ではどうぞ!
その様子はシェルター内の面子も目にしていた。そして呆然としていた。それはそうだ。カ・ディンギルと言う巨大なものを緑羅はたった一人で完膚なきまでに破壊したのだ。しかも炎の壁ともいうべきところから当たり前のように歩いて出てきた。呆然とするのも無理はない。
「な、何あれ………」
そんな中恐怖を滲ませながら呟いたのは弓美だった。仕方ないだろう。今まで現実離れした光景を見てきたが、これは群を抜いている。特に緑羅の変異後の姿はノイズ以上に生々しく怪物と言う存在を意識させる。この状況でそんなものをいきなり見てしまえばこうなるだろう。
「く、黒い魔獣………?」
そんな中、詩織は思わずその名を口にしていた。それは都市伝説の中でも信憑性の高いものとして有名なもの。黒い怪物がノイズを食い荒らすというものだ。
「……緑羅君、無事だったんだ」
その言葉に詩織と弓美と創世が驚愕に目を見開いてほっとした様子の未来に視線を注ぐ。
「緑羅君って……ま、まってよヒナ。まさか……あの化け物が……ゴリョウ君だっていうの……?」
創世が信じられないと言った様子で問いかけると、未来はモニターに視線を注いだまま、うん、と頷く。
フィーネを殴り飛ばした緑羅はふう、と小さく息を吐きながらこきりと首を鳴らす。
それから響と翼の元に向かうと彼女たちの前に膝をつく。
「二人とも大丈夫か?」
「ええ……何とかね……」
翼が苦し気にしながらも小さく頷いて緑羅はうむ、と頷いて響に視線を向ける。
「響も大丈夫?」
だが、響はいまだポカンとした表情をしている。その表情のまま響は恐る恐る緑羅に手を伸ばし、その頬に触れる。その感触が本物だと分かった瞬間、
「よかった……無事でよかったよ……緑羅君……!」
ぽろぽろと涙を流す響を緑羅は小さく息を吐きながら頭を撫でてやる。
「悪かったね、心配かけて」
「本当に壊してしまうなんてね……デュランダルは?」
「まだだ。あれかなり固いな。まあ、エネルギーをそれなりに奪ったからすぐには使えないよ……雪音クリスは?」
「分からないわ……カ・ディンギルの初撃を絶唱で逸らして、そのまま森の方に落ちていったんだけど……」
翼の言葉に緑羅はそうか、と小さく頷いて立ち上がる。
「分かった。みんなよく頑張った。あとは俺がやる」
その言葉に響たちは目を丸くする。
「あとはって……緑羅君大丈夫なの?確か、シンフォギアを取られたって……」
「ちょっと待って。と言うか何であなたは……聖遺物を取られた状態でその姿を?取り戻したの?」
フィーネの言葉を信じるなら緑羅は聖遺物を取られている。あの姿になるには聖遺物を使っているはずだ。だが、緑羅の姿はある意味で見慣れた異形の姿。一体どうして……取り戻した?いや、だがフィーネは聖遺物を破壊したと。だが、シンフォギアは元々聖遺物の欠片。それを……
「ああ。確かに俺は聖遺物を取られた。取り戻してもいないよ」
そう言いながら緑羅は左胸元を指でなぞる。
その個所を見て二人は目を見開き、響に至ってはひっ、と声を漏らす。
そこには肉をごっそりと抉り取られたような跡があった。いや、それは跡などと生易しい物ではない。明らかにそこだけ肉が抉り取られている。しかもその傷は明らかに焼いて塞いだと思わせる爛れた火傷痕で強引に塞がれている。とてもじゃないが直視できる物じゃない。
「まあ、確かにどうして俺がこんな状態でも変異できるのかちょいと気になるけど………ま、どうでもいいでしょ」
左手で顎を撫でた緑羅は次の瞬間にはあっけからんとした表情でそう言うとフィーネに向き直る。フィーネは相当吹き飛ばされたようで、結構離れたところで何とか立ち上がろうとしている。
「俺には奴を叩き潰す力がある………それだけで十分だ」
そう言ってゴキリッとガントレットを右手を鳴らすと緑羅は腰を落とし、次の瞬間、地面を粉砕しながら飛び出す。
立ち上がったフィーネが緑羅を睨もうと顔を上げた時には緑羅はすでにその眼前に立ち、ガントレットの爪を叩きつける。
