戦姫絶唱シンフォギア 王を継ぎし者   作:夜叉竜

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 更新いたします。一期もクライマックスに入りました。

 ではどうぞ!


1-30

 すべての戦いが終わった頃、すでに日は大きく傾き、周囲をオレンジに染めている。代わりと言うように反対からは欠けた月とその残骸が顔を出している。

 街は見るも無残に破壊されており、シェルターから出てきた人たちはその惨状を呆然とした様子で見ていた。

 そんな中、緑羅達はカ・ディンギルの残骸の跡地に集まっている。その中にはシェルターから出てきた弦十郎達や未来たちの姿がある。だが、そこには響の姿はなく、緑羅は渋い表情を浮かべている。

 その緑羅達に向かって夕日を背に響が歩いてくるが、その背中にはフィーネが背負われている。それを見た緑羅は苛立たしげにうなる。

 

 「お前……何をバカなことを……」

 「響……流石にそれは擁護できないんだけど……」

 「このスクリューボールが……」

 

 フィーネ、緑羅、クリスが呆れたようにそう言うがその場のほとんどの皆は小さく笑みを浮かべている。

 

 「えへへ……よく言われます……」

 「……ちっ、勝手にしろ」

 

 緑羅はふん、と鼻を鳴らし、響は苦笑を浮かべながらフィーネを近くの岩に座らせる。

 

 「了子さん……もう終わりにしましょう」

 「……私はフィーネだ」

 「でも、私にとっては了子さんは了子さんです……私たちはきっと分かり合えます」

 「……ノイズを作ったのは先史文明期の人間。統一言語を失った我々は手をつなぐよりも先に相手を殺す事を選んだ……そんな人間が分かり合えるものか……!だから私は……この道しか選べなかった……!」

 「………」

 

 鎖を握りしめながら語るフィーネに緑羅は何も言わずに静かに視線を向ける。ちらりと視線を後ろにやれば、そこにはクリスを制している翼がいた。

 

 「……でも、人は言葉よりも強く繋がることができる。例え、相手がどんな姿でも……」

 

 そう言って響は隣の緑羅に視線を向ける。緑羅は小さく肩をすくめるだけだ。

 

 「………ふう」

 

 フィーネは小さく目を閉じながら息を吐き、

 

 「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 「っ!」

 

 目を見開くと同時に緑羅に鎖を薙ぎ払い、もう一本の鎖を響目掛けて投擲する。

 緑羅は即座にその一撃を防ぎ、響は素早く回避すると、フィーネ目掛けて拳を振るい、だが、直撃の寸前で止める。緑羅が舌打ちをしつつ反撃しようとするが、

 

 「私の勝ちだ!」

 

 その声に訝し気に眉を寄せ、気づいた。響に避けられた鎖が凄まじい勢いで伸び続けている。

 思わずその行方を追うと、鎖は空に浮かぶ月、正確にはその破片に向かって伸びていく。そして、鎖は一瞬で突きに到達すると、突き刺さる。

 瞬間、フィーネはそれを背負うように体を反転させて渾身の力で引っ張る。

 尋常ではない負荷がかかり、フィーネが立っている個所を中心に地面が砕け、割れる。

 だが、それによって何と月の欠片が強引に引き寄せられる。

 

 「月の欠片を落とす!」

 「なっ!?」

 

 その言葉に翼とクリスは絶句と共に慌てて振り返って月の欠片を見やり、緑羅はやられた!と言うように舌打ちをする。

 

 「私の悲願を邪魔する禍根は、ここで纏めて叩いて砕く! この身はここで果てようと、魂までは絶えやしないのだからなっ!」

 

 そう叫ぶフィーネの体はボロボロと崩壊を始めていく。どうやら完全に限界を超えたようだ。だが、そんなものどうでもいいと言うようにフィーネは狂気的な笑みを浮かべる。

 

 「聖遺物の発するアウフヴァッヘン波形がある限り、私は何度だって世界に蘇る! 何処かの場所! 何時かの時代! 今度こそ世界を束ねる為にぃ! ハハハッ! 私は永遠の刹那に存在し続ける巫女、フィーネなのだぁぁぁ!」

 

 緑羅はフィーネを睨みながら即座にパイルを引き絞り、点滅させる。

 月はどうにもならないがこいつはここで完全に終わらせる!緑羅がフィーネにとどめを刺そうとした瞬間、響が緑羅の前に手を出して制する。

 

