ではどうぞ!
ズドン、と鈍い音と共に叩きつけられたガントレットがノイズを粉砕し、緑羅は低い唸り声を漏らしながら周囲を見渡し、ふう、と小さく息を吐く。
「今日も終了……」
緑羅はゴキゴキと首を鳴らしながらふう、と小さく息を吐く。
「今日は響も風鳴翼も別の場所か……」
自分の周囲に二人の気配がいまだにないことを確認した緑羅は力を抜くと同時に全身の姿は元に戻り、緑羅はぐるぐると腕を回す。
「しかし……ここいらはずいぶんとノイズの出現頻度が多いな……」
この地域にたどり着いてすでに一ヶ月。本当なら組織のお膝元でもあろうこの付近からはさっさと退散したいのだが、それを許さない事態があった。それがノイズだ。
この一ヶ月、なぜかこの周辺にノイズが頻繁に出現しているのだ。その数は明らかに異常と言えるほどに多い。日本中を旅していた緑羅でも経験したことのないほどだ。しかもそれがほぼほぼ一か所に集中している。ノイズに関しては素人だが、間違いなく異常と言えるだろう。
これに関して、緑羅は二つの仮説を立てていた。
一つはこの付近にノイズの巣のような物がある事。そう考えれば、巣を守るためにノイズがこちらを排除しようと頻繁に出現することに説明がつく。
もう一つはこの付近にノイズを引き寄せる何かがあるという事だろう。巣がないのであればそれぐらいしかない。
ふうむ、と煤にまみれた無人の町を歩きながら緑羅は考える。
もしもノイズが頻繁に現れる理由が前者だった場合、逆にチャンスとなる。その巣を見つけ出し、破壊すればノイズの勢いを大幅に弱体化させることができる。
そして後者だった場合、できる限り早くその何かを回収し、破壊する必要がある。
何にしても、今は情報が少なすぎる。もうしばらくここに滞在し、調べたほうがいいだろう。
そう結論付け、緑羅はそのまま町の中を歩いていく。
「一ヶ月経っても進展は見られないか……」
モニターを見ながら弦十郎は小さく独り言ちる。
響が二課に入り、緑羅と本格的な邂逅を果たしてからすでに一ヶ月が経過している。
この一ヶ月、ノイズが現れるたび、緑羅が一歩先にノイズの元にたどり着き、戦闘を行う。そしてその後に響か翼が合流するのだが、その後の対応がまさしく正反対。
翼と合流した場合、翼は緑羅に敵意剝き出しなのだが、とりあえずノイズを攻撃する。緑羅自身翼に危害を加える気はないのかノイズに集中する。だが、戦闘が終わったら、翼は緑羅にも戦闘を仕掛けるのだ。恐らくリベンジなのだろうが、緑羅はそれを適当にあしらってその後どこかに消えてしまい、翼のフラストネーションは溜まる一方になってしまっている。
対する響はむしろ積極的に共闘しようとし、緑羅もそれを断らず、それどころか時には簡単にだが響に戦い方を教えたりとその仲はかなり良好だ。もっとも、響が検査の事などを話すと適当にはぐらかすかすぐに逃げ出すかしてしまうが。
あまりにも極端すぎる関係。ある意味では緑羅はそれを狙っている節すらあるが……
あの騒動の次の日、弦十郎は早速響から緑羅と言う人物がどういう存在かを聞いていた。
普段は優しく、どこか抜けていて愛嬌がある親しみやすい人物。だが一たび怒れば、その怒りは尋常ではなく、向けれらてなくても動けなくなってしまうほどの圧を与えるほど。
携帯の類は持っておらず、日本全国を旅している。両親はすでに死んでおり、身寄りもない天涯孤独であると。
そんな緑羅と本格的に親しくなったのは一年半前。響と未来が2年前のライブの件で生存者たちが迫害を受けていた時の事。響も当然それに巻き込まれ、響の味方の未来もそんな扱いを受けていた時、ひょっこりと現れた緑羅がそのいじめをしていた人物達から二人を助けたことがきっかけらしい。以来、3人は時折連絡を取り合っていたようだ。