フィーネはとっさに体を横に投げ出して回避すると素早く鎖を繰り出す。緑羅は左手でそれを弾き飛ばす。
その隙に緑羅はガントレットからアンカーを射出。それは勢いよくフィーネに襲い掛かると鎧に突き刺さる。
それにフィーネが気付いたと同時に緑羅は勢いよくフィーネの体を振り回し、空中に放り投げる。
すかさずガントレットの爪が青白く輝き、
ー斬葬ー
振るうと同時に4つの斬撃派がフィーネに襲い掛かる。
「なめるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
だが、フィーネはすかさず鎖の先端に光球を生み出し、
ーNIRVANA GEDONー
4つ連続で投げつけ、斬葬を相殺させる。轟音と共に煙が広がり、一瞬フィーネの視界が隠される。
フィーネが忌々し気に舌打ちをした瞬間、煙を吹き飛ばしながら熱線が放たれる。
フィーネは驚愕しながらも体を捻って回避するが、熱線はフィーネの右腕を吹き飛ばす。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁ!?」
それによって吹き飛ばされたフィーネはそのまま地面に叩きつけられる。
緑羅は吠えながら顎を振るい、フィーネの元に跳ぶ。
だが、フィーネは鎖を振り回して緑羅を牽制する。緑羅は知ったことかと言うように鎖を無視して突っ込むが、フィーネは再びNIRVANA GEDONを放つ。
流石に直撃は不味いと思ったのか緑羅は即座に身をひるがえして回避する。その隙にフィーネは着地していた。それと同時に吹き飛ばされた右腕が再生する。それを見た緑羅は小さく舌打ちをする。
「大した再生力だ……」
「無駄だ……ネフシュタンがある限り私は死なない。どうして戦えるのか分からんがお前のやることは完全に無駄だ!」
フィーネが叫ぶが、緑羅はふ~~ん、とどうでもよさげな表情を浮かべ、
「だったらお前の心が死ぬまで殺し続けるだけだ」
緑羅は顎をガントレットに戻すと火球を形成、フィーネとの距離を詰め、
ー崩炎ー
火球を突き出して炸裂、爆炎と衝撃波がフィーネを襲うが、フィーネはASGARDを展開し、防ぐが、緑羅はそのまま距離を詰めてASGARDにガントレットの掌を叩きつける。
だが、ASGARDはびくともせず、フィーネがにやりと笑った瞬間、ガントレットのパイルが引き絞られ、更にそれが青白く発光する。
フィーネは目を見開くと、素早く身をひるがえす。
ー死葬ー
瞬間、パイルが射出、ASGARDを紙のように突き破ると同時に内包されたエネルギーが炸裂。一瞬前までフィーネがいたところを吹き飛ばす。
フィーネはすぐさま立ち上がるが緑羅は即座に距離を詰めて体を一回転させて尾を叩きこむ。腹部にまともに喰らったフィーネはそのまま吹き飛ばされるが、即座に着地して緑羅を睨みつける。
「ええぃ!どこまでもどこまでも忌々しい!」
「あん?」
「月の破壊は! バラルの呪詛を解くと同時に、重力崩壊を引き起こす……! 惑星規模の天変地異に人類は恐怖し! 狼狽え! そして聖遺物の力を振う私の元に帰順する筈であった!痛みだけが人の心を繋ぐ絆!たった一つの真実!?」
怒りをあらわに吐き捨てるように言葉を紡いでいたフィーネだが、緑羅が飛び膝蹴りを繰り出してくるととっさに鎖で防ぐ。
「じゃかましいわ!!そんなことクソどうでもいいんだよ!聞いてもいないことをべらべらと垂れ流してんじゃねぇ!!」
吠えながら緑羅は左手で鎖を掴むと着地と同時にそのままフィーネを地面に叩きつけ、バウンドしたところに蹴りをぶち込んで吹き飛ばす。
ボギリと言う異音が響いてフィーネは地面をバウンドしながら吹き飛んでいく。
緑羅は咆哮を上げながらブルりと体を震わせてガントレットを顎に変形、熱線を放つ。
フィーネは即座に飛びのいて緑羅を睨みつけ、
「何も知らぬ獣風情が吠えるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
