戦姫絶唱シンフォギア 王を継ぎし者   作:夜叉竜

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 すいません。大事なこと書き忘れていたので投稿し直します。

 遅くなりましたが、皆さん、あけましておめでとうございます。今年も夜叉竜をよろしくお願いします。


1-18

朝から降っていた雨も上がるも空はいぜん分厚い雲に包まれている。

 そんな中リディアン音楽院に登校した響の元に弦十郎から連絡が入っていた。

 

 『響君。今朝未明、市街地の方でノイズの発生パターンを検知した』

 「今朝……ですか?」

 『ああ。幸いにも未明と言う事もあって人的被害はなかった。しかし、ノイズと同時に聖遺物、イチイバルのパターンも検知している。更に緑羅君の反応もそちらに移動していた』

 「イチイバル……クリスちゃん……」

 

 それが示すことは、クリスがノイズと戦ったという事か?いや、それともクリスがノイズを出して緑羅をおびき寄せたのか?

 

 『ちなみにだが、周辺に破壊の跡も、炎の痕跡もなかった。このことから緑羅君は戦闘に参加していないと思える』

 「つまり……クリスちゃんがノイズと戦ったと?」

 『そう考えるのが妥当だな。クリス君はもともとノイズを操ることのできるフィーネと言う人物の元で動いていた。そのクリス君がノイズと交戦したという事は、フィーネがクリス君を計画から切り捨てたという事の裏付けでもある』

 

 その言葉に響は顎に手を当てて少し考えこみ、

 

 「どうしてフィーネはクリスちゃんを狙ったんでしょうか」

 『確かに……計画から切り捨てたクリス君を一度は見逃したにもかかわらず改めてその命を狙う理由か……クリス君は何かフィーネにとって都合の悪い真実を知ってしまい、その隠蔽のためにクリス君を狙ったと考えるのが妥当か』

 「そして緑羅君は……きっとクリスちゃんの知っている情報を欲して……」

 『ああ、現場に急行。そして、クリス君がノイズと戦っているのを見て……もしかしたらその様子を遠巻きに監視し、そしてクリス君がイチイバルを解除したところを確保した可能性が高い』

 「緑羅君……」

 

 それは酷い事だが、緑羅にしてみれば敵を一々助けてやる義理はないし、欲するものを得るに最も確実な手段だ。

 

 『とにかく、この件についてはこちらで引き続き捜査を行う予定だ。響君はそのままいつも通りに過ごしていてくれ』

 「はい、わかりました」

 

 そこで連絡を切り、響は曇天空を見上げる。

 

 「緑羅君……クリスちゃん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人が住まなくなってから10年は経っているであろう廃墟のビルの一角。そこではぱちぱちと小さく火花を散らしながら七輪がたかれていた。

 そしてそのそばに雪音クリスは横になっていた。体には何もかけられていないが。頭の後ろには枕替わりと言うように毛布が丸められておかれている。

 その彼女は悪夢でも見ているのかうなされているのだが、唐突に彼女は目を覚まして勢い良く体を起こす。

 荒い息を吐きながら彼女は慌てたように、怯えるように周囲を見渡して首を傾げる。

 

 「なんだ?ここ……」

 

 当然ながらそこは廃墟なのだが、七輪が焚かれているだけでもおかしいのに、そこには明らかに人が住んでいる形跡がある。その部屋には様々な家具が置かれており、中身が入ったゴミ袋らしきものが置かれている。

 

 「どういう事だ?確かアタシは……」

 

 なぜ自分がこんなところにいるのか分からないクリスは自分の置かれた状況を思い出そうと頭を巡らせる。

 

 「そうだ!アタシはノイズから……」

 

 そこまで考えてクリスはぎりっ、と唇をかむ。

 今朝がたクリスを襲っていたノイズをけしかけたのは彼女の主でもあるフィーネだ。ビーストたちとの戦闘の後、いろいろありながらも拠点に戻り、フィーネを問い詰めたのだが、その答えは裏切りだった。ノイズをけしかけられたクリスはノイズを破壊しながら必死に逃げていたのだ。