響の話を聞く限りでは、緑羅は決して悪人ではない。加減を知らないだけの善人としか思えない。そんな彼があの時、翼に暴言を吐いた理由は間違いなく、彼女の敵意を自分自身に向けさせるためなのだろう。あの時の翼は響にも少なからず面白くない感情を抱いていたはずだから。恐らく、自分が嫌われ者になることで二人の仲を少しでも良くしようとしているのだろう。
だが、そんな思いと裏腹に肝心の響と翼の仲はあまり仲良しと言うわけではない。
確かに緑羅が引き受けたことによって翼は響に敵意は向けていない。緑羅に騙された者として同情すら向けている。
だが、その響が緑羅と翼の中を何とかしようとしているのが翼は面白くないのだろう。響が翼に緑羅の話をしようとすると彼女はすぐに去ってしまうか、口を閉ざすかのどちらかなのだ。それ以外なら多少はマシなのだが、それでも課題は多い。
結果、二課は依然緑羅と近づけず、響と翼の仲も進展せずという一か月前とほとんど変わらない状況なのだ。
どうしたものか、と弦十郎が呻いていると、
『指令、少しいいですか?』
「緒川か。どうした?」
緒川からの通信に弦十郎は意識を向ける。
『いえ、五条君の過去に関する調査なのですが……』
「何かわかったのか?」
『いえ、その……』
彼には珍しく歯切れ悪く口ごもるが、少しして彼は報告内容を口にする。
『彼の過去が………その……あまりにも異様……でして……』
「異様……?」
「はあ……私って本当にダメだなぁ……」
「急にどうしたの?」
ある日の夜中、寮の一室で響は机に突っ伏し、対面に座ってパソコンをいじっていた未来は訝し気に首を傾げる。
「あ、いや……ちょっとね……」
「大丈夫なの?最近なんか忙しそうだけど……」
「あはは……まあね……」
「代わりにレポートがお粗末になってるけどね」
うぐっ、と響が呻き声をあげる。彼女の前にはほぼ白紙のレポートが置いてある。
「はあ、何をしているのか分からないけど、あまり無理だけはしないでよ?」
「あはは……うん、大丈夫。へいきへっちゃらだよ。緑羅君もいるし」
「緑羅君……そう言えば最近街の中でも出会うけど、何をしてるんだろう?」
そう言いながら首を傾げる未来の首にかけられた♬のペンダントが揺れる。
「え?未来、緑羅君とあってるの?」
「時々買い物帰りらしい緑羅君と出会うよ?いろいろと調味料を買ってるみたいでだけど……」
「そうなんだ……」
あの日の後、帰った響は未来にも緑羅からのプレゼントを渡していた。未来は喜んでそれを付け、ちゃんとお礼を言わないと、言っていた。
その後、響は共闘した際にその事を伝え、更には二課が緑羅の荷物を保管していることも告げた。
瞬間、緑羅はぎょっ!と目をむき、響に何か変なものは見つからなかったか!?俺の何かが見つかったのか!?と激しく詰め寄ってきた。響がその変貌っぷりに戸惑いながらも服とお金と日用品以外見つからなかったといった瞬間、緑羅は安堵したように深い息を吐くが、すぐに、でも安心できない……もしかしたら……こうなったらせめてこれ以上……等とブツブツと言っていた。その後、響が荷物を返すと言ったら以外にも彼はもういらないと言い、実際その後緑羅は荷物の事を口にすることは無くなった。
そしてそれからだった。緑羅が二課の話をしようとするとはぐらかしてしまうか果てには逃げ出してしまうようになった。響としてはやはり、体を調べてちゃんと変異の原因をはっきりとさせてほしいのだが、どうにも彼にはその気が一切ないようで、彼自身は何度言われても大丈夫、これが普通と言うだけなのだ。
「とりあえず響。早く課題を終わらせちゃおう。そうしたらさ、緑羅君も誘ってこれを見に行こうよ」
これ?と響が首を傾げていると未来はいじっていたパソコンの画面を見せる。そこには流星群の動画が映し出されている。
「流星群。数日後にこの辺りで見られるんだって。できればだけどさ、緑羅君にも声をかけて、3人で眺めたいなって」
未来の申し出に響は目を輝かせる。
「いいねそれ!緑羅君に話を持っていくのは任せて」