鎖が凄まじい勢いで射出され、緑羅に襲い掛かるが、緑羅は左手でつかみ上げ、
「知らないし、興味もない!俺がてめぇをぶっ飛ばす理由は気に食わない、それだけだ!!」
そのまま勢いよく鎖を引っ張り込む。フィーネは猛スピードで緑羅の元に引き寄せられ、緑羅はそのまま顎を振りかぶり、引き寄せられたフィーネに渾身の力で叩きつける。
強引なカウンターによる一撃は空気を破裂させる轟音と共にフィーネを吹き飛ばす。未だ握られた鎖が硬質な音を立てて千切れ跳び、そのままカ・ディンギルの残骸がわずかに残る場所にフィーネを吹き飛ばす。
その光景を響たちはあっけにとられた表情で見ていた。強い。あまりにも強すぎる。響たちが3人がかりでようやく渡り合っていたフィーネを圧倒している。再生能力のせいで決定打は与えていないが、それでもフィーネの一撃は緑羅に届かず、一方的にやられているだけだ。もしかして、自分たちと戦った時は手を抜いていたのだろうか……
緑羅は吠えながら再びガントレットを動かし、追撃をしようとフィーネ近づこうとした瞬間、
「来たれ、デュランダル!」
フィーネが叫んだ瞬間、カ・ディンギル跡地の地下からデュランダルが飛び出してきて、そのままフィーネの手に収まる。それを見た緑羅は忌々しげに顔をしかめる。
「やっぱり無理をしてでも壊しておくべきだったか……」
「確かに……そうすればもしかすればお前が勝ったかもな……だが、これでお前の勝ちは無くなった」
「減らず口を……そんなもので俺をどうこう出来るとでも思うのか?」
そう言い、緑羅は火球を形成してフィーネとの距離を詰めるが、
「いいや、お前だとデュランダルでも苦労するだろう………お前はな」
そう言ってフィーネはデュランダルを振りかぶるが、その切っ先は緑羅に向いていない。
何をと緑羅が目を動かして周囲を見て、ぎょっ!と目を見開く。フィーネが狙っているのはギアを纏っていない響たちだったからだ。
「くそっ!」
緑羅が毒づいた瞬間、フィーネがデュランダルを振り下ろし、響たち目掛けて巨大な刃を放つ。
二人はそれに気づいて避けようとするが、いまだ動くことがかなわないのか避けられない。
翼はせめて自分を盾にしようと言うのか響を抱きしめて背中を向け、だが二人ごと消し飛ばそうと刃が襲い掛かる……
瞬間に緑羅が滑り込み、崩炎で刃を相殺。凄まじい衝撃波と炎が吹き荒れ、響たちを吹き飛ばそうとするが、緑羅が衝撃のほとんどを受け止めてそれを防ぐ。
「てめぇ……」
こちらを見つめる響と翼の視線を背中で感じつつ刃を吹き飛ばした緑羅は憤怒を宿した目でフィーネを睨むが、フィーネはにたりと笑みを浮かべる。
「やはりな……貴様の戦闘力は確かに驚異的だ。だが……そのような枷をつけた状態でどこまでこのデュランダルの攻撃を凌げる?」
その言葉に緑羅は舌打ちをし、響たちは目を見開く。それはつまり……今の自分たちは人質だ。緑羅の動きを制限するための。
フィーネが再びデュランダルを振るってエネルギーの刃を飛ばしてくるが、緑羅はそれを吹き飛ばす。
「りょ、緑羅君!」
「いいから俺の前には絶対に出るなよ!」
緑羅はそのまま第2撃を弾き、フィーネを睨む。
「そんな小手先の技でどうにかなると思うか!?」
「いいや……思わんさ!」
そうフィーネが言った瞬間、デュランダルから膨大なエネルギーが放出される。
マズイ、と緑羅が顔をひきつらせた瞬間フィーネがそれを緑羅とその後ろの響たち目掛けて振り下ろす。
莫大なエネルギーが3人を吹き飛ばさんと襲い掛かるのを緑羅は舌打ちをしながら巨大な火球を形成、崩炎を放つ。
凄まじい炎と衝撃波がエネルギーを相殺せんと暴れるが、
「くそっ!」
-赫絶ー
緑羅は即座に眼前に炎の壁を形成する。その直後、炎と衝撃波を吹き飛ばしてエネルギーが炎の壁を直撃、それすれらも切り裂いて3人を襲う。
尋常ではない轟音と共に凄まじい爆発が起こる。
巻き上げられた煙によって視界が塞がれ、フィーネは目を細める。
しかし、煙が晴れるとフィーネは感心したように呟く。
