戦姫絶唱シンフォギア 王を継ぎし者   作:夜叉竜

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 投稿します。

 ではどうぞ!


1-23

 二課の本部に戻ってきた弦十郎はそのまま指令室に向かうと響と翼に連絡を取る。

 少しして、モニターに響と翼の顔が表示される。

 

 『響です』

 『はい、翼です』

 「収穫があった。了子君は?」

 『まだ出勤していません。朝から連絡不通でして……』

 『え?そうなんですか?どうしたんでしょう……』

 

 翼の言葉に響は心配そうな声を発する。

 

 『そうね。確か桜井女史はロクな戦闘訓練を受けていないし………』

 「そうか………ちょうどいい。二人に緑羅君から連絡がある」

 『緑羅君から?どうして師匠がそんな事……』

 「偶然出会ってな。二日後、今送る座標に来いとの事だ」

 

 その言葉に響と翼は通信機の向こうで小さく息をのむ。それが意味することは二人に共通している。恐らく、緑羅の秘密の事だ。ついにその時が来たのだ。緑羅の、2年前の真実を知る時が。

 

 『……そうですか、分かりました』

 

 翼は通信機越しでも分かるほどに大きく息をつき、響はちらりと隣に居る未来に視線を向け、

 

 『あの、師匠……緑羅君ってほかに何か言ってませんでした?』

 「ん?ああ、そう言えばだが、お前らも来ていいぞと言われたが……」

 『お前らも……?それってまさか……叔父様たちも来ていいと言う事でしょうか……』

 「ああ、恐らくそうだと思うが……」

 

 その言葉に響と翼は小さく首を傾げる。どういう事だろうか。今まで彼は自分の秘密を誰にもしゃべろうとしなかった。自分達だって全力で戦ってようやくその権利をもぎ取ったのだ。なのになぜ急にその秘密をほかの人間にも言いふらすようなことを許可するのだろうか……突然の掌返しに翼は思わず顔をしかめる。

 

 「そう言われる前に妙な研究資料を廃棄していたが……」

 『妙な研究資料……?』

 「ああ。確かG細胞とかいうものだ。ロクに確認できずに焼き払われたがな……」

 

 その言葉に翼は目を見開く。そう言えば彼は自分の体の秘密と言っていた。もしもそのG細胞が秘密に関係しているとしたら……それはもう誰かの目にさらされてしまっていると言う事になる。だから彼は叔父にも話すことにしたのか……もう隠す事に意味がないから。

 対し響はそれだったらいいかな、とちらりと未来に視線を向け、

 

 『あの、師匠……それって未来も連れて行って大丈夫でしょうか……』

 「それは………どうかな。彼は連れていく人間に対する指定も人数の指定もされてなかったから……そう考えると大丈夫かもしれんが……」

 『そうですか………』

 

 響が小さくそう呟いたところ、

 

 『やーっと繋がった!ごめんね!寝坊しちゃったんだけど、通信機の調子が悪くて』

 

 通信機にハイテンション気味な了子の声が新たに入ってくる。その瞬間、弦十郎は小さく眉を顰める。

 

 「無事か、了子君。そっちに問題は?」

 『寝坊してゴミを出せなかったけど、なにかあったの?』

 「ならばいい。それより聞きたいことがある」

 『なによ、せっかちね。何か?』

 「カ・ディンギル。この言葉が意味するものは?」

 

 響は小さく首を傾げて未来に視線を向ける。未来はすぐにスマートフォンでその言葉を検索しだす。

 

 『カ・ディンギルとは古代シュメールの言葉で高みの存在。転じて天を仰ぐ程の塔を意味する』

 

 その言葉に弦十郎は視線を険しくして口を開く。

 

 「もしも仮にこの言葉がその通りだったとして……なぜそんなものを俺たちは今まで見過ごしてきた?」

 

 その言葉に響も疑問を感じた。そんな巨大なもの、普通に考えれば見逃すはずがない。となると、考えられるのはその言葉が別の意味を示すという事だが……

 

 「だがようやく掴んだ敵の尻尾。このまま情報を集めれば勝利は同然。相手のすきにこちらの全力を叩きこむんだ。最終決戦、仕掛けるからには仕損じるな!」

 『『了解!』』

 

 それを最後に通信は打ち切られる。

 通信を終えた響は検索を続けている未来に視線を向ける。

 

 「どうだった?未来」

 「ダメ……検索しても出てくるのはゲームの攻略サイトばっかり……」

 「そっか……カ・ディンギル。誰も知らない塔か……」

 

 響は思わずと言うように空を仰ぎ、小さくそう呟く。

 そのころ、二課の本部ではカ・ディンギルに関する情報の収集が行われていた。

 