 最後の記憶はどこかの路地裏で倒れたところなのだが、なぜ……

 そこまで考えてクリスは小さく眉を寄せる。廃墟の中に足音が響いてきたのだ。隠そうともせず響き渡る足音にクリスは警戒心を強めて部屋への入り口を睨みつける。

 足音はそのままクリスがいる部屋に近づいていきそして入り口から現れる。

 緑がかった黒髪を背中まで伸ばして三つに括り、がっしりとした体つきに整った顔立ちの少年が複数の紙袋を下げている。そしてその少年をクリスは知っている。

 

 「お前は……ビースト……!?」

 

 それは変異する前のビースト、緑羅だった。

 緑羅はじろりと視線をクリスに向けると、

 

 「気が付いたか」

 

 そう言うとそのままずかずかと部屋の中に入ってくる。

 クリスは素早くイチイバルを纏おうと意識を切り替えて……

 

 「あ、あれ?どうして!?」

 

 歌が浮かび上がってこない事に慌ててクリスは首元に視線を落として目を見開く。

 いつも首から下げている待機状態のイチイバルを持ったペンダントが無くなっているのだ。

 クリスが慌てて体をまさぐっていると、

 

 「探し物はこれ?」

 

 その言葉にクリスがばっ!と顔を向けると、緑羅が差し出した右手の親指と人差し指に待機状態のイチイバルが摘ままれている。

 

 「なっ!?いつの間に!?」

 「敵の武器を回収するのは当然だと思うけど?」

 「返せ!」

 

 イチイバルを取り戻そうとクリスが飛び出すが、緑羅は軽く後ろに下がって距離を取るとそのままイチイバルを歯で咥え込む。

 

 「下手なことはしないほうがいいよ。そうしたら俺は容赦なくこの聖遺物のエネルギーを喰らいつくす。そうしたらたとえ取り返しても君はもう戦う術を持たない」

 

 その言葉にクリスは驚愕と共に目を見開いて動きを止めるが、すぐに眦を吊り上げて吠える。

 

 「そんなことできる奴がいるわけがないだろうが!騙されて……」

 「試してみるか?」

 

 そう言い緑羅は噛む力を強める。それを見てクリスはぎり、と奥歯を噛み締めて睨みつける。

 聖遺物のエネルギーを喰いつくすなんてにわかには信じられない。だが、奴の動きはためらないがない。では……だがやはり……でも、もしも仮に本当だとしたら?もしそうなら……

 少ししてクリスはくそっと毒づいて手を下ろす。緑羅は小さく頷くと手に持っていた紙袋のうち一つをクリスに投げ渡す。

 一応受け取ったクリスは警戒しながらその中を改める。中には無地の白いワンピースとタオルが入っている。

 

 「女物は何がいいのか分からないから適当に安いのを選んだ。濡れてたから着替えな。風邪をひきたいならそれで構わないけどね」

 

 そう言われて、ようやくクリスは自分の全身が濡れていることに気づく。雨の中倒れたからだろう。だが、だからと言って素直に応じるなんてできない。

 

 「そんなこと言って、何か仕込んでるんだろう!」

 「だったら着なければいい。それでも俺には何の損もないしね」

 

 だが、緑羅は好きにしろと言わんばかりに肩をすくめるだけだ。その様子にクリスはぎり、と歯を噛み締めるがれと同時に軽くくしゃみを漏らす。どうやら体が冷えてしまているようだ。このままでは本当に風邪をひいてしまいかねない。

 クリスは紙袋を睨みつけてから緑羅を睨みつけ、

 

 「…………部屋から出ていけ」

 「は?」

 「着替えるから出て行けって言ってんだ!」

 

 クリスが怒鳴り散らすと緑羅はやれやれと言わんばかりに首を横に振るとそのまま入り口に向かって歩いていくが、その際に手にしていたもう一つの紙袋を彼女のそばに置く。

 

 「一応ハンバーガーを買ってきた。腹減ってるなら食え。薬の類を疑ってるなら別に食わなくても問題ない。お前がすきっ腹を抱えるだけだし、最終的には俺の飯になるだけだしな」

