ではどうぞ!
「ふざけるな……」
廃墟の中で七輪に緑羅が捕ってきた魚介類をかけながら緑羅は不機嫌そうに眉をひそめ、クリスはその緑羅を唖然とした様子で見つめている。
あの弦十郎の訪問から少し、緑羅はクリスから過去に何があったのか聞いていたのだが、その内容に緑羅は低いうなり声を漏らす。
そもそものきっかけはクリスの両親の死。彼女の両親は二人とも有名な音楽家だったらしい。そして二人の夢は歌で世界を平和にすること。まあ、それ自体は別にいい。緑羅自身それは悪い事ではないと思う。だが、彼女の両親は何をトチ狂ったのか10にも満たないクリスを連れて紛争地帯に入ったのだ。どういう理由があったかは知らない、事情があったのかもしれないが……それがなんだ。理由があれば戦場に連れて行っていい事にはなるとでも思っていたのか。
なぜ10にも満たない子供を紛争地帯に連れていく。なぜ愛するわが子を危険な地域に連れていく。その軽率な行動の結果、地雷に巻き込まれ彼女の両親は死に、クリスは生き残ったが捕虜としてとらえられ、6年もの間地獄を味わい続けた。
2年前に国連によって助けられ、日本に帰国しようとする直前でフィーネと出会い……いや、フィーネが見つけ、そのままフィーネの言葉に乗ったようだ。
「子供を紛争地帯に連れていく……?ふざけるな。どういう場所か分かっていたはずだ。自分たちは大丈夫だとでも思っていたのか?そんな甘い考えの結果こいつは……ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな!!」
感情が高ぶったのか緑羅は勢いよく拳を振り下ろし、床を殴りつける。鈍い音と共に床に罅が走り、クリスは思わずびくりと体を震わせる。先ほどからこの調子だ。クリスが身の上話をしていくとそれに従って緑羅が怒りを滲ませ、クリスはそれに戸惑いを覚える。そして戸惑うように緑羅に視線を向け、
「お前……なんでそんな怒ってんだよ……」
思わずそう言っていた。彼からしてみれば自分はただの情報源のはずだ。人形のはずだ。なのになぜそんな風に怒りをあらわにする。なぜ……………自分のために怒っている。普段のクリスであればそう簡単に信じないだろうが、ここ数日一緒に暮らして感じた緑羅への印象、先ほどの弦十郎との会話、話していくうちに変わっていく表情、そして振り下ろした拳で床を破壊したのを見ると……
「なんで?自分の子を進んで危険な目に合わせるような連中に怒りを覚えることがそんなにおかしい?」
「で、でも、あたしはお前の敵だぞ!?今は情報提供者なだけで……」
「そんなの俺には関係ない。俺は怒りたい事に怒る。そんだけだ」
緑羅は腕を組みながらそう言い、クリスはむう、と声を漏らしながら緑羅をじっと見つめる。だが、緑羅は特に何かいう事もないのか憤懣とした様子で腕を組んでいる。
変わっている。普通の連中なら、ここで大変だったね、とか、もう大丈夫だよとか言ってくる。実際そうだった。国連の連中も、そしてフィーネも。だが、緑羅は何も言わない。慰めたりもしない。
「…………」
「………なんだよ。慰めてほしいのか?そんなことしたって意味ないでしょう」
クリスの視線の意味に気づいたのか緑羅は呆れたように肩をすくめ、
「俺は君じゃない。だから君の苦しみなんて理解できない。たとえ同じ目にあったとしてもね。そんな奴が慰めたって意味なんてほとんどない……結局のところ、最後に決めるのはお前自身だ。自分を救い、前に歩き出すかそのまま崩れ落ちるかを決めるのはいつだって自分の意思なんだから」
その言葉にクリスの胸はほのかに熱を帯びるが、クリスはそれに気づかず、そのまま緑羅に問いかける。
「……なあ」
「ん?」
緑羅が視線を向けると、クリスは以前から気になっていたことを聞く。
「お前……親はどうしたんだ?どうして一人で……」
