフォギアなの」
「だからとて、どんな歌、誰の唄でも、聖遺物を起動させることができるわけではない!」
突如として発せられた翼の怒号に部屋の中が一瞬静まり返る。その中、弦十郎は静かに立ち上がり、再び口を開く。
「聖遺物を起動させ、シンフォギアを纏う歌を歌える僅かな人間を、我々は適合者と呼んでいる。それが翼であり、君なのだ」
「私が……適合者?」
「どう?あなたが目覚めた力について、少しは理解してもらえたかしら?質問はどしどし受け付けるわよ?」
「はい!」
響が早速と言わんばかりに勢い良く手を上げると、了子は嬉しそうにそれに応じる。
「はい、響ちゃん!」
「言ってることが全然わかりません!」
「だろうね」
「だろうとも」
ある意味堂々と宣言した響に友理と藤尭は苦笑を浮かべながら同意していた。
「いきなりは難しすぎちゃったわね……だとしたら、聖遺物からシンフォギアを作り出す唯一の技術、櫻井理論の提唱者が、この私であることだけは覚えてね」
「は、はぁ……ですけど、私その……聖遺物っていうの持っていませんけど……それっぽい物にも心当たりがありませんし……」
響が首を傾げながらそう言うと、モニターの画像が切り替わり、響の胸部のレントゲン写真に切り替わる。その写真の左胸付近に細かい破片のような影が映っている。
「これが何なのか、君には分かるだろう?」
「あ、はい。2年前のツヴァイウィングの最後のライブの時に私が負った怪我です」
響の言葉に翼は大きく目を見開き、レントゲン写真に視線を向ける。
「心臓付近に複雑に食い込んでいるため、手術でも摘出できなかった破片。調査の結果、この影はかつて奏ちゃんが纏っていた第3号聖遺物、ガングニールであることが分かりました……奏ちゃんの置き土産ね……」
了子が小さくそう言うと、翼は驚愕したように目を見開き、そのままよろよろとバランスを崩し、近くの台に手をつき、もう片方の手で顔を覆う。その指の間から見える目はあまりのショックに焦点が合ってないように見える。
だが、しばらくすると、深く息を吐いて顔から手を放し、姿勢を元に戻す。
響はそれを心配そうに見ていたが、少しして小さく息を吐き、
「あの……この力の事は誰にも話さないほうが……いいんですよね?」
「ああ。君がシンフォギアの力を持っていることを何者かに知られた場合、君の家族や友人、周りの人間に危害が及びかねない。命の危険すらあり得る」
「命の……危険……」
その言葉に響は息をのみ、思わず拳を握り締める。そんな響に弦十郎が話しかける。
「俺たちが守りたいのは機密などではない。人の命だ。その為にもこの力の事は隠し通してもらえないだろうか?」
「あなたに秘められた力はそれだけ大きなものであるということを分かってほしいの」
「人類ではノイズに打ち勝てない。人の身でノイズに触れることはすなわち炭になって崩れ落ちる事。そしてダメージを与える事も人間の武器では不可能だ。たった一つ例外があるとすれば、それはシンフォギアを纏った者だけだ………日本政府特異災害対策機動部二課として、改めて協力を要請したい。立花響君。君が宿したシンフォギアの力を、対ノイズ戦のために役立ててはくれないだろうか?」
弦十郎からの嘆願に、響は一度顔を俯かせ、考えるように小さく呻く。
と、その時、部屋の中に緒川が入り込んでくる。
「指令。回収したビーストの手荷物の調査結果が出ました」
「そうか……結果は?」
ビースト?と謎の単語に響は首を傾げながら顔を上げる。
「はい。一つの荷物に入っていたのは現金でした。額は百万円ほどでした」
「ひゃ、百万円!?何ですかそれ!?」
突如として跳び出した大金に響は驚愕に目を見開く。と言うか、荷物と言っただろうか。つまりそのビーストと言う人は百万円を持ち歩いていたのかと響は戦慄してしまう。