 

 そう言って緑羅は今度こそ部屋から出ていく。その背中を忌々し気にクリスは睨みつけていたが、そのまま着替えを始める。あの男の言う通りにすのは我慢ならないが、イチイバルを取られている以上、下手な動きはできない。今は大人しくして隙を見て取り返す。そうクリスは決めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 部屋の外で静かに待機していた緑羅だが、部屋の中から音がしなくなったのを確認すると、

 

 「おい、もう大丈夫か?」

 「………」

 「何も言わないと大丈夫って受け取るぞ」

 

 そう言いながら緑羅は部屋の中に入っていく。

 クリスは赤いドレスから緑羅が持ってきた白い無地のワンピースに着替えており、七輪の傍に座りながら緑羅が買ってきたハンバーガーを食べている。

 クリスは口の中にハンバーガーを詰め込みながらキッと緑羅を睨みつけるが、はっきり言ってあんまり怖くない。頬が膨らんでいるからだ。

 緑羅はふう、と小さく息を吐くと彼女が脱いだ服を拾い上げると部屋の一室にしつらえられた服かけにぶら下がったハンガーに服をひっかける。

 そのまま七輪を挟んでクリスの正面に腰を下ろし、そのまま彼女の食事が終わるのを待つ。

 そしてクリスが口の中のものを飲み込んだのを確認すると、緑羅は口を開く。

 

 「さて……俺が敵であるお前を殺さずにこうして保護し、あまつさえ服と飯を与えた理由は、だいたい想像がつくだろう?」

 「………アタシが持っている情報か……」

 

 クリスの答えに緑羅は正解と言うように頷く。

 

 「まあ、その通りだ。素直に話してくれるなら俺は君には危害は加えない。こいつも返すことを約束しよう……ただまあ、その前にだ。ちょいと個人的に気になることがある。その事に関しても答えてほしいかな」

 「気になる……事だって?」

 

 クリスが訝し気に首を傾げていると、緑羅は小さく頷き、

 

 「数日前の襲撃の時、お前は何で未来に手を出さなかった?」

 

 その問いにクリスはは?と小さく首を傾げる。

 

 「未来って……誰だよ」

 「この前の襲撃の時に響のそばにいた女の子の事だよ。なんで彼女を人質にしなかった?俺との関係は分からずとも、人質にしようぐらいは考え付くんじゃない?」

 「ば、バカ言うな!関係のない奴を巻き込むって事じゃねえか!」

 「関係ない……?」

 

 瞬間、緑羅の声が低くなってじろりとクリスを睨みつけ、クリスはびくりと肩を震わせる。

 

 「あれだけ無差別にノイズをばらまいて、関係ない奴を巻き込まないだと?寝言は言え」

 「っ……それは………」

 

 冷たい言葉にクリスは先ほどまでの威勢は無くなり、俯いてしまう。

 緑羅はそれを見ながら内心小さく首を傾げていた。この様子から見て、彼女が関係ない人間を巻き込みたくないと考えているのは間違いない。では、どうして彼女はあんなことをしたのだろうか………いいや、大体わかる。

 

 「……そもそもお前の目的はなんだ」

 「話すと思うか?」

 「話さないなら別にどうでもいい。ただ興味の欠片があるだけ。俺が本当に欲しいのはフィーネの情報だ」

 

 緑羅は淡々とそう答え、その言葉にクリスはじっとクリスを睨みつけ、

 

 「……いいぜ、教えてやるよ。あたしの目的は、この世界にある争いと言う争いを全部根こそぎ叩き潰す事だ!」

 「はい?」

 「力で戦う意思と力を持つ大人共を片っ端からぶっ潰すんだ!そうすりゃ争いは消える!それが一番合理的で現実的な手段なんだよ!」

 

 感情的になって叫ぶクリスを緑羅はぽかん、とした様子で眺めていたが、

 

