戦姫絶唱シンフォギア 王を継ぎし者   作:夜叉竜

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 更新しますね。ではどうぞ!


1-22

 街から離れた森の中の湖のほとりに一軒の洋館が立っている。一見すると中世ヨーロッパ風建築の趣のある建物なのだが、崖側の部分は金属製の何かで覆われた部分があり、異様な雰囲気を発している。

 その洋館を森の中から緑羅とクリスは見つめていた。

 

 「あれが拠点?」

 「ああ、そうだ」

 

 ここに来たのはようやくクリスがフィーネと決着をつける覚悟を決め、使っていた拠点の場所を教え、こうして強襲を仕掛けに来たからだ。

 

 「それじゃあ……奇襲を仕掛けるために聖遺物は纏わないで行くよ」

 「ああ、異存はねえ」

 

 二人は一回顔を見合わせ、小さく頷くと素早く動き、洋館の中に入っていく。そのままゆっくりと罠などを警戒して洋館の中を歩いていくのだが、次第に二人は訝しげに首を傾げる。

 

 「どうなってんだ?アタシらが来てるのなんてとっくに気づいてるだろうにノイズの襲撃も罠の一つもないなんて……」

 「それに妙に静かだな……人の気配もない……フィーネがいるとしたらどこ?」

 「ああ。奥に大広間がある。そこでフィーネはいつも研究をしてた」

 「よし、そこに行くよ」

 

 二人はそのまま洋館内を進んでいき、いよいよ大広間にたどり着く、と言ったところで緑羅が立ち止まってクリスを制する。

 

 「とまれ、雪音クリス」

 「と、とと……な、なんだよ。どうした?大広間ならすぐそこだぞ?」

 

 だが、緑羅は小さく鼻を引くつかせてから低いうなり声を上げると即座に変異し、クリスは驚いたように目を丸くするが、

 

 「………雪音クリス。聖遺物を纏え。血の匂いがする」

 

 その言葉にハッとすると即座に聖詠を歌い上げ、イチイバルを身にまとう。

 そして緑羅が前に、クリスは緑羅の後ろについて一回顔を見合わせて頷き合うと、一気に大広間に突入する。

 

 「こいつは……」

 「どうなってんだよ、こいつは……!?」

 

 大広間を見て二人は驚いたように目を見開く。そこには武装した人間が何人もいたのだが、その全てが力なく地面に転がり、その下には血だまりができている。素人目に見ても死んでいることが分かる。また、大広間内は銃撃でもあったように机に椅子、奥の何らかのモニターと機械が破壊されている。

 緑羅は死体の一つに近づいてその顔を確認する。

 

 「日本人じゃない……外人か?何か心当たりは?」

 「あ、ああ……時々、フィーネがどこかに英語で連絡を取ってたけど……」

 

 ふむ、と緑羅が死体から手を放し、血だまりに手を触れる。

 

 「……固まっていない。死んで時間は経ってないって事か……だとしたら……」

 

 緑羅がガントレットで顎を撫でながら考えていると、広間の入り口から物音が聞こえてくる。

 二人がすぐさま警戒をあらわに入り口に視線を向けると、そこから弦十郎が現れ、大広間を見て険しい表情を浮かべる。

 

 「お前は……」

 「ち、違う!あたし達じゃない!そもそもあたし達はついさっきここに来たばかり……」

 

 クリスが言い終わる前に弦十郎の背後から黒服たちが何人も入ってくる。

 二人は警戒するように身構えるが、男たちは二人を無視するとそのまま広間を調べ始める。その様子を呆然と見ていると、弦十郎は緑羅とクリスの前にやってきて、その頭に優しく手を置く。

 

 「誰も君達がやったなどと疑っていない。全ては君や俺たちのそばにいた彼女の仕業だ」

 「君……達……?」

 

 その言葉に緑羅は小さく眉を動かし、唸り声を上げる。その視線を受け、弦十郎は小さく頷く。

 