 「どんなに些末な事でも構わん!カ・ディンギルの情報を集めるんだ!」

 

 指令室内に端末を操作する音が鳴り響いていくのだが、それを遮るようにけたたましい警報が鳴り響く。

 

 「どうした!?」

 「飛行タイプの大型ノイズが4匹……いいえ、5匹、同時に出現しました!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドン、と鈍い音と共に変異した緑羅はビルの屋上に着地すると低いうなり声を漏らしながら体を起こし、目の前を睨みつける。

 そこには空に向かって真っすぐにそびえたつ巨大なタワー……確か響の話では東京スカイタワーと言うらしい……があり、それの周囲を回るように巨大な飛行機型ノイズが5匹飛行している。

 

 「でかいタワー……あれがカ・ディンギルだと思うか?」

 

 緑羅の隣に着地したイチイバルを纏ったクリスがそう問いかけるが、緑羅は分からないと言うように肩をすくめる。

 

 「ま、相手が何をもくろんでいようが関係ない。ぶっ潰せばいいだけだ」

 「ああ、そうだな」

 

 クリスは静かに腰を落として闘気をみなぎらせるが、緑羅はしかめっ面で目の前の光景を睨みつけ……

 

 「………雪音クリス。今日はちょいと役割を変えよう。君が前線。俺はここから援護する」

 「は?」

 

 いきなり何を言ってるんだと言うようにクリスが目を丸くして緑羅に向き直る。

 

 「より正確には雪音クリスは響と風鳴翼と協力して前線で戦い、俺はここから後方支援に徹するってところかな」

 「ちょ、ちょっと待てよ!なんでそうなるんだ!?明らかにお前は近接型だろうが!それにここから支援って……何キロ離れてると思ってんだ!?」

 

 確かに、今二人がいる場所はノイズが旋回している個所から10キロは離れている。そんな距離はいかに遠距離特化型のクリスと言えども攻撃を届かせるのはかなり難しい事だ。確かに緑羅は熱線と言う遠距離攻撃手段を持っているが、それとて届かなければ意味がないのだ。

 そう叫ぶクリスを後目に緑羅は軽くガントレットを振るう。瞬間、無数のパーツが生み出され、それは次々と組み合わさり、顎をかたどるが、その形状は従来のものよりも細長く、顎関節付近にドラムのようなパーツが追加されている。そして口が開くとそこから巨大なバレルが生み出され、更にそのバレルの下にバイポッドが装着される。

 緑羅がその顎を突き出すと同時にバイポッドが展開、地面に打ち付けられ、更に顎に左手を添えてその巨大な銃身を固定。

 そして緑羅は銃身に搭載されたスコープを覗き込むと同時にドラム型のパーツが高速で回転しながら青白く輝きだす。

 そんな緑羅に気づいた様子もなく飛行型ノイズは体の下部を開き、小型ノイズをばら撒いている。その開いた個所を緑羅はスコープ越しに睨みつける。

 そしてドラムの輝きが最高潮に達した瞬間、ドゥゥゥゥゥン!と言う音と共に銃口から巨大な熱線が吐き出される。周囲に衝撃波がまき散らされ、屋上は砕け、クリスは軽く吹き飛ばされる。

 クリスが思わず悲鳴を上げるなか、熱線は一直線に飛行型ノイズの下に突き進むとそのまま下部のノイズを落とすための穴を直撃、そのまま飛行型の巨体をぶち抜き、空の彼方に消えていく。

 熱線で貫かれた飛行型ノイズは一瞬の静寂の後、轟音とともに青白い爆炎に飲み込まれ、塵すら残さず消滅し、ついでと言わんばかりに熱線の衝撃波が周囲の鳥型ノイズを吹き飛ばす。

 その光景を倒れたままあんぐりとみていたクリスに向けて排熱をしている巨大ライフルを担ぎながら緑羅は肩をすくめる。

 

 「ほら、十分に行けるよ」

 「………分かったよ」

 

 クリスは不承不承と言った様子で起き上がっておしりをはたくとそのまま緑羅のそばに立って目の前を睨みつける。

 

 「……当てんなよ」

 「そんなへまはしない。でも、相手もバカじゃないだろう。その内俺に気づいて排除しようとする。そうなったら援護はできないからね」

 「ああ、分かった……気をつけろよ」

 「あいよ」

 

 クリスはタワーに向けて飛び出し、緑羅は排熱をしているライフルを構え、スコープ越しに周囲を確認する。今のところ響に翼の姿は確認できない。

 が、それから少しして別方向からヘリがこちらに向かってきて、そのヘリから響が飛び降りながらシンフォギアを纏い、そのまま降下の勢いのままノイズを粉砕したのを確認し、緑羅は小さく頷くと再び狙いをつける。