 「……そんなことできるわけがない」

 「何……?」

 「だってそうだろうが。仮にそれができたとして、また新たにお前を憎む連中が現れ、お前に挑む。それを潰せばまた新たな憎悪が生まれる………お前はこの世に存在しうるありとあらゆる負の感情を自分一人に向けさせ、永遠に世界を相手に殺し合いを続ける気か?」

 

 緑羅が淡々と紡いだ言葉にクリスの表情が凍り付く。だが、それは事実だ。緑羅自身がそうであった。

 無人の島にいようと、怪獣との戦い、えさの確保などでどうしたって人間に被害は出る。そうすれば人間は自分を攻撃する。だが自分も身を守るために反撃する。そうすれば人間は自分を憎んで敵を討とうと挑む。反撃すれば再び憎しみが生まれる。延々と続く負の連鎖だ。

 だが、どうやら彼女はそんなこと考えもつかなったらしい。その表情を見て、緑羅は呆れたようにため息を吐く。

 

 「お前……救いようのないほどのバカなのか?」

 「な、なんだとてめぇ!」

 「当たり前だろ。そもそもなんだが、お前は自分達人間と言う存在を舐めすぎている。連中……いや、お前らはな、たとえどれほど強大な力を見せつけようと、どれ程叩き潰し、焼き払い、吹き飛ばし、殺し続けようと、何度も何度も何度も何度も何度も新たな力を身に着けて立ち向かってくる。下手なゴキブリよりも質が悪い」

 

 緑羅の言葉に反論しようとしたクリスは小さく息をのんだ。緑羅の言葉には信じられないほどの重みがあった。いや、実感と言うべきか?まるで緑羅自身がその様を見続けてきたかのようにその言葉には重みがあった。

 

 「そもそもそれでどうしてノイズをばらまいた。ノイズに対抗する手段がある以上そんな手を使ったところで無意味なのは明白だろうに」

 「それは……フィーネがそうすればうまくいくって………」

 

 その言葉に緑羅は呆れたように視線を向け、

 

 「………はっ。まさかここまでとはな。いや、ある意味想像通りか。じゃなければノイズをばらまくのに疑問を抱くはずだ」

 「な、なんだよ……言いたいことがあるならはっきり言ってみろよ!」

 「別に何もないよ。人形」

 

 緑羅の言葉にクリスは一瞬体を硬直させると、

 

 「だ、誰が人形だ獣風情が!」

 

 激昂したように叫ぶが、緑羅は路傍の石ころを見るような視線を向けると、

 

 「人形だろう?いままでずっと、そうやって、フィーネの言う通りにしてきたんだから操り人形以外の何もでもないだろうに」

 「っ!?……」

 

 その言葉にクリスは目を見開いて硬直する。緑羅は止まらずに口を開く。

 

 「自分の意思を持たずに誰かの命令の通りに動いてばかりで、その行動がどういう結末を招くか、考えもしない……そんな奴が自分の意志で戦う響と風鳴翼に勝てる道理はない」

 「そ、そんな事……」

 「はっきり言ってやろうか?生きてない奴が何で生きてる奴に勝てると思うんだ?」

 「なっ!?あ、あたしが死んでるって言いたいのか!?」

 「いいや、お前は死んでいない。そして生きてもいない……生きるっていうのは意志を持つって事だ。自分の意思を持って、自分で考えて、自分で動く。それが生きるっていう事……命ある者だ。意志を持たずに何も考えず、言われるがままにしか動けない者は意志無き者……命がない物だ」

 

 そう言う緑羅に対し、クリスは反論できなかった。何か反論しようとするのだが、まるで体がその通りだと認めているかのように反論を封じていた。

 それに構わず、緑羅は断言する。

 

 「命無き物が、命ある者に勝てる道理はない……お前は最初っから負けてたんだよ」

 

 その言葉にクリスは今にも泣きだしそうな表情を浮かべ、顔を俯かせてしまう。

 その様子を見ていた緑羅は小さく鼻を鳴らす。いささかやりすぎてしまったかもしれないが、はっきり言ってこれぐらい言わないと緑羅の気が済まなかった。情報収集に難が出るかもしれないが、それはそれだ。無いなら無いでやりようはある。