「もう一つに入ってたのは着替えや日用品の類でしたね。毛髪か何か採取出来たらよかったのですが、そういった物はありませんでした。ですが……その中にこんなものがありました」
そう言って緒川が取り出したのは綺麗にラッピングされた二つの箱だ。
「それは?」
「生憎中は確認していませんが……とりあえず分かったことは、これは響さんと未来さんと言う方へのプレゼントだという事です」
「なに?」
「え?」
響は困惑したように目を瞬かせる。
「どうしてそうだと?」
「プレゼントにメッセージカードが添えられていて、その中に響と未来へと書かれていましたから」
次の瞬間、狼狽える様に慌てて口を開く。
「ま、待ってください!私へのプレゼントって何ですか!?それにビーストって誰ですか!?そんな人私知らないです!それにどうしてその人未来の事を知ってるんですか!?」
「未来って……響ちゃんの知り合い?」
「私の幼馴染です!そ、そんな事よりもどうしてそのビーストっていう人が「落ち着いていくれ、響君。ビーストと言うのは……昨日、君と共に戦った少年……君が緑羅君と呼んでいる者の事だ」え……?」
一瞬、弦十郎の言葉の意味が分からず、響はぽかん、と口を半開きにするが、少しすると、昨日の彼の姿を思い出し、目を見開く。
「そ、そう言えば……昨日の緑羅君の姿……あれってどういう事なんですか?何か知ってるんですか?」
響が問いかけると了子が操作し、モニターの表示が切り替わる。そこにはノイズ相手に暴れまわる昨日と同じ異形の緑羅が映し出されていた。
「ビースト。一年半前からノイズが現れた場所に出現し、ノイズを駆逐して去っていく存在。だが、一年半前から現れたといったが、それらしき人物を最初に確認したのは2年前のライブの時だ」
「あ……そう言えば私が初めて緑羅君と出会ったのもその時です」
「そうなのか……翼の報告ではその人物はノイズを倒した後、建物から直接飛び降り、姿を消したらしい。我々は状況などからその人物を新しいシンフォギアとその適合者だと思っていた。実際翼が見た時、外見は人とほとんど変わらなかったらしいからな。だが、その後、その人物の目撃情報はぱたりと途絶えてしまっていた。まるで最初から存在していなかったように……だが、一年半前、ビーストは突如として現れた。最初は言葉を失ったさ。ある意味でノイズ以上の異形がノイズを手当たり次第に粉砕していたのだからな。そしてもっとも驚いたのは……」
弦十郎が映像に視線を向け、響も改めて見ると、映像の中の戦闘は終了していた。緑羅がこきこきと体を動かした瞬間、体の皮膚や背びれ、尻尾が無くなっていき、遂にはその身は普通の人間に戻っていた。
「これは……!」
「見ての通り、彼は人間の姿になったのだ。しかもその身に着ている服に破けた個所などない。そう、まるでさながら……起動していたシンフォギアが停止するかのように」
「現に、彼からはシンフォギアが発する波形、アウフヴァッヘン波形が観測されたの。だから私たちは、彼を新たな適合者で、新しいシンフォギアを持っていると判断したわ。だけど、普通に考えてあんな事あり得ないのよ。さっきも言ったけど、シンフォギアはエネルギーから鎧に再構成される。あんな風に肉体が変異することはないの。私たちは彼と接触しようとしたんだけど……」
「彼はあまりにも神出鬼没で、どこかに場所を絞らず日本各地に現れ、遭遇したノイズを倒していました。さらに存在を隠すのが巧みでして……その場所に行っても結局見つからないという事ばかりなのです。我々が接触できたのも昨日の件も含めればたった二回だけで」
そこで一回整理のためか区切りをつけられたが響は今まで以上に訳が分からなかった。2年前?つまり初めて会った時から彼はあんな異形になれたというのだろうか?と言うか、あの尾や背びれは何なのだろうか。どうしてあんな自由に引っ込めたり生やしたりできるのだろうか。いや、そもそも彼もシンフォギアの適合者と言うやつなのだろうか……