 「風鳴指令!」

 

 ふいに広間を調べていた男の一人が名前を呼び、3人がそちらに視線を向けると、一つの死体に紙が貼られている。

 そこには英語でI love you、そしてローマ字でSAYONARAと書かれている。男がその紙を手に取ろうとしたいから剥がした瞬間、部屋の一角が爆発を起こす。さらに、それに連鎖するように次々と爆弾が爆発していき、洋館の屋上を吹き飛ばす。

 爆発が終わり、広間が瓦礫で埋め尽くされた中、緑羅はそのまま頭上に掲げたガントレットを静かに下す。爆発が起きた瞬間、頭上に崩炎を放って瓦礫を吹き飛ばしたのだ。

 

 「無事?雪音クリス」

 「あ、ああ」

 「すまん、助かった」

 

 緑羅は静かに周囲に視線を向け、クリスの安全を確認する。そばにいた弦十郎もまた無事のようだ。

 どうやら黒服たちも無事なようで、瓦礫の隙間から次々と姿を現す。

 その様子を確認するように視線を巡らせていると、

 

 「んん?あれは……」

 

 緑羅の言葉にクリスと弦十郎がそちらに視線を向けると、そこには今までなかった壁の隙間が見えた。恐らく、今まで隠されていたのが先ほどの爆発で露見したのだろう。

 緑羅は無言でそこに向かっていき、クリスと弦十郎もそれについて行く。

 隙間にたどり着くとガントレットをの爪を差し込み、力づくでこじ開ける。そうして露になったのは壁によって隠された隠し通路だった。

 

 「なんだこれ……こんな場所あたし知らねえぞ」

 

 どうやらここで暮らしていたクリスも今まで知らなかった場所らしい。

 緑羅はガントレットを動かすとそのまま通路の中を歩いていき、クリス達もそれに続いて通路を歩いていく。 

 そうしてたどり着いたのはとある一室だ。そこは地下室のようで外からの光はないが、いくつかの無事な照明のおかげで薄暗い状況だ。その中で無数の機械や何らかの液体で満たされたポッド、空っぽの檻などが配置されている。

 

 「な、なんだここ……」

 「ふむ……明らかに何らかの研究室と言うのは分かるが……これまでと毛色が違うな……動物実験でもしていたのか?」

 

 弦十郎とクリスが部屋の中を見て回っている中、緑羅は嫌な予感を感じ取り、慌てて周囲を見渡す。そして部屋の一角に無数の書類が積まれた机を見つけるとそこで資料を手に取って目を通す。

 それに気づいたクリスもそちらに向かい、資料を手に取ってみる。

 

 「……G……細胞の投与研究課程観察……?なんだ、G細胞って……」

 

 クリスが首をひねって更に資料を捲ろうとして、

 

 ドゴンっ!!と言う音が轟き、クリスと弦十郎は驚いたようにびくりと体を震わせて隣に目を向ける。

 そこには机に両こぶしを叩きつけて粉々に粉砕した緑羅がいたのだが、その顔を見てクリスは小さく悲鳴を上げる。

 その顔は憤怒に染まっていた。阿修羅もかくやと言う歪み切った表情、目は血走り、ぎょろぎょろと動き回り、口元からはその荒々しい内面を表すかのように浅い呼吸が何度も繰り返されている。両手は固く握りしめられ、体は震えている。

 

 「………そうかよ。全部手遅れだったわけだ………くそったれが………」

 「な、なあ……どうした?」

 「緑羅君、何かあったのかい?」

 

 クリスと弦十郎が恐る恐ると言った様子で話しかけてくるが、緑羅は疎に反応することもなく拳を握りしめ、ギリギリと歯を噛み締める。

 しばらくして、緑羅ははあ、はあと息を整えるように深く息を吐くと拳をほどいてゆっくりと体を起こす。

 そしてふう、と小さく息を吐いて体を起こすとゴキゴキと首を鳴らす。

 だが、その身の剣呑な雰囲気は変わっていない。その雰囲気のまま緑羅は身をひるがえすと、

 

