自分は最低でも2回は見ていこうと思っています。
ではどうぞ!
クリスの絶唱が終わると同時にカ・ディンギルは目標である月目掛けて突き進んで月を貫く。
だが、その一撃は月のど真ん中ではなく右下部。貫かれた個所から罅が広がり、次の瞬間にはその個所が月から抉り取られる。
「し損ねた!?わずかに逸らされたか!?」
その光景にフィーネは驚愕に目を見開く。響と翼も呆然とした様子でその様を見ていたが、不意に空から落ちてくる影に気づく。それはカ・ディンギルに飲み込まれたクリスだった。
クリスはそのまま一直線に離れた森の方角に向かって落下していき、そのまま森の中に墜落してしまう。
「雪音……!」
「あ、ぁぁ……ああああああああああああああああああああ!?」
その様を見ていた響は空に響き渡らんばかりの慟哭を上げ、そのまま崩れ落ちてしまう。
「こんなの……こんなの……いやだよ……折角クリスちゃんと仲良くなれたのに……これから……緑羅君と一緒に夢の事を話していきたかったのに……死んじゃったら……もう二度と……夢の事をお話しできないんだよ……」
響は涙ながらにそう言い、その言葉に翼は何も言えず、ただ目を伏せて唇をかみしめる。
「自分を殺して月への直撃を防いだか……ハッ、無駄な事を」
が、フィーネが吐き捨てた瞬間、響の涙は止まり、翼の顔に怒りが宿り、フィーネを睨みつける。
「笑ったか……?命を燃やして大切なものを守る覚悟を……貴様は無駄だとせせら笑ったか!?」
翼の脳裏によぎるのは同じように歌い、そして響を守り抜いた己の相棒。彼女を、クリスを侮辱されたことに翼は激しい怒りと共に剣の切っ先をフィーネに突きつける。
「それが………」
が、そこにぞっとするほどに低く、怒りを宿した声が響き、翼が驚いたように目を見開いてその声の発信元、響に目を向ける。
「それが夢ごと命を握りつぶしたやつの言う事かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
咆哮にも似た絶叫が轟くと同時に響の全身が漆黒に染まりぬく。まるで闇そのものが響をかたどったような容姿の中、その目だけが赤く光を放っている。明らかに異常な状態。
「立花!?いったい何が!?」
「融合したガングニールの暴走だ。制御できない力にやがては意識が塗り固められていくだろう」
「まさかお前は……立花を使って実験を!?」
「実験を行っていたのは立花だけではない。見ものではないか。ガングニールに侵食され、人としての機能が失われていく様は!」
「まさか……奏にも!?」
瞬間、響は咆哮を上げながらフィーネにとびかかり、その勢いが乗った一撃を繰り出す。
だが、フィーネはそれを双鎖で防ぐとそのまま響を弾き飛ばす。
「立花!」
「もはや人にあらず。人の形をした破壊衝動だ」
響は吠えながら跳躍、そのまま急降下。拳からは爆炎が吹き荒れている。
フィーネは鎖を幾重にも重ね合わせていくと、ピンクの障壁を作り出す。
ーASGARDー
そのまま響の一撃は障壁に直撃、一瞬の拮抗の後、さらに激しく炎が吹き荒れ拳の勢いが増加。そのまま障壁を粉砕するとその奥のフィーネを直撃、凄まじい轟音と共に地面が吹き飛ばされる。
その衝撃を翼はどうにかやり過ごし、煙が晴れた場所に見えたのは上半身が頭ごとバックリと割られたフィーネだった。だが、その断面から血は出ておらず、さらに断面からは内臓の類は見えず、見えるのは青白い光だけだ。
どう考えても生きているわけがない状態。だが、フィーネの目がぎょろりと動く。
それを見た翼は小さく歯噛みをすると響に呼びかける。
「もうよせ、立花!それ以上は聖遺物との融合を進めるだけだ!」
だが、翼のその声に響は唸り声を上げながらぎょろりと視線を向けると、咆哮を上げながら翼に襲い掛かる。
「っ!?」
翼はとっさにその一撃を受け止めて弾き飛ばす。だが、響は完全に翼を標的に定めたようでそのまま続けて翼に襲い掛かる。
「っ……癪だけど………いつまで寝ているのよ、五条緑羅……」