 

 (しかし………今回のこの襲撃はなんだ?何というか、不自然だな……クリスの話ではカ・ディンギルはすでに完成している……ならばこんなでかい行動を起こす理由は?あれが目的の塔だとして、あんな大々的にノイズを守護に回す理由がない。俺たちはまだ塔を見つけていないんだから攻撃を仕掛けることはできなかった……これじゃあ塔の場所を自分から教えるようなもの……)

 

 そこまで考えて緑羅ははっと目を見開く。

 

 (そう言う事か………だとしたらフィーネの狙いは……)

 

 再び神羅が引き金を引いて撃ち出した熱線が別の飛行型ノイズを貫き、吹き飛ばしたのを確認した瞬間、背中をピリッとした感覚が襲い、緑羅は剣呑な眼差しで視線を別方向に向ける。

 

 「やっぱり……こっちは囮か………」

 

 緑羅はすぐに視線をタワーのほうに向けて緑羅は小さく眉を寄せながら唸り声をあげてどうするか思考するが、

 

 「ここは任せるよ、3人とも」

 

 この場は3人に任せ、もう一つの襲撃地点に自分一人で向かう。それが一番いいだろう。距離的にも自分が近いし、4人の中で一番強い自分が一人離れるほうが戦力バランス的にもいいだろう。

 緑羅はライフルを分解、ガントレットに戻すと、火球を形成、それを屋上に叩きつけて破壊する。舞い上がる爆炎に紛れながら緑羅はその場を離脱していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リディアン音楽院。今ここは激しい戦場と化していた。無数の巨大なノイズに小型ノイズが種類問わずにひしめき合い、学院の敷地に進行している。敷地内の施設のほとんどが破壊され、そのノイズを押しとどめようと特異災害対策機動部一課が必死に応戦している。

 その学区内の生徒たちは今シェルターに向けて避難している。その避難を誘導しているのは未来だ。

 

 「落ち着いてシェルターに避難してください!」

 

 シェルターがある学園中央棟には多くの生徒が詰めかけており、未来は必死に一課のものと一緒に避難誘導をしていた。

 

 「ヒナ!大丈夫!?」

 

 そこに創世、詩織、弓美の3人が合流する。

 

 「無事だったんだね」

 「でも、どういう事?学校が襲われるなんてアニメじゃないんだから……」

 「小日向さんも避難しましょう!」

 

 だが、その言葉に対し、未来は小さく首を横に振る。

 

 「ううん……私、他に残っている人がいないか探してくる。みんなはシェルターに!」

 「ヒナ!?」

 

 そう言うと未来は創世の制止を振り切って駆け出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「誰か!残っている人はいませんか!?だれか……きゃぁ!?」

 

 中央棟の中を走っていた未来だったが、ふいに襲い掛かる振動に悲鳴を上げて足を止めてしまう。

 そして周囲にを見渡して愕然とした表情を浮かべる。

 リディアン音楽院はすでに大半の施設が破壊され、ノイズがうごめく地獄となっていた。

 

 「そんな……響の帰ってくるところが、無くなっちゃう……!」

 

 そう呟いた瞬間、背後からガラスが割れる音が響き、振り返ればオタマジャクシ型のノイズが数匹内部に入り込んでいた。

 その姿を見て未来は逃げようとするが、恐怖で動けない。その未来に対し、無慈悲にノイズが一斉にとびかかるが、再びガラスが割れる音と共に何かがノイズに体当たりを喰らわしてまとめて吹き飛ばす。

 未来が呆然とする中、何かはそのまま着地すると背中越しに振り返ってくる。

 

 「無事だね、未来」

 「りょ、緑羅君!」

 

 緑羅は未来の無事を確認し、小さく頷くと声を張り上げる。

 

 「優男!サッサと未来を安全なところに連れていけ!」

 「優男って……僕は緒川って言うんですよ……」

 

 苦笑を浮かべながら物影が緒川が現れ、未来の手を引く。

 

 「お、緒川さん!?」

 「ノイズはお願いします、緑羅君」

 

 緑羅は答えず軽く手を振り、ノイズを睨みつける。

 

 「あ、えっと……緑羅君、気を付けて!」

 

 そのまま避難していく二人を見て緑羅は小さく息を吐く。

 

 「やれやれ、無茶をしたかいがあったってもんだ」

 

 後先考えずに全力疾走してきたが、そのかいはあったようだ。

 

 「さて、それじゃあ………ゴミ掃除と行くか」

 

 緑羅はゴキゴキと首を鳴らしながら唸り声を上げるとノイズに向かって突進する。




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