 さて、どうするかと緑羅は視線を外に向けた瞬間、

 

 「……すれば……んだよ」

 「ん?」

 

 緑羅が目を向けた瞬間、クリスは泣き叫ぶ。

 

 「じゃあどうすればよかったんだよ!アタシがやることはいつだって意味がなかった!何時も何時も何時も何時も何時も!アタシの言葉も、行動も全部意味がなかった!そんなあたしにどうしろっていうんだよ!」

 

 涙を流しながらクリスは緑羅を睨みつける。まるで様々な感情がないまぜになって、しかしそれをどこにぶつければいいか分からず、癇癪を起す子供のような姿。それを見ながら緑羅は小さく息を吐き、

 

 「知らないよ。それを決めるのもお前の意志だ。一度やったことがあるんだからあとは自分でどうにかしなよ」

 

 その言葉にクリスは泣きながらもピクリと肩を震わせると、赤い目で緑羅を睨みつける。

 

 「なんだよ急に……人形とか言っておきながら急に意志があるみたいな言い方……」

 「俺は事実を言ってるだけだ……あの時の戦闘で赤い聖遺物を纏ったのは……お前の意志だろう?」

 「それは……」

 

 確かにその通りだ。あの時クリスが受けていた命令は響の確保とビーストの血の採取だ。だが、クリスはその全てを無視して全力で二人を潰そうとした。命令ではなく、自分の意志で。

 

 「なんであれ、お前が自分の意志で何かを決めたのは事実だ。俺から言わせればあまりにもつたないが、それでもお前の意思だ。それを腐らせるか、育てるかは君次第だけどね」

 

 もう言いたいことは言ったと言わんばかりに緑羅は視線を切って口を閉ざし、クリスは何も言わずに戸惑うように視線をさまよわせる。

 が、そこで緑羅が険しい表情を浮かべながら低いうなり声を漏らして廃墟の外を睨みつける。

 何を、とクリスが疑問に思った瞬間、街中にけたたましい警報音が鳴り響く。

 

 「来たか……」

 

 そう言いながら緑羅は廃墟から身を乗り出して忌々しげに下を睨みつける。そこには外に出ていた者、家にいた者、大勢のる人間が慌てて逃げ出している。

 

 「おい、何の騒ぎだ?」

 

 だが、クリスは事態が呑み込めていないのか困惑したように問いかけてくる。

 

 「ノイズだよ。この感じだと……街中に解き放たれるみたいだな」

 

 緑羅が険しい表情でそう言うと、クリスの表情が強張る。

 

 「君はここにいな。戦う力も持たない以上来られて死んでも困るしね」

 

 そう言うと緑羅は瞬時に変異し、飛び出そうとするが、

 

 「ま、待ってくれ!」

 

 その尾をクリスがつかんで引き留める。

 緑羅はゆっくりと振り返り、クリスを睨みつける。

 

 「なんだよ」

 「イチイバルを返せ!そんであたしも……あたしも連れてってくれ!」

 「は?なんでそんな事……」

 「これは……あたしが原因だ。あたしが雲隠れしたから、フィーネは無差別に街を襲いやがったんだ……だから!」

 「は?何を言ってるんだ。お前が今までやってきたことと何の変りもないだろう」

 

 が、緑羅の言葉にクリスは一瞬泣きそうな表情を浮かべる。

 

 「それに、そんな事して逃げられでもしたら意味がない。返すわけがないだろう……大人しくここにいな。どうせ響か風鳴翼も来るだろうしね」

 

 そう言って緑羅は軽く尾を振ってクリスを払うと今度こそ飛び出そうとするが、クリスはうつむいたまま緑羅の尾を再び、今度はさらに強く握りしめる。緑羅は苛立ったように唸りながら振り返る。

 

 「おい、いい加減に……」

 「頼む……あたしも連れてってくれ……連れて行ってくれたら、あたしの持ってる情報全部やるし……あたしを好きにしていい。何を言われても、お前に逆らったりしない」

 「………」

 「お前の言う通りなのかもしれない……あたしは……今までずっと言われたとおりにしか動けない人形だったのかもしれない……でも、だからってここで動かなかったら……あたしはずっと人形のままだ……そんなのは嫌だ……だから……だから……!」