 「響………!?」

 「……そうですよね。何処かの場所、何時かの時代……戻ってくる度に何度でも、私の代わりに伝えてください。世界を一つにするのに力は必要ないって。言葉を超えて、私たちは一つになれるって。私たちは、未来に向かって手を繋げるって。それは私には無理ですから、了子さんが伝えてください」

 「お前……まさか……!?」

 

 響は明るく、何でもないように笑いながら続ける。

 

 「だから、了子さんに未来を託すためにも、私が今を守って見せますね!」

 

 呆然とその姿を見ていたフィーネだが、小さくため息を吐いた直後、呆れたような笑みを浮かべ、

 

 「本当にもう……放っておけない子なんだから……」

 

 その声色、雰囲気、そして目の色が変わっていることに気づき、緑羅は小さく唸る。

 そして、了子は右手で響の胸をつつき、

 

 「胸の歌を信じなさい……」

 

 そう言った瞬間、了子は緑羅に視線を向け、

 

 「FIS……」

 

 その単語を最後に了子の体は完全に崩壊、砂となり、風の中に消えていく。

 

 「……さようなら、了子さん……」

 

 そう呟く響に対し、緑羅は心底呆れ果てたと言うようにため息をつきながらガリガリと頭を掻く。

 そして翼達は消えていく了子を見ながら目を潤ませている。特にクリスは今にも泣きだしそうなぐらいに顔を歪めているが、必死にこらえている。

 

 「……軌道計算、出ました。このままでは直撃は避けられません……!」

 

 一方、持ち込んだ機器を使って月の軌道を計測していた藤尭はその結果を伝える。その瞬間、周囲の空気は一変し、そろって空を見上げる。

 

 「あんなものが落ちてきたら……!」

 「私たちはもう………!」

 

 詩織と創世が絶望の表情でそう呟く中、響は空を見上げながら一歩前に出ようとして、

 

 「しょうがねぇなぁ………本当にさ」

 

 その言葉に全員が首を巡らせると、緑羅が呆れ果てたように頭をガリガリと掻きながら歩き出し、鎧の各所からスラスターを展開する。

 

 「んじゃま、ちょっくらぶっ壊しに行ってくるか……」

 

 まるで近所のコンビニに行ってくると言うような気楽さで緑羅は告げる。

 その言葉に響たちは目を見開くが、すぐに響が緑羅の前に立つ。

 

 「待って、緑羅君。私も行く」

 

 そう言って響は緑羅を見上げるが、緑羅は呆れたような笑みを浮かべる。

 

 「必要ないよ。さぼってた分働くだけ。ここは俺に任せておけって」

 「任せろって………いくらお前でもあんなでかいのを一人でどうにかできるわけ……!」

 

 クリスが慌ててそう言うが、緑羅は小さく肩をすくめながらガントレットを動かし、

 

 「問題ない。もしもの時のためにデュランダルからエネルギーを吸収しておいた。貯蓄は十分だよ。それに……高々石ころ一つ、一人でどうにかできないとまずいでしょ」

 

 その言葉に全員が言葉を失う。月の欠片は間違いなくとてつもない質量と大きさを持っている。それを石ころ扱い……どう考えても普通の感性ではない。

 

 「だが……お前……下手したら………!」

 「死ぬつもりなんてないよ。約束を果たしてないし、やるべきこともごまんと残ってるからね」

 

 そう言うと緑羅は視線を鋭くしてうなる。まるであんなものに手こずっている暇はないと言うように。

 

 「とにかくそう言う事。それじゃあ……ちょっくら行ってくるね」

 

 そう言うと同時にスラスターから炎が噴き出すと緑羅の体はそのまま空に飛び上がる。

 

 「緑羅君!」

 

 未来が名前を呼ぶが、緑羅はその声を背に飛行する。

 

 (ふうむ……やっぱり飛ぶのは難しいな……今は真っ直ぐに飛んでいるからまだマシだけど……)

 

 すでに緑羅の体は大気圏の外に飛び出していた。だが、緑羅が考えているのは飛行の難易度だけ。自分が生存できていることにはたいして興味がない様子だ。彼は知っているから。自分の細胞が、細胞だけになっても宇宙空間で生きていられるのを。だから緑羅はたいして気にしない。ちらっと、フォニックゲインの影響かな?と考えるが、目の前の月の欠片を見て、意識を集中させる。