「響君。話を進めていいだろうか?」
「え?あ、はい……」
「響君に聞きたい事と言うのは……彼の事だ。君が知っている範囲の彼の情報を教えてほしい。彼を保護するためにも」
「保護……?それってどういう……」
響が戸惑うように口を開くと了子が少し悲しそうに眼を閉じてから口を開く。
「……私の櫻井理論だとね、シンフォギアは、女の子じゃなきゃ、適合者になれないのよ。だけど彼は体つきから見ても、男の子……そうよね?」
「は、はい……そうだと思いますけど……」
「男の子の適合者っていうだけでも、何が起きているのか分からないのに、おまけにあの肉体の変異。さっきも言ったけど、普通のシンフォギアでは絶対にありえない事なのよ。そこから考えられるのは………彼の体に尋常ならざる事態が起きているという事。それはもしかしたら………彼の命を脅かす事態かもしれないの」
その言葉に響は小さく息をのむ。自分の友達は今、そんなに危険な状態だというのか。そんな危険な状態で、一年以上もノイズと戦い続けていたのか……自分たちを守るために……
「彼の体に起こっている事態を把握し、場合によっては治療を施すためにも我々は彼を保護しなければならない。その為にも、彼の情報が少しでも必要なんだ……頼めるだろうか?」
弦十郎の言葉に響は小さく息を吐きながら拳を握り、弦十郎と了子を見つめる。
「緑羅君は……助かるんですか?」
「それは分からないわ。彼の体に何が起きているのか知らなきゃ断言はできない……でも、少なくとも全力は尽くすことは約束する」
「………分かりました。あまり多くはありませんが、できる限り教えます」
それから、と響は小さく息を吸い、
「最初の協力の事……戦わせてください。私の力で誰かを守ることができるなら、私……戦います」
その言葉に大人たちはそうか、と小さく頷くが、翼はその言葉を聞いた瞬間、その表情を険しいものに変える。
それじゃあ、まずは、と響が口を開こうとした瞬間、施設内に警報が鳴り響く。
その瞬間、部屋全体の空気が一瞬で引き締まり、翼と大人たちはすぐさま部屋を飛び出し、それに遅れながらも響も慌てて部屋を出ると、そのまま彼らの後を追いかける。
そのまま施設内を走っていき、辿り着いたのは多くの精密機械に大きなモニター、そしてそれを操る職員たちがいる指令室だった。
「ノイズの出現を確認!」
「本件を我々二課で預かることを一課に通達」
「出現位置特定!座標出ます!リディアンより距離200!」
モニターに表示されたノイズの位置に弦十郎は小さく呻く。
「近い……」
と、次の瞬間、指令室に先ほどとは別の音の警報が鳴り響く。
「これは……ビーストです!ビーストが出現しました!」
「!早い……まだこの近辺にいたのか……」
「迎え撃ちます」
そう言った翼は一瞬で踵を返し、指令室を後にするが、その後を追うように響きも駆け出す。
「!待つんだ!君はまだ……」
「私の力は、誰かを助けることができるんですよね!?シンフォギアなら、ノイズを倒すことができるんですよね!?だったら私は行きます!それに、緑羅君が近くにいるなら、私も一緒に戦います!」
そう言うと響は指令室を後にする。
「危険を承知で誰かのためになんて……あの子、いい子ですね」
「果たしてそうだろうか……」
藤尭の言葉に弦十郎は顔をしかめながら呟く。
「翼の様に幼少の頃から戦士としての鍛錬を積んできたのではない。ちょっと前まで普通の日常を過ごしていた少女が、誰かの助けになるからというだけで戦場に赴くというのは、酷く歪な事だ」
「……つまり、彼女も私たちと同じ、こちら側と言う事ね……」