それがずっと気になっていた。緑羅は見たところ自分たちと同い年だ。普通なら親がいるはずだ。もちろんこの異常な存在に普通が適用されるか疑問だが、それでも、親を知らないという雰囲気ではない。それでは……
クリスの疑問に緑羅は特に隠そうとすることもなく口を開く。
「二人とも死んでる。天涯孤独の身で、俺の体が普通じゃないから一人で動いてるだけだよ」
その言葉にクリスは軽く息をのみ、その視線に同じ奴を見つけたような雰囲気が滲むが、緑羅は小さくため息を吐く。
「言っとくけど、俺とお前は違う。お前は理不尽に親を奪われた。だが、俺の父さんは俺を守って死んでいったんだ。母さんも寿命で死んだ。境遇は似てるが全然違う」
「っ……でも、置いて行かれたんだぞ……なんでって思わないのかよ……」
「……確かに、父さんは俺の目の前で死んだ。だが、父さんは死ぬ寸前まで敵と戦い、俺を守ってくれた……その事を恨むなんて筋違いだ」
「………お前はいいな。そんないい大人に囲まれて……」
思わずと言うように憎々し気にクリスが呟いた瞬間、
「別にそう言うわけじゃない。俺の体の秘密を狙った連中なんて腐るほどいたぞ。個人で信用できる奴はいるけど、組織とかそう言うのでは信用ならない。そう言う話さ」
そう言いながら緑羅は肩をすくめる。
「そして、俺から見れば君の親も信用ならない連中だ。いかなる理由があろうと、わが子を戦場を連れていく時点で間違いだ。君自身が強くそれを……親と一緒にいたいではなく、どういう場所か知ってなお行きたい望んだというのなら……まあ、話は別だけど」
「い、いや、そう言うわけじゃ……」
「なら信用ならない。そしてそいつらの行動を俺は許せない……で、これが俺の評価だけど、君は両親をどう思ってるんだ?」
「え?」
緑羅の問いにクリスは目を丸くする。
「君自身は、両親をどう思ってるんだ?」
「あたし自身って……お前は……」
「それはあくまでも俺自身の評価だ。君自身の評価とは違う。他人の評価で自分の評価を決めるな。君自身が自分で考えて、悩んで、答えを出せ」
その言葉にクリスの胸はほんのりと熱を帯びる。普通ならばきっと信用しない……いや、最初の頃の自分なら絶対に信じたりはしない。だが、今のクリスはその言葉を信じることができた。もしもこれが一般的な対応ならここで君の親にも事情があった、とか、何か大切なもののために両親は戦った、なんて言葉が出るだろう。
だが、緑羅は違った。あくまでも冷静に、冷徹に自身の評価を下し、それを考慮せずに自分で決めろと言ってくる。
それは、ともすれば冷たいと言われるかもしれない。だが、今のクリスにはそれがうれしかった。一人の人間として認めてくれているような気がして……
(ああ、そうだ……こいつは、あたしを一人の人間として対等に見てくれているんだ。あいつらみたいに道具扱いだったり、フィーネみたいに駒だったり、アイツみたいに救うでもなく、一人の、雪音クリスとして……)
クリスはそのまま無言で小さく頷き、緑羅はふん、と鼻を鳴らすとすぐに荷物をまとめ始める。
「さっさと準備しな。ここはもうバレてる。すぐに移動するよ」
「お、おう」
緑羅の言葉にクリスはすぐに頷き、少ない荷物をまとめ始める。
そのまま荷物をまとめ終えると、緑羅とクリスは外に出る。それと同時に緑羅は軽く指を鳴らす。瞬間、青白い炎が部屋の中を蹂躙する。
それを後目に緑羅とクリスは廃墟を後にする。
それから幾日から経った頃、緑羅は街中ではあ、とため息を吐きながら空を見上げていた。
弦十郎の訪問から数日が経過していた。すでに拠点を移した緑羅とクリスだが、そこでクリスはフィーネに関する情報を話し始めていた。
曰く、彼女には何らかの目的があるようで、そのためにネフシュタンの鎧を手に入れた。デュランダルを欲しがったのもそれに関するようだ。また、シンフォギア装者としてレアなケースである響と緑羅を欲したことから、シンフォギアにも深い知識があるようだ。また、どうやらバックにはアメリカが関わっているようだが、一種の利害の一致による関係である。
