ではどうぞ!
マリアの言葉に緑羅はん?と首を傾げながらもじろりと睨みつける。そのマリアはどこか興奮したような様子で緑羅を睨みつけている。
「救う……希望だと……?」
「どう言う事……?」
翼が問いかけると、マリアは吐き捨てるように言う。
「知らないわけはないでしょう。彼の細胞……その強大さを。どんな環境でも生存できる強靭さ。エネルギーを生成する能力。そして何よりも圧倒的な再生能力!その細胞があれば……マムを……病から救う事ができる!」
「病……?」
翼は思わず声を漏らす。恐らくだが、マリアの知り合いのそのマムと言う者は病に侵されている。そして、恐らくだが、現代の医療ではもう手遅れなのだろう。そして彼女は、緑羅の細胞に彼女を救う希望を見出したと言う事なのだろう。
確かに。彼の細胞の能力を知っていれば、そう思えるだろう。だが、そんな事は絶対にありえない。死者が蘇ることなど……そして……
『待ちなさいマリア!それは作戦とは全く関係ない!それに私は……!』
「ごめんなさい、マム。でも、この千載一遇のチャンス、逃すことはできないわ」
マリアが通信するように小声で話す中、緑羅は唸り声を上げながらマリアを睨み、合点がいったように鼻を鳴らす。
「そうか……お前……そこまで詳しく知ってるって事は……FISって連中か……その口ぶりから考えて、大方実験で無駄に使いつぶしたんだろう……」
その言葉にマリアは軽く息を呑むと、通信を切ってから小さく目を伏せるが、すぐに目を開ける。だが、その表情は一変、懇願するような表情になっている。
「……そう。そこまで知ってるのね。そうよ。私はアメリカのFISっていう組織にいた。今は関係ないわ。そこで貴方の細胞を知った。もう手元には無いけれど、それさえあればマム……私達の大切な人を救える。それだけじゃない。多くの人を救えるクスリだってできるかもしれない。貴方の細胞はそれだけの可能性を秘めている………だからお願い。貴方の細胞を……血の一滴でもいい。くれないかしら」
そこには先ほどまでのマリアの威容はない。ただ、大切な者を救いたいと願う一人の人間がいた。その様子に翼は思わず顔を歪めてしまう。その気持ちが分かるがゆえに。そしてその希望がただの虚しい幻だと知っているがゆえに。
緑羅はそれ以上だ。先ほどとは違い、まるで憐れむような視線をマリアに向け、口を開く。
「哀れな女だな……そんな都合のいい希望にしか目を向けないとは………答えはNOだ。俺の細胞はそんなものじゃない。俺の細胞は他の生物を侵食し、化け物に変える。仮に俺の細胞をそのマムって奴に移植したらそいつは化け物に変わる」
「そんなの、やってみないと分からないわ。それにどうにかする方法は……」
「くどい。そんなもの、あるわけがない。俺の細胞を処理してくれたのは感謝するが、それとこれとは話が別だ。俺の細胞はもう誰にも渡すことはない」
「……貴方が望むものすべてをあげると言っても?」
「そんなものはないし、仮にあっても、何を貰おうが変わらん。俺の力は強力だが、破壊をもたらすだけで、誰も救わないし、誰も救えない。諦めろ」
「……だからって、はいそうですかと諦められないのよ」
そう言うとマリアの雰囲気が戦士のそれに代わる。
「どうしてもだめだと言うのなら……力ずくで……!」
「そうかい……じゃあ抗って、お前の裏を無理やりにでも吐かせることにしよう」
そう言うと同時に緑羅はガシャリとガントレットを動かし、唸り声をあげる。それと同時にマリアも腰を落として身構える。そして、翼もまた意識を切り替え、刀を構える。
「……推して参る!」
先手を取ったのは翼だ。マリアとの距離を一気に詰めると、斬撃を繰り出すが、マリアはその一撃を回避し、マントが勢いよく翼に襲い掛かる。
翼は素早く刀で受け止めるが、マントはそのまま蠢いて翼に襲い掛かるが、そこに緑羅が飛び掛かり、ガントレットの爪を叩きつけようとするが、マリアは即座に後ろに跳んでその一撃を回避する。
