ではどうぞ!
「……よし、とりあえず落ち着け、落ち着くんだ俺……………よし、落ち着いた」
空に向かって絶叫を上げた彼だったが、しばらくわたわたと体を触りまくっていたのだが、そうしているうちに頭が冷えたのかふう、と深く息を吐きながら頷くと、同時に改めて自分の体に視線を落とす。
そこにあるのは見慣れた黒い皮膚ではなく、母親や未希さんなどの人間と同じ体。指も5本で、自分の意志で自由に動かせる。
「どう見ても………人間の体……だよね……でも、体の中には前の俺の力があるよね………どういう事?」
彼は首をかしげながら自分の体に触る。ペタペタと触れる感覚もあり、ちゃんと周囲も見れて、音も聞けて、間違いなく自分の体は機能している。間違いなく自分の体が人間になっている。なのに何で自分の体からは以前の力を感じるのだろうか………
「むう………考えても仕方がない。とりあえず、誰かから話を聞きに行こう。とりあえず、未希さんの子孫のところに行こう。あの人たちなら何かわかるかもしれない」
そうと決まればさっそく移動だ、と彼は立ち上がるが、
「うげ!?」
次の瞬間、バランスを崩してそのまま顔から倒れこみ、強かに顔をぶつける。
「いって……何か……バランスがうまく……って、まさか尻尾がないからか!?」
起き上がった彼が背中を見れば、そこには尻尾なんてない。今まであった体の一部が無くなっているのだ。バランスなんてとれるはずがない。
うむむ、と彼は低く唸るともう一度立ち上がろうとする。今度は慎重に、ゆっくりとした動きで立ち上がっていく。
足元が震えるが、それでも立てないことはない。細く息を吐きながら彼は集中し、ゆっくりと前かがみな上体を持ち上げていき、完全に立ち上がった状態になって、彼はようやくほっと息をつく。
「よし……ここからは歩きだな」
彼はゆっくりと足を前に出していき歩き出す。しかし足裏を離したりせず、俗に言うすり足のような形でゆっくりと足を出す。そのままゆっくりとした動きで動いていき、次第に足裏が離れ始め、覚束無かった足並みは次第にしっかりとしたものになっていき、遂に普通の人間のように滑らかな足さばきで歩き出す。
よし、と彼は小さく頷くと、更に軽く走ったり、ジャンプしたりしながら体の調子を確かめる。
「………うん、こんなものかな」
そこまでやって自分の体がすっかり動くようになったことを確認して彼は満足げに息を吐く。
「これでいいね。後は、彼らの所に行って……って、さっきからなんかうるさいな」
彼はむう、と不機嫌そうに唸りながら音がする方向に向かい、建物の縁に立つと、そのまま下に視線を向ける。
見れば、この付近では一番巨大な建物に向かって人間達が一直線に集まっている。
その様子を見て、彼はんん?と不思議そうに首をかしげながらそれを見下ろす。
「あれは………なんだ?あいつら何やってるんだろう……」
興味をひかれたのか彼はん~~?と唸りながら首を傾げながら、その様子をしげしげと眺めるが、当然それだけでは何が起こっているのか、どうしてあの人間達はあそこに集まろうとしているのかわかるわけがない。
「話を聞きに行く前に、行ってみようかな……ああ、でもさっさと話しを聞いたほうがいい気がするし……」
むむむ、と彼はしばらく悩むように唸り声をあげるがしばらくすると、
「まあ、話を聞くのは別に後でもいいか。今は目の前のあれのほうが気になるし」
どうやら好奇心のほうが勝ったようで、彼はあの建物に向かうことにしたようだ。
「さてと、それじゃあ早速行ってみようかな」
そう呟くと、彼は縁に足をかける。まるでそこから飛び降りようとしているみたいに。実際彼はそうするつもりだ。
だが、その直前で彼はん、と何かに気付いたように動きを止め、飛び降りるのをやめる。
「……このまま飛び降りて、そこを見られたら騒ぎになるか……」
そう呟くと、彼は縁から足を離すとそのまま屋上の縁を歩きながら下を見て人間がいないところを探して回る。
そのまま周囲を回っていくと、全く人通りがない場所を発見する。そこは周囲のビルとビルの間にある路地裏だ。
「お、ここなら見られないかな」
彼はそう言うと、屋上から躊躇なく飛び降りる。彼の体は重力に引っ張られぐんぐん地面に向かって加速しながら落下していくが、彼には恐怖の色はない。
と、彼は不意にビルの途中にあるでっぱりに捕まって勢いを殺し、再び飛び降りる。
それを幾度か繰り返して彼は危なげなく地面に降り立つ。
「よし、こんなものか。高いところから落ちると意外ときついからな」
そう呟くと、彼は歩き出し路地裏から出て、それと同時に周囲の光景を見てへえ、と小さく声を漏らす。