そして、よくクリスに電気ショックなどによるお仕置きをやっていたそうだが、なんでそれで今まで信じてきたのかと呆れたものだ。
そしてついに聞き出したフィーネの根城。だが、緑羅はそこにすぐに攻め入るつもりはなかった。クリスからその時は自分も乗り込みたい、決着をつけたいと言われたので、その望みを叶えて上げるつもりだ。
だが、彼女はまだそこら辺に関しては踏ん切りがつかないようなので、彼女の準備が整うまで待つつもりだ。それに、時間を置いたほうがフィーネの油断も誘いやすいだろう。
そんな事を考えながら緑羅は街中を散策していると、
「あ!緑羅君はっけーーーーん!」
その声にん?と振り返るとこちらに満面の笑みで響が駆け寄ってくる。更にその後ろから私服姿の未来、そして翼までもがやってくる。
「お、響に未来に……風鳴翼?珍しい組み合わせだな」
「うん。実は翼さんが完全に復帰してね、それで、これからはアーティストとしても復帰するっていうから、忙しくなる前に遊びに行こうって話になって」
「ふうん……で、未来は……」
「あ、うん。緑羅君には言ってなかったけど、私、これからは二課の外部協力者って立場になったんだ」
「そうなんだ……それにしても、遊びに出るってどういう風の吹き回し?」
緑羅が問うと翼は少し恥ずかしそうにそっぽを向く。
「別にいいでしょう……私だって息抜きしたい時だってあるわ」
「まあ、それもそうか……」
緑羅が頷いていると、
「あ、そうだ!せっかくだし緑羅君も一緒に行こうよ!こういうのは大勢のほうが楽しいし!」
「それいいね!行こうよ、緑羅君」
響と未来が嬉しそうにそう言いながら緑羅の手を取ってくる。
「え?いや、でも……」
緑羅はちらりと翼のほうに視線を向ける。が、翼は小さく息をつくと、
「そうね。色々と話も聞きたいし、私は構わないわよ」
そう言い、緑羅は軽く目を見張る。まさかまだ事情を話していないにも一緒に遊ぶことを許可するとは……翼はこの機会に話を聞きたいのだろうが、それにしても……
ここで緑羅はちらりと視線を翼の背後に向け、少し目を細めて小さく息を吐くと、
「いや、ごめん。俺、これから用事があるからさ。3人で楽しんできなよ」
「え~~」
「そっか……それじゃあ仕方ないのかな……」
「悪いね。また今度時間が空いた時にでもね」
「う~~、でも……」
「立花。無理強いはよくないわよ」
「う~~~……はい……」
響はしょんぼりとした様子で肩を落とすと渋々頷く。
「それじゃあ、緑羅君、またね」
「ん、また」
未来が手を振ると緑羅も手を振り返し、そのまま3人は街中へと消えていく。
それを見送った緑羅は小さく息を吐きながらその場で腕を組むと、
「……風鳴翼が丸くなったのは君がなにかしたから?」
『う~~ん、ちょいと違うな。確かにきっかけは与えたけど、やっぱ一番は響がきっかけだよ』
「そっか……ま、あの調子なら今後は暴走とかはないかな」
『う~~ん……多分な。ずいぶんと柔らかくなったけど、まだまだ固いからなぁ……悪いけど、翼の事見てやってくれ』
「保証はできないけどね…………悪かったね。2年前、助けてやれなくて」
『……気にするなって。仕方がなかった。本当に間が悪かったんだ……』
「そんなので片付けていいわけないだろう……」
『あはは、お前も翼に負けず劣らず固いなぁ……もうちょっと力を抜かいないと折れちまうぞ?』
「あいにくとそこまで柔じゃないさ」
『全く……あの子の方も頼むな』
「……ま、気にはかけるさ」
『おう。それじゃあ私はもう行くな』
それと同時に緑羅の視界の端で赤く、透けた長い髪が翻るが、緑羅は特に気に留めることもなくその場を後にする。そこらへんに当たり前のように存在している者たちなのだから気に留める必要もないのだ。
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