「まさか凌ぎきるとはな……やはり貴様は侮れん……最も、無事ではないようだが」
その視線の先にはいまだ立つ緑羅とその緑羅に庇われた響と翼がいた。だが、緑羅は苦しそうに息を吐いている。
「……二人とも………無事……?」
「無事って……自分の心配をしなさい!そんな……!」
「緑羅君……腕が………」
響と緑羅は目を見開いて震えていた。それも仕方ない。緑羅の体は満身創痍と言ってもよかった。
背びれは幾らか千切れ、全身に傷がついて血が流れている。胸元の傷が開いたのかそこから大量に血が流れている。ガントレットは完全に破損し、鎧も壊れ、右手は潰れている。そして緑羅の左腕は半ばから千切れかけ、皮膚と筋肉繊維でどうにかつながっている状態だった。どう見ても使い物にはならない。
だが、緑羅は小さく笑みを浮かべて即座にガントレットを修復させる。
「こんなもの、かすり傷だ……俺はまだ戦える」
そう言って緑羅はフィーネを睨みつける。その目の戦意はいささかも衰えていない。だが、フィーネはもはや緑羅を脅威と見ていないのか嘲笑い、
「そのやせ我慢がどこまで続くか見ものだ!」
そう言って再びデュランダルを振り下ろす。
一方、地下施設から戦いの様子を見ていた未来たちは響たちを守るために一方的に攻撃をされ続ける緑羅を悲痛な面持ちで見ていた。何とか相殺しているのだが、先の一撃でうけたダメージが大きかったようで、動きは緩慢だ。少しずつだが傷ついていっている。
「緑羅君……!」
涙を浮かべながら未来が絞り出すように名前を呼んだ瞬間、弓美が叫びだす。
「わかんない……わかんないよ……!!どうして、皆痛い思いして、血を流して、辛い思いしてまで戦うの!?死ぬために戦ってるの!?」
「……分からないの?」
だが、その言葉に未来が静かに呟く。思わず視線を向ければ、未来がじっと涙を浮かべながら弓美を見つめていた。なぜ緑羅があそこまでするのか。響たちが、そこまでするのか。それは今目の前の光景が物語っている。
弓美は涙を浮かべていく。
と、そこに複数の足音が聞こえてくる。全員が入り口に視線を向けると、緒川が幾人もの人を連れて戻ってきた。
「指令!周辺のシェルターで生存者を見つけました!」
「おお、そうか!」
ひとまずに朗報に弦十郎が笑みを浮かべると、
「あ、お母さん!かっこいいお姉ちゃんと怪獣さんだよ!」
「あ、ちょっと、待ちなさい!」
一人の女の子がモニターの中の響と緑羅に気づき、駆け寄り、あわてて母親らしき女性が駆け寄る。その言葉に未来たちは驚いたように声を漏らす。
「え?」
「ビッキーとゴリョウ君を……知ってるんですか?」
「あ、いえ……私は詳しくは知りませんし、言えませんが、あの女の子が家の子を助けてくれたんです。それにこの子が言うには、怪獣さんが助けてくれたって……」
「そう言えば……黒い魔獣の都市伝説はいつもノイズから人を助けたって……」
怪獣さんと言うのは間違いなく緑羅の事だ。彼は助け続けていたのだ。ずっと、ずっと……
「ねえ、かっこいいお姉ちゃんと怪獣さん、助けられないの?怪獣さん、怪我してるよ?」
「……助けようと思っても、私たちには何もできないんです……」
緑羅はもう限界だ。もう何時倒れても、いや、死んでもおかしくない状況だ。響たちも何とか戦おうとしているのだが、それも叶わない。だが、だからと言って自分たちに何ができるのか。
「じゃあ、一緒に応援しようよ!そうすればきっと怪獣さん頑張れるよ!」
「応援……?」
その言葉に未来は小さく声を漏らし、次の瞬間、何かに気づいたように顔を上げる。
「そうだ!すいませんが、ここから私たちの声を緑羅君たちに届けることはできませんか!?」
「え?えっと……学校の施設が生きていればリンクしてここから音声を送れるかもしれません」
藤尭の言葉に未来は笑みを浮かべて、動き出す。己の戦いを始めるために。
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