「うん、お願い。と言うわけで、早く終わらせちゃおう」
「うん!」
その言葉に響は気合を入れるように頷き、レポートに取り掛かる。
「遅れてすいません!」
数日後。二課の緊急ミーティングに呼ばれた響は慌てた様子で二課の指令室に飛び込む。中にはすでに主要メンバーがそろっており、響が合流したところで了子が声を上げる。
「では、みんな揃ったところで、仲良しミーティングを始めましょう!」
了子がそう言う中、響はちらりと翼に視線を向ける。翼はちらりと響に視線を向けるとそのまま飲み物を飲む。響は小さく呻く。
そうしていると、指令室のモニターに周辺の地図が表示され、更にその地図に赤い表示が加えられる。
「これはここ一ヶ月の周辺のノイズの出現箇所だ。響君。これを見てどう思う?」
「えっと……多いです!」
響が導き出した結論に弦十郎は声を出して笑い、翼は呆れたようにため息を吐く。
「はっはっはっは!確かにそうだな!……所で響君。ノイズについて知っていることは?」
「えっと……無感情で機械的に人を襲う事、襲われた人は炭になってしまう事、時と場所を選ばず出現して周囲に被害をもたらす特異災害として認定されている事。現存の武器はほとんど効果がない事、意思疎通は不可能な事……ぐらいでしょうか?」
響が指折りしながら答えると、弦十郎は意外そうに眉を動かす。
「ほう。意外と詳しいじゃないか」
「今書いてるレポートの題材なので……」
「その通りよ。ノイズの発生が国連の議題に挙げられたのは13年前だけど、それよりも遥か昔から世界中であったわ」
「恐らく、世界各地の神話や伝承に登場する異形のほとんどはノイズ由来なのだろう」
「そして、ノイズの発生率は決して高くないの。この発生件数はあまりにも異常なのよ。考えられるのは……何らかの作為があると考えるのが自然なのよね」
「作為って……まさか、これを誰かが起こしてるって言うんですか!?」
響が驚愕に目を見開く。人を無差別に襲うノイズを操る者がいるというのあろうか。
「中心点はここ。リディアン音楽院高等科、我々の真上です。サクリストD,デュランダルを狙って、何らかの意思が介入しているとみて間違いないかと」
「デュランダル?」
翼が漏らした言葉に響は首を傾げると、了子が説明を始める。
「デュランダルっていうのはここよりもさらに下層、アビスと呼ばれる最深部に保管され、日本政府が研究しているほぼ完全な聖遺物の事よ」
「翼さんの天羽々斬や響君のガングニール。そして五条君の聖遺物の様な欠片は奏者達がシンフォギアとして起動させないと力を発揮できないけど、完全聖遺物は一度起動した後は100パーセントの力を常時発動させ、更に奏者じゃない人でも使用できるという研究結果が出ているんだ」
「それが私の提唱した櫻井理論!だけど、完全聖遺物の起動には相応のフォニックゲインが必要なのよね」
「は、はあ……」
何だかいまいち分からなかった響だが、とりあえずその完全聖遺物が強力だが簡単には使えないということは分かった。
「あれから2年。今の翼の唄ならば……」
弦十郎の言葉に翼はぴくり、と肩を震わせ、表情を強張らせるが、手元の飲み物を飲み干す。
「そもそも、デュランダルの起動実験に必要な政府の許可はとれるんですか?」
「いや、それ以前の話だよ。安保を盾にアメリカが再三デュランダル引き渡しを要求しているらしい。起動実験どころか扱いも慎重にならざる負えない。下手したら国際問題だ」
「まさかこの件、米国政府が糸を引いているなんてことは?」
「調査部からの報告によると、ここ数ヶ月の間に数万回に及ぶ本部のコンピュータへのハッキングを試みた痕跡が認められているそうだ。アクセスの出所は不明。巧妙に隠されているようだ。それを短絡的に米国政府の仕業とは断定出来ないんだ。勿論、痕跡は辿らせている。本来こういうのが俺達の本領だからな」