 「……戻るよ。今すぐ全員この部屋から出ろ」

 「いや、戻るって……もうちょっと調べたほうがいいんじゃ……」

 「そうだ。俺たちとしてもこの部屋は調べないわけには「いいからさっさと出ろ……全員殺されたいのか?」っ……」

 

 緑羅はそう言いながら弦十郎を殺気のこもった目で睨みつける。その目に弦十郎は気圧されるように息を詰まらせる。

 その目を見た瞬間弦十郎は確信した。彼は殺ると。

 

 「………分かった。行こう、クリス君」

 「あ、ああ……」

 

 クリスと弦十郎は部屋を後にし、緑羅もそれに続いていく。

 そして3人が部屋の外に出たところで緑羅はガントレットの爪を鳴らす。

 瞬間、青白い炎が巻き上がり、部屋の中の全てを焼き払う。

 

 (もうほとんど意味はないだろうけど………やらないよりはマシだ……そう遠くないうちにばれるとしてもだ)

 

 そう考えながら緑羅は広間に足を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、緑羅達は屋敷の外に移動していた。弦十郎たちは外に車に乗り込んでいく。

 

 「それで、どうだ二人とも。これを機に俺たちと共に来ないか」

 「ふざけんな。アタシはお前らの事なんてこれっぽっちも信用してねぇ。こいつだって信用してないから一緒に行動してねえんじゃねえか」 

 

 緑羅も同意なのか小さく頷く。

 

 「そうか……だが二人とも忘れるな。お前たちの道は遠からず俺たちの道と交わる。緑羅君が響君と同じ道を歩いているようにな」

 「知らねえよ。そもそも今まで戦ってきた者同士が一緒になれると思うか?世慣れた大人のくせにそんな綺麗ごとを言えるのかよ」

 「まあ、同感だね。敵が共通なら分からなくもないが恨みつらみがあればそんな事はできない」

 「子供のくせに本当にひねてるなぁ……そうだ、これを」

 

 と、弦十郎はポケットから何らかの機会を取り出してそれをクリスに投げる。それを受け取ったクリスはまじまじとそれを見つめる。

 

 「通信機?」

 「限度額内なら公共交通機関が利用できるし、自販機で買い物だってできる代物だ。便利だぞ?安心してくれ。発信機の類は仕込んでいないから」

 

 その言葉に緑羅は胡散臭げに眉をひそめ、通信機を睨みつける。それを見て弦十郎は車に乗り込んでエンジンをつける。

 

 「カ・ディンギル!」

 「「ん?」」

 

 と、クリスが発した単語に緑羅と弦十郎はそろって首を傾げる。

 

 「フィーネが言ってたんだ。カ・ディンギルって。それが何なのかは分からないけど、そいつはもう完成しているみたいなことを……」

 「カ・ディンギル………」

 「後手に回るのは終いだ。こちらから打って出る!」

 

 弦十郎はそう言うとほかの車と共にその場を去ろうとするが、

 

 「おい、風鳴弦十郎。響と未来と風鳴翼に伝言だ」

 「伝言?」

 「今から2日後にこの屋敷に来いと伝えろ。それで伝わる。お前らも知りたかったら来ていいぞ」

 「……分かった」

 

 弦十郎は今度こそ、その場を車で後にする。

 

 「ビースト……お前何する気だ?」

 「………今まで何とか誤魔化してきたけど全て意味がなかった。ならばもう、隠すことに意味はない。資料は渡すつもりはないけどね……雪音クリスも知りたかったら来ていいよ。俺の秘密について教えてやるよ。フィーネがどうして俺の血を欲しがったのかも含めてね」

 「それは……!」

 

 クリスは一瞬言葉に詰まるも、少しすると分かったと言うように小さく頷く。

 