周囲一帯を人間達は思い思いに過ごしている。具体的にいったい何をしているのかまでは分からないが、それでも分かることはある。ここの人間達はみな楽しそうにしている。
そこに住むものが楽しそうにしているなら、そこはいい所。それは彼にとっても変わりはなしない。これだけの人間が楽しそうにしているなら、きっとここはいい所だ。
「それじゃあ………いや、一回自分の姿を確認したほうがいいかも」
そう呟くと、彼は周囲を見渡しながら歩いていく。自分の姿を確認できるところを探しているのだ。確か人間が持っているものの中には自分の姿を確認できるものがあるはずだ。
そうやって歩き回っていると、
「あ………」
大きなガラス張りの個所を発見し、光の加減のせいか自分の姿が映っているのを確認し、彼は足を止めるとそのまましげしげとそれを見つめる。
そこに映っているのは、人間としてそれなりに成長したぐらい(人間で言うなら中学2年生ほどだろうか)の男の子。黒い髪は短く、首にかかるぐらい。精悍ながら少し幼さがある顔立ちで、彼からはいまいちわからないが目の色はオレンジだ。身にまとっているのは母親が一番最初に着ていた服に似た形だが、下半身は足全部を覆う形になっている。
「こんな事になっているんだ………俺の体……」
彼はなるほどなるほど、と納得したように何度も頷くと、満足したように視線を切り、建物に向き直る。
「それじゃあ、あの建物に行ってみるか」
そう呟くと、彼は目的地に向けて足を動かす。
ある程度近づいたところで、彼は足を止め、周囲を見渡す。
ここら辺の人間達はさっきまでのところにいた連中よりも楽しそうだ。楽しそうに周りと話している。
周辺を眺めてから彼は建物を見上げる。やはりここに何かあるのかもしれない。何をやっているのだろうか
「あの………」
不意に声をかけられ、彼はん?と首をかしげながら振り返ると、そこには一人の人間が不思議そうにこちらを見ていた。性別は女。年は自分の外見に近いかもしれない。土の色を薄くしたような感じの髪で、自分と同じぐらいの長さで、後ろの髪が広がっているように見える。
「何?俺に何か用?」
「あ、えっと……何をしているのかなって思いまして……さっきから建物を見上げることばっかりしてたから気になって……」
「ああ、ここで何をやろうとしているのかって思って」
彼がそう言うと、少女はああ、と小さく声を漏らすと、
「今日はここでツヴァイウィングのライブがあるんですよ。私はあまり知らないんですけど……」
「ツヴァイウィング?ライブ?何それ?」
まったく聞いたことのない単語の嵐に彼が首をかしげながら問いかけると、少女は驚いたように目を丸くする。
「えっと……ライブを知らないんですか?」
「ん、知らない。ライブって何?」
「ええっと……ライブっていうのは……簡単に言うと、みんなで歌を楽しむイベントの事です……」
少女が戸惑ったような口調で言うと、彼はふうむ、と顎に手を当ててなるほど、と頷く。
つまり……あの広い檻にいたときに大勢の子供たちが歌っていた。あれのことを言うのだろう。
あの時は歌の力でいろいろと暴走してしまったが、今回はそうはならない。ならば、せっかくここまで来たのだ。そのライブとか言うのを楽しむのもいいかもしれない。
「そっか………そのライブって俺も参加できる?」
「え?いや……チケットがないと無理だと思います……」
「チケット?それがないと無理なのか……所でチケットってどんなの?」
「ち、チケットすら知らないんですか?えっと........こう言うのですけど..........」
そう言って少女は懐から一枚の紙を取りだし、彼に見せる。彼は興味津々といった様子でチケットを眺めるが、少しして残念そうな顔で唸る。
「持ってないなぁ.......と言うことは俺は入れないのか.......」
彼はむう、と困ったように唸りながらしばらく視線を巡らせていくと、
「しょうがない。別の方法で入るか」
「え?」
「それじゃあね。色々ありがとう」
そう言うと、彼は少女に礼を言ってそのまま歩き去っていく。
「あ、あの………別の方法って………どういう事?」
少女はまるで狐につままれたような顔で首をかしげていた。
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今年は楽しみな映画が多すぎる気がするよ。ゴジラにパシフィック、更にジュラシック、いやあ、いい年だ……ゴジラは早く新情報くださいな。最低でも3月まで待たないといけない雰囲気なんだよな……