 「今までさんざんやってきて……そして今度は助ける?図々しいと思わない?」

 

 クリスはびくりと肩を震わせるが、それでもと言わんばかりに涙目で緑羅を睨みつける。

 

 「……ずいぶんと厚い面の皮だ。恥知らずとでもいったほうがいいか?」

 「………」

 「だが……人形に比べれば遥かにマシだ」

 

 そう言うと緑羅はイチイバルをクリスに投げ渡す。

 

 「啖呵切ったんだ。へまは許さないよ」

 「……ああ、分かってるつうの!」

 

 クリスは受け取ったイチイバルを首にかけ、

 

 「Killiter Ichaival tron」

 

 聖詠を歌い上げ、イチイバルを纏い、緑羅と同様に廃墟の窓に足をかける。

 

 「お前が囮として奴らの注意をひきつけ、それを俺が焼き尽くす。異論はない?」

 「ああ」

 

 次の瞬間、二人そろって廃墟から飛び出し、手始めにクリスが両手のボウガンで上空の鳥型ノイズを撃ち抜く。

 それによってクリスの存在に気づいたノイズたちは一斉に二人を追って動き出す。

 そのまま街中を移動し、ノイズにちょっかいをかけながら引き寄せていく。そして最終的に人気のない川辺にたどり着いた二人が振り返れば、無数のノイズがひしめいた。どうやら作戦通り引き寄せることができたらしい。

 緑羅はガントレットに巨大な火球を形成するとそれを上空に打ち上げる。

 

 ー惨火ー

 

 炸裂した火球が火の雨となってノイズに襲い掛かり、焼き払う。

 緑羅を排除しようとノイズたちが襲い掛かるが、

 

 「あたしを忘れんな!」

 

 クリスは両腕にガトリング砲を携えてノイズに向け、

 

 ーBILLION MAIDENー

 

 弾幕がまき散らされ、ノイズを次々と撃ち抜き、煤に変える。

 上空の鳥型ノイズが頭上からクリスに襲い掛かるが、緑羅が炎を纏ったガントレットを勢いよく薙ぎ払う。

 

 -赫絶ー

 

 炎はそのまま壁のようになって鳥型ノイズの攻撃を防ぎ、逆に焼き払う。

 緑羅はガントレットの爪を青白く光らせると、それを連続で振るう。

 

 ー斬葬ー

 

 4つの斬撃が連続で放たれノイズを引き裂いていく。

 その隙にクリスはボウガンで次々とノイズを撃ち抜いていく。

 あらかたノイズを殲滅したところで、緑羅はピクリと顔をしかめると振り返りながらガントレットを繰り出す。

 瞬間、後ろの川から触手が放たれるが、緑羅はそれを弾くとそのまま飛び出して触手をつかみ上げるとそのまま勢いよく振り上げる。

 まるで一本釣りのように川の中からタコ型のノイズが引きずり出され、

 

 ーMEGA DETH PARTYー

 

 クリスが無数の小型ミサイルを放ち、タコ型を吹き飛ばす。

 上空の緑羅はそのままガントレットを構えると炎を纏い、急降下し、勢いよく地面に叩きつける。

 

 ー熔裂ー

 

 その衝撃でノイズを吹き飛ばし、更に地面から無数の火柱が立ち上り、ノイズを飲み込んでいく。

 そこで二人は周囲を見渡す。ノイズは見当たらず、残った気配の近くには響がいるようだ。

 

 「まあ、こんなところでいいだろう。あとは響たちに任せよう」

 「……」

 

 緑羅はそのまま元の姿に戻り、クリスもイチイバルを解除する。

 

 「……ほら、行くよ。まさかとは思うけど、逃げようなんて考えてないよね?」

 「……なめんな。ちゃんと教える……」

 

 そう言うとクリスは歩き出した緑羅の後を追うように歩き出す。

 


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