「そのガングニールは本物!?」
「漸くお墨を付けてもらった。そうよ、これが私のガングニール。何者もを貫き通す無双の一振りッ!」
「そう言うわりには布っ切れ状じゃないか。そう言うんだったら武器の形にでもしてみろってんだ!」
そう煽りながら緑羅はガントレットの拳を射出するが、マリアはマントをひるがえしてその一撃を弾くと、そのまま緑羅の懐に飛び込み、マントを繰り出す。
緑羅が回避すると同時に入れ替わる様に翼がマリアに切りかかるが、それもマントで防がれる。マントと刀はその材質からは考えられないほどの火花を散らしている。
「けれども、私が引き下がる通りがある訳では無いわッ! 何よりも、あなたが纏うそれがガングニールであると言うのなら、私は尚更負ける訳にはいかないのッ!」
翼がマントを押し返そうと力を込めた瞬間、マリアに通信が入る。
『マリア、お聞きなさい。フォニックゲインは現在29%付近をマークしています』
『なっ!? まだ71%も足りてないッ!?』
『ええ。それともう一つ……彼女がそちらに向かってるわ』
『っ!?どうして!どうして止めなかったの!?」
その通信内容に、より正確には最後の言葉にマリアは目にわかるほど狼狽える。
そこを逃す二人ではない。緑羅が勢い良く体を回して尾を繰り出し、マリアに直撃、その体を吹き飛ばす。
その隙に翼は刀を手放し、代わりに脚部のブレードを射出、それを両手に持ち、
「今のあなたにこれが躱せるかしらッ!?」
翼はそのブレードの塚頭を組み合わせて両刃剣とし、振り回すとその刀身を炎が包み込む。
「五条緑羅!ぶん投げなさい!」
「任せろ!」
緑羅はガントレットで翼の体を掴み上げるとそのまま体を回転させて、その勢いよく翼をマリア目掛けてぶん投げ、翼はその勢いも利用した渾身の一撃を繰り出す。
ー風輪火斬ー
「くっ!?」
立ち上がったマリアはとっさにマントでその一撃を防ぐが、その威力に再び大きく吹き飛ばされてしまう。
「話はベッドで聞かせてもらうわッ!」
そのまま着地した翼は追撃しようとするが、その翼目掛けて何かが上空から襲い掛かってくる。
それに気づいた翼が防御しようとした瞬間、
「そのまま!」
背後から緑羅が叫ぶと彼は上空に向かって火球を打ち上げる。
何かはそのまま火球に直撃し、相殺される。その隙に翼はマリアに追撃をしようとするが、
「させまセン!」
その間に一人の少女が割り込んでくると、その手に持った巨大な鎌を勢いよく薙ぎ払ってくる。
「っ!」
翼はその一撃を両刃剣で防ぐが、そのまま吹き飛ばされてしまう。彼女はそのまま緑羅の元までいったん後退すると敵を確認する。
それは二人の少女だ。一人は黒とピンクのスーツに頭から一対の丸鋸を備えたアームを生やしている黒髪の少女。もう一人は黒と緑のスーツに巨大な大鎌を備えた金髪の少女。
「装者が3人!?」
「やっぱりか……あいつらめ………」
「あいつらって……あなた、あの二人を知っているの?」
「中継室に向かう途中で見かけたんだ」
二人が言葉を交わす中、マリアは立ち上がると、そのまま二人の少女の元に歩いていく。
「調と切歌に救われなくても、あなた達程度に遅れを取る私ではないんだけどね……助かったわ。少々急ぎたい事情もできたし」
そう言うとマリアは油断なく二人を見下ろす。緑羅は唸りながらガントレットを動かすが、不意にん?と小さく首を傾げながら目を上に向ける。
「気づいたわね、五条緑羅」
その動作に翼が小さく笑みを浮かべると同時に周囲にヘリコプターのローター音が鳴り響く。
「ッ!? 上か!」
その音に気づいたマリアたちが顔をあげると、会場の上空に一機のヘリコプターが滞空していた。さらにそのヘリから二つの人影が飛び降りてくる。
「土砂降りの、10億連発!」
BILLION MAIDEN
そのうちの一つが巨大なガトリング砲を構え、おびただしい量の弾幕を放つ。
「ッ!? 調ッ! 切歌ッ!」
