ではどうぞ!
緑羅を中心に膨れ上がった凄まじい殺気が周囲一帯に叩きつけられた瞬間、周りの生徒たちはひっ、とひきつった声を漏らすと同時に完全に動けなくなった。だが、それは遠巻きに眺めていた者たちや、近くにいるが、殺気を向けられていない響と未来の反応で、まだマシな方だった。
それを直接叩きつけられたいじめていた本人たちは顔から色という色が抜け落ち、もはや病的なまでに白くなっており、歯の根は恐怖で震え、ガチガチと鳴り響き、足元も激しく痙攣している。そしてシャァァァァ、と言う音と共に周囲にアンモニア臭が立ちこみ始め、ほとんどの生徒のズボンに染みができ、足元に小さな水たまりができるが、そんな事を気にする余裕なんて誰にもなかった。
それほどまでに緑羅が放った殺気は桁外れだったのだ。普通に生きてればまず遭遇しない。否、実際の戦場に立つ者でもまず遭遇せず、また誰も放つことは不可能なほどの凶悪極まりないレベルの殺気だった。
だが、それでも、口を開いたのは、殺気に一切慣れていないが故か。
「な、なん……だよ……何か……文句「黙れって……言わなかったか?」ひっ……!」
もっとも、それも緑羅が殺気を込めて睨みつけた瞬間、口を開いた者は引きつった悲鳴と共に崩れ落ちる。
それを後目に緑羅は怒りを抑え込むようにぎりぎりと奥歯を噛みしめながら低い声を漏らしながら息を吐く。
「頼むから黙っててくれよ。今これ以上お前らの声を聴いていると………冗談抜きでお前らを殺したくなってくるんだよ……」
その言葉と共に悪鬼の如き形相で睨みつければ、その場に崩れ落ちる者たちが続出する。
「それで……お前ら……なんて言った?人殺し?自分だけ助かろうとした?ふざけるなよ……!俺もあの場所にいたが、間違っても彼女は自分だけ助かろうとなんてしていない……!」
いじめをしていた者たちは小さくうめき声をあげるが、緑羅があの惨劇の生き残りだと分かると、何人かが勢いを盛り返すように緑羅を睨みつける。
「な、なんだよ……お前も人殺しじゃないか……人殺し同士で庇い合ってるだけ「はぁ?」うっ……」
だが、緑羅が何を言ってるんだ?と言うように睨むと、あっという間に呑まれ、押し黙る。
「何度も言わせるな。彼女は人殺しはしてないし、逃げてもいない。まあ……俺はそうかもしれないが、彼女は違う」
「で、でも……先輩は死んだのにそんな奴が生きてるなんて……」
「……は?それどういう意味だ?」
「あ、あのライブで先輩が死んだのよ!先輩はとても素敵で、みんなから慕われてて……なのに死んで、なのに何の取柄もないその子が生き残るなんておかしいじゃない!」
一人の女子のヒステリックな叫びに同調するように何人もの生徒がそうだそうだと声をそろえるが、それを聞いた緑羅は、
「……意味が分からないんだけど。その先輩の死が、なんで立花響のせいになる。立花響がその先輩を殺したって言う明確な証拠があるのか?その死と立花響は一切何の関係もないだろうが……そもそも何の取柄もないだと?笑わせる。少なくとも、彼女はお前らよりもはるかに人格者だ」
その言葉に何人かが反論しようとするが、緑羅はそれを許さない。正直に言って、彼はもうこいつらに関わることもやめたくなった。だからこそ、止めを刺す。
「そもそもお前ら、そのライブの惨劇が起こった理由はなんだと思ってるんだ?」
「な、何だって……そんなの、そいつらが身勝手に……」
「違うな。そもそもの原因はノイズだ。ノイズが現れなければあの惨劇は起こらなかった。ノイズが現れなければ誰も死なず、ただライブを楽しんではい、終わりになった。違うか?」
瞬間、いじめをしていた者たちはそろって息を詰まらせる。事実だからだ。ノイズが全ての元凶。ノイズが原因で起こったことならば、その恨み辛みはノイズにぶつけるべきなのだ。