 

 (ふうむ…………でかいな………こいつはちょいと骨が折れそうだ……ぶっ壊すことはできるだろうけど……破片をどうするかな……)

 

 緑羅は目の前の月の欠片を見て大まかにどうするか考える。結果はやはり、自分の最大出力をぶち込み、破壊することだが、その際に破壊の破片をどうするか頭を悩ませる。

 最大ならこいつを砕くことはできるが、破片を破壊する余力が残るかどうか………

 

 (はあ、まあいい。とりあえずこいつをどうにかするか。石ころぐらい、どうってことない)

 

 そう言いながら緑羅は両手を合わせようとして、

 

 (化け物のくせに、カッコつけてんじゃねえよ)

 (はあ、何とか追いついた………)

 (こんな大舞台で挽歌を唄うことになるとはね。貴方には驚かされっぱなしよ)

 

 その声に緑羅は驚愕に目を見開いて慌てて振り返れば、そこには翼を広げた響、翼、クリスがいた。

 

 (お前ら、何して……!?)

 (ま、一生分歌うにはちょうどいいんじゃねえの?)

 

 クリスがおどけたように念話で言うが、緑羅は渋い表情で3人を睨みつける。だが、3人は小さく笑みを浮かべる。

 

 (言っておくけど、ちゃんとあなたが秘密を話すまで死なせるつもりはないっていう打算によるものよ……まあ、ここで動かなければ防人とも名乗れないし)

 (お前には本当に世話になりっぱなしだったからな……借りの一つぐらい、ちゃんと返させてほしいし……純粋にお前に死んでほしくないしな)

 (緑羅君にだけ背負わせないって決めた……絶対に緑羅君を一人にしないって。だから私は……一緒に行くよ)

 

 3人の言い分に緑羅は苦虫を万単位でかみつぶしたような表情をするが、ついにははあ、と深いため息を吐く。

 

 (……もう……勝手にしなよ………でも、やるからには妥協はしないよ。あのデカブツを欠片も残さずに吹き飛ばして全員で戻る。それ以外は認めない。いいね!?)

 (((うん(ああ)(おう!))))

 

 響たちは3人で共に絶唱を歌い、手をつなぎながら飛翔し、緑羅はスラスターを吹かしながら導くように手を引く。

 その様は4人の姿も相まって、まるで天使と悪魔が共に手を取り合って飛んでいるように見える。

 そして月の欠片を前にして4人は動く。

 

 (皆が皆夢を叶えられないのは……分かっている。……だけど、夢を叶える為の未来は、皆に等しくなきゃいけないんだ!)

 (命は……尽きて終わりじゃない。尽きた命が残した物を受け止めて、次代に託していくことこそが人の営み……。だからこそ、剱が守る意味がある……!)

 (たとえ声が枯れたって、この胸の歌だけは絶やさない!夜明けを告げる鐘の音奏でて、この空に共に鳴り響き渡れ!)

 (俺が継いだ名に誓って、俺は歩みを止めない。邪魔する物全てを薙ぎ払って、俺は進む。進み続ける。だからお前は………邪魔なんだよ……!)

 (これが私たちの………絶唱だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!)

 

 瞬間、翼の手の剣は天ノ逆鱗よりも、彼女の身長よりも遥か巨大になり、クリスの背にはおびただしい量のミサイルが展開され、響の籠手のパイルがはるか後方に向かって一気に伸ばされていき、緑羅が両手を合わせれば無数のパーツが組み合わさり、展開されたのは緑羅ほどもある巨大な怪物の頭部。その顎が開けば、口腔に深紅の炎が収束していく。

 

 (((うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!)))

 

 そして三つの雄たけびと共にその全てが解き放たれ、月の欠片に殺到する………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その様は地上からも見えていた。月の欠片が凄まじい閃光と共に爆発、その轟音が轟く。そして、

 

 「ぁ……ぁぁ……流れ星……響……緑羅君……」

 

 月の欠片の破片が流れ星のように降り注ぐ様を見ながら地上の者たちは涙を流しながら見ていた。未来はそのまま崩れ落ちてしまい、

 

 「ぅぅっ…! ぅわぁぁぁん! ぅぅぅ!うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

 

 そう、泣き叫ぶことしかできなかった。

 




 一期はあと一話で終了です。

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