マリアはすぐさま二人の少女……調と切歌を抱き寄せるとマントを頭上に展開して弾幕を防御する。その隙に人影は緑羅と翼のそばに着地すると、すぐさま緑羅の方に振り返る。
その顔を見て、緑羅は小さく口角を上げ、
「久しぶり、響、クリス」
「……うん、久しぶり、緑羅君」
「ったく、お前はよう……もうちっと頻繁に連絡しろよ」
その言葉に響とクリスは嬉しそうで、少し泣き出しそうな笑みを浮かべる。ここ三か月、全く音沙汰がなかった彼とようやく再会できたのだ。本当なら色々と話したいことがあるのだが、今は二人ともそれを飲み込み、マリアたちの方に振り返る。彼女たちはすでにこちらを睨みつけている。
「もう止めてください!今日であったばかりの私たちが争う理由なんてないはずです!」
響がそう叫んだ瞬間、黒髪の少女、調は奥歯を噛み締めると、
「そんな綺麗事を!」
「はっ?」
「綺麗事で戦う奴の言うことなんか信じられるものかデス!」
その言葉に響は困惑する。
「おまけにビーストの細胞までそうやって独占して……」
「独占って……おいまさかあいつら!?」
クリスが何かに気づいたように緑羅を見やると、彼は小さく頷く。
「ああ、奴らは俺の細胞を狙っている」
その言葉に響は大きく息を呑み、慌ててマリアたちに語り掛ける。
「だ、だめです!私達、緑羅君の細胞を持ってませんし、それにあれは本当に危険で……」
「偽善者」
その言葉に響は思わず声を途切れさせてしまい、目を見開く。
「この世界には、あなたのような偽善者が多過ぎるッ!」
そう言うと同時に調は頭部のアームを展開し、無数の丸鋸を射出する。響たちは回避しようとするが、その前に緑羅がガントレットを薙ぎ払う。
-赫絶ー
すると炎の壁が立ちふさがり、丸鋸を全て焼き払う。
その炎が収まると同時に4人は同時に飛び出し、クリスは金髪の少女、切歌に、翼はマリアに、そして緑羅と響は調に向かう。
調は巨大な丸鋸をアームの先端に展開して二人を迎撃する。
「私は戦いたいわけじゃなくて……困っている人たちを助けたいだけで……」
「それこそが偽善!」
その言葉に響は一瞬顔を歪め、
「痛みを知らないあなたに、誰かの為になんて言ってほしくないッ!!」
その言葉に響の胸に痛みが走り、愕然とした表情と共に動きが止まる。
-γ式 卍火車ー
その隙に調は片方の丸鋸を勢いよく響目掛けて射出する。
響が慌てて防御しようとした瞬間、横合いから飛んできた拳が丸鋸を撃墜する。
その方角に目を向ければ、緑羅が尾で丸鋸を弾きながら跳び、響の隣に着地し、
「………痛みを知らないだ?」
ドスの聞いた声を漏らしながら緑羅は調を睨みつけ、不機嫌そうに鼻を鳴らす。それを見た調はぎりっ、と緑羅を睨み返す。
「何だその面。まるで俺たちは何も辛い事なんで味合わず、のうのうと生きてきたくせにって感じだな……調子に乗んな、くそ野郎が。てめぇはただこの世で一番不幸なのは自分達、それを免罪符にしたいだけだろうが」
「っ!?勝手な事を言わないで!私たちの痛みなんて知らないくせに!」
「ああ、俺は知らないし、興味もない。だけどそれはお前らにだって言える事だろうが。お前らはこいつらがどんな目にあってきたか知ってるのか?こいつらがその時、どんな傷を負ったか知ってるのか?それを知ろうともしない分際で……偉そうな口をきくな。こいつなんて、普通に考えたら人に手を差し出そうなんて考えないような目にあったってのに、こうやって敵にすら手を伸ばそうとしている」
そう言いながら緑羅は響の頭に左手を乗せる。響が軽く息を呑む。
「どうしようもないバカ野郎だ………だが、その手を偽善と侮辱する権利はお前らには無い……!こいつの手を罵ることは俺が許さん……!」
「緑羅君………」
響は隣に立つ緑羅を見て、目を潤ませ、思わず乗せられている手に頭をこすりつける。いつもそうだ。この異形の友人は、いつだって自分が危ない時、そばにいて、手を伸ばしてくれている。だから………自分も……!