「全てはノイズが原因で起こったことだ。ならばノイズを恨み、憎むのが筋ってものじゃないのか?だが、ノイズは恐ろしいものな。触れる事すらできないものな。死にたくないものな?だけど恨みを晴らしたい、憎しみをぶつけたい。だからこそ、お前らは響達を……生き残りを相手に憂さを晴らすことにした。都合よく、世論が生き残りは悪とか言ってたからな」
その瞬間、一部のいじめていた者たちの顔は恐怖とは違う意味で青白くなっていき、視線が泳ぎ始める。それだけで、図星をついたことが分かる。
「お前らは自分たちは何も考えずただ周りがそう言ってるからと同調して、彼女たちを攻撃して。そして途中でそれに気づいたとしても、都合のいい的であることに変わりないから何も変わらず、変えようとせず、彼女たちを攻撃し続けた……ああ、ああ……本当に…………殺すぞ?」
そして再び緑羅から尋常ではない殺気が噴出し、今度こそ、いじめていた者たちは全員その場に崩れ落ちる。中には後ろに下がろうとする者もいるが、碌に力が入らないのか一歩も下がれておらず、水たまりの中でもがくしかできていない。
「忠告しておくぞ………もしも今度、彼女たちを攻撃してみろ……その時は……殺しはしないが、生きていることを後悔するほどの地獄を味合わせてやる………分かったか!?」
緑羅が吠えた瞬間、ついに彼らの精神は限界を迎えた。ほとんどの連中が意識を失ったように倒れ込んだのだ。それと同時に幾らかアンモニアとは別の異臭も漂い始める。
「は、はいぃぃぃ……わ、分かりました………」
意識を保った者たちががくがくと頷くのを見て、ようやく留飲を下げたのか、緑羅は殺気を霧散させると、響と未来の方を振り返り、二人の手を取って立ち上がらせ、
「行こう」
そう言って二人の手を引っ張ってその場を立ち去っていく。
後に残ったのは心を完全に折られた生徒たちしか残っていなかった。
「……大丈夫だった?」
学校から幾らか離れたところで、緑羅は引っ張ってきた響と未来に問いかける。
「あ、はい……何とか……」
未来は小さく頷き、響もこくんと頷く。
緑羅はふう、と小さく息を吐き、肩を回す。
「あの……ありがとうございます……助けてくれて……」
「気にしなくていいよ。ただ俺が許せなかっただけだから……」
「だけど………殺すとか、そんなのはダメです。五条さんにそんな事……してほしくないです」
響は辛そうに緑羅を見上げ、緑羅はむ、と小さく声を上げると、小さく目じりを下げて響の頭をポン、と撫でる。
「本当……優しいね、君は。分かってるよ。そんな事はしないし、するつもりはない」
もちろん、嘘だ。もしも必要と判断すれば、救いようもない屑を前にすれば、自分は容赦なく殺す。だが、響はその言葉を信じたようで、ほっとしたように息をつく。
「……あれは、立花響が復帰してからずっとだったの?」
「はい……学校だけじゃないんです……家でも……いいえ、響の家族全員……」
瞬間、緑羅の顔が再び歪み、強く拳が握られる。低い唸り声を漏らし、殺気を漏らすが、
「大丈夫です、五条さん」
目の前に響が立ち、目を細める。
「確かに、今までずっとつらかったです。お父さんもいなくなって、ただ偶然あそこにいただけなのにひどい目にあって……どうして私は生きているんだろうって考えたことだってあります。だけど……今日、五条さんが本気で私の……私たちのために怒ってくれて……本当に嬉しかったです。未来やお母さんにおばあちゃんだけじゃないって分かって……嬉しかったです。だから……もう大丈夫です。何があっても、私はへいき、へっちゃらです」
そう言い、響は笑みを浮かべる。そこには、数日前にあった焦燥はなく、彼女が本当の笑顔を浮かべていると分かるものだった。
緑羅はその顔を見て、小さく唸る。
「だけど……君の家族は……大丈夫……いや、大丈夫か。そうじゃなかったらとっくに見捨ててもおかしくはない」
緑羅がそう呟くと、響は思わず顔を引きつらせる。確かにそうなのかもしれないが、もうちょっとオブラートに包んで言ってほしいものである。
「……そうだね。大丈夫だね。私もいるし」
未来はそう言いながら響の隣に笑顔を向ける。彼女の笑顔にも焦燥は無くなっている。この分なら、大丈夫かもしれない。