リディアン郊外の道路にて、轟音と共に解き放たれた熱線がノイズの一団を貫き、爆炎が炸裂して生き残ったノイズを焼き払うが、生き残っているノイズの数に緑羅は小さくため息を吐く。
「全く……二日連続で現るだけでもあれなのに、おまけにこの数って……全くついてない」
今日、本当は響と未来と合流しようと、放課後になるまで体を軽く動かしながら過ごし、いざ放課後になって探してみたら見つからず、しょうがないから日を改めようと思ったら、なんとノイズの出現である。これまでの経験から、ノイズが出現する感覚はそれなりに空いているものと思っていたのだが、まさかの連日。しかも場所まで近いという間違いなくイレギュラーな事態。
緑羅は最初こそ驚いたが、ノイズが現れたのならやることは変わらない。緑羅はすぐさまその場に赴き、ノイズとの戦闘を開始したのだ。
それなりにノイズを倒したはずなのだが、未だ周囲には大量のノイズがいる。
ぐるる、と低く唸りながら緑羅が拳を動かした瞬間、ノイズたちの体がどろりと液状に崩れると、そのまま混ざり合い、形を成し、現れたのは4足歩行で、巨大な口を持ったオタマジャクシのような形状のノイズ。それが2匹も緑羅の前に鎮座し、一斉に咆哮を轟かせる。
それを前にしても緑羅は全く動じず、逆に威嚇するように唸り声を漏らす。
巨大ノイズたちは背中から触覚のようなものを勢いよく緑羅目掛けて射出する。
だが、緑羅は一回後ろに跳んで回避すると、右腕の顎を開き、そこから火球を連続で放ち、全てを撃ち落とす。
すると一匹のノイズがじれたように咆哮を上げると、大きく口を開けた状態で突進し、緑羅を飲み込もうとする。
だが、緑羅は勢いよく前に跳び出すと、右腕の頭部をガントレットに戻し、激突の寸前に体を捻って噛みつきを回避し、カウンターにガントレットをノイズに勢いよく叩きこむ。
轟音と共にノイズの巨体が吹き飛ばされ、地面に叩きつけられると同時に炭に変わる。
後一匹、と緑羅が顔を向けた瞬間、
「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
横合いから雄たけびが響き、緑羅は思わず動きを止めて顔を向ければ、シンフォギアを纏った響がノイズの横っ面に勢いよく蹴りを叩き込み、よろめかせる。
「翼さん!」
「ッ、はぁぁぁぁぁぁ!」
-蒼ノ一閃ー
その隙を逃さず、いつの間にかいた翼が巨大な刀から青い斬撃がノイズを捉え、真っ二つに両断すると、そのまま爆発する。
それを見ていた緑羅は小さく唸りながらも周囲を見渡し、ノイズがいないことを確認すると、小さく息を吐きながら緊張を解く。
「緑羅君!」
その緑羅に元に響が駆け寄ってきて、緑羅は顔を向けると、小さく唸る。
「響……なんでまたここに……」
「あ、うん。私……ノイズと戦えるみたいなんだ。だから私、戦うことにしたの。翼さんと緑羅君と一緒に」
「……いいの?かなり危険だよ?」
「うん!まだまだ足手まといかもしれないけど、自分なりに頑張る。だから、一緒に戦ってね!」
「………まあ、自分で決めたのなら、俺は何も言わないけどさ………」
そこまで言って、さてと、と小さく呟いてから緑羅は離れたところに立っている翼に顔を向ける。
彼女は敵意すら感じる視線で緑羅と響を睨みつけている。その視線を真っ向から受け止めながら緑羅は口を開く。
「今日は時間がありそうだ。だから、話をしよう…………俺に言いたいことがあるんじゃない?」
緑羅の言葉に翼は更に視線を険しくしながら緑羅を睨みつけ、まるでこれまで貯めてきたものを吐き出すように低く、問いかける。
「……………なんで………なんでそれほどの力を持っていながら……2年前………奏を見殺しにした………!」
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