そこで弦十郎は一回息を吐き、そして、前置きをして続ける。
「五条緑羅君に関して不可解なところが見つかった」
その言葉に響と翼が反応を示す。
「こちらの方で名前を元に彼の身元を洗ったのだが………五条と言う苗字の家系に彼らしき者がいる形跡はなかった」
「え?それって……」
「そのままだ。緑羅君と思しき戸籍どころか、出生記録すら確認されなかったのだ。これから考えられることは………五条緑羅と言う名前は偽名であると考えられる」
その言葉に響はショックを受けたように目を見開き、翼は顔をしかめ、手元の紙コップを握りつぶす。
「そ、そんな「普通ならな」え?」
「調査部の報告によると、一年半前から各地の監視カメラに彼の姿は映り、目撃情報もたくさん寄せられている。2年前も君たちが目撃者だ。だが………それより以前の情報が一切ないんだ。戸籍情報どころか、目撃証言さえも完全に皆無なんだ」
「それは一体……?」
「文字通りだ。2年前まで彼は文字通りその痕跡すら存在していなかった。何らかの組織のもとで監禁されていたのかとも思ったが、誘拐と言った痕跡も皆無。だが、2年前を皮切りに彼の痕跡は各地で確認されている。それは今までずっと隠していたのが急に隠し方がずさんになった、では説明ができないほどにな。まるで……これまで存在していなかったのに、2年前に突然現れたように」
「それって……一体どういう事でしょうか?」
「分からん。彼の体に関係があるかもしれないが……現状では何とも言えない。これ以上は彼から直接聞かないことにはな………」
そこで弦十郎の言葉は途切れ、その場での話は終わった。
「星がきれいだな……」
廃墟の屋上に寝転がった状態で緑羅は夜空を見上げていた。空には雲もなく、月明かりが煌々と地上を照らし、空の星はそれによく映えていた。
だが、いかんせん街中だからかどうにも陰っている。これが人工物が一切ない場所だと更に美しくなるのだが……
残念だ、と緑羅が寂しそうにため息を吐きながらもよいしょ、と体を起こすとこきこきと首を鳴らす。
「全く……最近本当に多いよね……本格的に巣を潰す必要があるかな……」
そう呟くと、緑羅は一瞬で全身を変異させ、その場から跳び出して街中を猛スピードで駆け抜けていく。
そのまま走っていた緑羅だったが、不意に鼻を小さく引くつかせると、小さな唸り声を漏らす。
そしてスピードはそのままに急に方向を変えて緑羅は別の場所に向かって走り出す。しばらく走って彼がたどり着いたのは広い運動公園のような場所だ。地響きと共に着地すると体を起こしながら小さく体を揺する。
緑羅はゆっくりと周囲を見渡すように視線を巡らせると、
「………出てきなよ。この辺りに潜んでいることは気配で分かってる」
「へえ、気づいたのか。流石はビーストってところか」
その言葉に反応したのか、闇の中からそれはゆっくりと現れる。
白銀の鱗で構成された鎧とボディスーツ。肩には紫の骨だけの翼のようなパーツにそこから生えた同色の鎖のようなパーツ。頭にはバイザーをしているがそれでも隠し切れない長い銀髪。表情は分からないが、声の感じからして少女。
緑羅は少女を睨みながら体を揺する。この力には覚えがある。これは……これは……そう。
「2年前の惨劇を生み出した聖遺物か……!」
感想、評価、どんどんお願いします。
それと、前回の感想で、話せば納得してくれと言う意見がそれなりにありましたが、状況的に難しいです。
もしも彼が仮にノイズと戦えても、それがあまりにも拙く、素人臭かったら、翼も今日初めて使って、まともに戦える状況ではなかったと判断し、それなりに怒りはすれど、納得はしたでしょう。ですが、緑羅はノイズの大群を圧倒し、殲滅しました。つまり翼には緑羅は歴戦の戦士に見えたのです。その彼が奏が死んだ後に戦い始めたとあっては、彼があの時は戦えなかったといっても信じられないでしょう。
そう言ったわけで、あんなふうになりました。