 「それじゃあ行くよ…………ああ、そうそう。いい加減ビーストっていうのはやめろ。俺には五条緑羅って名前があるんだから」

 「あ、お、おう。分かった……………………緑羅」

 

 クリスが若干頬を染めて名前を呼ぶと緑羅は満足げに頷いて歩き出し、クリスもそれに続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はぁ………」

 「どうしたの響。ちょっと前から変だよ?」

 「未来………」

 

 その日の学校からの帰り道。響が深いため息を吐くと未来が響の顔を覗き込みながら問いかけてくる。

 

 「いや、何でもないよ……」

 「なんでもなくないでしょ。ちょっと前から明らかに元気がなくて、気にするなってほうが無理だよ」

 「………」

 「また何か隠してるの?私は響を支えるって決めたんだから、何かあるなら言って欲しいな。話を聞くぐらいなら私にだってできるんだから」

 

 未来の言葉に響は小さくうめき声を上げてから、小さく頷くとぽつぽつと言葉を紡ぐ。

 数日前のライブの時、ノイズを倒しに行ったらすでに緑羅とクリスの手で倒されていたこと。その後、ライブに誘ったのだが断られて、更に緑羅とクリスが普段から一緒に行動していると言われたら急にクリスの事が妬ましくなって、更に言えば緑羅にも何だか嫌な気分を抱いて、無理やり連れて行こうとしたり嫌な事をしてしまって、結局胸の中の嫌な感じがずっと晴れていないのだ。

 

 「本当に……どうしちゃったんだろう……私………」

 

 そう言う響の横顔を見て、未来はやっぱり……とほんの少し寂しそうな、しかし納得したような表情を浮かべる。

 

 「そっか………うん、そうだね……何といえばいいのかな……響はさ、そのクリスってことどうしたいの?」

 「え?そりゃ、仲良くなりたいよ。同じ奏者だし、何か困っているなら助けてあげたいし……友達になりたい」

 「うん。そっか。それじゃあ……緑羅君とはどうしたい?」

 「緑羅君?う~~ん…………なんだろう、よく分からないかも……」

 「そっか……「だけど……」だけど?」

 「できれば、もうちょっと一緒に過ごしたいって思う。緑羅君ともっといろんなところに行きたいし、色んなことをしたい。もっと……緑羅君と仲良くなりたいかな……」

 

 その言葉に未来はそっか、と小さく頷く。

 聞くまでもなく、響のそのもやもやとしたものの正体は分かっている。自分も彼に似たようなものを抱いているのだから。だが、それはできれば自分自身で気付いてほしいものだ。それでこそ価値があるだろう。

 

 「うん……友達になりたいけど、いやな感じがあって、うまく話せないんだね。そっか………響。あんまり深く考えちゃだめだよ。リラックスリラックス」

 

 そう言いながら未来はムニムニと響の頬を揉む。

 

 「むにゃ、ちょ、未来……」

 「いやな感じがあっても、響がそのクリスって子と友達になりたいって思いも本物なんでしょ?」

 「う、うん」

 「だったら、その子にその思いを真っ直ぐにぶつければいいんじゃないかな?悩んでばかりって、響らしくないし、緑羅君に心配かけちゃう。悪いと思ってるならごめんなさいって言えばいいんだし」

 「未来………」

 「迷ったら走る。響の得意分野でしょ?」

 

 未来の言葉に響はその顔に少しずつだが、笑みを取り戻し、うん、と頷く。

 

 「そうだね。いつまでも悩んでたってしょうがないか。とりあえず、今度緑羅君に謝る!そしてクリスちゃんにもちゃんと思いをぶつける!そうするよ。ありがとう、未来」

 「ふふ、どういたしまして」

 

 元気を取り戻した響を見ながら未来は、小さく、

 

 「これは厳しくなってきたかも……」

 

 響の話から推測するに、おそらくそのクリスって子も……前途多難だなぁ、と未来は小さく苦笑を浮かべる。

 




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