バキンと言う音と共に床が破壊され、その穴が無理やりこじ開けられていき、ついにその内部に緑羅が侵入する。
彼はグルルル、と低いうなり声を発しながら周囲を見渡して、視線を目の前に固定し、吠える。そこには何らかの装置に取り付けられた金色の剣、デュランダルがある。
「見つけた……こいつをぶち壊せば……」
緑羅がこきりとガントレットを動かしてデュランダルを睨む。まずはエネルギーを取り込もうと緑羅は即座にガントレットを顎に変えて歩き出そうするが、不意に足を止めると顔を上げる。
「この気配………響?それにこれは………あの時と同じ?どうして………」
緑羅は訝しげに眉を顰めると周囲を見渡し唸り声を上げる。
どうするべきか。即刻これを破壊する必要がある。だが……
少し考えて緑羅は深いため息を吐くと小さく目を伏せる。改めて大きく息を吸って意識を集中させるように長く息を吐く。
まったく………本当に面倒な事になったものだ。そう考えながらすっと目を見開く。それと同時にその目が赤い光を放つ。
響の力任せの一一撃を翼はどうにか受け止めきるが、その衝撃で腕のアーマーが破損し、吹き飛ばされる。
翼はどうにか態勢を整えて響を見つめる。響は完全に翼を標的に定めたようで、フィーネには目もくれない。翼は全身ボロボロの状態だ。
「ハハッ」
そこにフィーネの笑い声が響き、顔を向ければ、両断されていた体が再生していく。
「どうだ?立花響と刃を交えた気分は?」
「くっ……人としての在り方まで捨て去ったのね」
「面白かろう?ネフシュタンの再生能力だ」
そしてフィーネが完全に再生しきり、立ち上がる。それと同時にカ・ディンギルから再び轟音が響き、雷が弾け出す。
「まさか!?」
「そう驚くな。カ・ディンギルが如何に最強、最大の兵器だとしても、ただの一撃で終わってしまうのであれば兵器としては欠陥品。必要がある限り何発でも撃ち放てる……。その為に、エネルギー炉心には不滅の刃、デュランダルを取り付けてある。それは尽きることのない無限の心臓なのだ……!」
「そう……だが、お前を倒せばその引き金を引くものもいなくなる!」
そう言い、翼は剣を構える。
が、それを見た響は翼が臨戦態勢を取ったと見たのか、再び翼目掛けて飛び出す。
「立花………!」
翼が真っ直ぐに響を見据え、動こうとした瞬間、
(響!)
突如として翼の頭に声が聞こえると同時に響の動きが緩慢になる。突然の事態にフィーネが驚愕をあらわにした瞬間、
(状況が分からんがとりあえず、誰でもいいから響の動きを止められるなら止めろ!)
その指示に翼はためらいなく脚部から短刀を引き抜き、それを響の影に投げつけ、突き立てる。
ー影縫いー
「な、なにが!?一体どうした、立花響!?」
フィーネは動揺をあらわに叫ぶ、響は唸り声を上げながら動こうとするが、その体はびくともしない。
その隙に翼は素早く周囲に視線を向ける。
「今のは………」
(俺の力だよ、風鳴翼)
その言葉に翼は小さく眉を寄せる。
(おっと、声を出す必要はない。頭の中で考えれば分かる)
(五条緑羅?あなたなの?無事だったの?)
(そうだよ。テレパシーがまともに届いたのは君だけだ。とりあえず状況説明!響がおかしくなってこのデカブツが動き出したのは分かるけど……)
何だかよく分からないが、どうやら緑羅は無事のようだ。そして何らかの能力で自分に話しかけているらしい。全く本当にぶっ飛んだやつね、と呆れながら翼は響とフィーネを警戒しながら頭の中で話しかける。
(クリスが戦闘不能、立花は暴走、デカブツは月を破壊しようとしている。目の前に黒幕がいる)
簡素は説明だが、緑羅にはそれで十分だ。
(………そうか………分かった。響は俺が何とかする。このデカブツもだ。お前はフィーネの足止めを。俺に気づかせるな!)
(それは……!)
(さっさとやれ!これ続けるのは結構きついんだぞ!?ぶっ壊すのは響を何とかした後でやる。デカブツも、準備に少し時間がかかるが必ずぶっ壊す!)
(っ…………分かったわ。頼むわよ!)
(そっちこそ、しくじるなよ!)