響はぱん!と頬を叩いて気合を入れると調を真っ直ぐに見つめる。
緑羅はそれを見て左手を離し、調を睨む。
「そう言うのがご希望なら、俺がしてやるよ」
そう言うと同時に緑羅は勢いよく飛び出して調に襲い掛かる。
調はすぐさまアームを伸ばして緑羅を迎撃しようとするが、緑羅はガントレットを顎に変形させると、片方を顎で咥え込み、更にもう片方はそのまま素手でつかみ上げる。
「は!?」
その光景に調はぎょっ!?と目を見張る。その手は一瞬火花を散らすがそのまま強引に回転を停止させる。その隙に緑羅は顎をガントレットに変形させると調べ目掛けて伸ばし、その華奢な体を掴み上げる。
「しまっ!?」
調は慌ててアームで振りほどこうとするが、その前に緑羅がガントレットを勢いよくステージに叩きつける。その衝撃で調が息を詰まらせているうちに緑羅はガントレットのパイルを引き絞ると、
「動くなぁ!!!」
大声で怒鳴るとその場の全員が思わず動きを止め、ステージを見やり、
「調!」
切歌が悲痛な表情で叫ぶが、
「動くなって言ったんだ。お前らが何かする前に、俺がこいつをぶち抜くほうが早い」
その声に切歌は思わず動きを止め、マリアもまた顔をしかめながら動きを止める。
その光景に翼達は一斉に顔を引きつらせる。
「五条緑羅……あなた、それ……」
「お前……それ……完全にこっちが悪者になるんだが……」
「贅沢言うな!この野郎!」
緑羅は大きく叫びながらはあ、と小さくため息を吐くと、調を睨みつける。
「さて、これでようやく話ができるな……」
「こんな手段を使うやつと話なんて……!」
「人間が大勢いるところにノイズを放り込んだ連中にだけは言われたくないな……まあいい。ソロモンの杖はどこだ」
「ソロモンの……杖って……杖がここにあるの?」
「ノイズを操る術はそれぐらいだろう。ていうか、お前らが護送していたって聞いたけど、何があった」
「えっと……護送自体は成功したんだけど……その場所にノイズが……」
「なるほどねぇ……大方そこにこいつらの仲間がいたんだろう……」
緑羅はぎろりとマリアたちを睥睨し、ふん、と鼻を鳴らす。
「さて、それでどこにある?」
「………教えるわけがない」
調はふん、と顔をそむける。緑羅は小さく唸り声を発し、力を強め、調は痛みにうめき声を漏らす。
「さっさと言えよ……」
「……貴方の血をくれるなら考えてもいいけど……」
調がそう言うと、緑羅は苛立ったように唸り、息を吐く。
「ふざけるな。何があろうと俺の細胞は渡さない。いい加減にしろ」
そう断言すると、調はぎりっ、と唇を噛み、
「どうして……それで大勢の人が救われるのに……多くの悲劇が回避できる………死者すら蘇らせて、悲しみを癒すことができるのに………!」
「お前、何を言って………」
そこまで言って、緑羅は何かに気づいたように、言葉を区切る。
いくら自分の細胞が規格外だとしても、死者を蘇らせるなんて発想、普通出てこない。それこそ………実例がない限りありえない。だが、そんな事実は全く確認………
「お前ら、まさか……!!??」
緑羅が何かに気づき、息を詰まらせながら問いただそうとした瞬間、何かに気づいたように緑羅は調を開放してそちらの方向にガントレットを盾のように構える。
次の瞬間、そこに何かが直撃し、凄まじい轟音が轟き、そのまま緑羅を大きく吹き飛ばす。緑羅はそのまま観客席に叩きつけられる。
「緑羅君!?」
「新手か!?」
翼が慌ててステージを見やる。そこには一人の少女がいた。濃い目の茶色の髪に翠の瞳、全身には花びらのような意匠が施された白銀のシンフォギアを纏っている。その手には白い大剣が握られている。
「何とか間に合った……大丈夫ですか?月読さん」
少女はそう言いながら調に手を伸ばす。
「う、うん。ありがとう………セレナ」
そう言いながら調はその差し出された手をしっかりと掴む。
はい………そう言う事です。もうこれだけで予想がついてしまうでしょう。彼女の結末が。彼女のファンの皆さん、本当にすいません。ですが、ここまでさんざんG細胞の事を危険だ危険だと言っておきながら実は……ていうのはあまりにも安すぎてね……ハッピーエンド大好きとしては何とかしたかったんですが……無理でした……
いっそのこと全員生還パターンで一から書き直そうか……