「そう………そう言うならいいけどさ……前も言ったけど、もうしばらくはここに滞在するから、何かあったら俺を頼りなよ」
「はい……っていうか、連絡先交換しませんか?その方が便利ですし」
「あ、それもそうだね!」
響と未来は素早く携帯を取り出すのだが、緑羅は思いっきり引きつった笑みを浮かべながら気まずそうに視線を逸らす。
響と未来はその様に一瞬首を傾げたが、次の瞬間、未来が恐る恐るといった様子で緑羅に問いかける。
「えっと……もしかして五条さん……携帯を持ってないんですか?」
「えと……うん……今まで必要な事態に見舞われなかったから……持ってない」
「そ、そうなんですか……?あ、だから連絡してじゃなくて見つけてだったんですね……」
二人は呆れたような顔で緑羅を見上げ、緑羅はアハハ、と苦笑を浮かべながら頭を掻く。
「それじゃあ……どうしようか?」
「う~~む……携帯を買うか?だけど……」
自分には戸籍情報が一切ない。そんな状態では携帯は買えないし、使えないし、自分の事を嗅ぎまわっている奴らがいる以上、できる限り痕跡を残したくはない。だが……
唸りながら考えていると、響が未来に耳打ちし、未来はう~~ん、と小さく唸るも、それぐらいなら、と言うような表情を浮かべて小さく頷く。
「あの……とりあえず、五条さんが使ってる宿の番号とか……知らないですよね」
「う、うん……」
実際には宿にすら泊っていなのだが、それを言ったらさらに面倒なことになると確信しているので黙っていることにする。
「じゃあ、私たちの番号を教えますから、せめて、この町を出ていくときに連絡をください。後、五条さんが使っている宿の名前も……」
「いや、ごめん。それも知らない」
「それでよく探してなんて言えますね……」
心底あきれ果てた表情の未来に緑羅は何も言えず、小さく呻き、響は苦笑を浮かべる。
「なんか……いろいろとごめん……」
「あははは……とりあえず、番号教えますね」
響と未来から家の番号を聞き、緑羅はん、と小さく頷く。
「とりあえず、分かった。何とか携帯は手に入れようと思う」
「そうしてください……それじゃあ、私たちはこれで」
響と未来は小さく頭を下げると、その場から離れていく。その二人に緑羅は軽く手を振り、自分もその場から離れていく。
(しっかしどうするか……できればすぐに離れたかったのに、これじゃあ離れにくいな…………う~~~ん、もう少し様子を見てからにした方がいいよな………なんとかするか)
よし、と頷くと、緑羅は拠点にしている場所目指して歩いていく。もちろん、周囲に気を配り、あの人間達がいないかどうか確認しながら向かう。その道中でコンビニに立ち寄り、お弁当を買ってからまた歩き出す。
しばらく歩いていくと、彼は町中の廃墟にたどり着き、周囲を確認してから中に入っていく。廃墟の一室にたどり着いた緑羅は隠してある荷物を確認すると、よしと頷き、購入したお弁当で食事を始める。
食事を終えると、緑羅はふうむ、と小さく唸り声をあげながら考え込む。
この辺りで拠点を変えたほうがいいかもしれない。本当ならもう逃げ出しているはずなのだが、響と未来をこのまま放りだすこともできない。少なくとも、あと数日は様子を見たほうがいいだろう。だとするならば、別の所に拠点を移した方が見つかる危険は少ないと思う。だが、探している最中に見つかる可能性もある。
動くべきか動かざるべきか。判断に迷うところだ。
しばらく緑羅はうんうん唸っていたが、ようやく決めたように顔を上げると、
「ここは移動するか……移動してる最中に見つかる方がまだマシだしね」
包囲されると突破するのが面倒だが、移動している最中ならさっさと逃げだせばいい。そう考えるとさっさと移動したほうがいいだろう。
そう決断すると、緑羅は荷物を担ぐと、ゴミを炎で焼き尽くし、そのまま廃墟を後にして、町の中の入っていくと、そのまま人ごみの中に消えていく。
感想、評価、どんどんお願いします。