そこで声は聞こえなくなり翼は小さく息を吐く、まさか成り行きとはいえあいつに全てを任せる羽目になるとは……だが、心のどこかであいつなら何とかするだろうと思っている自分がいる、それが腹立たしい。
「これで真実をはぐらかしたら必ず剣の錆にしてくれる……!」
そう呟くと翼は剣を構えてフィーネに切りかかる。それに気づいたフィーネはすぐさま鎖で斬撃を防ぐ。
「っ、貴様……何かしたのか!?」
「さあ?生憎心当たりはない!」
何も聞こえない。何も見えない。ただ頭の中にこだまするのは絶対的な怒り。己の全てを塗り固める怒りと憎悪
アイツヲユルスナ!ソンザイヲユルスナ!イカレ!ニクメ!ウラメ!コロセ!コワセ!ツブ「響」
不意に聞こえてきた声と共に闇の中に青白い光が灯る。なんだろう、と思っていると、そこから黒い腕が伸ばされ、優しくつかんでくる。それはごつごつとしていて、少しひんやりとしているけど、暖かくて……
「何をやってるんだよ。自分を見失ってどうする」
呆れたような声で響いて、また青白い光が強くなる。
「……響。今の俺には君の怒りの理由は分からない。ただこれだけは言える………怒りたければ怒れ。それは当然の権利だ。でもな………それを無差別にばらまくな。怒りに振り回されるな。怒りを恐れるな。それも君だ。君の一部だ」
諭すような、まるで父親が子供に言い聞かせるような声色で紡がれる言葉と共に光がさらに強くなる。
「怒りを見据えろ。怒りと向き合え。向き合って、共に歩め。そうすれば怒りは何よりも強力な力になる。大切なものを守る力に。誰かを助ける力に」
かつて、父は自分を傷つけられた怒りを力に変え、敵を討った。かつて、ある人間は父への怒りを抱きながら、それでも共に戦い、敵を倒した。かつて、人間達は自分に家族を殺された怒りを胸に幾度も自分に挑んできた。それは時に、自分を脅かすほどだった。だが、それが他の怪獣を倒す力になった。
怒りとは力。だがそれはたやすく人間を狂わせる。だから人間は怒りを恐れる。だがそれではダメだ。怒りに飲まれるな。それと向き合え。自分を見失うな。そうすればきっと、その手は届く。
「だから響………帰って来い。前にも言ったろ?そっちは君がいるべき場所ではないって」
緑羅……君……
そして青白い光が闇を焼き払う。
翼は繰り出される鞭を掻い潜ってフィーネとの距離を詰めると斬撃を繰り出すが、フィーネはもう一本の鎖でそれを防ぐが、翼は素早く剣から手を放し、逆立ちをして脚部のブレードを展開する。逆羅刹の構えだ。
「そんなもの!」
フィーネは即座に鎖で防ごうとするが、翼は逆羅刹は繰り出さず、そのまま両足でフィーネの頭を挟み込む。
「っ!?」
「かかったな!」
そのまま翼は体のばねを使ってフィーネを思いっきりカ・ディンギルに投げ飛ばす。
翼は追撃と言わんばかりに剣を拾うと跳躍。そして上空から剣を投擲。
剣は一瞬で巨大な両刃の大剣に変わる。その柄に翼が飛び蹴りを繰り出すと同時に剣と脚部とスラスターが起動、凄まじい速度でフィーネに襲い掛かる。
-天ノ逆鱗ー
だが、フィーネは即座に鎖でASGARDを展開する。それも3重構造でだ。そして天ノ逆鱗とASGARDが正面から激突する。凄まじい衝撃と共に火花が散り天ノ逆鱗はASGARDを破ろうとするが、3重構造の障壁はそれを許さない。
「残念だったな。所詮はその程度……!?」
と、不意にフィーネが似たりと笑みを浮かべていた顔を驚愕に染める。不審に思いその視線を追えば、暴走によって真っ黒に染まっていた響の身体が、元に戻っていた。更にシンフォギア解除されて制服の姿でその場に崩れ落ちる。
「そんなバカな!?なぜいきなり暴走が止まる!?風鳴翼は何もしていない!雪音クリスはすでに死んだ!いったいどこのどいつが………まさか!?」
狼狽していたフィーネだが、不意に何かに気づいたように目を見開く。翼は小さく舌打ちをすると両腕に新たに双剣を握り、そのまま天ノ逆鱗をわざとずらす。
障壁の表面を削りながら天ノ逆鱗は地面を捉え、轟音を轟かせる。
それにフィーネが気を取られている隙に翼は剣の柄から跳躍、それと同時に双剣が炎を纏い、そのまま翼の体は一気に急上昇をする。
ー炎鳥極翔斬ー
「っ!?させるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
翼が何をしようとしているのか察したフィーネは翼を迎撃せんと鎖を放つ。翼は鎖を振り切ろうと飛翔する速度を上げるが、鎖はその翼に食らいつき、その身を……
不意にカ・ディンギルの輝きが急速に衰えていく。
「なに!?」
その光景に再び動揺したフィーネの手元が狂い、鎖は翼の脚部のブレードを破壊するにとどまる。一瞬バランスを崩すが、翼は炎を翼のように展開し、さらに加速して鎖を振り切る。
「本当に………腹立たしいわね……だから……一枚噛ませてもらうわ。後は頼む、五条緑羅!!」
そう叫ぶと同時に己を青い炎の鳥にして翼はカ・ディンギルを穿つ。
瞬間、着弾部が光ると同時に凄まじい轟音と共に爆発を起こし、カ・ディンギルに損傷を与える。
フィーネが目を見開き、響もまた呆然とその様子を見る中、上部からカ・ディンギルの残骸が落下し、周囲に突き刺さっていく。
その中にもはや見る影もないほどに大破したシンフォギアを纏った翼の姿もあった。彼女はそのまま真っ直ぐに地上に向かって落下していくが、どうにか態勢を整えようとする。だが、それも叶わず、翼は地面に激しく叩きつけられ、その衝撃で完全にシンフォギアは破損して解除されてしまう。
「つ、翼さん……!」
響は言う事を聞こうとしない体を動かして翼の元に向かう。
「翼さん……!」
「立花……戻ったのね……あいつはうまくやったみたいね……」
自分を見下ろす響を見て、翼は苦痛に顔を歪めながらも安堵の表情を浮かべる。
「無駄な事を……」
怒りを内包しつつも嘲るような声に二人が振り返れば、そこには忌々しげにこちらを睨みつけているフィーネがいた。
「カ・ディンギルは損壊した。だが、それでも発射に支障はない!貴様のやったことは完全に無意味だ!もうこれで私の夢は誰にも邪魔はできない!」
その言葉に響が思わず唇をかむ中、翼は小馬鹿にしたような笑みを浮かべる。
「愚かね、あなたは」
「何?」
「先ほど自分で気付いた可能性をもう忘れるなんてね……」
その言葉にフィーネは一瞬訝し気に目を細めるが、次の瞬間、ハッとしてカ・ディンギルの方に振り返り、
同時にカ・ディンギルを貫くように紅蓮の炎が噴き出す。
それと同時にカ・ディンギルの至る所から炎が漏れ出し、それがカ・ディンギルと言う殻を破らんと暴れまわり、そしてその時は訪れる。耳をつんざく轟音と共に炸裂した炎が天地を揺るがすような轟音と共に炸裂。カ・ディンギルを蹂躙し、飲み込み、破壊しつくし、欠片も残さずに焼き払う。
その光景をフィーネは茫然とした様子で見ていた。まるでそれは傲慢な人間を焼く地獄の業火のごとし。
響と翼もまたその光景を唖然とした様子で見ていた。煌々と夜空を照らす深紅の炎は幻想的と言えるだろう。
そして、周囲一帯が炎の海となり、全てが赤く染まった中、炎の中からその影はゆっくりとした動きで、だがしっかりとした足取りで現れる。
その姿を見て、響は目を大きく見開き、翼は小さく舌打ちをし、フィーネは忌々し気に顔を歪める。
そしてフィーネの前に立ったそれはこきりと首を鳴らして右腕のガントレットを動かす。
「全く……無駄にでかい物を作ってくれたね。それに見合うでかい一撃を放つ羽目になった……ま、デュランダルのエネルギーを貰ったおかげで割とすぐにチャージできたのは幸いだったけどね」
そう言いながら変異した緑羅はブルりと体を震わせてから地に倒れる翼と響に視線を向ける。それはまるでフィーネなんて眼中にないと言わんばかりに。
その様にフィーネは顔を怒りで歪める。自分を無視したこと、そして自分がようやく築き上げたカ・ディンギルを完全に破壊しつくしたことに対する怒り、そして幾度となく自分の前に立ちふさがり、邪魔をすることへの怒りにフィーネの頭は完全に限界を超えていた。
「貴様は……貴様はどこまで私の邪魔をすれば気がすむんだビ!?」
フィーネが吠えた瞬間、それを遮るように緑羅が一瞬で距離を詰め、ガントレットを顔面に叩きこみ、吹き飛ばす。
吹き飛んでいったフィーネにギロリ視線を向け、緑羅は口を開く。
「御託は言い………黙って死んどけ」
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